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ep.4「男は皆、心にキムタクを飼っている」【ーキムタクになってしまう男ー完結】

週末の忙しい雰囲気とは違い、

BAR〈夜魔〉は比較的落ち着いた空気に包まれていた。

氷の音がチリンと鳴り、淡い照明がグラスの縁を照らす。


夜魔とあかりはゆっくりとグラスを磨きながら話していた。


あかり:「ようやく来たわね。」

夜魔:「あぁ。今日で一つの恋が始まるか終わるかが決まる。」


夜魔は口元に笑みを浮かべた。

「どっちに転んでもドラマになるな」

そう呟いたところで、ドアベルが鳴る。


カランカラン――。


入り口の扉が開き、スーツ姿の木村が少し緊張した表情で入ってきた。

その後ろから、落ち着いた雰囲気の女性が続く。

彼女の名は工藤シズエ。

柔らかな声と仕草が印象的な女性だった。


カウンターに並んで座る二人。

互いに視線を合わせず、手元のグラスを見つめている。

沈黙だけが、時間をゆっくり進ませていた。


夜魔は空気を変えようと、わざと軽く声をかけた。


夜魔:「お二人さん。仕事終わりですか?」

木村:「は、はい。」


短く、硬い返事。

木村の肩が少し跳ねた。


夜魔:「もしかして、社内恋愛ですか?」

木村:「い、いえ!そんなんじゃ!」


夜魔は眉をひそめる。

(なんだよ。せっかく助け舟出してるのに。)


空気が重くなり、あかりがちらりと二人の様子を伺う。

木村は気まずそうにグラスの水滴を指でなぞっていた。


夜魔:「注文はどうされますか?」

木村:「じ、自分はビールで。」

シズエ:「私は……何か飲みやすいカクテルをお願いします。」

夜魔:「はいよ。」


グラスを置く音だけが響いた。

会話は途切れたまま、時間だけが流れていく。


――その静けさに耐えかねた夜魔は、あえて仕掛けた。

(うむ。このままではまずいな。)



夜魔:「そういえば木村さんはさ、“女性の前だとキムタクになる”って噂聞いたんですけど。」


木村:「えっ!? お、オーナー、それは……!」


シズエは目を丸くする。

シズエ:「キ、キムタク?」


夜魔:「ああ。女性と話す時だけ“ぶっちゃけ〜”とか“チョ、待てよ”とか言うらしいじゃないか。な、木村。」


木村:「そ、そんな!僕は別に……!」


あかり:「パパ!やめなよ、そんな言い方!」


夜魔は無言であかりを睨み、目で制した。

(黙ってろ、あかり。これはあいつの戦いだ。)


木村は深く息を吸い込み、震える拳を膝の上で握りしめた。

その目に、ようやく決意の光が宿る。


木村:(夜魔さん……わかりました。やります。俺、逃げない。)


シズエの方へ向き直り、口を開こうとした瞬間――


カンッ!! 脳内でゴングが鳴った。


白いリング。ライトに照らされた中央に、ボクサー姿のキムタクが立っていた。

ヘッドギアをかぶり、静かに構える。


木村:「夜魔さん達との特訓を思い出せ!」


彼は一歩踏み出し、ジャブを放つ。

キムタクがステップでかわす。

(いい……!戦えてる!今度こそ勝てる!)


――現実。


木村:「シ、シズエさんは……お酒とか、飲まれるんですか?」

シズエ:「たまにですかね。ただ、あまり強くないです。」

木村:「な、なるほど……。」


短い会話のあと、沈黙が戻る。

店内では氷が静かにカランと鳴った。


――脳内。


キムタク:「チョッ、待てよ!チョッ、チョッ、待てよ!」

パンチの速度が一気に増す。

木村は必死にステップを踏み、紙一重でかわしていく。



現実では木村とシズエの間に長い沈黙。

その様子を、夜魔とあかりが遠くから見つめていた。


(木村……これはお前の戦いだ。俺がしてやれることはもうない。自分の弱さには、自分で打ち勝つしかないんだ。)



――再び脳内。


キムタクがヘッドギアを外し、額から汗一つこぼれないまま、攻撃のスピードがさらに上がる。

そんなキムタクの連続パンチが当たり始め、弱気になる木村。

(グ、、、グオ、、、なんだこれ、、さっきまでとは全然違うぞ、、、。そっか、、今までのはあくまでスパーリングだったんだ。実戦とは程遠かったんだ。)


現実では、木村の手が小刻みに震えている。

グラスの中の氷が音を立てて溶けていった。


ーーそして、シズエから声をかけられる。


シズエ:「木村さん。今日もお仕事忙しそうでしたし……お疲れのようですね。

今日はもう帰りますか? 明日も仕事ですし。」


その声を聞いた瞬間、木村の視界がぐらりと揺れた。

照明が滲み、世界がゆっくり暗転する。

シズエ:「えっ!木村さん?」

夜魔:「大丈夫か木村!」

あかり:「木村さ〜〜ん!」




ーー暗い闇の中....

キムタクのパンチを何発もくらい続ける木村。

もう闘う気力はなく、ついには足を滑らせ転倒する木村。

レフェリーがカウントを数え始める。


意識が朦朧とする中、夜魔の言葉を思い出す。




「バカヤロウ!自分を変えたいんだろ!?そんな気持ちで変えられるか!!」



(夜魔さん無理だ。僕は弱い。自分を変えることなんて出来ないんだ。そうやって今までも生きてきた。

シズエさんだって、僕といても退屈なだけだろう。。当たり前だけど、僕なんかより良い人がいるはず....)


するとキムタクが立ち止まり、静かに木村を見つめ

語りかける。


キムタク:「なぁ?お前さぁ。そーやって一生グジグジしてるつもり?

お前が見てた俺って、そんなもんか?

自分で言うのもアレだけどさ……俺ってもっとカッコ良くね?」


木村:「……。」


キムタク:「心の中に俺を飼ってんだろ?

だったら情けねぇ顔してないで、向かってこいよ!」


その言葉が、暗闇を切り裂いた。

木村の瞳に再び光が宿る。


(こ、、、こんなセリフ。どんなドラマでも、どんな番組でも言ってなかったぞ。


......そうか。


分かった。分かったぞ。俺はキムタクを言い訳にして逃げてただけなんだ!)


キムタクはグローブを外し手を差し伸べてくる。


キムタク:「あとはお前自身の戦いだかんな。

良い報告期待してるぜ。GOOD LUCK!!」


白い光が爆ぜる。

キムタクの姿が消え、光の中に現実が戻ってくる。


うっすら目を開け、周囲の声に気づく木村。

シズエ:「木村さん!木村さん!」

夜魔:「おい木村!起きろ!立ち上がれ!」

あかり:「木村さ〜〜ん!!」


しっかりと目を覚ました木村は勢いよく立ち上がり、シズエと向かい合う。

その瞳には、もう迷いがなかった。


木村:「シズエさん!

僕!シズエさんのことが好きなんです!

シズエさんのことしか考えられないんです!

ぼ、、、僕じゃダメですか?


....いや違う!!

僕がシズエさんを幸せにしてみせます!

付き合ってください!」


店内が一瞬静まり返り、木村の急な告白に一同は驚く。


そして夜魔はこの告白を聞いて両腕を組みながらポロリと涙を流す。

(木村よ。よくあの名作ドラマ『あすなろ白書』の

キムタクの名ゼリフ"俺じゃダメか?"を振り切り、

自分の言葉で想いを伝えたな。)


木村の想いを聞いたシズエは涙目になりながら口を開く。


シズエ:「木村さん。。そんな風に想ってくれたなんて。


あの......私が前に仕事でミスした時、私を庇って、

自分のせいして会社に報告してくれたの覚えてますか?

あの時。私は本当のことを言えなかった。

人として、とても情けなかった。


そして、


ぶっちゃけ、俺、お前に何かあったら困るから


って言ってくれて。


言葉は借り物かも知れないけど、その行動は木村さんが本心でしてくれたことだと思います。


あの瞬間から、私も木村さんのことずっと気になってました。


私も木村さんのことが好きです!」


その瞬間ー。

みんなの頭の中にタイミングよく久保田利伸の『LA・LA・LA LOVE SONG』が流れ出した。


というか実際には、

夜魔が店のBGMを『LA・LA・LA LOVE SONG』に変更した。

(うむ。完璧なタイミングだ。)


店内は祝福ムードに包まれた。


そのまま他の客も含め宴が始まり、幸せのどんちゃん騒ぎが行われた。



そしてーー。

最終的に店内には、

酔いつぶれた木村と洗い物をしている夜魔の2人だけが残っていた。


酔いつぶれているタケシは夢の中で声をかけられる。


(タケシ、、おい木村タケシ!

お前の告白見てたぜ!なんかドラマ観てる気分になったよ。


お前さぁ、生意気にあすなろ白書の告白やめたよな?


はは!まぁ良かったよ。

ああいう演技も悪くないかもな。お前らしいよ。

シズエさん幸せにしてやれよ。

じゃあまたいつか会ったら、、よろしこ。)


ーーそしてタケシは目を覚ます。


夜魔:「おー起きたか!もう閉店だぞ。」


木村:「あ、、あれ!?もうこんな時間!すみません夜魔さん!」


木村は慌てて体を起こす。


夜魔:「お前なんか寝言で"よろしこ"とか言ってたぞ。ったくHEROの時のキムタクじゃないんだから。おら早く帰れ。」


木村:「夜魔さん!色々とありがとうございました!また来ます、。次もシズエさんと。」


そして夜魔はフッと微笑んだ後、

急激に鋭い目つきに変わる。

夜魔:「おう木村。ちょ待てよ。お会計。

10万3800円だ。」


木村:「えっ。なんか高すぎません?」


夜魔:「いや、酔っ払ったお前が客の分も全部払うって言ったんだろうが。シズエさんもしっかり聞いてたぞ。」


木村:「そんな〜!」

こうして木村はしぶしぶお会計を払った。


カランカラン……。

そして扉が閉まり、静かな夜が戻った。




ーー後日。


木村はシズエを連れ、再びBAR『夜魔』を訪れた。


店内は穏やかで、カウンターの上のグラスが柔らかく輝いていた。

店の空気は、どこか懐かしい香りがした。


あかり:「あっ!木村さん、シズエさん! いらっしゃいませ!」


笑顔で出迎えるあかりに、木村は嬉しそうに手を振る。



あかり:「なんかすっかりカップルって感じですね!」


木村は照れながら頭をかく。


木村:「あかりさんありがとう!あの時ナッツくれた所から始まったからね!恩人だよ!」


あかり:「いえいえ。木村さんもシズエさんも幸せそうで何よりです!ふふ♪」


シズエ:「そうですね♪でもあれ以来、女性とも普通に話せるようになって、ちょっと複雑ですけどね(笑)」


ふたりの笑顔に、店内の空気がほんのり甘くなる。


木村:「まぁまぁ(笑)それはそれ、これはこれってことで!」


あかり:「ふふっ♪」


カウンター越しに微笑み合う二人。

その様子に、あかりもどこか母親のような目線で頬を緩めた。


木村:「……あれ? そういえば夜魔さんは?」


辺りを見渡す木村。

そこには他の客に料理を届ける大柄茶髪パーマの姿がー。


「ボナペティ。ちなみにウチ、ミシュランで三ツ星取るんで。」


その声の主――

髪を茶色に染め、ゆるいパーマをかけた夜魔が、皿を手に颯爽と登場した。

エプロンの下には白シャツにネクタイ。どこかで見たような立ち姿。


木村:「……いや、それ“グランメゾン東京”の……!」


あかりは無言で夜魔を見つめ、深いため息をつく。


あかり:「……こっちはもう治らなそうです。」


「キムタクになってしまう男」

ーー完。

みなさんここまで読んで頂きありがとうございました!

とりあえず「キムタクになってしまう男」完結しました。


また、次の話も書きますので是非読みに来てください。

本編の「礼堂と冬月の不完全な作戦」の方も読んで頂けたらと思います!

ありがとうございました!!!

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