第二夜
「くっ…殺せっ!!!」
「ククク…そんなすぐに楽にしてやるわけ…ねえだろぉ?」
「百戦錬磨の騎士?弱いねぇ、ウヒヒ……。」
「ささ、魔法の効いているうちに…はよ、はよ!」
ずびし!!びばちっ!!ずっしゅずっしゅ!!ざっくざく!!!ぶしゅー!!!
あーあー、派手に嬲りやがってもう…。
天界の渦に巻かれた俺は、ピカピカに磨き上がった牛と共にお城?の裏庭?に降り立った……うう、地味に目が回る。
クラクラしながら状況を確認中、ええと、兄ちゃんおっさんじいさんの三人、姉ちゃんが一人……、くっころったのは姉ちゃんか。
うへえ、めっちゃ血まみれなんだけど!
人ってのは1,5リットルの血が出ちゃったら死んじゃうんだぞ、もうこれ1リットルくらい出ちゃってんじゃないの…。
「そろそろ洗脳できっか?もっとえぐるか?」
「傀儡化にはちいと血がたりんのう、これだから女子は。」
「どうせならもっとゴツい戦士よこせば良かったのに。だからあのギルドは弱小なんだよ。」
「はあ、はあ、はあ、……く、お、お前らの…慰み者になどっ!!今すぐ・・・コロ…セ!!!」
頑丈そうな姉ちゃんがまっかっかになりながら呻いてるぞ。
あーあー、そんなに力むから、ぴゅっぴゅぴゅっぴゅと血がー血がー!!!めっちゃ高そうな鎧がまるで役にたってねー!ビミョーに露出度高くて、意味がねー!
……ありゃ、気絶しちゃったぞ。
「どうするの、また死なせてお墓作る?…全然実りないけど。」
いつもだったら、このまま死なせて、お墓に埋葬してあげてお終いなんだよね。いや、だって下僕いらないし。
「も~、ここらへんでいい?あ、ここの土、赤土だ…ふふ…。」
ご機嫌で片隅の土を掘り始めた牛を見てたらさあ、なんか、ふと、ついさっきの……牛との会話を思い出しちゃったんだな。
――早いとこぬっころしてかないとさ、あっちゅー間に人口増えてもっとたくさん始末しないといけなくなるよ?
……人が増えると、言う事は、だ。悪いやつらも増えるって事だ。
くっころを言わせるようなやつらが増えたらさ、俺の呼び出しも増えるって事だろ?
くっころを言わせない世界´を作るべきなんじゃないかって思っちゃったんだよ、一瞬。
うーん、ちょっと…話ぐらい、聞いてみようか…。
牛に相談しようかと思ったけど、ヤツは夢中になって地面をひっかいている。近寄ったら泥まみれになること必至だ。
あーあー、鼻が泥んこまみれだ、土が飛んで背中にも―!!!
天界に帰ったらキッチリと水浴びさせねばなるまい。
…まあいいや。
とりあえず血を止めるか。
せっかくの新鮮な血がもったいない。
生かそうと思ったら、途端に血が貴重に見えてきた。…不思議なもんだ。
この血を作るために、どれほどの命を喰らってきたんだろうってね…。
今まではほら、土に埋めちゃってさ、ほかの命の養分になるし、あんまり意識してなかったんだけど。
すたすたすた。
姉ちゃんのところに歩いて行って、穴の開いてるところを触って、穴を塞いでいく。
俺は神だからさ、命を自由に操れるんだよ。まあ、この手の人体修復はお手のものでね。
鎧もここの世界´で人が生み出したもんだからさ、修復はお手のものさ。新品同様にしといてやろ。
いままでも、わりと修復はしてきたんだ。だってなんとなくちぎれた体って、破れた衣装って、気の毒じゃん。
しっかり奇麗な状態で、土に埋めてあげたいっていうかさ。まあ、微生物に捕食されて腐っちゃうけど。
「な、何だ…貴様は!!!」
「なにやつ!!」
「シャイニングファイヤー!」
ざずっしゅビキビキ、スッパスッパ!!!
ごー!
姉ちゃんを嬲ってた奴らがよーしゃなく俺を切り刻んでくる。
魔法使い?が恥ずかしい呪文唱えて俺を燃やしにかかる。
……つか、シャイニングファイヤーってなんだよ、どんなセンスだよ。
この呪文、存在してるってことは誰かが生み出した訳なんだよな。中二病発症者がカッコ良さで何の気なしに生み出してしまった呪文を、異世界のじいさんが渾身の魔力を込めて詠唱しようとはねえ……。
なんというか、生み出す事って、わりと罪深いというか、うーん。
びびゅっぴでろでろ、ざくざく、ぶしゅーぶしゅー!
びっちびっち、じゅわじゅわ……。
「なんだこいつは!!!」
「呪文が…効かない?!」
「切っても切っても…倒れんのは、なぜだ!!!」
ああ、今回も脆い肉体があっちゅー間にぼろぼろになってきた。
毎回降臨する度に肉体って使い捨てでさ、大概切り刻まれて終了なんだよね。
くっころ君を勝手に殺しちゃうとさあ、メッチャ敵さん、逆上すんのな。
毎回毎回敵さんにとことん攻撃されちゃってさあ、わりと肉片しか残んない事が多いんだ。今回は三人もいるから、激しく損傷するんじゃないかな?
ざっしゅざっしゅ、ビュービュー、めき、めき、ごつっ!!
じゅ、じゅわー!
やけに切れ味の良い大剣を持ってるな、エンチャントでもしてあるのかね。肉が飛ぶのなんのって。
わりとショボい炎だな、皮膚が煮える程度の熱か、おお、皮がはじけた。
「なぜ腹を抉っても平然としておるのだ!!」
「頭が半分ないのに?!」
「骨、骨、ほねえええええええ!!!」
人の姿で降臨した俺はだな、人として、この世界´に来ている。
人ってのはさ、魂が入ってる肉体として世界´に存在しているわけじゃん?
つまり、俺は人という肉体として、降臨してるって事なんだな。
ぶっちゃけ乗り移れる肉の器なんだよ、この人体ってやつはさ。
刻まれたところで、もともとただの肉の塊であって、俺自身ではないんだよ。毎回使い捨てだし、イマイチこう、愛着わかないっていうか。
ザクザクやられたところで、ごうごう燃やされたところで、痛みもくそもないし…。
ごりゅ、ごりゅ、ぼくっ、ぼくっ・・・!!!
しゅ、しゅぅぅぅぅ!
「ひ!!!コ、こいつ…バケモンだああアアアアアアア!!!」
「あ、アアアアアア!」
「て、撤収じゃ!」
あれ。
薄皮一枚で繋がってるパーツをぶらぶらさせつつ姉ちゃん治してたら、くっころ関係者の兄ちゃんおっさんじいさんが逃げちまったよ。
……わりとヘタレだな、普通もっと切り刻んで消炭にするけど。
どれだけ切り刻んだところでさあ、命を持っていない俺はだな。
肉片になっても存在できてしまうわけなんだな。
目玉が穿られたところで、見てるのは神としての俺自身だからさあ、意味がないっていうか。
脳みそぶちまけられたところで、考えてんのは神としての俺自身だからさあ、問題ないっていうか。
腕だの足だの腹だの真っ二つにされても、動かしてるのは神としての俺自身だからさあ、支障がないっていうか。
今回は生焼けだけどさあ、炭になっても大丈夫っていうか。
完全に、地上に降りるための媒体でしかないんだ、この肉体はさ。
いうなれば、マリオネットを操っている感じか。
……そもそもこの肉体、なんなんだろうね?
毎回降臨する度に違う肉体に入るんだけどさ、どういう仕組みなのかわからない。
生きてる人?の肉体では無さそうだ。記憶が存在していないから。
肉体が、自動生成されてるっぽいけど……。
一回詳しく調べた方がいいかなあ。
……めんどくさいな。
わりと砂粒程度でもさ、降臨し続ける事が可能なんだ。
降臨の限度も調べないとなあ、いつまで地上にいられるのかとか……。
いつもはくっころ君の命奪ったら土に埋めてとっとと天界に帰ってるから、地味に能力の限界がわからない。使い捨てた肉体の行方も不明だ。
……ううむ、いろいろと分からない事が多いな、やはり無計画で突然事を起こすのは悪手だとしか。もっときっちり調べあげてから行動すべきだったか。
いや、しかし、いつもと同じ事をしなかった自分をほめてあげたい気持ちもある!
……。
うん、これはこれで良しだ、このまま行こう。
失敗は成功のもと、やらかしてもこの世界の神様は俺、多分大丈夫!
「ぅう、っ・・・。」
おお、姉ちゃんが目を覚ました?みたいだぞ。
一方的な話しか聞けないかもしれないけど、この姉ちゃんから詳しいいきさつを聞いてみよう。
さっきの三人組、どう見ても悪人だったけど、ケンカってのは両方の意見を聞いてみないと判断がつかないじゃん?
できれば両者から話を聞きたかったんだが…いなくなってしまったものはしょうがない。
ゆっくり目を開いた姉ちゃんをのぞき込んで、声をかける…。
「ご、ごふっ、べぇ・・・ぶひゅっ・・・!!!」
おうふ。
そういえばのど潰されてるじゃん、あごもどっか飛んでってるな、舌は…ついてるのか?
ちょっと待て、肺がなくなってる、これじゃあ発音は不可能だ、この肉体では言葉が話せない…よし、肉体使わずに会話するか。
えーと、意識をちょっと斜め45度に持って行って、小さい声になっちゃうからもっと近づいて……。
ずるっ・・・びちゃ・・・がり、ごり・・・ぼと、ぼとぼと・・・。
歩くたびに肉体パーツが落っこちるな、まあいっか。
「ひっ・・・ひぃっ・・・!!!!!!!」
助けた姉ちゃんが目をむいている。ビビらせたらかわいそうかな、よし、優しく声をかけよう。
「やあやあ、どうも、どうもどうも。オッスオラ神様、ご機嫌いかが?」
「・・・っ!!!ふ、ふぅん・・・・・・・・。」
あれ、めちゃくちゃフレンドリーに声かけたんだけどな、気絶しちゃったぞ。
…血が流れ過ぎたんだな、仕方ない、輸血しといてやるか…。
姉ちゃんに血を増やしながら、記憶を盗み見たところによると。
どうやら、国の領地を巡る戦いが起きているらしい。
右の土地では穀物が取れるが、左の土地では果物しか取れない、トレードがうまくいかずに争いが起きている模様。
ホントにまあ、人ってのは欲張りが多くて困るな。
なぜみんなで分け合おうとしないんだ。
さらに、魔法の使える種族が同族を集めて神に祈りをささげようと躍起になっているらしい。
いけにえを捧げることでさらなる力を得ようとしている模様。
つか、俺は一言も生贄をくれなんて言ってねえわけだが。
なぜ勝手に思い込みを暴走させるんだ。
しかも、人間素因の病気が蔓延していたり、つまんない意地の張り合いがあったり、頭の悪いカッコつけが流行っていたりで、うん……。
もうさ、テンプレすぎて逆に大ウケだ……何この残念感、げっそり感。
さっきの三人は、業突く張りのお偉いさんのお抱えチームらしい。
姉ちゃんは隣の国の真面目な役員、悪事のしっぽをつかもうと一人乗り込んできて、ビミョーにはめられたと。
こっちもまたテンプレど真ん中のキャラだったという事かい。
「この世界´、マジでホントどうしようもねえ……。」
「も~、神様が何もしないからこんなことになっちゃったんでしょ!!その子どうするのさ!埋めるの、埋めないの!!」
びっしゃびっしゃ!!
牛は文句を垂れつつ、いろんなものも垂らしている。
ここには藁がない、混ぜることはできそうにないからあのままだな‥‥。
「う、うーん・・・。」
おお、姉ちゃんがようやく目を覚ましたようだ(二度目)。
いずれにせよ、まずはこの世界にすむリアル住民の話を聞いてみない事には始まるまい。
なにか世界をまとめるヒントをもらえるかもしれない。
なにげに初の対話だ。
……いままでは素直に殺してあげてばかりだったからなあ。
痛くないように、気持ちよく死なせてばかりだった。
今回は、気持ち良く会話を楽しんでもらわないとな。
フレンドリーに、気さくな感じで、同年代の友達のような口調で…!!!
「目、さめた?あのさあ、ちょっと聞きたいことあってさ!!!」
俺は手首の無い右手を振って、はらわたを引きずりながら半分しかない頭部を横に揺らしつつ、表皮から体液駄々漏らしのなりで思いっきり微笑んで、あ、やべ、上あごまで落っこちちゃった、……あれ。
「・・・っ、ふ、ふぅん・・・・・・・・。」
なんだ、こんな百戦錬磨の聖騎士みたいなナリしてて、実はやけに気絶しやすいタイプ?!
強い癖に、なんだかんだ…か弱い女子?!
「ちょっ!寝ないで!起きて!俺の話、聞いてー!」
びっちびっち、ぴたぴた!
体液まみれのパーツで姉ちゃんの顔を叩くんだけどさ!
叩く度に姉ちゃんが汚れていくんだけどさ!
ぜんぜん、目、開けないんですけど?!
ちょ、話が進まないじゃないか!!!
やっとやる気になったのに!!




