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女神

「まずこの場所についてです」


そうだ、まずこの場所についてついて知りたい。

先ほど女神はこの場所に来る‘方々’と言っていたが俺以外には人はいない。

それどころか建物ひとつない。

俺のような死んだ者が来るだけの場所でもないと言っていたが一体どういうことだろう?

つまりは生きた人間も死んだ人間も来る場所ということだろうがどうにも理解に苦しむ、

俺は死んだ。そしてここにいる。

この二つの事実からでは死後の世界ということではないらしいということ以外には何もわからなかった。


「ここは、世界の理から外れたものものが一時滞在する場所です」


生死問わずその理から外れたものが来るのだろうか?


女神はうなずくと言葉を続ける。


「考えの通りで間違いありません」


「俺は殺されたことによってその理から外れたということですか?」


それ以外に納得のいく辻褄が合う答えはないが落としどころはそんなところだろう。


「それが、そうではないから複雑なのです。そもそもここに来るものは世界の理から外れたものですが基本的には命あるものが新しい場所へと行くためのいわば通り道でしかないのです。本来、命を落とした生命はあなたの世界でいう輪廻の環を廻り新しい生命として生まれ変わります」


女神の言葉ではいまいち理解ができない。


1、ここは死後の世界ではない

2、死んだものだけでなく生きたものもここへは来る

3、世界の理から外れたものがここへ迷い込む

4、俺は殺されたために理から外れたわけではない?

5、基本的には生きた人間が理からここに来る


だとするのならば死んでいる上に理から外れていない?俺がここにいるのは矛盾している。

本当は死んでいないということでもないだろう。


「回りくどくなってしまい申し訳ありません」


考えを読んだのか申し訳なさそうに女神は深々と頭を下げうつむく。


多少気にはなるが俺はもう死んでいるのだし、明日の仕事もなければ早出や残業もそもそも支払いさえないもう働かないでいいのだから我ながら楽観的だと思うが時間だけはある。

いつまでもずっとここにいるわけではないだろうけど延々と眠気と闘い続けながら働くよりもまだましという結論に至ってしまった。


「気にしないでください。回りくどくても順を追って説明してもらえるほうが助かります」


女神は顔をあげ小さくうなずくと口を開く。


「異世界転移や異世界召喚という言葉を聞いたことがあるかと思いますがそれらにより多元世界からの干渉を受けたものがこちらに一時滞在する次元のはざまのような場所とも言えます」


異世界、、、図書館で一時読み漁っていた小説、ライトノベルでよく取り上げられていた題材だ。

ここはあれらに出てくるような転移前にスキルを授けられるような場所だとでもいうのか?

人間の想像できるような場所が実際にあるというのも都合が良すぎて納得がいかない。

それに今しているのは生きている人間の転移についてであって転生ではない。

死んだと、はっきり言われている俺には当てはまらないことだろう。


「、、、ってっうわっ」


少しうつむき神の言葉を整理していると女神が俺の顔を覗き込むように下から見上げている。

音もなく目の前に現れたそれに大きな声をあげてしまう。


「急にやめてくださいよ。心臓止まるかとおもいました」


もう死んでいるはずだからドキドキするわけでもないのにそんなことを口にしてしまう。

ただ確かに生きている時と同じように胸の鼓動が早くなるのを感じた。


「何かを考えているようでしたので言葉を待っていたのですが口を開かないのでつい」


先ほどまでとは変わりいたずらっぽい笑みを浮かべて女神はいう。

どうやら俺の考えを読み取れるとき読み取れないときがあるらしい。

考えがまとまらないままであったが口に出して質問を投げかけてみる。


「えっと、なぜ異世界転移や異世界召喚という言葉を俺が知ってると思ったんですか?」


「最近こちらに来るものはここについて知っている方も多く驚かされてばかりだったので私なりに調べてみたのですが、実は異世界転移を拒絶しここから戻ったものが少なからずいるのです。その中の数名がどうやら書物として残していたようです。ほかにも過去口伝で広まった例もありました。記憶は完全に消し去っているはずですがここに来る魂はなかなかに癖の強い特殊な力をお持ちの方が多くイレギュラーが発生しているようです」


女神の口から聞かされた内容は確かに驚くが確かに昔話や民、神話なども神隠しであったり神に連れ去られたりという話があるがここに連れてこられ元の世界に戻れるということであればそういうこともあるのかもしれない。


「異世界転移や召喚というものには強制力はないのでしょうか?」


単に素朴な疑問を口にした。俺が知る限りのフィクションでのお話の中での異世界召喚は強制的なものばかりで戻れない。もしくは戻るために異世界を冒険するといったものばかりだった。

中には戻れたというような本もあったが拒否できるような物語はあまり目にしたことがなかった。


「召喚されたもの意志の強さや召喚した者の力の強さによりますが拒否できる場合、拒否できない場合とありますが基本的には元の世界に未練のないものが選ばれるので帰りたいというものはあまりいません。巻き込まれて召喚されたものが戻りたいと願うことが多いですが選ばれざる彼らには意志の強さがなく召喚の力には逆らえないようです」


つまりこの女神でもどうにかできることできないことがあるということだろう。

あいまいで複雑だがそんな印象を受ける。


「つまり女神、、、さまでも干渉できない力があるということですか?俺にとってあなたが超常的な存在であるのと同じようにあなたにとっての超常的な力もあるということですよね」


俺にとっての上位の存在がこの女神であるように女神にも上位の存在がいるのかもしれない。


「リーリシア。自己紹介が遅れましたね。リリでもリリシャでもお好きに及びください。あっ様付け入りませんよ?」


愛らしい表情で女神は微笑む。

無神論者というわけではないが様付けをするというのがどうにも抵抗があったので申し出はありがたく受け取る。


「それならリリって呼ばせてもらいますね。俺は、、、」


「ハジメ、、、田中ハジメですね。そのくらいは存じていますよ」


先ほどの愛らしい笑みとは違い作ったような表情でニコッと笑いながら言葉をつづけた。


「おっしゃる通り私にも理解できないこと干渉できないことがいくつかあります。ひとつが異世界召喚等について、ひとつがこの場所について、そしてあなた方の世界の人類の進化について、最後にわたしがいつから存在しているかなど、次元を隔てていくつかの世界を管理という形で見ていますがトラブルが起きても干渉できないこと、わからないことも多からずあります。これはわたくし達、、、あなた方の世界でいう神々がこの世界を作っていないということを意味するかと思います」


参ったな、わからないことだらけじゃないか。

思ってた以上にリリは全知全能ではないらしい。万能といったところだろうか、

それでも俺からすれば信じられないようなことには変わりはない。


「、、、話が脱線してしまいましたね。干渉できないものというのがまだあります。」


この流れから察するとおそらく、


「例えば俺とか?」


自分がヒーローや主人公だと思ったことは一度もない。

どちらかといえばもぶと呼ばれるようなその他大勢の中でも少し人より不幸なだけで、これっていう特徴もない。

いじめっ子でもなければいじめられっ子でもないし助け出す主人公のような資質も持ち合わせてはいない。

ただ、この状況やここまでの説明を聞く限りでは一なんとなく腑に落ちた答えはかなり陳腐だ。


「、、、その通りですがそれだけではないのです。」


ひとつ謎が解決したかのように見えるとまた次の謎が出てくる。他人事のように感じてもいるが変にワクワクしてしまう。


「はぁ、やはりハジメは変わっていますね。」


リリの聞こえないようについたであろうため息はリリが思っていたよりも大きくしっかりと聞こえている。

それに気が付いたのかリリはコホンと咳ばらいをするようなジェスチャーを取り話を続ける。


「どの世界も正と負とでもいいましょうか?運のいいもの悪いものバランスが取れるように設計されています。その中でも極端に正に傾いたもの、負に傾いたものはどうしてもシステム上生まれてきてしまいます。国でもそうですし、人でも同じです。これらは親などから受け継いだものなどが多く左右する先天的なもので稀に正か負かのどちらかに大きく傾いたイレギュラーな存在も発生しますがこれらは起こりえない事ではありませんでした。これが後天的に起こったのです。ハジメの存在は極端に負に傾いていますがそもそもそんなことはなく、どちらかといえば正に向いていたくらいです。」


聞いた瞬間に体が沸騰しそうなほど熱くなり目の前が真っ白になると怒りで体が震えだしそうになる。

強く握ったこぶしに力が入る罵詈雑言を叫びだし目の前にいるリリを攻めたい気持ちでいっぱいになり、歯を食いしばり、リリの方を睨み付けようとうつむいていた顔をあげる。

そこで見たリリの表情は先ほどまでの愛らしい笑顔でもなければ先ほどのもうしわけなさそうな顔でもなく凛としてこちらをまっすぐ見つめていた。

一瞬憐みの表情にも見えたが毒気が抜かた。


確かにろくでもない父親は蒸発、母さんはそのせいで過労死、俺はというとブラック企業の社畜でろくでもない人生だったが母を追うように過労死するよりは何かを助けようとしてして死んだ方がまだましと思った。

結局何も救えず無駄死にだったかもしれないがそれでももう死んでいしまっている以上怒りに意味を見いだせなかった。


「、、、なぜそうなったんですか?」

落ち着きを取り戻し言葉の続きを待つ。


「申し訳ないのですが、わからないのです。先ほどもお伝えしましたが、わたしもすべてを管理し観察、把握することはできないのです。そして二つ目のイレギュラーがおきます。ハジメの命を奪ったものとの接触です。あの者は極端に負に傾いた存在です。生まれもよく家庭は裕福、で頭も良く容姿もあなた方の世界で悪いということもなくできすぎた存在でありながら感情がいくつも欠けていました。」


確かに話をできたというほどでもないがあの少年は普通ではなかった。


「猫も俺も害‘虫’だったからなぁ」


一番大きく思ったことはそこだった。

行動から狂気じみていたが自分と同じ人間でさえも彼にとっては虫でしかないのだろう。

人よりもできていれば余計に自分より下の存在がそう見えてしまうのかもしれない。


「その通りです。あの者を観測していたので、、、とは言っても観察のみで干渉したりも中々にむつかしいのでなにかできることも少ないのですが、、、しかしその時点であなたの存在に気が付くことができました。」


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