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2話 剣と魔法の王都デート編

入学式の翌朝――のはずだった。

昨日は春の桜の下、真新しい制服に袖を通し、みゆと並んで写真を撮ったはず。その残像がまだ胸の奥に温かく残っている。


けれど、ハルが目を開けると、そこは見慣れた自室ではなかった。重たい石造りの天井、彫刻の施された太い梁。ふかふかの羽毛布団に包まれて、ひんやりとした空気を吸い込む。


「……え、ここ、どこだ?」


起き上がると、肌ざわりのいい毛布の感触と、きらびやかなカーテン。窓辺の鳥の声も、どこか遠い異国の調べのようだった。


心臓が跳ねる。夢――? それとも、まだ現実なのか。

(まさか、また“あっち”の世界?)


すると、重厚な扉がきぃっと開く。

見覚えのない宮廷風ドレスに身を包んだ女の子が、堂々とした足取りで入ってきた。


「やっと目覚めたわね、平民の少年。朝食はもうできてるわよ。遅刻は王都の恥ですから」


一瞬、頭が真っ白になる。どう見ても――みゆ。けれど、セーラー服じゃなくて、きれいな青と白のドレス。髪にはきらきら光るティアラまで。

背筋がぴんとのびて、まるで絵本のお姫様みたいに“かわいかった”。


「み、みゆ……!?」

「失礼ね。私は“リュシア王女”。名前を間違えると牢屋送りよ?」


わざとらしく芝居がかった口調。

だけど、瞳の奥には、幼なじみのいつものイタズラっぽい光が宿っている。……一瞬の間、夢の曖昧さが胸をざわつかせる。


(やっぱり、これは夢……? でも、みゆの声が、現実みたいに心に響く……)


呆然としたまま、渡された麻のシャツとズボンに着替える。

(制服じゃなくて、これって、RPGの村人装備……?)


「早くして。今日は王都でいちばん大きな祝祭なの。王女と“平民代表”が一緒に街を巡って、国民の前で“絆”を見せるのが伝統なのよ」

「え、なんで俺が……?」

「この国で選ばれし民だから、仕方ないの。帰りたいなら“魔法”の出口でも探してみて」


みゆは得意げな笑顔を見せる。

でも、その仕草も少しだけ“かわいい”と思ってしまう自分がいた。ときめきが、不安と混じって胸を締めつける。


やがて二人は、城の正門をくぐり抜けて、王都のメインストリートへ。

石畳の通りにはカラフルな屋台と旗、店先にはフルーツやパンの山。

遠くに見える大聖堂や、空を横切る竜の影まで、全部が“きれい”すぎて夢の中みたいだった。


「うわ……全部、夢の景色かな」

「さあ? 夢かどうかは、ハル次第でしょ」

みゆは、楽しそうにハルの袖を軽くつまむ。その横顔がどこか誇らしげだ。……間を置いて、守りたい気持ちが湧く。


「今日は“王都祝祭の日”。王女と平民代表は、一日デートして“絆”を国中に見せなきゃいけないんだから」

「それ、ラノベすぎ……」

「王都の伝統です。しかも、成功しなかったら……」


みゆはちらりと上目遣いで見てきた。セリフの間、不安がよぎる。

「“呪い”で二人ともカエルにされちゃうのよ?」


「はああっ!?」

「ほんとよ。昨日の夢にも出てきたでしょ?」

「昨日の夢なんて覚えてない!」


呆れつつも、みゆの明るい顔を見ると、ハルの緊張も少しほぐれる。……でも、現実の曖昧さが、ときめきを不安に変える。


まずは、広場の花屋台へ。

リュシア王女のみゆが差し出したのは、きれいな青いバラのブーケだった。


「これ、私の分。祝祭の始まりは“お互いに花を贈る”のがルールなの」

「へ、へえ……」

ハルも黄色い小さな花を一輪選び、「リュシア王女へ、贈ります」と差し出す。


「ありがとう。“平民のくせに”可愛いとこあるじゃない」

みゆがわざとからかう。

二人のやりとりに、屋台のおじさんや子どもたちが「お似合いだね!」と冷やかしてきた。


(みゆと、こんなふうに“男女”扱いされるなんて、変な感じ……でもちょっと、うれしいかも。守りたい……この夢が、現実じゃなかったら?)


「よし、デートコース行きましょう!」

みゆが小さく胸を張った、そのとき――


どこからかフード姿の怪しい老人がぬっと現れる。


「祝祭の日に、王女と平民が手を組むとは不届き千万!聞け、若者たち。もし今日一日、みんなが“絆”を認めなければ、日没と同時に二人はカエルじゃぞ!」


杖を振り上げて呪文を唱える老人。

青白い光が二人をふわっと包む。


「これがカエルの呪いってやつ……?」

「本当に呪われちゃったのかな……」


みゆが心配そうに袖を握る。

ハルは自分の手を見下ろす。どこかぴりぴりと熱を帯びるような不思議な感覚――でも、みゆの手のぬくもりだけは現実みたいにリアルだった。……間、夢と現実の対比が心を揺らす。


「……やるしかないな、絶対デート成功させよう」

「うん、頑張ろうね!」


一日、王女と平民代表として“本気で”デートして、みんなに“絆”を認めてもらわなきゃ呪いは解けない。

今日のミッションが、いま始まった。


「まさか本当に呪われるなんて……ハル、なんか手、ピリピリしない?」

みゆ――リュシア王女が、少し頼りなくつぶやく。突然、王女モードが崩れ、素のみゆの弱い声に変わる――そのギャップに、ハルの心が強くときめく。不安が守りたい気持ちを煽る。

ハルは自分の手を握り、(これが夢か現実か分からないけど……みゆの手が、かわいいくらい小さくてきれいだ)と密かに思う。


「まずはあの鐘楼、案内しろよ、王女様」

「命令しないで。……でも、行ってあげてもいいわよ」


ふくれっ面のみゆが、きれいなドレスの裾をひるがえして、王都の街へ歩き出す。

ハルも、みゆの背を追いかけて、夢と現実の間を歩き出す――。

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