第百七十六話 助っ人登場
ズゴゴゴゴ。
「わあ、すごーい。土の壁ができたよ!」
「カチンコチンだ!」
そして、いつの間にかスラちゃんが仮設孤児院の周囲に壁を作っていました。
ここはスラム街だから、念には念を入れて対策するみたいです。
もっとも、子どもたちはスライムが大魔法を使ったことに興奮していました。
仮設孤児院の前に集まって、みんなで楽しそうに話をしていますね。
すると、更に五人のスラム街の子どもたちがやってきました。
中には、とっても小さい子を連れている子どももいます。
話を聞くと、親がこの子どもをスラム街に置き去りにしたそうです。
「様々な理由で子どもを捨てる親がいますが、この子たちは親の育児放棄が原因みたいですね。再婚して新しい子どもができたから、邪魔になったみたいです」
話を聞いてくれたシスターさんが残念そうに言っているけど、こういうケースは珍しくないそうです。
僕が生活魔法で綺麗にして治療すると、美味しい炊き出しを食べていました。
やってきた五人は、久しぶりにまともな食事を食べたそうです。
この分だと、他にも孤児が増えるかもしれない。
なので、他の孤児院に空きがないかも調べて貰うことになった。
その間、僕とドラちゃんはひたすら治療を行っていました。
というのも、スラム街の人々は栄養状態も悪いのもあってか、病気になっている人がたくさんいました。
病気になっているから、まともな仕事に就けないと嘆いていました。
仕事をするやる気があるなら、体が良くなればきっとうまくいく気がしました。
そのためにも、安心して体を休めるところが必要です。
不要な建物の解体は明日には終わるそうで、そうしたら仮設住宅を土魔法で作ります。
「キャンキャン!」
「クロちゃん、この人が怪しいのね」
「こちらに来てもらおうか」
「ぐっ、何で分かった!」
遊撃班も、かなり忙しく動いていました。
というのも、クロちゃんの鼻の良さが凄まじく、邪神教の関係者のみならず殺人などを犯した重犯罪者も発見していました。
やっぱり、スラム街にはそういう犯罪者が数多くいるんだね。
でも、クロちゃん曰く、軽犯罪者で更生する気持ちがある人は見逃しているそうです。
更生する気のない人は、容赦なく見つけているそうです。
しかし、予想外に人が集まってきたので僕たち治療班と遊撃班は大丈夫だけど、炊き出し班が大変になってきました。
しかも、具材もあと少しで尽きそうです。
すると、まさかの人がスラム街の教会にやってきました。
「炊き出しが大変だっていうから、手伝いにきたわ」
「お、お祖母様!」
なんと、大きな馬車が現れたと思ったらシャーロットさんが使用人とともに姿を現しました。
これには、エミリーさんだけでなく他の人たちも驚いていました。
スラム街の人たちも王太后様のシャーロットさんの登場に驚いていたけど、それだけシャーロットさんの知名度は物凄いんだね。
「私が王城に追加の手伝いを呼んだのだが。まさか、お祖母様まで来るとは思いませんでした」
「ヘンリー、国民が苦しんでいるのです。なら、私も積極的に動かなければなりませんわ。今は、やることをやりましょう」
シャーロットさんは驚いているヘンリーさんに優しく諭していたけど、これこそが王族としてやらなければならないことだと言っていました。
そして、今度はシンシアさんに話しかけていました。
「シンシア、子どもたちが住むための一式を持ってきたわ。今日は雑魚寝になっちゃうけど、順に荷物を揃えましょう。どこに降ろすかを指示してくれるかしら」
「お祖母様、任せて下さいませ」
流石はシャーロットさんです、次々と矢継ぎ早に指示を出していました。
炊き出しも野菜炒めとかの短時間でできるものを追加するなどして、押し寄せた人の波に対応していました。
更に、色々な人と積極的に話をしていました。
握手を求められたらにこやかに対応したり、子どもたちを優しく抱きしめたりしていました。
シャーロットさんに会えて、思わず涙を流す人もいます。
なんというか、これが多くの国民が尊敬するシャーロットさんの姿なんだなと改めて実感しました。
こうして、夕方まで大忙しの奉仕活動は続きました。
「ヘンリー、明日も炊き出しを行いましょう。並行してできることもやらないとならず、かなり大変な作業となります」
「いえ、私どもの見通しが甘く申し訳ありません。皆で全力を尽くします」
「スラム街の問題は、それこそ夫が生きていた頃よりも以前からの問題です。私も、どうにかしないという思いだったのよ。だから、できることをやるのが私の使命だと思っているわ」
撤収作業をしながらシャーロットさんとヘンリーさんが話をしていたけど、誰もが初日からこんなに大変だとは思わなかったよね。
でも、シャーロットさんの強い決意を聞いたら改めて凄いと思っちゃった。
明日もできる限りのことを頑張ろうと、僕もみんなも思いました。




