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総理官邸①


エントランスホールの光景

正面玄関を入ると、巨大なエントランスホールが広がっていた。床は黒御影石で覆われ、天井や壁は木のぬくもりが伝わる桜材が使用されている。この場所が1階ではなく3階であることを、つい忘れてしまうほどの広々とした空間だった。正面には天井まで覆われたガラス越しに中庭の竹林が涼しげに、緑の葉をさらさらと揺らしていた。


記者会見室とエントランスの風景

「1階の記者会見室で官房長官が今記者会見を終了したところです」と、内閣広報室のスタッフが知らせてきた。


「4階まではぶら下がることができる。5階の官房長官室に入るまで、しつこくぶら下がれ」と、先輩記者がアドバイスをくれる。


「わかりました」と答えながら、記者クラブ室を通り抜ける。2階の大ホールは国賓もなく閑散としていたが、小ホール前のホワイエには迎賓の客が集まっていた。官僚たちがちらっと我々を見ながら、小ホールへと消えていく。


先月の10日には、このホワイエは各国の国賓でごったがえしており、大ホールの薄いピンクの桜の花びらを散りばめた分厚い絨毯の上には食卓が整然と並べられ、官邸付きの給仕人が忙しそうに動き回っていた。上座の壁は和紙で覆われ、後ろから照明を当てて行灯のような雰囲気を醸し出していた。ガラス越しには中庭の孟宗竹が凛として緑の葉を輝かせていた。


小ホールの光景

「ここはやはり官僚たちの密談場だな」と私は心の中で思った。小ホールはススキが似合った秋色の部屋で、右手に黒染めの和紙の壁を見ながら、黒御影石の床を進むと総理を追って3階に上がっていく。記者たちもいっぱい集まっている。


3階エントランスホールと記者たちの動き

おそらく、総理の発言を聞き出そうと集まった記者たちが、最後までぶら下がってもたいしたことは聞けないだろうと考え、私は少し距離を置きながらその後をついていった。去年の暮れ、この会談で組閣後の記念撮影をしたことを思い出しながら、正面玄関のある3階のエントランスホールへと上がってきた。


この総理官邸は少し変わった作りになっており、正面玄関のあるエントランスホールが3階となっている。これは土地に南北の高低差があるためで、それをうまく利用した設計だ。日頃よく使われる会議室も設けられており、南会議室と呼ばれている。政府与党の政策協議や懇談会に頻繁に使用されている場所だ。


4階の会議室と閣議室

「総理はここで、南会議室から出てきた与党議員と何かひとこと、ふたこと話していたようだ」と、記者たちがメモを取り始めた。


私はその様子を見ながら、さらに4階へと上がっていった。この施設にはエレベーターとエスカレーターがあるが、総理は健康のためと称してめったに使わない。記者たちもそれに合わせて階段を使うことが多い。


4階には4つの会議室が設けられている。政府の最終政策決定が行われる閣議室と、その前に設けられている閣僚応接室だ。閣僚応接室については、記者もテレビクルーも閣議前の共同会見時に入ることができるが、閣議室については当然のことながら秘密会議であるため入室は厳禁だ。


中庭の竹林

「この中庭は2階から5階まで吹き抜けになっている。花崗岩の庵治石と孟宗竹のみを巧みに配した日本的風情と調和を感じる庭園だ」と、私は感慨深く眺めた。


竹の先端は5階のフロアーにまで達しており、屋上まで吹き抜けの空間を彩っている。春のイメージが漂うこの庭園は、忙しい官僚たちの心を少しでも和ませる存在となっている。



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