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酒場

読んでいただいてありがとうございます。

「やっちまった……」


 ワンナイトラブ、なんて色気のあるものじゃなくて、目の前に転がっているのは屈強な男性たちの屍だ。


「うわー、久しぶりに見たよ、屍累々なんて」


 とはいえ、全員生きてはいる。が、自力歩行が困難な状態ではある。

 たまたま入った酒場にたまたまいた大勢の騎士さんたちと一緒に飲んだ結果がこれだ。 

 これというのも、ミシェルの嫁入りに付いて来た結果だ。

 友人は、国は滅ぼさなかったけれど、皇帝は落とした。

 婚約破棄をして、のびのびと青春を謳歌していたミシェルに恋したのは、お隣の国アージスト帝国の若き皇帝陛下。

 お隣って言っても、うちとは桁違いの国力を持っている帝国で、そこの皇帝は、野心溢れるお嬢様方からしてみたら最上級の獲物だった。そんな面白い……じゃなくて、格式高い(?)獲物を見事に射落としたミシェルは、婚約してしばらくすると花嫁修業という名目でアージスト帝国に移った。

 で、そんなミシェルに侍女として付いて来てほしい、とお願いされた私も一緒に帝国に移った。

 家族は反対したが、結婚する気も全くなかったので迷うことなく頷いた。

 コレでも私は、前世ではクセの強い御方の傍仕えをしていたのだよ。

 友人の侍女くらい熟してみせよう。

 そんな心意気で帝都アジャリに来た私は、さっそく夜の都へと繰り出した。

 ……一応、言い訳しておくと、私はミシェルの友人兼侍女枠で来ているけれど、当然、本職の方がいるので、仕事よりミシェルの相談相手をする為の、まぁさくっと言うと愚痴り要員なので、護衛の皆さんも私にはそれほど注意を払っていない。さらに言うなら、ミシェルも私を縛り付けるつもりはないらしく、外に出たらお土産よろしくね、とのほほんと言っていた。

 本日、ミシェルは皇帝陛下と大神殿に行って疲れて帰って来た。早い時間にもう就寝してしまったので、ミシェルが寝て暇になった私は、こうして夜の帝都へと繰り出したのだ。

 

「ごめんねー。ちょっと調子に乗りました」


 実は、私、アルコールは基本全て無効化しちゃうんだよね。

 これは、前世から持っている私の特異体質だ。

 そう、体質。

 だから、こっちの世界の身体じゃ無くなっててもおかしくないはずなのに、何だろう、魂に刻まれてんのかな?見事にこっちの世界にも持ち込んだよ。

 ほんのちょっとの間くらいなら酔えるけど、すぐに醒める。大酒飲みの狐一族でも、後片付け要員だった悲しい過去がある。


「いやー、すごいね。君、ほんっとに酔わないんだね」


 そんな屍たちを足蹴にしているのは、本日の片付け仲間だった。

 絶対、良いところのお坊ちゃんな気がする彼もけっこう飲んでいたのだが、意識ははっきりしているし、ふらふらもしていない。何なら、今もぐいっとエールを飲んでいる。


「はぁ、体質なので」

「あーじゃあ、しょうがないか。でも絶対色々と損してるでしょう」

「周りが知り合いばかりなら馬車に放り込むくらいはするんですが、初対面の皆さんばかりなので、その辺はお願いできますか?」

「んー、もちろん。もう少ししたら全員、たたき起こすから。後は勝手に各自で帰るでしょ」

「帰巣本能に従えば帰れ……ますかね?」

「明日、遅刻してきたヤツはみっちり訓練かな」


 はっはっはと笑い飛ばして上機嫌な騎士さんは、どうやら訓練内容を自在に操れる立場にいるらしい。若いのに優秀な人じゃん。絶対、役職に就いてますよね!


「お嬢さんは、帰らなくていいのか?」

「そうですねぇ、そろそろ帰ろうかと思います。明日の仕事に響くので」

「どこだ?送っていってやるよ」

「いえいえ、大丈夫ですよ」


 そこは丁重にお断りする。何せ、人には言えない方法で抜け出してきたので、帰りだって同じ方法で帰りますよ。

 幻覚ってこういう時に便利だわ。歩いている時は周りの景色と同化するだけで済むし、扉開ける時だって、閉まっているっていう幻覚を見せるだけでいい。音だけは、要注意だけどさ。


「なぁ、君は、どっかのお嬢さんだよな?」

「そういう貴方様は、どっかのお坊ちゃんですね」

「否定はしない」

「なら私もしません」

 

 すごく中身のない会話だよね。何だろう、変な疑われ方してんのかな?

 さすがに未来の皇妃殿下の関係者とはバレてないだろうけど、他国の者くらいはバレてるかも。

 正直に、この辺に来たのは初めてだって言っちゃったしなー、まぁ、いいけど。

 髪の毛の色も瞳の色も変えてるし、ちょっと顔の印象が変わるくらいの幻影はかけている。

 だから、うっかり王城で会ったとしても誤魔化せるとは思うんだけど……


「俺の名前は、ノアっていうんだ。君は?」

「シロとでも呼んでください」

「何か適当だな?」

「飲み屋での出会いなんで、そんなもんでしょう?」


 どうせお互い本名じゃなくない?多分。

 この時の私は、ジョッキに残っていたエールをいただきながら、そんなことを思っていた。

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