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第1章3話   「婚約者」

 ――ドラゴンのステーキを食べ終えた俺は、リンに王城内を案内してもらった。

 案内は数十分程度で終わり、俺は王城内の間取りを忘れないように意識した。

 そのままリンは大広間へと向かう。俺もその後に続く。

 すると、俺とリンの後ろをとぼとぼと着いてくる終焉の女神とやらが、

 

 「ねぇクウトさん」

 「どうした?」

 「トイレってどこでしたっけ?」

 「ここから東側にある廊下を渡ってすぐに右だ」

 「ありがと! 意外と使えるじゃない!」

 

 アリアは俺に向かって親指を立てて笑った。

 おい……俺はお前の道具じゃないんだぞ。

 俺はアリアの背を半目開きの目で追った。

 

 「王子様をまるで自分の下僕の様に扱って……許すまじ」

 

 俺の隣で、リンは怒りを募らせている様だった。

 俺は苦笑しながら「まあまあ」と宥めた。

 

 「あの悪女に最低な扱いを受けても、王子様はいいんですか?」

 「そりゃあ、いいわけないけども。そんなにお前が怒ることか?」

 「わたしとしては納得いきませんが……王子様がそう言うのであればわたしもあの悪女のことは、特別許しておくことにしましょう」

 

 リンは翡翠の瞳を密かに赫怒で燃やしながら言った。

 それに気付かないまま俺はリンの言葉に胸を撫で下ろした。

 すると、

 

 「王子様ぁーー」

 「え? ――ってわぶっ!?」

 

 俺はいきなり押し倒された。

 絨毯が丁重に敷かれた王城の床に尻もちをつき、俺は押し倒してきた人物を目に映した。

 

 ――赤髪で、空色の瞳をした少女だ。

 

 一体誰だ……?

 

 「王子様ぁ、やっぱり今日も可愛らしいですねぇ!」

 「ちょ、暴れるなよ!」

 

 俺は赤髪の少女に抱き着かれたまま小さな悲鳴を上げる。

 赤髪の少女が必要以上に俺を強く抱きしめてきて、骨が凄く軋んでいるのだが。

 涙目になりながら、俺は赤髪の少女を引き剥がそうとする。

 

 「痛い! 痛い! もう離れてくれ!」

 「何言ってるんですかぁ? 王子様は痛いのが好きじゃなかったんですかぁ?」

 「おい……こっちの世界の王子様とやらはドMでもあったのかよ……」

 

 こっちの世界の王子を恨みたい気分だ。

 

 「と、とりあえず離れてくれ!」

 「え~?」

 

 頼むから離れてくれ! これ以上この子に暴れられたら、俺は骨が折れる! 特に横腹!

 

 「お嬢様」

 「はいぃ?」

 

 すると、リンはにっこりと笑った。

 そして――、

 

 「――死にたくないのであれば、今すぐにでも王子様から離れてください。でないと今すぐ殺します」

 

 冷徹に言った。

 俺はリンの台詞に苦笑いして、心の中で「あらやだ、このメイドさん怖い」とつぶやいていた。

 

 「は、はい……今すぐ王子様から離れたいと思います。金輪際、二度と王子様には近づきません」

 「そこまでしなくてもいいんじゃないか?」

 「そうなんですかぁ! 王子様ったら優しいですねぇ、早く結婚式を開いて正式に付き合いたいですよぉ」

 「結婚式……? は?」

 「何を言ってるんですかぁ? 結婚式を開催するって、王子様は言ってたじゃないですかぁ。も~う、忘れちゃだめですよぉ!!!」

 

 なんと、俺はこの子と結婚することになっていたのだ。

 は? どゆこと?

 つまり、この世界の王子はこの子と婚約するということが決まっていたわけだな。

 そして、この子は王子と付き合うことになるから、この国の姫ということだよな。

 俺はその高貴な姫とやらを……はぁあああああああぁああぁぁあぁぁ!!!!

 

 「す、すみませんでしたぁあぁぁあぁあぁああ! 離れてくれだなんて、ひどい扱いして申しわけございませんでしたぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁあぁああ!!! どうか、どうか命だけはぁあぁぁぁぁあぁああぁ!!!!!」

 「そ、そんなに謝ってどうしたんですか? 王子様らしくないですよぉ?」

 

 日本では一番謝罪の気持ちを示す事のできる、『土下座』とやらを俺は姫にしていた。

 姫は態度を一変も変えず、ただ首を傾げていただけだった。

 

 「私は王子様にどんな扱いをされても嬉しいんですよぉ。だから気にしなくていいですよ」

 「はっ! ありがたき幸せ!!」

 「そんなに畏まらくてもいいですよぉ」

 

 俺は苦笑しながら顔を上げ、姫となる少女の隣に立ち上がった。

 

 「で、君の名前は?」

 「私ですかぁ、私はレミリーという者ですよぉ。それもぉ、王子様の婚約者ですっ!!」

 

 再びレミリーは俺に抱き着いてきた。

 しかし、抱き着く強さは変わらず……。

 

 「あぁ、いてぇ!!! やっぱり離れててくれ!」

 「むぅ、王子様はいけずですぅ……」

 

 俺とレミリーはお互いに、離れたり抱き着いたりしていた。

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