第三百三十八話 冒険者カードの更新と孤児院慰問
何とか新年の謁見も終え、サマンサお姉ちゃんの結婚式もいよいよ翌日に迫りました。
そんな中、僕はスラちゃんたちと王都の冒険者ギルドにいました。
冒険者カードの内容の書き換え更新をするためです。
因みにエミリーさんは公務で不在なので、代わりにリルムさんがついてきてくれました。
「申請用紙の記載が完了しました」
「では、爵位のところを伯爵に変更しますね」
受付のお姉さんに、冒険者カードと申請用紙を提出します。
別に爵位の変更をしなくても貴族当主と分かっているので大丈夫らしいけど、僕の場合は有名ってのもあってキチンと変更した方が良いということになりました。
そして、リルムさんも変更の申請用紙を提出していました。
「ご確認をお願いいたします」
「では、確認いたします」
リルムさんも、僕の家の侍従という記載を追加することになりました。
貴族家の侍従になっても特に変更しなくてもいいんだけど、これも僕の家の侍従という身分保障が追加されることが大きいそうです。
例えば、防壁の兵に冒険者カードを見せる時もその有効性が全く違うそうです。
でも、僕専属の使用人ってまだリルムさん一人だけなんだよね。
すると、僕の後ろに並んでいた冒険者たちがあることを言ってきました。
「どうせナオの屋敷の使用人募集なんてかかったら、応募者が殺到するに決まっている」
「主人が良い人で、資産もあるから賃金も確実に支払われて、しかもこれからも出世間違いなし。超有望物件だな」
「ナオの場合は既にオラクル公爵家の商人がいるが、普通なら御用商人目当てでもナオのところに殺到するだろう」
みんな、僕のことを超優良物件だと口々に言っています。
う、うーん、自分自身のことだから、正直良く分かっていないところもあります。
ちなみに、直接僕に使用人にして下さいと言ってきた人には、そのうち合同募集がありますよと話をしています。
冒険者カードの変更も完了し、これで冒険者ギルドでの作業は完了です。
「ナオは、この後はどうするんだ?」
「実は、この後貴族としてのお仕事があるんです」
「そりゃ、ご苦労なこった」
顔見知りの冒険者が、僕の肩をポンポンと叩きました。
実は、ご指名のお仕事が待っています。
僕たちは馬車に乗り込んで、あるところに向かいました。
「皆さん、おはようございます」
「「「おはよーございます!」」」
冒険者ギルドから向かったのは、教会付属の孤児院です。
慰問活動の一環で、エミリーさんとシャーロットさんが来ていました。
そこに、僕たちも合流することになりました。
実は、僕は定期的に教会に寄付をしています。
実家に仕送りをしなくていいって言われちゃったので、余ったお金をどうするかと悩んだ結果でした。
今では、冒険者ギルドに預けたお金から定期的に教会に寄付するようにお願いしています。
「ナオ、冒険者ギルドでの手続きは終わったかしら?」
「はい、無事に終わりました。リルムさんの分も終わっています」
「そう、それは良かったわ」
僕の返答を聞いたリルムさんが、ニコリと微笑み返してくれました。
シャーロットさんも、僕とエミリーさんのやり取りを見て、目を細めていますね。
「キュー」
「「アンアン」」
「「「まてー!」」」
そして、孤児院の庭ではいつの間にか追いかけっこが始まっていました。
前にも孤児院に来たことがあるので、ドラちゃん、クロちゃん、ギンちゃんも子どもたちの相手をよくしてくれています。
キキちゃんを抱っこして、笑顔でなでなでしている女の子たちもいますね。
因みに、スラちゃんはリルムさんの護衛をすると張り切っていました。
そんな中、孤児院のシスターさんがシャーロットさんにあることを頼みました。
「王太后様、ある子どもの治療をお願いしたく。実は年末に王都で火事があり、親を亡くして自身も大怪我を負った子どもがおります」
「まあ、それは大変だわ。ナオ君、治療を頼むわ」
シャーロットさんの頼みを受け、僕はリルムさんとスラちゃんと一緒にその子のいる部屋に向かいました。
孤児院の子どもたちが案内してくれた部屋には、何と右腕を失った女の子がいました。
僕と同じくらいの年の、赤髪ショートヘアの子です。
僕は、女の子が寝かされているベッドの側に移動しました。
「おはようございます。直ぐに治療をしますね」
「えっ?」
女の子は、僕を見ながら少し信じられない表情をしています。
ある程度の治療は受けているみたいで、他に怪我はありません。
僕とスラちゃんは、お互いに魔力を溜め始めました。
シュイン、シュイン、ぴかー!
「えっ、えっ!?」
「「「すごーい!」」」
女の子は、自身にかけられた回復魔法にびっくりしていました。
それもそのはず、失ったはずの腕が再生していたからです。
この様子を見た孤児院の子どもたちは、みんな大興奮です。
「これで、大丈夫ですよ。でも、暫くはちゃんと腕が動くように、リハビリを頑張って下さいね」
「はいっ、はい……」
女の子は、涙を流しながら何回も頭を下げてきました。
ご両親を亡くした上に自分も大怪我を負っていたのだから、きっと心も押しつぶされそうだったはずだよ。
僕も、前にあの元パーティの三人から色々酷い目にあっていたから、辛い気持ちはよく分かるんだ。
後はシスターさんに任せ、僕たちは元の孤児院入り口に戻りました。
「みんな戻ってきたのね。どうだったかしら?」
「「「すごかったー!」」」
子どもたちの元気な声を聞いて、シャーロットさんは治療がうまくいったのだと確信したみたいです。
満足そうに子どもたちに微笑んでいました。
「あっ、そうだ。シャーロットさん、この孤児院にも使用人の共同募集の話をしているんでしたっけ?」
「ええ、そうよ。ふふ、治療した子にも案内してあげるのね」
シャーロットさんは、直ぐに僕の意図を理解してくれました。
特別扱いはできないけど、スラちゃんもいい人だよと太鼓判を押していました。
でも、今は無理をせずにゆっくりと休むのが先決です。
「ふふ、ナオは本当に優しいわね。そこがナオの良いところなのよね」
「「「うん?」」」
たくさんの子を相手にしているエミリーさんも、僕にニコリと微笑んでくれました。
直ぐに僕の考えを理解してくれたみたいです。
では、本来の孤児院にいる子どもたちの相手に戻りましょう。
僕は、ドラちゃんたちがいる方に向かいました。




