第三百八十一話 いつまでもみんなと共に
そして、僕とエミリーさんの婚約披露パーティーから四年が経ちました。
エミリーさんは十七歳になり、僕も遂に十五歳になりました。
成人になったのを期に、今年は色々なイベントが予定されていました。
「「「「「わーい!」」」」」
そんな僕の屋敷の庭では、今日もアーサーちゃんやセードルフちゃんを始めとする年少組が元気よく遊んでいました。
マリアさんは女の子、ヘンリーさんとシンシアさんとの間には男の子が生まれて、更にナンシーさんにも男の子が生まれました。
王族や上位貴族の子どもたちが僕の屋敷に一堂に会しているけど、未来の国王陛下であるアーサーちゃんを支えるお友達を作る意味でもとてもいいことだそうです。
もちろん王城などでも一緒に勉強をしていて、かなり頑張っています。
そんな中、エドガーちゃんとルルちゃんが本格的に次の勇者様になろうと張り切って訓練をしていました。
まだまだ二人とも小さいけど、僕の目から見ても中々いい感じに訓練をしています。
もう少し大きくなったら、僕たちのパーティに参加して色々と経験を積んでいく予定です。
それと、カレンちゃんはアーサーちゃんとセードルフちゃんともとても仲がよく、将来の王妃様候補もしくは公爵夫人候補と言われています。
だけど、三人はまだお互いにそこまで意識はしていないみたいですね。
「ナオ様、お茶が入りました」
僕の専属侍従のリルムさんも、引き続き屋敷で働いてくれています。
実は、リルムさんと執事のブライアンさんが結婚することになりました。
僕の屋敷を支えてくれている大切な人が幸せになるので、僕もとっても嬉しいです。
更に、ノリスさんとノーヴェさん、ゴードンさんとユーリさんも結婚が決まりました。
四人は、成人したら僕の屋敷で働いてくれていました。
特に、ゴードンさんとユーリさんは僕の屋敷に住み始めた頃からです。
タダで屋敷に泊まらせてくれるのは心苦しいと言ってくれたのです。
とはいえ、最初は訓練を積んで強くなることが優先でした。
結果として四人はとても強くなり、害獣駆除や犯罪組織の壊滅などにもとても大きな力を発揮しました。
今では、町の人や冒険者からも立派な勇者パーティの一員だと言われています。
「「「「アンアン、アンアン!」」」」
「もう少ししたら遊んであげるね」
「もうちょっと待っていてね」
僕の屋敷に遊びに来ているカエラとキースの足元に、小さなオオカミが遊んでとせがんでいました。
実は、クロちゃんとギンちゃんも夫婦になって、無事に赤ちゃんオオカミを出産していました。
みんな元気いっぱいでヤンチャなんだけど、中にはとっても真面目な子もいます。
その子は、アーサーちゃんとセードルフちゃんが貰い受けて大切に育てています。
スラちゃんは相変わらずヘンリーさんのお仕事のお手伝いもしていて、たまに陛下のところにもいます。
キキちゃんも王妃様やマリア様と一緒にいることがあり、ドラちゃんが二匹を王城に送り迎えしています。
ドラちゃんは、基本的に僕の屋敷にいて子どもたちと遊んだり勉強することがおおいです。
「「ナオお兄ちゃん、お庭行ってくるね!」」
「「「「アンアン!」」」」
カエラとキースは相変わらず元気いっぱいで、王都と僕の実家の半々で冒険者活動をしています。
将来はキースが実家を継ぐ予定なんだけど、カエラも暫くは実家にいると言っています。
その理由は、サマンサお姉ちゃんと旦那さんとの間に赤ちゃんが生まれたからです。
カエラとキースは、甥っ子が可愛くて年中様子を見ていました。
因みに、お母さんとお父さんの仲もとても良いです。
お父さんは、初孫が生まれた時はまた号泣していたっけ。
お母さんはたまに孫の面倒を見ていて、赤ちゃんが欲しいなと言っているとかいないとか。
あと、僕の地元にはたくさんの冒険者がやってきているそうです。
冒険者から貴族になった僕の存在もあり、あやかりたい気持ちだそうです。
そして、今日はあることのためにエミリーさんとお母さんが僕の屋敷にやってきていました。
ガチャ。
「ナオ、お待たせ」
外でちびっ子たちの相手をしていたエミリーさんが、カエラとキースと入れ替わって応接室に入ってきました。
エミリーさんはスタイルもよくなって、グッと大人の女性に近づいていました。
背も、相変わらず僕よりも高いんだよね。
僕だって毎日頑張って食べていて、昔よりもずっと背が大きくなりました。
でも、エミリーさんとスラちゃんは、背が低い僕でもいいよって言っているんだよね。
僕としては、頑張ってエミリーさんよりも背が大きくなりたいです。
そしてお母さんも応接室に入ってきたけど、お母さんは昔から若いままなんだよなあ。
孫が出来ておばあちゃんになったと周りに嬉しそうに言っていたけど、全然おばあちゃんになったようには見えないくらい若々しいです。
ピラッ。
僕は、エミリーさんとお母さんに見えるように一枚の書類をテーブルの上におきました。
その書類には、こんなことが書かれていました。
「強制労働刑を受刑中の囚人ニゴール、病気のため獄死」
ニゴールとは僕の元パーティメンバーだった三人のうちの一人で、二十年の強制労働刑を受けていました。
判決を受けてからまだ十年も経っていないのに、冬場に運悪く病気に罹ってそのまま亡くなってしまったそうです。
そして、最期まで自分は悪くないナオが悪いと言っていたそうです。
「受刑中の態度もかなり悪く、通常の労働刑から重犯罪者用の労働刑に切り替わったそうです。それも、病死した一因とも言われています」
「自分のことを棚に上げて、全てを他人の責任にしていたのよ。こればかりはどうしようもないわ」
僕が書類に書かれている内容を読み上げると、エミリーさんは自業自得だと冷めた反応でした。
お母さんも、こればかりはどうしようもないと言っています。
「先に四十年の重犯罪者向けの強制労働刑になっていた二人も、判決を言われてから三年以内に獄死しているわ。生意気な態度を取って、先輩受刑者に随分とかわいがりを受けたみたいよ」
エミリーさんは、残り二人の元パーティメンバーのその後について教えてくれました。
反省するどころか反抗もして、刑務官にもかなり怒られていたそうです。
この状態だと、仮に出所しても直ぐに犯罪を犯すのは目に見えています。
因みに、ゴードンさんとユーリさんの元パーティメンバー三人は、麻薬の運び人の仕事をしていました。
しかも、麻薬だと分かっていた上で運び人をしていたので、かなり悪質だと判断されました。
楽してお金持ちになりたいという安易な考えを持っていて、そこを犯罪組織の構成員に付け込まれました。
でも、世の中そう上手くはいかないですね。
押収した資料から、直ぐに三人がピックアップされたそうです。
相当重い刑罰になっていて、未だに強制労働刑となっています。
ゴードンさんとユーリさんとは、もう二度と会えないでしょう。
「悪いことをして罰せられるのは当たり前よ。それが、悪いことをしても罰せられないという異常事態が続いたから、ナオの元パーティメンバーを始めとしたあの三家や代官の横暴が長くつづいたわ。ナオは、私たちみたいな悲劇を生まないためにも、これからも頑張らないといけないわよ」
お母さんの話に、僕はコクリと頷きました。
横暴な振る舞いを受けて生じた痛みを、僕はよく知っています。
こんな酷いことが起こらないように、今後も勇者パーティとして頑張って働かないとね。
すると、エミリーさんはこんなことを言ってきました。
「ナオは、周りのことを気にしすぎて自分のことを疎かにしすぎよ。それに、今のナオは横暴な振る舞いから解放されたのだから、もっと幸せにならないと駄目だよ」
「そうね、お母さんもそう思うわ。せっかく結婚式も近いのだから、自分が幸せになることを考えないといけないわよ」
エミリーさんだけでなく、お母さんも苦笑しながら僕を見ていました。
夏前に、いよいよエミリーさんとの結婚式を挙げることになりました。
あと数カ月で結婚式なので、招待状を配ったり大教会や披露宴の手配などもしています。
なんと、教皇猊下が神父役をすると張り切っていました。
僕たちがずっと大教会で奉仕活動をしていたので、そのお礼も兼ねてになります。
地方から披露宴に来る人もいるけど、希望者はドラちゃん便で迎えに行くことになっています。
多くの人が結婚式に参加したいと言ってくれていて、とってもありがたいです。
更に、ちびっ子たちもフラワーボーイとフラワーガールをやろうと意気込んでいました。
「たくさんの人が僕の結婚式に来てくれて、本当に嬉しいです
「それだけ、ナオが今まで多くの人を助けてきたってことよ。ナオを祝福したいと思ってくれているのよ」
エミリーさんは、ニコリと微笑みながら言ってくれました。
勇者パーティに入ってから結構な年数が経ったけど、それだけ多くの人に会ってきたんだね。
そして、お母さんはあの元三人の獄死の資料を端に寄せて、結婚式の資料を広げました。
「さあ、まだまだやることはたくさんあるわよ。今日は一日結婚式の予定を確認して進められるところは進めないとね」
「「はーい」」
僕とエミリーさんは、同時にお母さんに返事をしました。
ずっと僕のことを育ててくれて、こうして離れて暮らしていても常に僕のことを気にしてくれるお母さん。
出会った時から僕のことを良くしてくれて、この先何十年も共に歩んでいくエミリーさん。
僕は、本当に良い人に恵まれたと思います。
この先どんなことが待ち構えていても、エミリーさんや僕の家族、そして勇者パーティのメンバーや多くの人と共に乗り越えられていけそうです。
元パーティメンバーの三人に追放されたあの日、僕とスラちゃんはヘンリーさんが率いる当時の勇者様パーティに助けられました。
追放された時はもう僕の人生は終わったのかなと思うほどショックを受けたけど、いま思えば新たな人生のスタートだったのかもしれません。
新たな人生は、僕が想像していた以上のスピードで変化をもたらしました。
そして、多くの幸せをもたらしてくれました。
そんな新しい人生に感謝しつつ、僕はエミリーさんとお母さんと共にこれから迎える結婚式の予定を確認していたのでした。




