第三百七十五話 婚約披露パーティーが始まります
「間もなく、国王陛下とエミリー王女殿下が入場されます」
いつも謁見でアナウンスしてくれる人が手伝ってくれることになり、集まっている人も所定の位置に移動しました。
僕も、一番前に移動します。
あっ、そうだ。
今のうちに、お父さんに鎮静魔法をかけておかないと。
準備万端になったところで、僕たちは一斉に臣下の礼を取ります。
その中を、陛下とエミリーさんが入場してきました。
エミリーさんは軽く化粧をしていて、ネックレスなども身に着けています。
謁見の時みたく、王族らしい気品ある姿ですね。
そして、エミリーさんは僕の隣に、陛下は僕よりも上座に位置します。
「皆の者、面を上げよ」
陛下の言葉で、僕たちは顔を上げました。
陛下は、集まっている来賓を見回してから話し始めました。
「我が娘エミリーとナオの婚約披露パーティーにこれだけの来賓が集まり、余も嬉しく思う。しかも、貴族だけでなく聖職者や冒険者も多数集まっている。それだけ、娘とナオが国のために一生懸命働いた結果だ。これからも、お互いに協力し合いながら国のために邁進してもらいたい。そのためにも、ここに集まっているものの力が必要となる。若い二人を見守るよう、父親として切に願いたい」
陛下の言葉を、集まった人は真剣に聞いていました。
僕もエミリーさんも、目の前で困っている人を助けるために一生懸命頑張っていたもんね。
それに、色々な人に助けられながらここまでやってくることができました。
続いて、ランディさんの乾杯の挨拶です。
「まだ八歳だったナオ君がナンシーに連れられて我が家に来た時に、きっとこの子は大きな存在になると確信していました。実際に直ぐに勇者パーティの一員として大きな功績を上げ、独力で伯爵になったのです。しかし、それでもナオ君はおごることなく、次代の勇者となった今でも自己研鑽を続けています。そのような素晴らしい人材に出会えたことに、私は感謝しております」
僕の方こそ、ランディさんに感謝しないといけないんだよね。
冒険者パーティを追い出されたただの平民の僕を快く受け入れてくれて、本当にありがたかったんだよね。
オラクル公爵家の人々に出会えたからこそ、僕も成長できたと思います。
そして、参加者のグラスに飲み物が注がれました。
「それでは、若い二人の輝かしい未来を祝し乾杯とする。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
ランディさんの乾杯の音頭で、婚約披露パーティーがスタートしました。
僕もエミリーさんの方を向いて、お互いにニコリとしながらグラスを合わせます。
すると、僕とエミリーさんのところに早速やってきた人がいました。
「「「「かんぱーい!」」」」
「ええ、ありがとうね」
アーサーちゃんを始めとするちびっ子四人組が、笑顔で僕たちに乾杯をします。
エミリーさんもにこやかに返事をしているし、周りにいる人も和やかな雰囲気に笑みがこぼれています。
ここからは挨拶対応なんだけど、最初に僕とエミリーさんで陛下に挨拶をします。
テーブルの上にグラスを置き、二人揃って陛下に臣下の礼をします。
「陛下、わざわざ婚約披露パーティーにお越し頂き誠にありがとうございます」
「お父様、ありがとうございます」
「うむ、二人とも息が合っていて何よりだ。これからも、精進を重ねるように」
僕とエミリーさんの挨拶に、陛下も満足そうに頷いていました。
続いて、お互いの母親に挨拶をします。
「子どもが大きくなるのは、本当に早いわね。ちょっと前までは、小さな子どもだったのにね」
「本当にそうですわね。エミリーも、昔は泣き虫だったのにこんなに大きくなるとは」
僕のお母さんも王妃様も、とっても感慨深そうに僕とエミリーさんのことを見つめていました。
エミリーさんの過去がバラされて、本人はちょっと恥ずかしそうにしています。
さてさて、僕のお父さんは……
「うっ、うぐ……」
あれー!?
事前に鎮静魔法を使ったのに、タオルが必要な程号泣しているよ。
スラちゃんがもう一回鎮静魔法を使ったけど、全く効果がありません。
喜んでくれているのは嬉しいけど、これじゃあ流石に挨拶に行けないね。
お母さんも仕方ないねと言って、お父さんを家族席に座らせました。




