第百七十話 初めての薬草採取講師 座学編
今日は、久々に普通の冒険者活動をします。
ここのところずっと浄化作業だったから、薬草採取は久しぶりかも。
そう思いながら、スラちゃんたちと一緒にオラクル公爵家から冒険者ギルドに向かいました。
すると、受付で予想外のお仕事をお願いされちゃいました。
「ナオ君、薬草採取をするなら最初に講師をしてから一緒に薬草採取に行ってくれないかしら? 講師の先生が腰痛で動けなくなっちゃったのよ。ナオ君なら薬草採取をとても丁寧に行うし、私も適任だと思うわ」
えー!
いきなり薬草採取の講師ですか?!
僕なんかじゃ、きちんと教えられる自信がないよ。
それに、僕が講師の先生を治療すればいいんじゃないかなって思います。
すると、今度は周りにいる冒険者が受付のお姉さんに同調しちゃったよ。
「ナオなら、別にいいんじゃないか? 以前から薬草の採り方も丁寧だったし、新人冒険者に薬草の採り方を教えたこともあったよな」
「何かあってもスラちゃんが補足してくれそうだし、いいんじゃないか?」
他の冒険者も、口々にいいんじゃないかと言っています。
スラちゃんも大丈夫って言っているので、思い切って講師を受けることになりました。
たまに講習が開かれている部屋が会場らしいので、僕たちはそこに向かいました。
ガチャ。
「あっ、まだ誰も来ていないんだ。今のうちに準備を進めておこうっと」
僕は、スラちゃんと一緒にどういう話をするのか打ち合わせを行いました。
自己紹介、薬草の採り方、注意事項、後は実践だね。
ドラちゃんとクロちゃんも、僕とスラちゃんの隣でふむふむと話を聞いていました。
というか、ドラちゃんは薬草採取をしたことがあるはずだよね。
「うーん、誰も来ないなあ……」
部屋に入ってから三十分が経過したけど、部屋の中には誰も入ってきません。
なんでだろうなと、スラちゃんも不思議そうにしていました。
ドラちゃんとクロちゃんは、部屋のドアの隙間から冒険者ギルドの中を覗いていました。
すると、部屋に受付のお姉さんが顔を出しました。
「あっ、いたいた。ドラちゃんとクロちゃんの顔がドアの隙間から見えたから、この部屋にいるのかなと思ったのよ。講習を行うのは隣の部屋だからね」
えー!
まさかの部屋違いですか!
それなら、誰も来ないのは当たり前ですね。
僕たちは、急いで隣の部屋に入りました。
すると、入ってみてビックリ。
何と、二十人以上の人が部屋の中に入っていました。
殆どの人が小さい人や大人の女性だったけど、中には成人を少し過ぎたくらいの男性もいました。
「ナオ君、あと三人くるからちょっと待っていてね」
しかも、更に人が増えるなんてどれだけ薬草採取講座って人気なんだろうか。
僕は、追加の三人が来る前に改めてやる事を頭の中で整理しました。
うう、たくさんの人の前できちんと話せるかとっても不安です。
そして、直ぐに追加の三人がやってきました。
受付のお姉さん曰く、これで全員だそうです。
うん、もうやるしかないですね。
僕は、改めてふんすって気合をいれました。
「僕はナオです、これから宜しくお願いしましゅ」
挨拶をしながら頭を下げたら、思いっきり噛んじゃいました。
やっちゃったーって思っちゃったし、スラちゃんもあちゃーって表情をしています。
「ナオ君可愛い」とか、「ナオ君がんばれー」っていう声も聞こえてきました。
僕が顔を上げると、「ナオ君顔が真っ赤だよ」って声も聞こえてきこえてきました。
もう喋って誤魔化しちゃいましょう。
「えっと、今日は薬草の採り方と注意点を説明します。その後、実際に皆さんで薬草を採りに行きます」
僕が話し始めると、僕の方を向いてきちんと話を聞いてくれます。
ならずものとかがいたらどうしようと思ったけど、とりあえずは大丈夫ですね。
「薬草は、基本的に森や林の近くで生えています。色々な種類がありますが、最初は代表的な種類のものを集めて下さい。どんな薬草があるかは、冒険者登録した際に配布された冊子にも書いてあります」
ぺらぺらと冊子をめくっている人もいるけど、ちゃんとしていない冒険者って冊子をどこかに捨てちゃうんだよね。
こういう点でも、きちんとしていてとっても安心です。
「実際に薬草を採取してみると分かりますが、意外と成長の早い植物です。根っこから採ったり葉っぱを全部採ったりしない限り、また直ぐに葉っぱが生えてきます。なので、乱獲はしないようにしましょう。あと、薬草を一つ見つけるとその直ぐ側に別の薬草が生えていることが多いので参考して下さい」
大体、薬草採取に関する注意事項はこんなものですね。
あっ、とっても重要なことを説明しないと。
「薬草採取をする時は、どうしても視線が下に向きます。安全な場所ならいいのですが、もし町から離れているとかでしたら監視をつけて周囲の安全に気を配りましょう」
えーっと、あと説明することってあったっけ。
スラちゃんに確認したけど、このくらいで大丈夫って言っています。
ドラちゃんとクロちゃんも真剣に話を聞いていたけど、何とか説明が終わったみたいですね。
「えっと、これで説明を終わりにします。薬草を入れるかごは、売店で売っています。この後準備を整えて、実際に薬草を採りに行きます」
僕がペコリと頭を下げると、パチパチパチと拍手が起きました。
中には、「ナオ君ちゃんとできていたよ」って褒めてくれる人もいました。
僕も、説明ができてホッと一安心です。




