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読んでも読まなくてもどっちでもいい

おまえはいったい誰だ!

作者: 阿部千代

 西の方では虎と猛牛が、がっぷり四つ。うんうん。やっぱりこうでなくっちゃあな。

 昼間はオナガの一群がギャースカギースカうるさかった。秋だねえ。いやオナガに季節は関係ないけれども。でも季節は秋だよな。おれ嘘はついてないよな。こういうの、叙述トリックって言うんだろう? 違うか。

 おやおや、今日の阿部ちゃんなんか大人しいじゃないの、いつもの威勢のいいやつちょうだいな。そう思ったあなたは世界でただ一人の阿部千代マニヤですね。違いのわかる人間ですよ。

 阿部ちゃん正直びびってます。はっきり言って緊張してます。肩に力が入ってます。鼻息荒いです。落ち着きないです。無意識に貧乏揺すりしちゃって、隣の席の女性に思いっ切り睨まれています。あ、すいません……。(声を潜めて)どうも、おれ阿部千代です。なめんなよ、ヨロシク。


 視線を感じるのだ。誰かが。どなたかが。おれを監視している。ような気がするのだ。おれは疑心暗鬼だ。今は迂闊なことを書けん。いつもならば腰に手をあて、スキップスキップらんらんらーんってな具合の森の小道も、パンくずを落としながら、時折後方を気にしつつ、慎重に歩みを進めている。絶対に誰かがどこかでおれに狙いを定めているからだ。もしこのパンくずが途中で途切れていたら……おれの身になにかがあったと思ってくれ。

 ちょっと待て。おれは狂ってなどいない。おれの目を見てみろ。理性の火がきらめいているのがわかるだろう。そうだ。眼差しは沈着冷静そのもの。視野の広さはカマキリ並だ。

 昔、工場で働いていたころ、超絶パワハラ上司の着服を個人的につきとめて、そいつをネタにうるせえクチを閉じさせ、周囲を困惑の渦に巻き込んだ目端の利きはいまだ健在だ(その上司は部下から借金して一向に返そうとしないギャンブル狂いで、おそらくは多重債務者のクソ野郎だったが、着服する気持ちは正直わからんでもなかった。なにしろ金払いが悪いなんてもんじゃないクソ会社だったし、クソ野郎がせっせとパクっていた金もかなり怪しい金だったのだ)。

 おっと、口が滑った。おれに隙を見せない方がいい。すぐに武勇伝を語り出すからな。ご用心ご用心。


 実はだな。おれ、監視されている……そう感じたのは少し前からだ。つまりだな。おれの文章に、ぽつぽつとポイント、ブックマーク、いいね、のいずれかがつきはじめたのだ。ここ何日かずっと3タコ(3打席無安打ってことだよ)は免れている状態だっていうんだから阿部ちゃん的にはびっくり仰天だ。驚異の連続試合安打記録を継続中と言ってもいい。一体なにが起きているのだ? おれ打撃良くなった? そんなことないと思うんだよな。


 最初はすべてひとりの人間の仕業だと思っていたのだ。いくらなんでも仕業って言い方はないか。ええと、仕事? ちょっと違うか。まあいい。ここで熟考してもしょうがない。そう、ひとりのアレだと思っていたのだ。でもそうじゃないっぽいんだよな~。

 皆の衆も是非おれと一緒に考えてみてほしい。

 はい、ここで問題です。あなたはいま、誰かさんの文章に、リアクションをとろうとしています。あなたがとれる行動は、

 ア:ポイントを入れる。イ:ブックマークをつける。ウ:いいね! と叫ぶ。

 この3つです。ア~ウの中で、適当だと思われるものを、全て選んでください。チッコチッコチッコ……選びましたか? 選びましたね?

 では続いて問題です。あなたは次の日、同じ人の違う文章に、リアクションをとろうとしています。あなたが選ぶのは? 

 1:昨日とおんなじ。2:気が変わった。今日は違うことをする。 さあ、どっち?


 これでおれの言いたいことがわかったな。鈍いやっちゃなー。こんな茶番を演じたんだから、わかってくれよ頼むよ。こっちだってまあまあ気恥ずかしいんだよ。おれが問いたかったのはな、昨日はポイントを入れてやったけど、今日はいいね一点張りで攻めるか! なんてことが実際に起こりうるのか? ってことなんだよ。わかるでしょう? 個人的にはその線はナシだと思うんだよな……。

 もちろん絶対にあり得ない話ではない。超厳格に文章評価の基準があって、1ラウンド目はいいねで牽制して様子を見つつ、2ラウンド以降は執拗なブックマークでガードを下げさせて、ここぞってときに的確なポイントを叩き込んでフィニッシュ! なんて化物がいるのかもしれん。だとしたら、おれは相当やっかいなやつに目をつけられたってことになる。うーん……だがなぁ。それはちょっと考えにくいかな。

 個人的な推理を言ってもいいか? ダメって言ったって言っちゃうもんね。おれはね、3人の刺客が放たれたと思ってるんだよ。ほら、おれって結構、偉そうなこと抜かしてたから。例えばさ。

 いいね使いのメアリ・ジェーン。こいつにいいねの烙印を押されたら、抗う術はない。おそろしいヤツだ。

 ブックマーク挟みのシャナハン。こいつは危険だ。目にも止まらぬ速さでブックマークを挟んでくる。

 ポイントマンのJ・J・ジョー。3人のリーダー格。こいつにロックオンされたらもうダメだ。確実にポイントを入れられる。

 おそらくはこんな連中だと思う。正直怖いよ。震えてるよ。見られてると思うと普通に意識しちゃうよ。今日なんて凄くない? おれサービスしすぎだって。どうした阿部ちゃん。

 だがおれもやられっぱなしではいられないからな。これと言って対抗策があるわけではないが、これからも普通に文章を書いていこうという決意が固まった。3人の刺客には、心からのありがとうを言っておく。


 最後に。おれはポイントなど気にせん! そう豪語してはばからない益荒男ではあるのだが、それは実際のところ嘘ではないのだが、とは言っても0というのは流石にちょっとネ? リクエスト判定頼みたくなっちゃうよね。決して入れるな! って言ってるわけではないからね。最低評価でもなんでも、もらえるもんはなんでももらうよ。吉田拓郎もビートルズが教えてくれたって言ってたからさ。

 あと、言いたいことあったら、いつでもなんでもどうぞ、だからね。おれが間違っていたって納得すれば、謝罪する準備はあるし。てめえムカつくんだよ、とかきても大丈夫ですよ。

 あ、べた褒めだけはやめてくれ。これは冗談抜きで。なんて返していいかわからんから。ありがとう以外言えないから。褒めるなら褒めるで、ちゃんと褒めろよな。おれってワガママの自信過剰ですか?

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― 新着の感想 ―
[一言] 笑ってしまうくらい面白かったのに、敢えてブックマークしてませんでした。だって正体がバレると思ったんです。 そうです。メアリ•ジェーンとシャナハンの一部は私でした……。今回、自分の小説に阿部千…
[良い点] にゃふふ(*´艸`*) めっちゃ面白かったです!! お腹痛い( ;∀;)
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