dogma
感想くれると、喜びます。
dogma この言葉をよく聞くようになったのはここ十年程まえだ。その力は、この世の理を大きく覆すことができるという。
曰く、死者が蘇った。曰く 、海の中で呼吸ができた。など他にもいろいろな事例がある。専門家が言うには、よくわからないが、人間にしかない能力ということで、感情が大きく関わっているのではないか、とされている。
八月十九日。夏休み真っ最中。友達と一緒に公園に来ていた。
「課題どの位進んだ。」
「もうほぼ終わったよ」
「え、裏切りじゃん。絶対終わってないと思って聞いたのに。」
もう昼だ。
「そろそろ帰るね。」
「そうだね。」
二人で歩いていると、猫が横切った。彼女はそれを追いかけた。世界が一瞬遅くなった。彼女が宙を舞った。周りのコンクリートの色が変わっている。彼女をはねたトラックから人が出てきた。
「大丈夫ですか。すぐに救急車を呼びます。」
彼女は答えない。しばらくすると、救急車がきた。運ばれて行くその抜け殻を見ていた。病院に着くと、医者はもう治療をしていなかった。
「即死でした。もう手の施しようがありませんでした。」
泣いている女性がいる。彼女の母だ。
「まだ、いたの。」
そう言いながら崩れ落ちた。
一日が経ったらしい。俺は自分の家にいた。親は二人とも仕事だ。こういう時は少し嬉しい。気づいたことがある。一日じゃなくて本当はもう三日もたっていたということ。それと、彼女はもう帰ってこないということ。体が拒んでいた。理解してしまったら泣いてしまうから。悲しんでしまうから。願った。彼女を返してくれ。なんでもする。だから、彼女をかえしてくれと。さらに一晩がたった。違和感がある。時計をみる。八月十九日を表していた。まだ時間は十時。待ち合わせの時間だ。公園に向かう。悪い夢を見ていたんだと体が安心する。昨日と同じ会話。まだ十一時。
「もう帰ろう。」
「うん。わかった。」
帰り道、道ゆく人々が上を見ている。自分も上を向くと、鉄柱が彼女には刺さっている。嗚咽がもれる。頭の先からしっかりと貫通している。即死だ。声が聞こえた。
また、失った。僕はその場で倒れた。
「お前の力で救ってみろよ。dogmaを手に入れたじゃないか。」
なにをいっている。中性的な声だ。人の声かもわからない。が、dogmaといっていた。言葉は知っている。都市伝説のあれだろ。人の思いがどうこうってやつ。まさか、本当にあるのか。目が覚めた。時計を確認するとまた十九日を指している。
時間も同じだ。dogmaというのは時間を巻き戻せるのか。どうでもいい。彼女を救うことの方が先だ。また、公園に足を運ぶ。
「家に来ないか。」
「え、いいよ。」
ひとまず、家に連れて行こう。家までは無事についた。
「あがって。」
「お邪魔しまーす。」
階段を登っていると、大きな音がした。見てみると、彼女が階段の下にいる。
「おい、大丈夫か。」
返事がない。脈もなくなっていた。また。また失った。また、意識が遠のく。
「色々、教えてやろうか。dogmaがなにかとか。」
「どうでもいい、彼女を助ける方法を教えろ。」
「dogmaは人の心の体現だ。dogmaは人は誰しもが持っている。願いや欲望が一定の強さに達した時に成る力のことだ。能力はまちまちだな。時間の巻き戻しなんて、相当いい方だぞ。その分、代償は大きいかもな。dogmaを手に入れた人間の末路は二つ。願いを叶え、神への道を辿るか、代償によって願いを放棄せざるを得なくなるか。」
「勝手に喋るな。お前は誰だ、後神
ってどういうこと。」
「都市伝説を知らないのか。dogmaに自分を意味するIを下に付け加えて下から読んでみろ。もう分かったろ。dogmaは人が神に堕ちるための道だ。だからあれだ。神社にお願い事をするのはそういうことだ。最も、願いを叶え終えた人間からdogmaは消え去る。願いが叶うことはないがな。」
「神になると、何があるんだ。」
「お、もしかして、興味あるのか。神ってのはただの名前だ。存在を許されない霊のようなものだ。当然だろ。一度理を捻じ曲げたんだ。輪廻転生の輪から外れて、意識のみで、現世を彷徨うだけさ。それを神と呼んでる。昔の人間はよくいったもんだ。神が人を作ったのではなく、人が神を作ったってな。」
腑に落ちない。
「発現した奴らには全員に言ってんのか。」
「いや、君だけだ。久しぶりにこんなに強いのにあった。さあ、もう時間だ。」
意識が覚醒する。時間も日にちもあの日のままだ。次こそは。 二年がたった。日付八月十九日のままだ。
「また、ダメだった。」
ざっと七百の死を見た。溺死、圧死、衝撃死、雷が落ちてきたこともあった。なんでこんなことしてるんだろ。そういう気持ちにもなった。彼女が死ななければならない理由はなんだ。もどってから死へのタイムリミットは約二時間。いつの間にか、死に慣れてしまっていることに気づいた。
「久しぶりだな。まだ、やっていたのか。いい加減諦めろ。お前にそれは助けられない。よく考えろ。なぜ、そいつが死ぬのか。」
「どういうことだよ。お前は知っているのか。彼女が何なのか。」
「どうだろうか。お前よりはの方が正しいかもな。」
彼女が死ななければならない理由。3つ思い浮かぶ。一つ目はこのdogmaの代償。二つ目は俺以上のdogmaの持ち主が彼女を殺そうとしている場合。考えたくはないが、3つ目は彼女自身がそれを望んでいる場合だ。考えただけで身の毛がよだつ。それでも、俺は彼女が死ぬのは、もうごめんだ。何度でも殺す。生きるまで殺し続ける。もうその段階まできてる。
「おお、怖。そういえばお前、自分のdogmaを勘違いしていないか。やり直しと思っているようだけどもっと頭使ったらどうだ。」
「どういうことだ。何をいっている。」
「だから、自分で考えろって。例えば、俺が誰かとか。まあいいや。ほれ七百四十回目だ、行ってこい。」
また、同じ時間。正直、どうやっても成功する気がしない。とりあえず、待ち合わせ場所の公園に行こう。行かなくても死ぬことは三十回目くらいで試した。ブランコに乗っている彼女の隣に座る。
「あ、きた。」
「ん、きた。」
こう言った会話になっていない会話ですら愛おしく思う。帰り際
「そういえば、これ何回目。」
え、今彼女なんて言った。
「は、何回目ってどういうことだよ。」
「だから、あなたは何人の私を殺したのって。ごめん。言い方がわるかったね。何回私死んだ。」
「七百四十回。君を救えなかった回数だ。」
「わ、思ったより多いね。どう、諦める気になった。」
「なるわけがない。だって君を救うと決めたから。」
「救うか。どうしても終わらせたいんだったら教会に行きな。」
「教会ってあの信仰宗教の。」
「そう、あそこのシスターのdogmaはすごいよ。もう神になっちゃってるけど。」
「神になったら死ぬんじゃないのか。」
「死んでも死ねないだけ。じゃそういうことで七百四十回目の私はおわりです。」
「待っ
ぐしゃ。鈍い音がした。今回はトラックだ。一回目を思い出す。また、吐き気が。意識が遠のく。
「やっと進展があったな。だが、シスターには合わない方がいいかもな。」
「どういうことだ。」
「お前も知りたくもないことは知らない方がいいだろ。俺の正体教えとくな。俺は、失敗したお前だよ。お前のdogmaについても教えてやる。」
「聞きたくない。」
一つの確信があった。だが、それが本当だとすると。彼女のあの言葉が俺の精神を壊す。
「分かってんだろ。言ってみ。」
「この世界はパラレルワールドでいいのか。」
「正解だ。俺は失敗した世界のお前の末路だ。お前のdogmaの代償は、三十の八月十九日に必ず死ぬ。というものらしい。何度も経験したよ。俺の死も。つまり、お前が寝てる間に一つ前の世界の十三年がすぎるってことだ。もう一つ言うと、お前が殺してきた理奈は全員本物だってことだな。やり直しじゃないんだ。」
何回も理奈を殺した。何回も。自分のエゴで。そういえば、助けてくれなんて、一言も言ってないな。目が覚めた。時計はいつもと同じ時間。急いで、教会へと走った。
「どうされたんですか。」
「dogmaについてだ。」
「いたずらですか。よしてください。」
「七百四十一回目だ。」
「誰に訪れろと。」
「理奈。」
「あぁ、彼女ですか。今公園であなたを待っていますね。」
「何で知ってる。」
「私もあなたに世界ごと七百四十一回殺されましたので。」
「お前のdogmaを教えろ。」
「どうしてですか。まさか、参考になると思っているんですか。まあ、いいでしょう。私のdogma は人を殺す。です。」
は。こいつは何を言っている。「お前の願いはそれだったのか。」
「今のあなたとそう変わらないでしょう。ちなみに代償は見ず知らず人は殺せる代わりに、一度でも喋ったことのある人は助けなくてはいけない。というものです。だから、彼女は私を尋ねろといったんですね。」
「じゃあ、彼女はお前のせいで、何回も死んでいると言うのか。」
「苦しめているのはあなたの方ですよ。彼女、自分から助けろと、一言でもいいましたか。貴方が、諦めれば、何回も彼女を殺さなくていい。自分本位な考えももう終わりにして下さい。今回も終わったようです。もう終わりにしましょう。」
「な、これで分かっただろ。お前の負けだ。何と戦ってるのかは知らんが、お前の一人戦争はおしまいだ。dogmaの解き方はお前が分かっているはずだ。」
分かっている。簡単だ。諦めるだけで終わる。簡単だ。簡単なんだ。簡単なはずだ。今更だ。世界を七百四十も壊してきて、今更一人を見捨てるなんて簡単だろ。目が覚める。最後の八月十九日だ。家を出る時に泣いた。「おまたせ、終わらせよう。ありがとう、多分好きだったよ。」
「知ってる。私も多分好きだよ。」
首に手をかける。力を加える。彼女の口から泡がでてきた。彼女の手が離れる。
目が覚めた。時計八月二十日を指していた。彼女に電話をかける。当然でない。メールを確認すると、じゃあね。と書かれている。嗚咽と涙がでる。こんなに泣いたのは久しぶりだ。葬式でも泣いた。何なら一月くらいずっと泣いていた。三十になった。あの日を思い出す。今日は八月十九日。猫が横切った。俺は、それを追いかけると、大きな音がした。体がうまく動かない。
「やっと会える。」
ありがとうございます。