第16話 『二つの蠍』
三日以内に王へ届け。
そのために課された試練は――
王家派と教団派、両派閥との同時交戦。
蠍王国、内乱勃発。
地下王都の中央広間。
赤い灯りが一斉に落ちた。
静寂。
次の瞬間、空間が裂ける。
左右から、まったく質の違う殺意。
「王家派、進め」
冷たい声。
エルディナが前に出る。
胸の蠍紋が鋭く光る。
その背後に、王家直属の精鋭。
一糸乱れぬ動き。
一方。
反対側の闇が蠢く。
仮面の集団。
毒煙を纏う影。
「教団派、十三番目を拘束せよ」
低く響く声。
同時に動いた。
上も横も後ろも、すべてが敵。
「ふざけてる……!」
リゼが天秤を展開する。
均衡結界が広がる。
だが数が多すぎる。
「アルク、片側に集中して!」
無理だ。
どちらも殺意は本物。
蛇が歓喜している。
条件は完璧。
だが奪い続ければ器が壊れる。
――奪うな。
カルディアの視線が上から刺さる。
見ている。
試している。
エルディナが一気に距離を詰める。
速い。
王族の血。
質が違う。
刃が振るわれる。
毒が舞う。
俺は蠍の共鳴で受ける。
衝撃。
重い。
「毒を掌握した程度で、王家に届くと?」
挑発。
殺意が濃い。
奪取可能圏。
だが。
今はまだ届かない。
教団派が横から突入。
毒煙が広がる。
視界ゼロ。
呼吸が苦しくなる。
リゼが咳き込む。
まずい。
俺は炎を絞る。
爆発させれば巻き込む。
だから一点集中。
蠍の感覚に意識を落とす。
毒の流れ。
煙の中、無数の微細な毒粒子。
それらを“掴む”。
支配。
煙が、裂ける。
教団派の動線が浮き上がる。
「見えた」
一気に踏み込む。
最短距離。
刃を受け流し、急所へ触れる。
奪わない。
だが、毒の経路を逆流。
教団派の一人が崩れる。
眠った。
殺していない。
「甘い」
エルディナが背後から迫る。
首元へ刃。
ギリギリで受け止める。
彼女の目が近い。
怒りと焦燥。
「あなたがいる限り、均衡は壊れる」
真っ直ぐな殺意。
蛇が強く反応する。
共鳴。
深い。
彼女の蠍は、王に近い。
今、奪えば――。
一瞬、未来がよぎる。
四つ目。
出力増大。
管理者の反応上昇。
世界の干渉。
危険。
俺は歯を食いしばる。
「均衡が正しいとは限らない」
押し返す。
エルディナの刃を掴む。
毒が流れ込む。
だが今は耐えられる。
「壊すつもり?」
「選ぶつもりだ」
言葉と同時に、蠍の共鳴を拡張。
王家派と教団派、両方の毒を束ねる。
一瞬だけ、全体の流れを握る。
毒の網。
全員の動きが、ほんの刹那止まる。
「今!」
リゼが天秤を最大展開。
均衡場が完成。
両派の毒が中和される。
空間が澄む。
一瞬の静寂。
俺は中央へ跳ぶ。
全員を視界に入れる位置。
「聞け!」
怒鳴る。
殺意が俺へ集中する。
完璧。
「俺を殺せば、管理者が来る」
沈黙。
数名が動揺。
「お前らも見ただろ」
地下王都上空、まだ薄く残る亀裂。
「十二は歯車だ」
「十三は鍵だ」
カルディアの目が細まる。
エルディナが睨む。
「だから何?」
俺は言う。
「俺を使え」
ざわめき。
「均衡を守るも、壊すも、選べる」
「だが今のままじゃ、選べない」
教団派が低く言う。
「言葉で止まると思うか」
当然だ。
だから。
俺は蠍の共鳴を、エルディナへ向ける。
深く。
彼女の星紋が脈打つ。
条件は満たされている。
奪える。
だが。
奪わずに――
“繋ぐ”。
一瞬だけ、感覚が共有される。
彼女の視界。
王家の責任。
管理者への恐怖。
そして――
兄、カルディアへの不信。
すぐに切れる。
エルディナが後退する。
目を見開いている。
「今、何を……」
「触れただけだ」
息が荒い。
だが確信した。
奪わなくても、届く道がある。
カルディアが立ち上がる。
広間が静まる。
「三段」
低く言う。
「両派同時制圧、未遂」
「だが」
視線が鋭い。
「奪わずに繋いだか」
笑う。
「面白い」
エルディナはまだ揺れている。
教団派も動けない。
カルディアが宣言する。
「最終日」
「明日、私と直接だ」
広間の空気が張り詰める。
王との決戦。
逃げ場はない。
俺は息を整える。
まだ四つ目はない。
だが。
器は確実に広がっている。
カルディアが最後に言う。
「もし届けば」
「蠍はお前に従う」
地下王都がどよめく。
王の宣言。
重い。
俺は頷く。
「届かせる」
三日目。
王との戦い。
四つ目の星は、目前だ。
第16話でした。
・王家派 vs 教団派 同時戦
・奪わない“接続”という新段階
・エルディナの動揺
・ついに王との直接戦確定




