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警官の告白


 俺の名前は田中。この姿が変わる前の俺は、警視庁で働く一介の刑事だった。いや、正確に言えば、銃器対策課の精鋭だと思っていた。しかし、そのエリート意識が、俺を破滅の道へと導いたんだ。


 あの夜、俺は警察官としての誇りを胸に、署に戻ってきた。事務室の蛍光灯の白い光が、疲れた目に刺さる。銃器対策課のオフィスは、冷たい雰囲気が漂っていた。デスクには書類の山、そして無線からは絶え間なく指示が飛び交っていた

 「田中、ちょっとこっち来い」と上司が俺を呼んだ。彼は机の上に、警察用語でびっしりと埋まった捜査資料を広げていた。覚醒剤密輸に関する極秘の情報が、今まさに俺の目の前で展開されていたのだ。上司は、声を潜めて言った。「これ、お前にしか任せられない仕事だ。裏社会との繋がりを断ち切るためには、お前の力が必要だ。」


 その時の俺は、ただ任務に忠実だった。しかし、その裏には、金と権力への欲望が渦巻いていた。覚醒剤密輸の情報を提供する代わりに、暴力団との取引を密かに進めることで、俺は自分の懐を肥やしていった。拳銃所持もその一環だった。拳銃は、取り引き相手から直接手に入れたものだ。それを持ち歩くことで、自分が一層力を持っていると錯覚していた。


 ある日、情報提供者が俺に言った。「田中さん、この情報はただじゃないですよ。うまくやれば、一晩で何百万も稼げますよ。」その言葉に、俺は心が揺らいだ。警察の仕事はハードで報われることが少ない。その上、家族を養うには、もっと稼がなければならなかったのだ。


 そして、あの運命の日が訪れた。俺は覚醒剤を密輸し、拳銃を隠し持ったまま、取り締まりの現場に赴いた。取引は実は別の課の刑事が潜入捜査をしており、すべては露見した。「田中、お前がこんなことをしていたなんて…」仲間たちの裏切られた表情が、今も頭から離れない。


 逮捕された俺は、懲役9年の刑を受け、ムショに入った。鉄格子の中で過ごす毎日が、俺に警察官としての倫理観を問い続けた。出所した今、俺は弁当屋で働いている。真面目に生きることの難しさと、大切さを身をもって感じながら。


 警察学校でこの話が倫理の教材として使われると聞いた時、俺は複雑な気持ちになった。かつては誇り高き警官だった俺が、今では「悪徳刑事」として語り継がれる存在になってしまった。それでも、俺の失敗が、他の警官たちの教訓になればと思う。俺のような道を歩む者が、一人でも減ることを願っている。



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