第百九十三話 侯爵家へ家宅捜索
結局、夕方になるまで僕は定期的に周囲の監視をしていただけでした。
とっても平穏で、実はクロちゃんたちも暇を持て余していました。
このスラム街が平和になっていた証拠なんだけど、こんなにもお仕事をしなかったのは久々な気がします……
でも、この後貴族の屋敷に家宅捜索に入るからそこでいっぱい頑張らないとね。
ヘンリーさんとスラちゃんもスラム街の入り口にある教会に合流したので、シャーロットさんの乗った場所を見送ってから僕たちも馬車に乗り込みました。
「今回調査対象となるのは、ある貴族の次男だ。当主と嫡男はまともなのだが、次男はかなりの野心家みたいだ。何か良くないことを考えていたらしい」
貴族の屋敷に向かう途中、ヘンリーさんが今回のことを色々教えてくれました。
その次男が、僕たちの行動に気がついて何か良くないことをしなければいいけど……
そんなことを思っていたら、ヘンリーさんは既に手を打っていると教えてくれました。
「当主には、こちらから情報を伝えている。恐らく、次男を取り押さえている頃だろう」
親が自分の息子を拘束するのも辛いと思うけど、もうそこまで事態が進んでいるんだ。
僕のきょうだいはとても仲が良いし、王家もオラクル公爵家の人々も親子の仲はとてもいいです。
なんでそんなことになるのかなと思いながら、僕たちを乗せた馬車はその貴族家に到着しました。
なんと侯爵家のお屋敷で、オラクル公爵家ほどじゃないけどとても広いお屋敷でした。
そして、事前に話が通っているのか、スムーズに応接室に案内されました。
すると、そこには神妙な表情をして僕たちを出迎えてくれた中年の夫婦ととてもハンサムな青年がいました。
「皆さま、お手数をおかけし申し訳ありません。どうぞこちらへ」
当主であろう中年男性が、僕たちを丁寧にソファーに案内してくれました。
雰囲気を察してか、スラちゃんたちもかなり大人しくしています。
そして、開口一番侯爵がヘンリーさんに頭を下げました。
「殿下、この度は次男が馬鹿なことを考えていて本当に申し訳ない」
侯爵夫人と長男と思わしき男性も、深々と頭を下げた。
その様子を確認してから、ヘンリーさんは三人に声をかけました。
「先ずは謝罪を受け取ろう。話をしないとならないから、頭を上げてくれ」
三人が頭を上げてから、ヘンリーさんが話を続けました。
僕たちも黙って話を聞きます。
「侯爵の次男には、侯爵と長男への殺害未遂容疑がかかっている。前日制圧した犯罪組織を捜索したところ、計画リストや資金の流れを示す書類等が押収された。決行日は、まさに本日だった」
「本日は、長男とともに王都の外に出る予定でした。恐らく、そのタイミングで事故死を装って殺害しようとしたのでしょう。同行した家臣の中に怪しい動きをしたものがおりましたので、拘束して聴取しております」
ヘンリーさんとスラちゃんが犯罪組織を潰したという情報は、まだ軍と僕たち関係者以外には伝わっていません。
なので、侯爵もまさかそんなことが起きていると思ってなかったみたいです。
ちなみに、次男は部屋で拘束されているみたいです。
話はそこそこにして、さっそく次男の部屋に向かいました。
すると、そこには後ろ手に拘束されて椅子に座らせられているちょっと乱暴そうな青年がいました。
家臣に肩を押さえられているけど、激しく暴れて抵抗しています。
「くそ、何をする! 俺を誰だと思っている!」
なんというか、思いっきり上から目線で叫んでいますね。
そして、部屋に入ってきた僕たちを見て思いっきり怒鳴りつけてきました。
「おい! 何で関係ないものが部屋に入ってくるんだ!」
次男のこの態度に、ヘンリーさんだけでなく他の人も顔をしかめました。
一方で、父親である侯爵は顔を真っ青にしてしまいます。
しかし、ヘンリーさんは淡々と僕たちに指示をだしました。
「では、これから次男の部屋の強制捜査を開始する。容疑が固まり次第、軍の施設に次男を連行する」
「「「はい!」」」
「はっ?」
次男が思わずぽかーんとする中で、僕たちは一気に動き出しました。
そして、こういう時ほどスラちゃんとクロちゃんが大活躍します。
ギンちゃんとシアちゃんも頑張っていて、テーブルの上に次々と証拠が積み上がっていきました。
「おい、何勝手に人の部屋を荒らしているんだよ。おい、やめろ!」
次男が激しく抵抗しながら僕たちに向かって叫んでいるけど、兵も加わってガッチリと押さえられているので椅子の上から動くことはできません。
そして、書類を手にしながら怒りに震える侯爵が次男に言い放ちました。
「おい、これはどういうことだ! お前は昔から粗暴な考えでいたが、それでも息子だと何とかしようとした。しかし、私と長男を殺害して侯爵家を乗っ取ろうとしようとするなんて、いったい何を考えている!」
「ぐっ……」
言い逃れのできない証拠の数々に、次男は顔を背けています。
しかし、犯罪組織とのやりとりやお金の流れを示す証拠が出てきたので、次男の罪は明白でしょう。
侯爵は、ヘンリーさんに頭を下げながらあることをお願いしました。
「殿下、もうこれだけの証拠が出てくれば十分でしょう。息子を連れて行って下さい」
「分かりました。心中お察しいたします」
今まで色々なことがありながらも何とか育ててきたのに、まさかこういうことになるとは思ってなかったのでしょうね。
大暴れしながら連行されていく次男のことを、侯爵は見ることをしませんでした。




