表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

魔王と聖女

作者: 以津真 天

息抜き短編

「馬鹿な・・・・・・我の部下が全滅、だと!?」


「あとは貴方だけですよ? 魔王アスモデウス」


魔王アスモデウス。

世界に破滅をもたらすため魔界より人間界に侵攻せし魔族の王である彼は現在窮地に陥っていた。


きっかけは魔王城の門番が倒されたという報告だった。

またも人間達が魔王を打ち倒すため刺客を送って来たのだろうが先日、人類の希望と呼ばれていた勇者も四天王には敵わなかった、すぐにその刺客も倒されるだろうと魔王は思っていた。


しかし次に耳に届いたのは四天王が全員やられたという報告。

あの勇者をも赤子の手をひねるかのように弄んだ四天王がやられたというのか、魔王アスモデウスが困惑していると報告に来た伝令が背後からやって来た何者かに一瞬で消し去られた。

そこに居たのは1人の女だった、まさかこの女が単身で魔王城に侵入し部下を消し去ったというのか、魔王は戦慄する。


「貴様、何者だ!」


「そうですね。聖女とでも名乗りましょうか」


聖女? 勇者でもなく聖女?

聖女は今まで何度か戦った事はあるが、せいぜい出来るのは光魔法で我ら魔族の力を弱めることだ。

しかし人間の行使出来る魔法では微々たるものでしかなく、ほとんど問題にならない。

強大な魔族には脅威足りえない存在のはずだ。

しかし目の前の聖女と名乗る女には魔王でも計り知れない圧を感じる。


「聖女ごときが我が部下達や四天王を全て倒したというのか!? 信じられん!」


「・・・・・・では、分かりやすくお見せしましょう」


女がそう言った瞬間、全身から魔力が溢れ出す。

その魔力は神々しい光となり女の身体を覆っていた。


「ま、まさかそれは・・・・・・浄化の光!?」


浄化の光は魔族にとって致命的な弱点だ、普通そんな力を使えるのは神くらいしかいない。

とても1人の人間が使えるものではないはずだ。


「あ、ありえん・・・・・・ありえんぞぉ!」


「信じるも信じないも貴方次第ですが・・・他の魔族の皆さんはこの光に触れたら一瞬で消えてしまいましたよ?」


「ほ、本当に浄化の光なのか・・・・・・?」


女の告げる事実に魔王の身体が震える。

信じたくなかったがこの女の言っている事は本当だろう、それはこの身体の震えが証明している。

人の身でありながら浄化の光を纏うこの女はまさに我ら魔族にとっての天敵なのだ。


「勝てるわけがない・・・・・・」


もはや魔王に抵抗する気もない、それだけ女の実力は圧倒的なのだ。

例え魔王の使える最大の魔法でも届く事はないだろう、だがせめてこの女が浄化の光を使う事が出来る理由が知りたかった。


「最後に教えてくれ・・・・・・たかが人間がどうやってその力を身につけた? 我ら魔族を討ち滅ぼすため研鑽を続けたというのか」


「・・・・・・わかりました。教えて差し上げましょう」


要求を聞き届けた女は口を開く。

魔王に残された出来ることは最早ただ女の発言に耳を傾けるのみだ。


「魔王アスモデウス、貴方は好きな食べ物はありますか?」


「は?」


女の強さの理由を聞いたはずが何故か好物について聞かれる。

疑問に思ったが下手に口出しして消滅させられれば気になって成仏し切れない、そう思った魔王は素直に答える事にした。


「わ、我はドラゴンのステーキが好きだぞ」


「そうですか。ドラゴンのステーキ美味しいですよね。実は私にも好きな食べ物があるんですよ」


「う、うむ・・・・・・」


「それは大変危険な食べ物で、1度口を付けたら食べ終わるまで一切油断は出来ません」


「そ、そのような物が好物なのか!?」


「はい、それは私だけでなく数多くの人々を魅了して止まない物なのです」


(中毒性のある嗜好品の類いか? もしやその食べ物がこの女の強さの秘訣だというのか?)


「ところで話は変わりますが私、白色が好きなんですよ」


「!? ほ、ほぅそうなのか」


そう言われ魔王が改めて聖女の格好を見ると白を基調にした法衣を纏っているのが分かる。

女が白が好きだと言うのは見ての通りだがそれが何の関係があるというのか。


「見ての通り私の法衣は全身白色です。ちなみに特注品ですよ」


「そ、そうか・・・・・・」


話の展開が関係ない方向に行ってる気がするが、それを指摘する勇気は無い。

魔王はそのまま黙って話の続きを聞く事にした。


「この法衣は職業上、普段着でもあるのでおいそれと脱ぐ事が出来ないんですよ。しかしそれが私にとって重大な事なのです!」


「!?」


聖女が突如大声を張り上げたせいで、驚いてしまう。

魔王は法衣がもしかしたら浄化の光を使うための触媒となっているのかと考えていたが、そうだとしてもそれが女の好物と何の関係があるのだろうか。


「私の好物と服の趣味、それはまさしく水と油。決して相容れぬものなのです・・・・・・私は悩みました。どうすればいいのか、終いには死んでしまおうとも思いました・・・・・・」


(そんな重要なの!?)


「しかし、そんな私に神の声が聞こえたのです! 叶えたくば己が力を磨けと!」


(つまり、浄化の光は努力の賜物という訳か? しかしそれが好物と服の趣味にどう繋がるか分からん!)


「そして私は長き修行の末、あらゆる穢れを消し去る浄化の光を身につけたのです。そして私はこの服のまま安心して好物を食べれるようになりました」


話しを終えたのか女は満足そうな笑みで魔王を見る。

だがしかしそんな魔王はイマイチ納得していない。


「・・・・・・それが何の関係があるというのだ?」


話を聞いていて浄化の光自体は女の修行の結果なのはわかった。

分からないのはその過程に至るまでの好物や服装に関してだ。


「その・・・・・・好物と服の好みが結局、浄化の光と何の関係があるのだ? その食べ物は浄化の光でも無ければ食べる事が出来ない物なのか?」


「失礼、少し分かり辛かったでしょうか」


(分かるわけなかろう!)


「そういえば私の好物の名前を言ってませんでしたね・・・・・・教えてあげましょう」


(・・・・・・勿体ぶりおって一体何だというのだ!?)


「それは・・・・・・」


(それは・・・・・・?)


「『カレーうどん』です!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」


「様々なスパイスによってブレンドされたルー、それがうどんと絡み合いそれはもはや奇跡のハーモニー! ただ哀しきかなそれは食べる者に牙を見せるように啜る度に服に汚れが飛んでしまうのです!」


「・・・・・・つまり何か? 貴様が着てる服がいちいち汚れないために浄化の光を使えるようになったというのか? 魔族もそんな理由で身につけた力に滅ぼされるというのか?」


「そうです。魔族が暴れてるとおちおちカレーうどんも食べられませんからね」


「ふっ・・・・・・」


「ふ?」


「ふっざけんなぁぁぁぁぁぁ!!!」


ここまであまりにもくだらない理由に激昂した魔王は道連れ覚悟で全ての魔力を解き放つ。

しかし無駄だった。


「えいっ浄化の光」


「あぎゃあああ!!」


断末魔を上げながらあっという間に魔王は浄化の光に呑まれ消滅した。


そして後世で魔王アスモデウスはカレーうどんに負けた魔王として語り継がれるのだった。

おわり

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ