『王族、星を失う』
前話――
主人公アルクは、公開処刑の場で覚醒。
存在しない十三番目の星座“蛇遣い”を顕現させ、牡羊の王子から星紋を奪いました。
星を失う――それは、この世界では「死」より重い。
世界が動きます。
闘技場は、静まり返っていた。
誰も、動けなかった。
地面に膝をついたまま、牡羊の王子――レグルスは、自分の胸を何度も叩いている。
「出ろ……出ろッ!!」
だが、何も起きない。
炎は灯らない。
角の紋章も浮かばない。
星紋は、生まれた瞬間に刻まれる絶対の証。
王族の証明。
国家の象徴。
それが、ない。
「そんな……馬鹿な……」
教師の一人が、震える手で王子の胸元に触れる。
魔力測定。
結果は無反応。
「……星紋反応、ゼロ」
その一言が、爆発した。
「消えた!?」
「ありえない!」
「星は奪えないはずだ!!」
観客席が混乱に包まれる。
俺は、自分の胸を見る。
そこには二つの紋章。
絡み合う蛇。
そして、燃える牡羊。
じわり、と熱が走る。
使える。
理解した瞬間、炎が指先に宿った。
「やめろぉぉぉ!!」
レグルスが叫び、俺に掴みかかる。
だが。
遅い。
身体能力も、魔力も、もう一般人以下だ。
俺は軽くいなし、距離を取る。
「返せ……返せよ……!」
目に浮かぶのは怒りではない。
恐怖だ。
星を持たぬ者は人にあらず。
今の彼は――“俺と同じ側”だ。
その事実に、俺の胸が一瞬だけざわつく。
「アルク・ノクス!」
学院長の声が響く。
白髪の老人が、杖を鳴らした。
「動くな。これ以上は国家問題だ」
すでに上空には、通信魔術の光。
牡羊王国へ緊急伝達。
王族の星紋消失。
これは戦争理由になる。
「拘束せよ」
教師たちが一斉に構える。
魔法陣が足元に展開する。
俺は息を吐いた。
逃げられるか?
いや――。
逃げない。
ここで逃げれば、完全に“怪物”だ。
「従いますよ」
両手を上げる。
その瞬間、胸の蛇がかすかに動いた。
――喰い足りない。
ぞくり、と背筋に冷たい感覚。
違う。
俺じゃない。
何かが、俺の中で囁いている。
レグルスが、担架に乗せられる。
その目が、俺を射抜く。
「……殺す」
力のない呟き。
だがその殺意が、はっきりと伝わる。
瞬間。
蛇の紋章が淡く光る。
理解した。
“条件は維持されている”。
殺意が向けられている限り、
俺はいつでも、再び奪える。
恐ろしい能力だ。
教師の拘束魔法が、俺の手首に絡みつく。
その時。
観客席の最上段。
拍手が鳴った。
ぱち、ぱち、と。
静かで、場違いな音。
視線が集まる。
そこに立っていたのは、双王学院の生徒会長――
シリウス・ジェミニ。
双子座の星紋が、左右で異なる光を放っている。
彼は微笑んだ。
「いやあ、素晴らしい」
ざわめきが止まる。
「歴史的瞬間だよ。星が、奪われた」
学院長が睨む。
「シリウス、軽口は慎め」
だが彼はやめない。
まるで舞台を楽しむ観客のように。
「アルク・ノクス」
名を呼ばれる。
「君は、自覚しているかい?」
その瞳は冷たい。
「今、世界の秩序を壊したんだ」
空を見上げる。
黒い裂け目は、まだ消えていない。
あの向こう。
誰かが、こちらを見ている気がする。
シリウスは続ける。
「十二星座は均衡で成り立っている」
「一つでも欠ければ、戦争だ」
そして、楽しそうに告げた。
「君は、開戦の号砲だ」
その瞬間。
学院の外から、凄まじい魔力の波動が押し寄せた。
重圧。
膝をつく生徒。
教師でさえ顔色を変える。
空に赤い紋章が浮かぶ。
牡羊の王家紋。
王の怒り。
伝令が叫ぶ。
「牡羊王国より通達!」
声が震えている。
「星紋奪取犯アルク・ノクスを――」
一拍。
「国家反逆者として即時引き渡せ」
視線が、俺に集中する。
俺は笑った。
国家反逆。
処刑予定の雑用係が、いきなり国家級犯罪者だ。
悪くない。
シリウスが、静かに呟く。
「さて、どうする?」
拘束魔法が強まる。
外では、王国軍の気配。
学院は、戦場になる。
俺は目を閉じる。
胸の蛇が、ゆっくりと蠢いた。
――まだ終わっていない。
むしろ、始まった。
目を開ける。
「受けて立つ」
そう呟いた瞬間。
遠くで、雷鳴が轟いた。
星座戦争の、始まりの音だった。
第2話でした。
・王族が完全に星を失った確定
・能力条件の伏線
・双子座生徒会長登場
・国家が本格的に動く
次話では、
・“星を喰う条件”の明確化
・拘束状態からの知略
・天秤ヒロイン本格登場
物語は一気に加速します。




