第1話∶脚光を浴びる
信用、信頼ってやつは積み重ねだ。
分かりやすく何か良いことをした分だけ、悪いことをしても許される。そんな本質を隠す仮面のような物は、どこにだって、誰だってある。
俺にだって…ある…。
ここは私立真誠学園高等学校。ここでは最近、夜中に校舎へ来ると行方不明になるなんて噂が広まっている。
それに事実、夜な夜な学校へ来て行方不明になった生徒もいる。専ら学校の怪談だの七不思議の仕業だの会話を盛り上げるための噂になっている。肝試しに行こうなんてことをする生徒だっている。
そうやって行方不明になって行くことも知らずに…。
※
目覚ましの音で今日を認識する。
…目が覚めた…いつもと変わらない退屈な1日が始まる…。
…こんなことをしている場合なのだろうか…?毎日同じ様に学校に行って、全てが終わったら帰る。残った時間じゃ特に何もできず、それで寝て、また次の日が来る。きっと高校を卒業してもそうだ。働くにしても…同じことの繰り返しになるだろう…。
かと言って、特にやりたいこともなければ、生きる意味なんてない…。
通学中、最近はそんなことばかりを考えている。学校へ着くと、特に特定の誰かと話すことなんて無く、席に着く。そしてただひたすら、終わりを待つ。
「なぁ〜誠也!今日転校生来るってよ!」
「…」
俺は黒月 誠也高校二年生。それと話しかけられているが、俺に友達なんていない、それでも話しかけてくる物好きが数人いる。こいつは橘 晴橙。陽気でクラスの中心にいるようなやつ。かなり強引なところもあるが、それでも好かれてる。
「…転校生?」
転校生とか、あんまり馴染み無いな…それは当たり前か…まあ別に、そこまで興味ないな…。
「どんなやつが来るんだろうな!」
「ん、そうだな」
其の場凌ぎの相槌を打ち、会話を終わらせる。興味ないし…他の奴らが集まってきたらうるさいだけだ…。それに夜更かしして普通に眠い。勘弁してくれ。
「めっちゃ可愛い子だったらどうする!?」
「おいおい、もしそうだったらみんなで話しかけようぜ〜!」
やばい…集まってきた…頼む。少しは寝かせてくれ…。
「おっ、チャイムだ…またな!」
良かった…都合良くチャイムに助けられた…。
目を瞑り、机に突っ伏せる。転校生か…。
「おい!誠也!行くぞ!」
いつの間にか寝てたみたいだ…眠すぎた…。春橙が話しかけてきている…行くってどこに行くんだ…?
「…どこ?」
寝起きで全然声が出なくなってる…。
「どこって…聞いてなかったのか?朝礼があるってよ!転校生紹介されたりしてな!」
そんなわけないだろ…何言ってんだこいつ。まあ…朝礼か、めんどくさ…行かないと…。
立ち上がり、体育館へと向かう。
※
校長の長い話が続いている…。いつのマンガだよ…体感一時間とか経ったぞ?まだ終わらないのか…?そんな話すことないだろ…いつも人と話してないから人と話せるタイミングでこんなに話し始めるのか…?何ハラだ?訴えられるだろこれ…。
流石に長かったのか、他の先生が話を止め始めた。それだけで、何となく良いものを見た気がする。
「それと〜みんなには新しい仲間を紹介します!」
え…?おいおい嘘だろ?朝礼で転校生紹介なんてあるのか?公開処刑だろ…断っても良いんだぞ?とんでもない…高校生にもなって………
呼ばれた転校生は、壇上へ上がっていく。公開処刑だと思った所為で断頭台へ行くようにも見えてきた。いや、流石にそれはないか。
「えー転校してきた、曙 太陽です!よろしく!」
…まじで全校生徒の前で自己紹介するじゃん。照明も相まって主人公過ぎるな…。どうしてこうなった…?
驚愕の転校生紹介に、生徒達はざわつく。憐れみ、涙を流す者さえいる様だ。
「静かにー!」
すかさず、ざわついた空気を先生が注意する。そうなってしまうのも仕方ない…と言うより、普通に体罰というか…結構酷いことをしている自覚あるのか…?まあ、ないから全校生徒の前で自己紹介をさせるんだろう。下手したら炎上するか…?
こうして適当に話を聞いているうちに朝礼は終わり、教室へ戻る。
教室では転校生の話題で持ちきりだ。少しかっこよかっただの、どの教室になるのか、なんて話をしている。
しばらくすると、担任の先生が教室へやってきた。教室は少し静かになり、先生が話し出すのをの待つ。
「えー今日からこの教室には新しい仲間ができます。」
その言葉に、教室はかなりの盛り上がりを見せる。
「じゃあ、ちょっとおいで」
教師の手招きで、転校生は教室へと入ってくる。ゆっくりと、堂々と胸を張り、転校生は歩いて教壇の中心に立つ。
「さっきも言ったように…転校してきた曙太陽です…!よろしく!」
そうして教室はより一層賑やかになった。「彼女はー?」「部活なにやるの!?」「趣味はっ!?」など矢継ぎ早に質問する。
そして更に………
「どんな能力持ってるの?」
なんて声も聞こえる。
この世界には一人一つ、何かしら恩恵を授かって生を受ける。チートみたいなのもハズレみたいなのも沢山だ。それでもあってもなくても変わらないというか、あったら日常が少し便利になるかもってくらいの恩恵だ。
例えば、俺の恩恵は『ホログラム』自分が考えていることを映すことができたりする。明かりのある場所じゃないと映せないし、明るすぎても見えなくなる。
それに物は使いようだから、みんなして自分の恩恵の活かし方を必死に考えていたりもする。
「ええっと…彼女は居なくて…部活はまだ考えてて…趣味?趣味は…映画観ることかな…?それで…ええ…能力は…ほらこれ」
「ん…?」
太陽は徐ろに背筋を伸ばす。教室にいる誰もが何が起こったのか分からず、頭に疑問符を浮かばせる。
「見えない?電気消してみて」
そう言われ、生徒の一人が教室の電気を消す。
「…ほら…ちょっと光る…!」
教室は笑いの渦に包まれた………
※
少し早めにホームルームも終わり、次の授業までの間、転校生を囲うように多くの生徒が集まる。中には別の教室からくる生徒なんかもいた。
賑やかな教室に、大勢の笑い声が聞こえる。
「そういえば太陽君は聞いた?最近夜中に忘れ物を取りに学校へ来た生徒が行方不明になってるらしいよ〜!」
「それ知ってる!三年がいなくなったって話なら聞いたよ!この学校の七不思議だね〜」
なかなか物騒で、学生らしくない噂が耳に入る。でもそういう怪談とか七不思議みたいな話って、ありがちだけど…興味が湧くものなのかな…?
「七不思議…?なにそれ…!面白そうじゃん…!」
意外にもそんな俗っぽい噂に、転校生は興味津々な様子だ。
「えー!じゃあ、皆で肝試しに夜の学校行っててみる?」
「いいじゃん…!楽しそう!行きたい!」
…よせばいいのに、どうやらかなり乗り気な人が多い様だ。提案した女子生徒が、こっちに近づいてくる。肝試しに誘ってくるつもりなのだろう。
「なー!誠也!肝試しだってよ!お前も行くだろ?」
突然、晴橙が話しかけてきた。少し驚きつつも顔を見て返事をする。
「…断ったところで、夜に鬼電してくるんだろ?」
「バレてら…よっしゃ!なあ!その肝試し!二名様追加で!」
こうして夜の学校へ、肝試しに同行することとなった。
詳細を聞くと、どうやら今日、転校生の学校を案内することも兼ねて行くらしい。そこそこの人数が行くらしいが…大丈夫か?
※
一日も終わり、空が薄暗くなってきた頃、約束の時間、約束の場所へ向かう。
全員で薄気味悪い校内へと、足を踏み入れる。
名前
黒月 誠也
橘 晴橙
曙 太陽