第一夜
なんと三夜連続しますヘ(≧▽≦ヘ)♪
えらいことになってしまった。
まさかの、異世界転生である。
まさかの、チート持ちである。
まさかの、神任命である。
―――やあやあ、君に神様やってもらおうと思ってね、よろしく!これ、助手ね、頼むわ!!
―――はあ?!
―――初めまして神様!一生懸命お手伝いしますー!も~、めっちゃ待ってたんだからね?!
三年間の闘病生活が終わり、安らかに眠ったと思ったのもつかの間、まさかの展開がだな!!!
―――あ、肝心なこと言うの忘れてた、君くっころ神だから!!めっちゃ人殺してね!はりきって人増やしてね!
―――はあ?!
―――神様!!たーくさん殺しましょうね!たーくさん増やしましょうね!!僕も~めっちゃヤル気にみちあふれてますよ!!!
息苦しくない、体を自由に動かせる感動に浸る間もなく、とんだ押し付けが待ち受けていようとはだな!!!
―――ちょ!!待て!!くっころ神て何?!
―――君の中にくっころの知識あるでしょ!ああ、もう行かないと!じゃあね!!!
しまった、こんなことになるんだったら入院中にラノベなんか読むんじゃなかった。
おかしな知識なんかつけるんじゃなかった。
大人しい正統派の純文学でも読んどきゃよかったんだ、何やってんの、俺、俺、俺―!!!
「も~!まだあきらめてないの、いいかげん仕事しなよ!」
「絶対・・・やらん!!!」
前世で非常に体の弱かった俺はだな、それゆえに命の大切さを訴えたい気持ちや健康への憧れがあってだな!!!
「早いとこぬっころしてかないとさ、あっちゅー間に人口増えてもっとたくさん始末しないといけなくなるよ?も~そろそろ覚悟決めなよ!you!くっころパワー使っちゃいなよ!」
「増えていいじゃん!平和に暮らせばいいじゃん!なんでわざわざ殺すの!生き抜けばいいじゃん!寿命全うすればいいじゃん!!」
この世界はいわゆるテンプレ世界らしく、なんちゃって西洋風の、なんちゃって魔法世界で、なんちゃって貴族社会の、なんちゃってファンタジー、なんちゃってモンスター、なんちゃってご都合主義、なんちゃってギルド、なんちゃってダンジョン、なんちゃってなんちゃってなんちゃってなんちゃって…!!!
とにかく、非常にこう、流行りものの異世界転生ものそのものの世界が広がっていてだな、わけのわからない争いがあちらこちらでおきていてだな…!!!
ぶっちゃけ俺は難しい政治みたいな描写は全部スルーしてたからさ、どうにも知識がなくてさ!!
貴族階級とかも何となくの雰囲気で読んでたからまるで理解できてなくてさ!!
戦争の進め方とかも大雑把な流れしか見てなかったから戦術もくそもないしさ!!!
……はっきり言って、異世界をまとめあげる自信がない!
「どう考えても無理だ、この世界は詰んでる、なんで俺を神に選んだし!!!」
「わりと世界ってさあ、意地悪なんだよ。やだなあって思ってる奴にやらせたりさ、やれるわけねえって思ってる奴にやらせたりさ、何も考えてないやつにやらせたりさ、はりきって計画してる奴ミジンコに生まれ変わらせたりさ。まあ、見つかっちゃったから仕方ないよ、も~諦めて神様やるしかない。」
さっきから俺にいろいろと言ってる、このお手伝いくん。
物事の成り立ちってのとか、俺がするべき事とかをいろいろ教えてくれたりさ、愚痴聞いてくれたりさ、励ましてくれたりさ、笑わせてくれたりさ、泣かせてくれたりさ、非常に、ひじょーに有能なんだけどさ!!!
「ん、も~!!!」
・・・何で。
・・・なんで牛なんだよ!!!
普通さ、助手ってのはさ、もっとこう、マスコット的なかわいい猫とかウサギじゃん、なんでこんなでっかいよだれ垂らしまくりのリアル牛?!
ねえ、何でここ天界なのにハエ集ってんの?なんで俺、わらと牛糞混ぜてんの?!なんで俺、牛の表面ブラシでこすってんの?!
…まさか、俺が前世で丑年だったから、おうし座だったからっていう理由じゃ、ないよね?!
…俺!!なんで丑年の五月に生まれた?!なんで丑年の五月に…死んだアアアアアアアアアア!!!
「あ、そこそこ!そこかいーの!!も~っとギュって、怒りこめて擦って♡」
「ここか!!ここがかゆいんだな!!よーし!!!くらいやがれ!!!うおおおお!!!」
がっしゅ、がっしゅ!!ざり!ざり!!!
俺は疲れ知らずのパワーみなぎる体をフルに動かして、でっかい牛を…磨き上げてだなっ!!!!!!!!
混沌の異世界を見ようともせず、ただひたすらにウシの表面を見つめ続けてはや数年。
時折地上に降りつつも、イマイチこう、神様になりきれてない俺。
完全に場違いだ。
完全に空気を読めていない。
完全に人選をミスられた。
牛の世話なら多少自信はついたけどさ、神様やっていける気がしねえー!
・・・牛曰く、世界ってのは存在なんだってさ。
世界がある。
そこに、命がある。
世界の中にあるものは、すべて、ある。
命の中にあるものは、すべて、ある。
・・・つまりだ。
人が頭の中で考えた何かってのは、世界にとっては、あるものなんだそうだ。
人間はただの命だから、ある事にすら気が付けない、らしい。
人間はただの命だけど、世界の知らない何かを生み出す、らしい。
世界に限りはないから、どんどん何かが膨れ上がって、いわゆる世界´(世界ダッシュ)的なものがだな、増え過ぎちゃってだな。
ぶっちゃけ、手に負えなくなったらしい。
で。
神を作ろうって思ったんだってさ。
なんか便利そうって思ったんだってさ。
けっこうおもしろそうって思ったんだってさ。
で。
かなりハマっちゃったんだってさ!!!
神様任せってやつにさ!!!
神様の作った世界見物にさ!!!
命を自由にできるのが、神。
命の生み出したものを使えるのが、神。
命が減らないように目を光らせるのが、神。
人ってのは愚かなもんで、気を抜くとすぐに使役関係に持って行こうとして、まったく躊躇せずに殺し合い始めちゃうんだってさ。
下手に力与えると、その力振り翳して弱いのいじめて喜んじゃったり、殺した数競い始めちゃったり。
増やし過ぎても食いもん奪い合って殺し合ったり、殺したがりばかり増えちゃったり。
下手に研究重ねて、毒生み出して勝手に絶滅しちゃったり。
人は結局、世界の知らない何かを生み出す唯一だからさ、なんだかんだ貴重なんだってさ。
人がいなくなった世界は、ただ漠然と命が繰り返されるワクワク感のないものになっちゃうんだってさ。
ただ漠然と神に命をまとめさせていたんだけど、あるとき神に付加価値を付けたら、ずいぶん命が平和に増加したんだそうな。
愛に特化した、恵みを与える神。
死に特化した、安らぎを与える神。
夢に特化した、祈りを与える神。
そのた、もろもろ。
つまりだ。
いきなり神になって、命の生み出した何かを使いこなせずにやらかしてばかりいるあんぽんたんに、武器のようなものを握らせたわけだな。
あんたにはこの武器をあげるから、それを使いこなして異世界を発展させなさいね、そういうおせっかいが、押し付けが、絶賛まかり通っているのだ!
神は世界が適当に引っ張りこんだだけの、たまたま選ばれてしまった存在でしかない。
わりと神はやらかしがちで、ずいぶん世界´が消滅したらしい。
わりと神そのものを消滅させるのはめんどくさいらしい。
全部あって、全部使えるのに、使うものが多すぎてパニクって自爆するパターンをなくしたかったんだろうけどさ。
でも、何で!
なんでくっころを選んだ?!
なんでわざわざそんなものに着目した!
くっころ生み出したやつ、責任取ってここで神やれよおおおおおおおおお!!!
俺は、何を思ったか知らんが、くっころという武器をだな、無理やり…無理やり握らされたわけで!!!
昨今のおかしなラノベブームが、こんな所で牙を剥こうとは!!!
俺のくっころ能力は、実に意味のないものだ。
1, くっ、殺せ…!というセリフが吐かれたら瞬時にその場に向かう事ができる。むしろ強制出向。
2, くっ、殺せ…!というセリフを吐いた人の近くに人の姿で降臨することができる。
3, くっ、殺せ…!といった人物をいわゆる下僕化することができる。
なんでそんな場面にならないと地上に降りられないのさ!!自由に行かせてくれっての!!!
下僕?!若い男性の100%がエロいことに憧れ抱いてるとか思ってんじゃねーだろーな!手下が欲しいと願ってるとか思ってんじゃねーだろーな!
そんなんただの一般論だ!!
エロに興味の無い奴なんざごまんといるんだぞ?!人に何かやらせることに不安を感じる奴だってわりと多いはずなんだ!
だいたいだな、自分の事だけで精一杯なのに人の面倒見れるか!!!知らんやつに自分の世話頼めるかっ!!!アアア!!!マジ勘弁してくれえええええ!!!
そもそもだな、元々さあ、俺は平和主義者だし、善悪をはっきりしたいタイプじゃないんだよ。
誰かを追い詰めるのは趣味が悪いと思うし。
誰かを悪と決めつけるのは身勝手な思い込みだと思うし。
誰かを正義の位置に置くのは都合のよさを重視した言い訳に過ぎないと思うし。
立場が違えば、いいも悪いもないっていうかさあ…。
きゅ、きゅい・・・・
こ の お と は ! ! !
「あ、神様、来たよ!!くっころ!!よーし、出動だも~!!」
きゅ、きゅいいいいいいいいいいいいいいん!!!
「なんでいつも唐突にいきなりぃいいいいいいいいいい!!!」
あ、あああ、俺、くっころ場面に、たたたた、立ち合いに行ってきますぅうウウウウウウウウウ!!!
天界に渦が巻いた!
俺はそこに、巻き、巻き込まれぇぇぇ!
グゥえええええええええええ!!!気持ち、悪いぃイイイイイ!!!!!!!!!!!!!!!!!!