第百七十四話 スラム街での作業です
暫くは大きな問題も起きず、僕たちも色々なところの浄化や勉強に剣の訓練を続けました。
そして、クロちゃんもある訓練を始めました。
シュイン、バシッ、バシッ。
「キャン!」
「クロちゃん、リーフちゃん頑張れー!」
クロちゃんも魔力制御が上手になってきたので、二つの訓練を行なっています。
一つ目がクロちゃんが魔法障壁を展開して、そこにリーフちゃんがエアーバレットを打ち込むというものです。
そして二つ目が、今行なっているクロちゃんが身体能力強化を使ってリーフちゃんのエアーバレットを避ける訓練です。
リーフちゃんも、エアーバレットを弱目にして庭が荒れないようにしたりクロちゃんが怪我しないようにしています。
この訓練は、いわば二匹のための訓練です。
二匹を応援しているセードルフちゃんも、あと数年すれば訓練に参加するかもしれないね。
流石に、ルルちゃんとソラちゃんはもう少し先になりそうです。
ちなみに、二匹のことをスラちゃんが指導していて、ドラちゃんも交代して二匹の訓練に混じっています。
「えい、えい!」
「そうそう、いい感じよ」
「あぶあぶ」
僕の方は、ルルちゃんを抱っこしたイザベルさんに剣の訓練を見てもらっていました。
というのも、もうそろそろヘンリーさんたちが到着するのにナンシーさんが寝坊しちゃったんだよね。
だから、代わりにイザベルさんが僕の訓練を見てくれています。
ルルちゃんと一緒にいるソラちゃんも、触手をふりふりして剣の訓練のマネをしています。
そして、訓練を終えて休憩しているとナンシーさんが屋敷から出てくるのと同時にヘンリーさんたちの乗った馬車が庭に入ってきました。
「いやあ、焦った焦った。まさか二度寝するとは。何とか間に合ったわね」
「ナンシー、全然間に合ってないわよ。もっと余裕を持って行動しなさいな」
「ぶー」
イザベルさんのマネをしてルルちゃんもナンシーさんを怒っているけど、確かにいつもよりも三十分以上寝坊したもんね。
それでも、しっかりと朝食を食べています。
それでは、全員揃ったところでさっそく馬車に乗って移動します。
「今日から、本格的にスラム街の浄化を行う。危険が伴う任務だから、いつも以上に気を引き締めるように」
「「「はい!」」」
今分かっている町の建物の浄化も終わり、いよいよ今日からスラム街の建物の浄化を行います。
安全のためにいつもよりも多い兵が護衛につくけど、これでも少ないって言われました。
とはいえ危険があるのは間違いないので、みんなもいつもよりも集中します。
そしてスラム街入り口の教会に到着すると、出迎えのシスター以外に大柄な男性が四人いました。
如何にもスラム街の住人っていう風貌で、無精髭と筋肉質な体が相まって怖い印象を受けました。
しかし、ヘンリーさんは特に臆することなく先ずシスターに話しかけました。
「シスター、お待たせしました。こちらが話を聞かせてくれる人ですね」
「ええ殿下、こちらの方になります」
どうやら、この人たちはスラム街の現状を教えてくれる人たちみたいですね。
さっそく、教会の中に入って話を聞くことになりました。
「スラム街の入り口付近で作業する分には、俺たちも全然かまわねえ。奥に行くと、俺たちでも怖くて手を出せないがな」
「奥は犯罪組織の根城になっているから、常に犯罪が起きているぞ。スラムの住人でも手を出さないな」
スラム街の住人でさえ手を出せないエリアだなんて、そんな危険なエリアがあるんだね。
それでも、ヘンリーさんは手があると話しました。
「先ずはスラム街の住人が犯罪組織に加担しないように、住居と仕事を提供する。そのために、ナオ君の力が必要だ」
「えっ? 僕の力ですか?」
「そうだ。やるのは、災害復旧現場で作った仮設住宅の建設だ。スラム街の人々は、粗末な建物に住んでいることが多い。更に、この教会の敷地内に仮設の孤児院を作る。キチンとした孤児院は、スラム街の人々に作ってもらう」
僕が色々なところを浄化したので、新たに建物を建築する仕事もたくさんあります。
そのためにも、安心して暮らす場所が必要です。
更に親を亡くして路上暮らしの子どももいるので、安全な孤児院を提供するそうです。
これは、僕も頑張らないといけないね。
そして、スラちゃんには別の役目があるそうです。
それは、まだ秘密らしいです。
「犯罪組織は、何も知らない路上生活をしている子どもをスカウトしている。その負の連鎖を断ち切らなければならない。希望のある生活を送れるように、私たちが悪と闘う必要がある」
おーって、みんながヘンリーさんに拍手を送っていました。
勇者様らしい、決意のある発言ですね。
ということで、さっそく今日行う場所に移動します。




