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1話 春風の隣、夢の境界線で

四月、桜の花びらが風に渦巻く朝。駅前の歩道は、ピカピカの新制服に身を包んだ学生たちで大賑わいだ。まるで新しい冒険の幕開けを予感させるような、活気あふれる光景。


主人公・桐生ハルは、眠たい目をこすりながら玄関を飛び出し、隣家の塀越しにチラリと視線を投げた。やっぱり、そこから自転車を押して現れたのは、結城みゆ――幼い頃から隣同士で育った、超世話焼きな幼なじみ。彼女の存在は、ハルの日常に欠かせないスパイスだ。


「おはよう、ハル!寝癖がモヒカンみたいになってるよ?」みゆは制服のスカートをヒラリと翻し、悪戯っぽく笑う。


「うるせえな!朝からそんなツッコミ入れるなよ」ハルは慌てて髪を掻き毟り、顔を赤らめながら返す。でも、心のどこかでそのからかいが心地いい。


みゆの自転車かごには、母手作りの温かなパン包み。「これ、二人で分けっこしなさい」って、毎朝のルーティン。ハルの家では週末になるとみゆが押し寄せて、ゲームで大騒ぎしたり、犬の散歩で笑い転げたり。まるで二人が一つのチームのような、ほのぼのとした日常だった。


「今日、入学式だよね。ドキドキしちゃう!」みゆが歩調を合わせてくる。「大きな式なんて、幼稚園の卒園以来かも?」


「そうだな。小中のは記憶に残ってねえよ」ハルが肩をすくめる。


「ふふ、でもハル、絶対泣いちゃうよ。緊張するとすぐ涙目になるんだから!」「泣かねえよ、バカ!」「嘘だよ、絶対泣く!私、見届けるからね」二人のやり取りは、周りから見ればただの仲良しコンビ。でも、当人たちには、幼なじみならではの甘酸っぱい照れが潜んでいる。


幼稚園の小さなバスでいつも隣に座り、遠足ではお弁当を交換して大はしゃぎ。小学校に上がってもクラスは変わらず、通知表には毎回「仲良しですね」の一言。幼い頃、二人は「将来も隣同士で暮らそうぜ!」と無邪気に誓った。あの記憶が、ハルの胸をくすぐる。


そんな穏やかな日々が、高校入学で新たなステージへ。新しい制服に袖を通し、新クラス、新友達。ワクワクが胸を膨らませるけど、ちょっとした不安も忍び寄る。まるで未知の冒険の予感だ。


「ねえ、ハル。クラスが離れちゃっても、昼ごはん一緒に食べてくれるよね?」みゆがふと、真剣な目で尋ねる。


「バカ言うなよ。そんなことで縁が切れるわけねえだろ」ハルが笑って返す。みゆはホッと胸を撫で下ろし、明るい笑顔を見せる。


通い慣れた道が今日は輝いて見える。電車の中で制服を着ているだけで、なんだかスーパーヒーローになった気分だ。


学校に着くと、校門前はカメラを構えた保護者や、新入生の興奮した声でカオス状態。みゆがスマホをサッと取り出し、「はい、記念自撮りタイム!」とハルの肩を強引に引き寄せる。


「おいおい、恥ずかしいって…」「いいじゃん!ハル、ピースしてよ!」みゆの無邪気さに負け、ハルも渋々ピース。スマホに映る二人の笑顔は、永遠の瞬間を切り取ったようだ。


入学式の体育館は、柔らかな光に包まれている。新入生代表の挨拶や吹奏楽部の演奏が、夢のような現実味を帯びる。まるでファンタジー映画のオープニングシーン。


みゆが隣でそっと囁く。「これから三年間、また一緒に冒険だね」ハルは静かに頷く。


(この“普通の毎日”が、永遠に続くんだろうな――)ハルは心からそう信じていた。


式が終わり、教室の掲示板前はクラスメイトで大混雑。「どこだ、何組?」「あの子、小学校一緒じゃん!」と声が飛び交う。


ハルとみゆも覗き込む。「お、同じクラス!」「やったー!」みゆが飛び上がってハイタッチ。ハルは「目立つぞ、バカ」と苦笑しながら応じる。


午後はホームルームと教科書配布だけ。あっという間に下校時間だ。


帰り道、二人は駅へ。「ランドセルじゃなくなっただけで、超大人じゃん!」とハルが冗談を飛ばす。


「みゆ、明日から部活見学だってよ」「何か入りたいの?」「うーん、何でもいいけど。みゆは文芸部か美術部だろ」「なんでバレるの?」「お前、本ばっか読んでるじゃん」「ハルも一緒に!」「いや、俺は運動部一択」「つまんないなー」二人のバトルは、いつものように楽しい。


ハルの家に帰ると、玄関にみゆの靴。「ねえ、ハル、夕飯一緒に?」「え、また?」「うん、ママのカレー作りすぎちゃった」「…まあ、いいか」台所からスパイシーで甘い香りが漂い、腹を鳴らす。


みゆの家のダイニングで、母が本気顔。「高校生なんだから、進路しっかり考えなさいよ」「まだ一年生だよー」「そうだそうだ!」二人が声を揃えると、「あなたたち、ほんと兄妹みたいね」と母がクスクス笑う。


食後、みゆの部屋でベッドに転がり、スマホを弄り合う。窓外では夜風に桜が舞い、幻想的なショーだ。


「明日から授業だね」「うん。ハル、これからも毎日笑ってられるかな」「急にどうした?」「今が幸せすぎて、悪い予感が…」「バカ、大丈夫だよ。何があっても俺が守るから」みゆは優しく笑って頷く。


夜10時過ぎ、ハルは自分の家へ。机に新しいカバンを置き、制服を脱いでベッドにドサリ。


(今日も変わらず、最高の1日だった。これが幸せだよな)


まぶたが重くなる。遠くで銀色の鈴がチリンと響く幻聴。窓外に怪しい光がチラリ。


(みゆの“変な予感”…まさか、気のせいだよな?)


意識が溶けていく。夢の扉の手前で、窓の外の光が強くなる。



その夜、ハルが目を覚ますと――世界は一転、ファンタジーの渦中だ。


灰色の空の下、見知らぬ大聖堂。足元は石畳、周りは剣と鎧に身を固めた騎士たち。


すぐ隣に、宮廷風ドレスを着ている。"みゆ"。


「…え、ここ、どこ?」二人のドキドキする非日常冒険が、幕を開ける!

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