どう考えてもヤバげな子供を殴り倒してしまった件について - 仕方がないので匿うことにした
座チョーさん...書いちゃったんだなぁ...!?
まだプロローグだけだけど...書いちゃったんだなよなぁ...!?
───小さなころ、力に憧れていた
───それは眩しく、なによりも追い求めるべきもので
───そして、そんな子供だった僕は
どうしてこうなっちまったかなぁ?
とある路地裏の狭い通路にある錆色のドア。それは開くのかどうかも怪しげで、その前に腰掛ける男が一人居た。
男は名前を【如月 那月《キサラギなつき》】といい、程好く引き締まった身体ではあるものの不潔で無精髭を生やした中年である。
「仕事は上手くいってるが、客は選んでるからなぁ。必然としてロクでなにしか会えねぇから、まともな人間に会いてぇ」
男は金貸し。それも、男性専門の変わり種。
「女専門はいいよなぁ...?金なんざいくらでも稼がせられる」
男は見るからに毒々しい私怨を撒き散らしながら煙を蒸かす。
「まあったく。最悪の外れを引いちまったモンだ」
男の職業は金貸し、それも男性専門の金貸しだ。
その理由は彼の保有する力の性質にある。
この世界は科学と学問の世界──だった。
既に過去の事となったそれはとある一つの大事件から端を発する。
曰く、東京は消滅し異界から顕現した異形共が溢れだし世界を滅ぼすだとか、ふざけた話で
そして、その日から世界には男のような魔法のような力を身につけた人間が現れることとなる
それは若い少年少女に多く、中年である男には本来宿らないものだったが...
「なんであの時、東京なんざに足を向けたのか...さっぱりだ...。どうせなら、全身飲み込まれとけばマシに死ねたかもな」
三年前のこと。あの大惨事があったあの日のこと。
男は東京になぜか足を向けて、遊んで帰る途中だった。
その時のこと。男が東京から帰る途中のこと。男は突如として消滅した東京と共に左腕を喪った。
そのせいで男の手には義手が填まっており、綺麗に抉られた断面からは義手に一体化した蛍光ピンクの肉が乾燥したものが覗いている。
義手はメタリックシルバーの輝きを放ち、周囲をほんのりと明るく照らす。
「よりによって男を女に変える能力だぁ?ふざけんじゃねぇとは最初から思ってたがよ」
そう。それは義手などではなく、少々人ではないものの立派に蠢く生身の腕。男の喪った左手の代わりのもの。
「俺はバイじゃねぇよ、ガワが女とはいえ男は範囲外だってのに」
「チッ。しかしあの野郎遅いじゃねぇの?まさか逃げたんじゃあるまいなぁ...?いや、この期に及んでそれはねぇな彼奴には頼るものなんざなにもねぇし、死ねる程根性はねぇ───ぁ?」
其処へ。
駆けてくる足音が降りだした雨の音に紛れて近付いてくる。
「なんだぁ?彼奴..じゃねぇなぁ、餓鬼だな?」
それは、一見してやせっぽっちの子供だった。肌を露出しておりその肌を隠すのは灰褐色の布切れ。骨格は布越しに見てとる限りは男のそれであり、丁度降りだした雨が吐息を冷やして霧を作っている。
足音は軽く、水に濡れた灰褐色の布を重そうに纏うその両肩は雨に濡れて艶めいている。そして、その足元には血のように朱い飛沫が飛び散り...それは血液そのものであって鉄錆の匂いが苔むした裏路地の空気と混じって生臭く那月の鼻腔を刺激する。
───なんだぁ?アイツ...血液の匂いをさせてやがる...?だが、アイツに怪我はねぇよなぁ?裸だし見間違いはあり得ねぇってこたぁ刺しちまったってところか?まあ訳アリだなぁ?取り敢えず話し掛けてみるかぁ?
この時。
那月は著しく人間性を損耗しており。結果的に可笑しな結論に達した。それは、この状況で冷静に観察していたその洞察からは考えられない程の。
「おう。待てや坊主」
那月はその子供の前にのそりとした悠長な動き、気怠そうなそれで立ち塞がった。
「邪魔だっ!」
対して小柄なその子供は布切れの内側から血に濡れた右腕と細く頼り無さげな刃物を取り出し那月を斬り付け障害物にでもしようと飛び掛かってくる。
「嘗めてんじねぇよ」
「ぉぇっ」
「お?思ったより...女みてぇに軽いなぁ?やりすぎちまった」
ソレを間一髪で躱した那月は腹部に拳を突き顎先に膝を叩き込んだ。それはひどく悠長で気怠げな動きからでは想像もできない程に威力があり、そして速度はない。恐ろしい程に繊細に手加減された一撃だった。
「ぁぁ、ぁ?」
しかし、見誤ったこともある。那月は借金をしているとはいえ倹約なぞしないようなクズ男を専門にする金貸しだ。小さな子供、それもやせっぽっちのソレを丁寧に倒すことなど生まれて初めての事だったのだ。
子供は視線を左右の目で各々四散させながらよだれを垂らして呻いている。
「飛んじまってるなコレ」
那月は困った、困ったと頭を掻いた。
裏路地に新たな足音が響く。ぱちゃぱちゃと濡れた音をさせるそれはいつものものよりも格段に悠慢で、いつも裏路地に響いている呻き声や獣の咆哮がないことから別物であることがうかがえる。
「しゃあねぇ、やっちまったもんは仕方ねぇわな」
那月は仕方なく、といった様子で───その実、新しい玩具を与えられた子供のように目がイカれている子供を抱き抱えると、錆色のドアを蹴り開けて中に踏み込んだ。
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錆色のドアの先にはカウンターと裏口、そして二階に上がる階段のみのボロっちぃ室内で、那月はマットレスで靴の汚れを落とすと下駄箱なんて洒落たモノはないので適当に脱ぎ散らかす。
カウンターの奥の仮眠や電話対応などをする部屋のベッド───部屋の隅に備えられた牢屋にある古びてはいるが仕立ての良いアンティークの寝台と小さな机に大人一人が入るだけの風呂桶に半分だけ水を張り身体を清め、血液と雨を洗い流し身体を全身隈無く丁寧に拭う。それは寝台に横たえる時に汚さないためだ。
那月はアンティークの寝台にマットレスと掛布団を敷いたものに丁寧に寝かせると掛布団を被せる。それははなの香りの僅かにするもので、那月は牢屋に内側から鍵を掛けると机から小さな香炉とマッチに加えて油の染み込んだ紙片を取り出し火をつけた。
使い捨てのマッチは風呂桶に適当に投げ入れられる。
子供が目を覚ましたのはそれから三十分程、出合って直ぐに飛んでから一時間以上後の出来事である。
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狭い室内───いや、牢屋内でその子供は目を覚ます。女の子と言われても違和感のないやせっぽっちの身体は苦しそうに蠢いて、身体の主は見慣れない天井と焚き染められた花の香りで意識を覚醒させる。
「お?起きたか坊主」
突然。
側から聞こえる耳慣れない声に驚き、慌てて身体を起こそうとする。しかし、幾ら力を込めようと身体は起き上がらず腹部から感じる鈍痛に奇っ怪な動きで無様に身動ぎをするだけだ。
「っ!ぐぁぅ!」
「おいおい無理すんなよ?お前今はモノも食えねぇ身体なんだからよ」
「くっ!」
ソレは牢屋に共に閉じ込められている男に吐き捨てるような侮蔑の眼差しをくれてやる。対して、男はその視線に興味深さと怪訝な感情の混じった表情で暫く熟考し───そして思い至り直ぐ様それを否定する。
「ぁぁ、心配すんなよ?俺は男に興味はねぇし、売り物は選ぶ主義だ。お前みたいな餓鬼を売り物にはしねぇし、どうにもしねぇよ」
子供は安堵とも困惑ともつかない表情で那月を睨み付ける。那月はそれに苦笑いで返した。
「ま、今はもうお前は男とは呼べねぇかもだけどな」「は?」
「言い忘れてたが俺は男に興味はねぇし、お前みたいな餓鬼を売り物にはしねぇ。が、それはそれとして金には厳しい。お前を匿ったらヤバそうだからその分の金は稼いでもらうし、匿うにも無駄な労力は裂かねぇ」
子供は───【飾白 妲己《カザシロだっき》】は理解しがたい男の言動に、それに今まで生きてきた中での経験から警戒が、嫌な予感がゾクゾクと沸いてくるのを感じる。
───なんだ!?この男は何を言ってる!?私の何をした!?それに、さっきから感じていたこの涼しさは...ぇ?
「な!?」
「つまり、お前を女にしちまえば匿ってもバレねぇし表で働かせても問題ねぇ。一石二鳥だな」
妲己はその顔を───絶世の美少女の端正な顔を驚きの表情に染め上げる。
(なんだこの身体は!!これでは、まるで...)
───本当に女になったような...
(いや、今はそんなことより───)
「───お前は!?お前は誰だ!」
「俺か?俺はなぁ、【如月 那月】ってぇケチな金貸しだ。クズ男専門の金貸しだ」
那月は答えた。何故そんなことを聞くのだろうか、聞いて何になるんだと言わんばかりの表情で。
(互いが互いに立場なんざ聞いても何にもならねぇ輩だろうに、質問の意図が分からねぇなぁ?───まぁ、餓鬼相応なところはマトモそうで何よりだが)
(男専門の金貸し...?僕が捕まった?サイアクだッ...!!いや、気絶してる間に臓器を抜かれるくらいの奴ならまだ温い方だ...もしかしたら男モンの臓器を売買をやってるのか?臓器を抜かれてマトモに仕事は取れねぇ筈だ、それなら───)
「この身体は!?何をした!」
「いやいや、中身は減ってねぇから安心しな。其所の体重計で計るといい、元の身体と同じ体脂肪率と筋肉量の比率で丁度よく性別に見合ったくらいになってる。俺の能力さ。お前もその若さでアングラなところで生きてんなら持ってんだろ?」
そした妲己は理解した。してしまったのだ。その男の狂った言動の正体とその正確さに理解が及んでしまった。
その瞬間から、妲己の意思に反して肉体から脆弱な力しか返ってこないのはなにも臓器を抜かれたわけではないことに対する怖気が爪先から頭頂部に突き抜けていく。
───力が....!僕の力が使えない...?
「ふざけてる...!!」
「あー、よく分かるぜ?俺もそう思う。が、まぁ散々なこの力だがよぅ。実は結構気に入ってるんだ」
───目の前の狂った男は何を笑っている...?何を親しげに同調などしている...?この悪趣味な力の主は何れだけの悪意を抱えているのか...!
(怖い)
妲己は身体の震えが止まらない。
その力が一体どのようにして金貸しに使われるのか想像できてしまうからこそ、自身にそれを施した狂人が何を仕出かすか、自身に何をできてしまうのかに恐怖してしまう。
「その力の何が気に入るって言うんだ...!!」
その問いに、那月は慢気な雰囲気でありながら自嘲するようにやれやれと肩をすくませて頭を振った。
「便利なのさ、力のあるやつは面倒だからな。コイツで変えちまえば身体能力は低下し能力も封じ込める。どんな野郎でも確実に取り立てられるからな」
その表情はあまりにも嘲笑が堂に入っていて。
妲己は今までに見たことのない自尊心ではなく自信に満ち溢れた悪人を見て。そして、挫けた。
「ひっ!?」
「おいおい、あんま怯えてくれるなよ?これから長い付き合いになるんだ。丁度、クズ以外の人間が欲しかったところなんだ。まあ、ゆっくりしていけよ。なあ、坊主?」
那月は妲己の怯えた表情に愉悦をほんの少しだけ感じ...そして正気に返ったと言わんばかりに驚いた表情を浮かべて、首を傾げた。
そしてそれを見ていた妲己は素直な感想をつい口に出してしまう。
「狂ってる...?」
それに対して那月は頬をひきつらせた苦笑いを浮かべて頬を掻いた。
「いんやぁ至って正気さ、今はな」
「今は...って」
「お前と話してて大分マシになってきたのさ。久方振りに人間っぽい喜びってヤツを感じてるからなぁ。感謝する...ってのも久し振りだぜぇ?」
那月は感謝を示すように膝を折って顔を近付け妲己の頭を撫でる。
妲己はあの時、別の逃げ道を選んでいればと後悔が頭を過っていったのを自覚する。
『何故、僕はこんなところで女にされて狂人に頭を撫でられているのだろう』などと、現実逃避をしているのは無理もないことだろう。
───果たして妲己はこれからどうなってしまうのだろうか...?
いかがでしたか?今回はここまでとなります!
ここまで読んでくださり本当にありがとう御座います!
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次回投稿はあなた次第です!