第44話 『七つ目前夜』
“生存確率 58%”
数字は安定している。
だが安定は、静けさではない。
嵐の前触れだ。
森を抜けた丘の上。
アルクとリゼは並んで座っていた。
空には、はっきりと二つの痕跡が残っている。
白い亀裂――管理者。
金色の線――裁定者。
二つが、遠くで絡み合う。
リゼがぽつりと言う。
「さっき、私が引き剥がされかけた」
「分かってる」
アルクは静かに答える。
胸の六つが、ゆっくり回る。
均衡が外れれば、
六つは加速する。
だがリゼが消える。
七つ目は、その“接点”だ。
遠くで空間が歪む。
水瓶が解析する。
「七つ目発現条件、接近」
蛇がざわつく。
獅子が熱を帯びる。
蠍が静まり返る。
牡羊が鼓動を早める。
王毒が循環を整える。
水瓶が全体を俯瞰する。
六つが、揃っている。
残り一つ。
天秤。
リゼが立ち上がる。
「次は逃げられない」
アルクも立つ。
丘の上に、再び円が現れる。
今度は白でも金でもない。
無色。
完全な均衡円。
その中央に、天秤の紋章。
声が響く。
今度は重なっていない。
単一。
「七つ目、適合試験」
管理者ではない。
裁定者でもない。
“世界そのもの”。
アルクは深く息を吸う。
「来い」
円が光る。
天秤の皿が浮かび上がる。
左に六つの星。
右に空白。
リゼが前に出る。
「私が乗れば七つになる」
静かな事実。
アルクは首を振る。
「違う」
リゼが目を見開く。
「七つは“重ねる”もんじゃない」
水瓶が流れを読む。
均衡の本質は“分断”ではなく“接続”。
アルクは天秤へ歩く。
六つが共鳴する。
「七つ目は、奪うな」
「重ねるな」
「壊すな」
拳を握る。
「選べ」
天秤の光が強くなる。
リゼの紋章が浮かぶ。
同時に、六つが拡張する。
均衡が、融合しようとする。
痛み。
頭が割れそうだ。
干渉も観測もない。
純粋な“選択”。
天秤が告げる。
「六つと均衡を分けるか」
「六つを均衡へ預けるか」
また二択。
アルクは笑う。
「だから壊す」
蛇が繋ぎ、
牡羊が突破し、
蠍が侵食し、
王毒が循環し、
獅子が押し返し、
水瓶が理解する。
六つを“均衡側”へ流す。
同時に、均衡を“六つ側”へ引く。
相互接続。
天秤が大きく揺れる。
リゼが叫ぶ。
「それは――!」
均衡と六つが、境界を失う。
光が爆ぜる。
世界が白く染まる。
“生存確率 60%”
跳ね上がる。
空の亀裂が揺れる。
金の線が震える。
天秤が、止まる。
そして。
胸の中で、新しい星が脈打つ。
七つ目。
天秤。
だがそれは、リゼのものでも、
アルクのものでもない。
“共有”。
七つが、静かに揃う。
沈黙。
風が吹く。
空の亀裂がわずかに後退する。
管理者の声が遠く響く。
「起動確率、再計算」
金の線が薄れる。
裁定が、保留される。
アルクは膝をつく。
胸の七つが、安定する。
リゼがそっと手を重ねる。
「……重い?」
アルクは笑う。
「今までで一番な」
だが壊れていない。
七つ。
到達。
だが終わりではない。
空の彼方で、別の光が瞬く。
“起動条件、再評価中”
最終局面が、動き出す。
第44話まで読んでくださって、本当にありがとうございます。
――七つ目、到達。
ですが今回は、
奪取でも
融合でも
支配でもなく
**“共有”**という形で描きました。
天秤は誰かの所有物ではない。
均衡は一方に寄せるものでもない。
六つを守るか。
リゼを守るか。
その二択を壊した結果が、七つ目です。
ここまで積み上げてきた
・奪う強さ
・重ねる強さ
・増やす強さ
・待つ強さ
・理解する強さ
その全部を使って、ようやく届いた場所です。
でも――
到達=勝利ではありません。
管理者は再計算を始めました。
起動確率は消えていない。
むしろ、ここからが“本番”です。
七つを持った主人公は
世界に何を選ぶのか。
物語はいよいよ最終局面へ。
ここまで追ってくださったあなたに、心から感謝します。
最後まで一緒に見届けてもらえたら嬉しいです




