第15話 『毒の試練』
「三日以内に届けば星をくれてやる」
蠍王カルディアの提示した条件。
だが王級星紋は、触れれば奪えるものではない。
足りないのは――器。
試練、開始。
蠍王国・地下訓練場。
赤黒い石床。
天井から滴る毒性の霧。
中央に立たされる俺。
周囲を取り囲む、十数名の暗殺者。
全員が無言。
全員が殺意を持っている。
カルディアは上階の回廊から見下ろしていた。
「三日で届くと言ったな」
低い声。
「ならまず、耐えろ」
指が鳴る。
次の瞬間。
暗殺者たちが同時に消えた。
速い。
気配が消える。
背後。
反射的に炎を噴き出す。
刃が弾かれる。
だが横。
膝に衝撃。
地面に転がる。
「遅い」
誰の声か分からない。
毒針が腕に刺さる。
熱い。
いや、冷たい。
血流が鈍る。
蛇が反応する。
「解毒しろ」
カルディアの声が響く。
「奪取に頼るな」
くそ。
奪えば終わる。
だがそれでは“耐性”は生まれない。
俺は歯を食いしばる。
蠍の星紋に意識を向ける。
まだ王のものは持っていない。
だが模倣体から奪った不完全な蠍がある。
あれを――。
胸の奥で、赤い光を探る。
毒が巡る。
身体が痺れる。
視界が揺れる。
「甘い」
首筋に刃。
だが切らせない。
炎で弾く。
蠍の毒を逆流させる。
自分の中の毒と、刺さった毒を共鳴させる。
身体が焼けるように痛む。
だが。
毒の流れが、わずかに変わる。
「……そうか」
理解する。
蠍の星は、“侵す”だけじゃない。
“支配”だ。
毒を拒否するな。
掌握しろ。
再び針が飛ぶ。
今度は避けない。
受ける。
リゼが上階で叫ぶ。
「何してるの!?」
無視だ。
毒が入る。
流れを感じる。
心臓に届く前に、蠍の光を重ねる。
共鳴。
流れが、止まる。
いや。
方向が変わる。
毒が、俺の中で“俺のもの”になる。
暗殺者の目がわずかに見開く。
カルディアが、初めて微笑んだ。
「一段」
毒が消える。
身体が軽い。
完全ではない。
だが耐えられる。
暗殺者たちが距離を取る。
今度は近接。
四方向同時。
刃、針、糸、影。
炎だけでは捌けない。
俺は蠍を強く意識する。
“待て”。
焦るな。
相手が近づく瞬間。
一瞬だけ殺意が最大化する。
その瞬間を掴む。
蛇が反応。
刹那。
共鳴。
暗殺者の動きが、わずかに遅れる。
毒の流れを逆に辿る。
刃を掴む。
接触。
奪取可能。
だが奪わない。
代わりに。
「借りる」
一瞬だけ、蠍の出力を同調。
速度が跳ね上がる。
全員の急所に、軽く触れる。
毒を“返す”。
暗殺者たちが崩れ落ちる。
死んでいない。
眠っただけ。
静寂。
カルディアが立ち上がる。
「二段」
拍手。
「毒を恐れなくなったな」
俺は荒い息を吐く。
まだ足りない。
王の星は、もっと深い。
「だが」
カルディアの目が冷える。
「これは前菜だ」
天井が開く。
重い気配。
別格。
回廊から、一人の女が降りてくる。
長い黒髪。
赤い瞳。
胸に王家紋。
だがカルディアとは違う紋章配置。
「王家派筆頭、エルディナ」
カルディアが紹介する。
「私の妹だ」
空気が凍る。
エルディナが静かに言う。
「十三番目」
目が鋭い。
殺意は、純度が高い。
「あなたを殺すのが、私の均衡」
完璧。
条件成立。
蛇が歓喜する。
だがカルディアが止める。
「まだだ」
エルディナが不満そうに舌打ちする。
「三日だと言った」
カルディアが俺を見る。
「明日」
「王家派と教団派、両方と戦え」
「生き残れば、私と対等に話そう」
無茶だ。
だが逃げない。
リゼが降りてくる。
「これは試練じゃない、処刑よ」
カルディアは微笑む。
「違う」
視線を俺に向ける。
「選別だ」
沈黙。
俺は立ち上がる。
身体はまだ痺れている。
だが笑う。
「面白い」
エルディナの目が細まる。
「余裕ね」
「ない」
正直に言う。
「でも」
蛇が静かに光る。
「喰えるかもしれない」
地下訓練場に、再び殺意が満ちる。
三日。
四つ目。
器を超えろ。
試練は、まだ始まったばかりだ。
第15話でした。
・毒の支配=蠍の本質
・奪取ではなく掌握という成長
・王の妹エルディナ登場
・二派閥同時戦の予告




