第百二十四話 今日の僕は先輩冒険者先生です
そして、地元の件が落ち着いたこともあり、時間がある時に普通の依頼を受けるようにもしました。
色々な経験をした方がいいと、ヘンリーさんも勧めてくれました。
今日は王家の人々もナンシーさんも公務でいないので、完全に僕とスラちゃんたちだけで活動します。
薬草採取か害獣駆除でもやろうかなって思ったのだけど、予想外のことで時間がかかってしまいました。
「俺がナオに目を付けていたのだから、俺と一緒に行動するのが先だ!」
「いーや、俺たちがナオのことを気にかけていたのだから、俺たちが先決だ」
「ダメダメ、私たちもナオ君のことを気にかけていたのよ。何せ、服選びの時も一緒に選んだ中だからね」
「あの、その、えーっと……」
うん、まさか誰が僕と一緒にパーティを組むかで大揉めになるとは思わなかったよ。
予想外のことに、僕だけでなくドラちゃんもワタワタしちゃったよ。
えーっと、いったいこの後どうすれば良いのだろうか。
「「「あの……」」」
「うん?」
すると、おずおずと僕に声をかけてくる男性三人組がいました。
僕と同じ年齢くらいで、新人さんっぽいですね。
「あの、受付のお姉さんがドラゴンを連れた男の子と一緒なら薬草採取を教えてくれると言っていまして……」
「僕たち、今日冒険者登録したばっかりなんです」
「普段は商店街の実家を手伝っているんだけど、みんなお兄ちゃんもいるし時間がある時に冒険者活動しようってなって……」
うん、そういうことですね。
受付のお姉さんが、ごめんねって手を合わせていました。
そういう事なら、僕もみんなも頑張っちゃいます。
今も熱い議論をしている冒険者に声をかけなきゃ。
「あの、今日は先輩冒険者として新人冒険者に薬草の集め方を教えることになりました。なので、また今度お願いします。できれば、順番を決めてもらえるとありがたいです」
「「「なにー!」」」
僕も新人冒険者も一緒になってペコって頭を下げると、冒険者ギルド内に大きな声が響きわたりました。
でも、このままだといつになっても決まらないだろうし、こればっかりはしょうがないですね。
ということで、手続きを終えて冒険者ギルドを後にしました。
「すみません、僕たちの為に他の人の誘いを断っちゃって……」
「全然大丈夫ですよ。あの感じだと、全然決まらなかったと思いますし」
「僕としても、年齢が近い方がやりやすいかなって思ってます」
街を移動しながらお話をすると、段々と緊張も解れてきました。
スラちゃんとドラちゃんも全然大丈夫な、とっても良い人ですね。
僕の一個下なのに、もう将来のことを考えていて偉いなって関心しちゃいました。
そんなことを話しながら、門を通っていつもの薬草採取の場所に到着します。
「えっ、こんなに町から近いところに薬草が生えているの?」
「この林は、意外と穴場スポットなんだよ。他の人がいる時はもう少し遠くに行くけど、数人だったら全然大丈夫なんだ。それに、何かあっても直ぐに門兵に助けを呼べるしね」
「確かに、薬草があった! 凄くビックリです!」
さっそくスラちゃんが薬草を採って見せてあげているけど、この場所はあの三人とまだ一緒に活動していた時に薬草を集めていた場所なんだよね。
防壁の門にとっても近いし、何よりも殆ど魔物が出てきません。
念の為に探索魔法を使っても、安全そのものですね。
でも、たまに変な人も現れるから充分気を付けないと。
「薬草を集めていると視線が下になっちゃうから、交代で周囲を確認したりした方が良いよ」
「あっ、確かにそうだね。ここは安全だけど、他の場所だと動物が出てくるかも」
「やっぱり、先輩冒険者は凄いや」
ちょっと教えただけでも褒められるので何だかこそばゆいです。
でも、真面目に一生懸命にやっているので、僕だけでなくスラちゃんも真剣に三人に薬草採取を教えています。
何気に、ドラちゃんも一緒になって薬草採取を勉強していますね。
こうして、午前中だけでたくさんの薬草が集まりました。
僕たちだけでなく三人もとってもほくほく顔で、にこにこしながら冒険者ギルドに戻りました。
えーっと、もう騒いでいた冒険者はそれぞれの依頼を受けに行ったみたいですね。
その間に、たくさん集めた薬草を卸します。
ドサッ。
「えっ、こんなにお金がもらえるんですか?」
「薬草も、数で補えば良い金になるぞ。それにナオなら丁寧な採り方を教えるし、評価も上がるぞ」
予想以上の報酬に、三人はとってもビックリしていました。
でも、僕から見てもこのくらいは全然稼げると思いますよ。
僕としても、初めての先生役が上手くいってとっても安堵しました。
「「「ありがとうございました!」」」
「僕も、良い経験になりました。また機会があれば一緒にやろうね」
「「「はい!」」」
初めての冒険者活動が上手くいって、三人はほくほく顔で帰っていきました。
僕もスラちゃんも、先生役が大変だって知って勉強になりました。
ヘンリーさんたちは、いつもこんな感じで僕のことを教えているのかな?
そう思うと、ヘンリーさんたちってやっぱり凄いって実感しました。
すると、受付のお姉さんが僕にまた頼むかもって言っていました。
僕もとっても勉強になるので、また頑張ろうとふんすってやる気になりました。




