表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

ep.6「人生に行き詰まったときは、とりあえず異世界にでも行っとけ」(後編)

夜魔:「なんだ?異世界って?」


冬月:「異世界とは、ラノベやアニメ等においてここ10年以上人気のあるジャンルである。

なんの変哲もない普通のやつが、偶然なんの脈絡もなく異世界に行って、しかもなんか最初からすげー強ぇー状態で活躍します!みたいなやつです!ざっくりいうと。」


夜魔:「なんだよそれ、面白いのか?」


礼堂がグラスを傾け、ぼそりと呟く。

礼堂:「あのタイトル長いやつか。俺苦手なんだよなぁ。なんか共感できないっていうか。」


冬月:「そうだな……。

ちょうど俺達の世代なんかは、その”共感”の部分で狭間にいるのかもしれない。」


冬月はグラスを置き、まるで講義を始めるかのように語り出す。

冬月:「俺達より上の世代は"努力・根性"が評価される時代だった。

でも今の若者は違う。偶然、特別な力を得て成功する“ご都合主義”が主流なんだ。

やれチートだ、ハーレムだってさ。

つまり異世界モノって、現実での努力を放棄して“リセット”することへの憧れなんだよ。」


夜魔:「なるほど。俺達にはなかなか刺さらないわけだ。」


冬月:「しか〜し!夜魔さん!」

グラスを勢いよく掲げながら、冬月の声が一段高くなる。

「この店を見てみろ。日常の愚痴と疲れを肴に酒をあおるおっさんばかり!

若者にとっては、ここが“異世界”じゃなく“現実”なんだよ!」


夜魔:「な……なにぃ!?」


ーその瞬間、店のジャズが止まった気がした。


冬月:「今の若者にとっちゃ、SNSが主戦場だ。

顔を見ず、感情も出さず、距離を保ったまま自分の世界を築く。

対面コミュニケーションなんて、もはや面倒くさい現実なんだ。」


夜魔:「そうなのか!!!」


礼堂:(いや……そんなやつそもそも外出歩かないだろ。)


夜魔:「じゃあどうすればいいんだ?」


冬月は一呼吸置き、真面目な顔で言う。

「まず、“プライバシーの確保”だ。

他人との干渉を極力減らす。それが今の若者にとっての“異世界”だ。」


夜魔:「ほう……。」


冬月:「席ごとに仕切りを設けるんだ。

他の客の顔も見えず、必要最低限の会話しかしない空間。

まさに“自分だけの世界”を提供する。」


夜魔:「大丈夫なのか?そんなことして?」


冬月:「ええ、むしろ歓迎されますよ。

そして次に変えるべきは——アルコールだ。」


夜魔:「そ、そんな……アルコールだと……?」


冬月:「若者の酒離れは深刻です。

“仕事の飲み会がだるい”“酔うのが嫌”“翌日がつらい”

そんな理由で、酒そのものが“現実”の象徴になってるんですよ。」


礼堂:(普通に飲むやつもいるだろ……。)


夜魔:「そうだったのか。これは物凄い衝撃だ。

だが、アルコールを提供しないなら何を出せばいいんだ?」


冬月:「違う。あくまでアルコールは今来てくれているお客さんの為にも必要。メインにしなければいいだけだ。」


夜魔:「ではメインは....?」


冬月:「メインはそう....ラーメンだ!」


夜魔:「ラ、ラーメン!?」


冬月:「あぁ。ラーメンはもはや老若男女に大人気の国民食となっている。

外国人なんてもはや日本の料理だと思ってるくらいだ。それに酒をダラダラ飲むより回転率も早い。


そこでさらに、

自分で簡単にトッピングや味を変更出来るようにして、他人を気にせず思う存分自分の世界を楽しませてやるんだ。」


夜魔:「なるほど!」


礼堂:(いやなるほどじゃねぇよ……もうBARじゃなくなってるよ。)


冬月:「なぁ2人とも、イメージしてくれ!


しっかりと仕切られた、

"自分だけの特別な空間"

店員や他の客とも対して顔を合わせない、

"最低限のコミュニケーション"

そして、

"自分好みの究極の一杯"が運ばれてくる。


これぞまさにーーー。」」


礼堂がすかさずツッコむ。

礼堂:「いやそれただの“ 一蘭いちらん ”じゃねーか!!」


冬月:「なんなら店員の呼び出し音をチャルメラにするのもアリだな。」


礼堂:「だからそれも一蘭がやってんだよ!!」


冬月:「まぁまぁ。だが結果的に一蘭は今も人気だ。

つまり、“現実を忘れられる仕組み”が正解ってことだ。」


礼堂(いやまずラーメン屋じゃないからね)


ここまでのやりとりで何かを掴んだような夜魔。

夜魔:「なるほどな。

だがしかし、ラーメン屋は難しいが若者の心理はだいぶ理解できた。

癒しや優しさに包まれ、努力や困難を必要とせずとも楽しめる楽園を求めているのだな。

それがつまりーー、」


冬月:「そう、それがつまりーー、」


冬月と夜魔、同時に声を合わせる。


「異世界だ。」


二人の間に、なぜか熱い友情の火花が散った。


礼堂:(……なにこれ?)



礼堂はグラスの底に残った氷をゆっくりと回し、

「カラン」と鳴った音を合図に腰を上げた。


礼堂:「……じゃ、俺達はこれで。」


冬月も立ち上がり、ジャケットを軽く整えながら、

カウンター越しの夜魔に笑みを向ける。


冬月:「夜魔さん。あんたなりの“異世界”。楽しみにしてますよ。」


夜魔はグラスを拭く手を止め、

少しの間だけ、真剣な顔で冬月を見つめた。


夜魔:「あぁ。任せておけ。」


——その口調には、なぜか“決意”のような響きがあった。


夜魔はグラスを拭きながら独り言を呟く。

「ふっ……異世界か。

まぁ、俺みたいな昭和生まれにゃ縁のない世界だが……。少し若者にも寄せてみるのも悪くないか。


そうだ、帰ったらあかりにも話してみるか。

若者代表だしな。最近まともに話してないしな。」


そして夜、帰宅。

玄関のドアを開けると、妻のひかりが笑顔で迎えた。


光:「おかえりなさい、パパ。お疲れ様。」


夜魔:「ただいま〜。なぁママ。あかりはまだ起きてるのか?」


光:「起きてるわよ。勉強頑張ってて忙しいみたいだから邪魔しちゃダメよ。なんか今日も機嫌悪かったし。」


夜魔:「そうか。分かった。あかりも遅くまで勉強熱心なんだな。」


(ふふふふ。ママは若者心理を何も理解していないな。頑張っちゃダメなんだよ。若者ってのは努力させちゃいけないんだ。まぁ見てなさい。父親がしっかりと娘を手懐ける姿を。)


そう呟きながら、そっとドアをノックする夜魔。


夜魔:「おうあかり。お疲れ様。」


あかり:「お疲れ様。」


(ほう。やはり冷たいな。)


夜魔:「勉強中か。」


あかり:「見れば分かるでしょ?」


(まぁここまでは想定内。。)



夜魔:「あかり、あまり頑張らなくても大丈夫だからな。パパはあかりが好きなことをしてくれればそれで大丈夫だからな。そうだ、ラーメンでも食べるか?」


(よし!これであかりは"なんて良いパパなの?大好き!パパの娘で良かった"ってなるはずだ。)


あかり:「……あのさ、そういう“努力しないでいい”って考え方、嫌いなんだよね。

それにラーメン?ダイエット中なんだけど!出てって!」


夜魔:「えっ!?ちょ、待——」


ドアがバタンと閉まる。

廊下に立ち尽くす夜魔。


(.....ん...あれ?話違くない?泣いていいかな?)


光:「だから言ったじゃない。今集中してて自分の世界に入ってるんだから。

いい?若い子っていうのは、自分の世界を邪魔されると嫌なものなの。はい!とっととお風呂入っておいで。」

無言で風呂場に向かう夜魔だった。



ーーー後日。

BAR〈夜魔〉に入ってきた礼堂と冬月を、元気な声が迎える。


あかり:「いらっしゃいませ〜!礼堂さん、冬月さん!」


礼堂:「おぉ、あかりちゃん久しぶり!」

冬月:「勉強頑張ってるみたいだね。偉い偉い!」


あかり:「はいっ!もう試験前で大変なんです〜!」

そう言いながらも、笑顔は明るい。

礼堂はふと店の奥を見渡す。


礼堂:「あれ?今日パパは?」


あかり:「あ〜、それが……この間朝起きたら置き手紙があって。

家でも見かけなかったんですけど、ママが“ほっときなさい”って。」


あかりが手紙を渡す。礼堂がゆっくりと広げる。


《異世界に行ってきます。探さないでください。》


しばしの沈黙。礼堂が無言で冬月を見る。


あかり:「……パパ、ほんと影響されやすいんですよね。あ、冬月さん、どうせまた変なこと吹き込んだんでしょ〜?」


冬月:「え、えぇ!? いやっ、俺そんな……!ははっ、ま、まさかぁ〜!」

顔が引きつり、声が裏返る。


冬月は汗をかきながら、強引に笑顔を作る。

冬月:「だ、大丈夫!……すぐ戻ってくるって!

ていうか....い、異世界なんて、ないからね!……多分!」


あかり:「そうですよね〜。……ま、いっか!」

そう言ってあかりはいつもの笑顔でグラスを磨き始めた。


ーーー完。

ここまでお読みいただきありがとうございました!


今回は夜魔が“若者を呼び込むために異世界を学ぶ”という、

よく分からない方向に暴走した回でした(笑)


本編である『礼堂と冬月の不完全な作戦』の

礼堂・冬月コンビも登場でしたが、

結局ろくな助言をせず、結果として夜魔さんを異世界に送り出すことに……。


「娘に怒られた父親が現実逃避で異世界に行く」って

作品実際にあるかもしれませんね。


次回もBAR『夜魔』にて、おっさん達のくだらない哲学をお届けします。

お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ