光の盾
街の中心部に様々な店が立ち並ぶ中、星路の環の建物はひときわ高く、それでいてこの街に不思議となじんでいる。
「ここがギルド...」
「中に入るよ~」
フレンが二人を先導して中に入る。ハナニラも扉を抑えようと手を伸ばした時、扉に何か文字が彫られていることに気づいた。
すべての者が星のもとに導かれ環とならんことを
中はとても賑やかだった。依頼の処理をする受付は中央にあり、現在募集中の依頼が貼られた掲示板、風土記やこの辺りに生息している魔獣の図鑑などが置いてある本棚などがある。
「おまたせ~、けっこう待った?」
「ううん、そんなに」
ハナニラとクルルはフレンが手続きをしている間、掲示板を見て次に請ける任務を見ていた。
「いい感じの任務あった?」
「これ、古い魔道具の回収」
クルルがフレンに任務の募集用紙を見せる。
「どれどれ...報酬20万マナリス...いいね! 一か月は遊んで暮らせるじゃん!」
どうやら任務は決まったようだ。
「...はい、この任務ですね、承知しました。次に参加者の登録をします」
三人は受付で任務の手続きを進めていた。
「フレン・アクタリア、クルル・アクタリア、あ、ハナニラのギルド登録忘れてた!」
「ギルド登録?」
「ギルドの任務を受けるにはギルド登録って言って、名前とかいろいろ登録しないといけないんだよ」
なるほど、しかし自分の名前しか知らない。それで大丈夫だろうか。そんなことを考えていると。
「いえ、もうすでに登録されていますよ。ハナニラ・クラエス・メクサ、属性:光、イルルノ王国ノクスターン地区、これであってますか?」
二人とも驚きの顔でハナニラを見る。ハナニラはすぐに自分の杖を取り出して刻印されている名前を見た。
「ハナニラ・クラエス・メクサ」
ということは、確かにこれは自分のことだ。
「はい、そうです」
ハナニラがそう答えたとき、フレンとクルルは少し驚いたような顔を見合わせていた。
「参加者の登録が完了しました。それでは、お願いしますね」
「任せて!」
三人は外に出て、依頼人から指定された場所に向かった。その途中、ハナニラは二人にいろいろなことを聞いた。この世界には炎、水、草、雷、闇、光の6つの属性があること、ギルドに登録するのは自分の本名、属性、出身地であること。
「じゃあつまり...私はイルルノ王国っていう国出身ってこと?」
少し胸の奥がざわつくのを感じる。こんな形で自分の生まれ故郷がわかるとは。
「そうだね! でも、イルルノ王国って聞いたことないなぁ。どこだろう?」
「聞いたことないの?」
クルルの方を見るとクルルも首を横に振っていた。ハナニラは少しがっかりした。せっかく出身国の名前が判明したのに、これでは知らないことと同じだ。
「うーん、もしかしたら中央諸国に行けばわかるかも!」
「中央諸国?」
「うん、文字通り、世界の中心にある国々のことだよ。そこにこの世界の魔法のすべてが集まるんだ。今いるここはその中央から南に行ったところで『花の姫君』って呼ばれてるんだ」
ハナニラは少し下を向きながら考えた。中央諸国、そこに行けば自分の過去がわかるかもしれない。それに記憶も。ふと前を向いたとき、自分をニヤッとしながらのぞき込んでいたフレンと目が合った。
「今ハナニラが考えてること当ててあげようか。イルルノ王国に行けば記憶も復活するかもって思ってるでしょ? でも今は依頼の途中だよ? まずは依頼のこと考えよう!」
それからフレンは受付からもらった情報に目を落とした。
「私たちが回収しないといけない魔法具は街はずれの森の小さな家の中にあるみたい、最近魔獣の住処になってて代わりに回収できる人探してたみたい」
「魔法具の形は?」
「えーと、『本』としか書かれてないね」
「...」
クルルは手を顎に当てて少し考えている様子だった。フレンは楽しそうに周りの景色を眺めている。ハナニラはそんな二人を交互に見ながらこの後のことを考えていた。魔獣の住処になっているということは魔獣との戦闘になることはほぼ確実。どんな魔獣がいるのか知りたい。そうしたら心構えができるし。
「どんな魔獣がいるのかってわかる?」
「多分、せいぜい私たちと同じぐらいの大きさの魔獣。大きな魔獣だったもっと話題になってる。非魔法族の中の非力な者にとっては小さな魔獣でも致命的存在になりえる」
クルルは淡々と自分の推論を述べた。
「じゃあそこまで危険じゃないんだね?」
ハナニラはほっと胸をなでおろした。
「油断禁物、特にハナニラはまだ盾の呪文しか思い出せてない。赤ちゃんと同じ」
「あ、あかちゃん...」
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しばらく歩いていると街を抜け、少し薄暗い森にたどり着いた。
「ここが例の森」
魔獣に出会ったことも、見たこともない(本当はあるかも)ハナニラでもわかるぐらい空気ががらりと変わった。
「そろそろだよ、気を付けていこー」
「気を付けて、赤ちゃん」
クルルは気に入ったのか、ずっと同じ呼び方をしてくる。
「はいはい、あかちゃんですよー」
意外とクルルって100%の真面目ちゃんってわけじゃないのかな。そんなことを考えながら歩いていると。
「まって、あそこじゃない?」
フレンが指さした方向にはこじんまりとした家とそれを取り囲むように狼に似た生き物が数匹いる。
「あれは? 狼?」
「まだわからない、気を付けて」
クルルが注意を促す。
「遠くから一撃で仕留めよう」
フレンが魔法の射程内に入ろうと踏みこんだとき、狼が数匹こちらを睨んだ。
「! ばれた! 守り固めて!」
クルルが注意する。
「うそ!? 感知範囲広くない?」
フレンがダッシュで狼たちに突っ込みながら
「ラストカレス!」
フレンがそう唱えると前にいた狼が突然血を噴き出しながらひっくり返った。
「すごい...」
しかしその狼はすっくと起き上がる。
「来てる! ハナニラ!」
フレンに見とれてたハナニラはクルルに突き飛ばされた。狼は野生の勘なのか、一番弱い獲物を見つけたようだ。
「どうして? 魔法の効きが弱い! 気を付けて!」
完全に逆上した狼がハナニラにとびかかる。
「ハナニラ! 防いで!」
ハナニラはすぐに杖を取り出して魔法の盾を出すが狼の一撃で簡単に砕け散ってしまう。
「うっ!」
ハナニラは盾が砕けた反動で後ろに吹き飛んでしまう。狼はまた襲い掛かってくる、普通の盾の魔法では防げない...でもほかに覚えている魔法は...
「キャッ!」
頬に刺すような痛みが走った後、頬から温かい液体が少し流れてくるのを感じる。杖を持つ手が少し震える。もうすぐ獲物にありつけるのがわかったのか狼は大きく吠え、最後の一撃をハナニラに与えに来た。その瞬間別の言葉が頭の中に浮かんできた。
「光殻!」
ハナニラがそう叫ぶと急に周りの空気が変わり、ぼんやりと輝く球体がハナニラを閉じ込めるようにして現れた。襲い掛かってきた狼はその外殻に触れると、断末魔を挙げることすらなく、雲散霧消した。
「ハナニラ、その魔法...」
クルルは少し驚いた顔でハナニラを見つめている。
「おーい二人とも! 中に入るよ!」
フレンが家の入口で二人を呼んでいた。
「気を付けてね、魔法は常に出せるように」
家の中は真っ暗なものかとおもったがそうではなかった。理由はすぐに分かった。不気味に光る書物があるからだ。これが例の魔法具なのは明白だ。
「あれが件の本」
「うん、たぶんね」
フレンが周りの安全確認をしながら答える。ハナニラも二人と一緒に敵がいないことを確認していたが、ずっと本のことが気になっていた。最初はそんなに興味なんてなかったのに
「なんて書いてあるんだろう」
そんな好奇心からハナニラが少し手を伸ばした時
「触っちゃダメ!」
フレンが耳をつんざくような声で叫んだ。
「え!?」
ハナニラが気づいたときにはクルルに手が届かないところまで移動させられていた。
「大丈夫? 本に操られてた」
クルルが問いかける。
「うん、たぶん」
「やっぱり、ハナニラ赤ちゃん」
それからはフレンが本に様々な魔法をかけながら梱包するのを二人で見ていた。もうだいぶ時間がたっただろうか、やっと本の怪しい輝きが消えたとき、三人は一緒に外に出て本を納品しに行った。
「なんであの家に魔獣がたむろしていたのか分かったよ」
帰り道、フレンは少し疲れた様子で二人に話しかけた。
「なんで?」
「この本の影響だよ。あの狼たちはこの本が放ってる悪い魔力に乗っ取られたんじゃないかな? だからハナニラの光魔法が特別効いたんだよ」
「あの時の...」
「そう、あの魔法が放たれた瞬間あたりのどんよりした空気が一瞬で変わったでしょ?」
「うん、まるで生き返ったみたいに」
「それが光、闇魔法唯一の弱点」
「じゃあわたしーー」
「ーー闇魔法に強いんじゃって思った? そんなわけないでしょ? この本の罠にはまってあの狼みたいに乗っ取られそうになったの覚えてるよね?」
「あ」
「まぁ、これから一歩一歩いろいろ経験すればいいんだよ! そしたら知識も増えて記憶も戻ってきて一石二鳥! でしょ?」
フレンがハナニラにウインクする。ハナニラはうなずいて、今日のことを振り返った。今回の任務はハナニラにとって何の進歩もないわけではなかった。確かに記憶は取り戻せなかったが、新しい光魔法を思い出すことができたのだ。ふと、夕暮れ時のきれいな空が目に入った。それは今日の頑張りを空がほめてくれているようだった。
「...ふふ」
「? わたしそんな変なこといった?」
「ううん、違うよ」
こんな風にずっといれたらいいな、ハナニラは心からそう願った。
二話も読んでくださりありがとうございます。もしよければ感想くださるとうれしいです。




