第百二十九話 毒殺未遂事件
でも、マンデラさんのお兄さんはかなり暴力的というか、自分勝手な人です。
そして、僕たちが馬車から降りた時に事件がおきました。
「おっ、へへ。マンデラよ、気が利くな。こんな美人を連れてきたとはな」
「あっ、兄様その方は……」
なんと、マンデラさんのお兄さんがゲスな表情をしてシンシアさんに近づいてきたのです。
下心丸見えっていうのは、こういう表情なんですね。
マンデラさんが急いで止めようとしたけど、あらゆる意味で一歩遅かった。
ガシッ、ブオン!
ドサッ!
「がはっ!」
シンシアさんが無言でマンデラさんのお兄さんの腕を掴んで、思いっきり地面に叩きつけました。
マンデラさんのお兄さんは背中を思いっきり叩きつけられたので、そのまま気絶しちゃいました。
マンデラさんがシンシアさんにペコペコと頭を下げているけど、あれはどう見たってマンデラさんのお兄さんが悪いよね。
そして、のびているマンデラさんのお兄さんを放置して僕たちは屋敷の中に入りました。
「先ずは、ザイス子爵の治療を急ごう。話はそれからだ」
「あっ、はい。父の部屋はこちらです」
間違いなく波乱の様相となりそうだけど、ヘンリーさんは特に気にしていないみたいです。
そして、ザイス子爵の寝ている部屋に到着です。
部屋の中には執事と使用人も控えていて、いきなり部屋の中に入ってきた僕たちを見てビックリしていました。
でも、僕たちの視線はベッドで寝ているザイス子爵に向けられていました。
痩せこけていて顔色がとても悪く、まさに虫の息って感じですね。
でも、僕とスラちゃん、それにドラちゃんもまだ魔力はあるのでできる限りの治療をしよう。
すると、ヘンリーさんが僕にある命令をしました。
「ナオ君、治療の前にザイス子爵の病状を確認してくれ」
あっ、そうか。
焦って、いきなり治療しようとしちゃったよ。
病状によっては、治療方法も変わるよね。
マンデラさんも問題ないって言ってくれたので、先に鑑定魔法を使います。
シュイン、もわーん。
えっ、これって……
「ヘンリーさん、毒に冒されているって結果がでました!」
「えっ、毒!?」
「ふむ、やはりそうか」
マンデラさんはかなりびっくりしていたけど、ヘンリーさんは確信めいた口調だった。
とにかく、ザイス子爵を治療しないと。
シアちゃんも手伝ってくれることになり、回復魔法と状態異常回復魔法を手分けして放ちます。
シュイン、シュイン、シュイン、ぴかー!
「おお、これは……」
ザイス子爵を中心として、複数の魔法陣が現れました。
部屋中を照らす回復魔法の光に、マンデラさんは度肝を抜かれていました。
上手くいった手応えはあったけど、果たしてどうでしょうか。
「うっ、うう……」
「ち、父上!」
「旦那様!」
僅かながらも、ザイス子爵は意識を取り戻しました。
マンデラさんがザイス子爵に駆け寄って、涙ながらに声をかけていました。
そして、マンデラさんと共に駆け寄った執事にあることを話しました。
「あの二人を捕縛して、ここに連れて来るのだ」
「はっ、畏まりました!」
執事はベッドに横たわるザイス子爵に深々と一礼し、部屋を出ていきました。
どうやら、ザイス子爵は何かを知っているようです。
そんな中、ザイス子爵のもとにヘンリーさんも歩み寄りました。
「へ、ヘンリー殿下、こんな姿で申し訳ない……」
「いえ、こうしてザイス子爵と再び話せて、私も嬉しく思います。事が済みましたら、ゆっくりとお休み下さい」
どうやら、ヘンリーさんとザイス子爵は知り合いみたいです。
それも、仲の良い感じですね。
ナンシーさんとエミリーさんは知らないみたいだけど、シンシアさんは知っているみたいです。
そして、部屋の外が騒がしいと思ったら、兵に後ろ手で拘束された二人の男女が部屋に入ってきた。
一人はさっき屋敷の庭であったマンデラさんのお兄さんで、もう一人は化粧が濃い茶髪ロングヘアの中年女性だった。
たぶん、というか、間違いなくあの人が側室だね。
二人は、ベッドで目を覚ましているザイス子爵を見るやいなや顔色を真っ青にした。
そんな中、ザイス子爵が重い口を開きました。
「控えよ、ヘンリー第二王子殿下の手前である」
「「えっ!」」
重病とは思えないほど、ザイス子爵ははっきりと言葉を口にした。
特に、マンデラさんのお兄さんはヤバいって表情に変わりました。
普通に考えれば、王子一行の女性に手を出そうとしたのだから当たり前ですね。
すると、ザイス子爵はとんでもない事を話した。
「二人を私に対する殺人で拘束する。無理矢理押さえつけて、毒を飲ませやがって……」
「「「えっ!!!」」」
今度は、僕たちがかなりびっくりした声をあげてしまった。
まさか、ザイス子爵を無理矢理毒殺しようとしていたなんて。
対して、二人はがくがくと震えている。
色々と確認したいことはあるけど、この二人の態度が真実を物語っているんだ。




