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夢でキミと出会った。だから、オレは変われた。(2020.1.6 改正)

作者: 水無月 ツクナ

 オレは大学を機に田舎から上京してそのまま就職した。二十七歳独身の会社員。

 今年の一月から日本でも広まり始めた空気感染するウィルスが今や世界中で猛威を振るっていた。


 今日も残業。定時を二時間も遅れての帰宅。

 昨年以前からもよく部署内で残業をよくする方だったが、今年になってからはさらに増えた。

 上司や同僚の手伝いならともかく、定時近くになって仕事を押し付けられたりする事もよくある。

 家族のために早く帰りたいとか理由を付けられるが、独身のオレには関係ない。だからか、周りの奴らから仕事を押し付けられる。


 今日は金曜でやっと休日だと思ったが、仕事を押し付けられて仕事を持ち帰る羽目になったのだ。


 オレは自分の車の後部座席にカバンを置いた。

 今年になってからノートパソコンを持ち帰る事が増えた。今日もノートパソコンが入ったカバン。

 オレは運転席に座るとマスクを投げるように外した。


「ったく。オレの仕事はもう終わったのに、休日まで持って帰って仕事しないといけないんだ。

 もう今月に入って何回目だ……。」


 オレはイライラしながらも帰り道にコンビニで弁当と朝食用のパンを買って帰る。

 郵便受けに入ったチラシやオレ宛のダイレクトメールをテーブルに投げると、買ってきた弁当の蓋を開ける。


「最近、忙しくて家と会社の往復だけでまともに外出してないなぁ…。

 まぁ、感染リスクを回避するにはちょうど良いし、買い物も通販で済ませれるし…。


 もう十一時か…。

 今日はこれ食べたらさっさと寝るか…。

 うん?」


 オレはテーブルに投げた郵便物の中から一枚のハガキが目に留まった。


  ――同窓会のお知らせ――


「今年も高校の同窓会なんかするのか…。

 外出自粛が出てるのにか……。


 今年の同窓会はリモートかぁ。酒や食事なんかは各自用意するのか…。

 返事は必要ないか…。


 まぁ、毎年参加してないし、今年も参加しなくていいか…。」


 オレは手に取ったハガキを元の場所に戻し、弁当で腹を満たし、シャワーを浴びた。

 そして、そのまま倒れるようにベッドにダイブして夢の中へ。



 夢を見た。

 あまり良く覚えていないが、小学生の時よく遊んだ公園。

 誰かと一緒に遊んでいた。誰だ? よく覚えていない…。否、正確には良く分からなかった。

 白い人の型をしていた。小学生のオレと同じぐらいの身長。顔も服装も解らない。


「あれは誰だ……。あの頃よく遊んだ雄二か? それとも田中?

 いや、あいつらじゃないな…。


 まぁ、どうせ夢の話だ。そんな事より持って帰った仕事をさっさと済ますか。」


 オレは簡単に朝食を済ませ、会社のノートパソコンの電源を入れる。



 ――三時間後――

 オレは昨日、持って帰った仕事を片付けた。


 時計を見たら、もう午後三時を過ぎていた。


 就職してからずっとこんな生活が続いていた。

 月曜から金曜は朝から晩まで会社で過ごし、土曜は正午ぐらいまで爆睡。午後は大型スーバーでまとめて買い物。衣類や書籍、そして飲み物や買い置きのカップ麺など日持ちしやすい食品を買って帰る。


 買い物から帰ると夕方になっている。就職した頃は、自炊もしていた事もあったが四・五年は全くしていない。時間もなければ作る気にもなれない。

 食事はただ空腹も満たす為、体にエネルギーを補給する為の行為。


 今日は久しぶりのスーパーで買った作りたての弁当を片手に撮りためたドラマやアニメを見ながらの早めの夕飯。


「コンビニの弁当も最近は美味しくなったが、やっぱりスーパーの手作りの弁当も良いよな…。

 平日は仕事が終わる頃には、気力も体力も残ってないから近場で済ますんだよな…。」


 一週間撮りためた番組を半分ほど見終わると、ふと時計を見た。もう、十時を過ぎていた。今日こそはちゃんと湯に浸かろうと思っていたので、テレビを消して、風呂の準備をした。

 休日の楽しみの一つとなった入浴剤。

 ゆっくりと湯舟に浸かり、湯上りのコーラが染み渡る。


 日曜日、昨日買ってきた本を読んだり、続きの番組をみたりしてまったりと過ごしていると気付いた時にはもう日が暮れかけている。


 オレは、いつも通り休日を過ごし、月曜から金曜は朝から晩まで仕事。


「今週は持ち帰りの仕事はないか…。

 しかし、同じ会社にも感染者が出てきたかぁ…。

 来週からは月・水・金が出社で、火・木は在宅ワークかぁ…。」


 オレは、いつも帰りによるコンビニで新商品の弁当を買って、食べたらシャワーも浴びずにそのまま眠った。



 いつもと同じ誰だかわからない白いヤツが教室内で立っている。

 この教室は…。


「ここはオレが通っていた小学校か…。」


「そうだよ。よく覚えてたね。」


「お前は誰だ? 雄二でも田中でもない。

 誰なんだよ。お前!!」


「ボク? ボクはボクだよ?

 キミは覚えてるハズだよ。


 まぁ、そんな事は置いといて。

 この絵、覚えてる? キミが描いた絵だよ?」


 『ボク』は教室の後ろにクラス全員が描いた絵の中から一枚を指差す。

 オレは絵を見た。が、そんなの絵を描いた記憶すらなかった。

 『ボク』は俺の腕を引っ張って廊下へと連れて行った。

 廊下には習字の時間に書いた半紙が張り出されて、一番上には『夢』と書かれた画用紙が一枚。

 オレは『ボク』と一緒に眺めていたら、『ボク』が急に立ち止まり、一枚の半紙の前で『ボク』が指差した。



 そこでオレは夢から覚めたのだった。

 あの頃、オレは何を夢見ていたのだろうか…。


「何、書いたんだったかな?」


 オレはハッとした。あれは夢だ。何、昔の思い出に浸ってるんだ。

 オレは、今日も持ち帰った仕事があった事を思い出し、食料品だけ買って早々に帰宅。

 土曜の午後と日曜は夕方まで会社のパソコンと向き合った。


 先週とは違い不規則だが、在宅ワークになっても仕事量が減らない。

 むしろ、リモート会議や同僚たちとのやり取りが増えたりして仕事量が増えて行った。


「体調不良とかで休んでる奴が多い分、こっちに仕事が回ってくるだよな…。」


 オレは在宅ワークになってから、一人愚痴をこぼす事が増えた。

 同僚との通話は職場と変わらないが、同僚の子供やペットが乱入されたりしてさらにオレはイライラとした。


「独身のオレへの当てつけかよ…。」


 朝から晩まで仕事。在宅になっても変わらない。

 変わった事とすれば、出社した帰りにコンビニで冷凍食品など在宅中の食事をついでに買って帰るだけ。

 気付けば、もう金曜日になっていたのだ。



 今日の『例の夢』だ。

 『ボク』は少し輪郭や表情が読み取れるぐらいには見えていた。

 場所は、通っていた高校の近くにある商店街。


「ねぇ。このお店、覚えてる?」


「あぁ。よく部活のヤツと買い食いした店だろ…。

 あれ? 確か、大学の頃に潰れたんじゃ…。」


「そんな事よりもあっちの喫茶店。

 キミが初めて付き合った彼女とよくデートに使ってたよね?」


「あ? なんで、そんな事をお前が知ってるんだ。」


「ふっふふ…。それは秘密だよ。」


 オレの夢に『ボク』が三回も出てくれば、自然と慣れる。

 オレは昔から知っているかのように『ボク』との会話を楽しみ、喋りながら商店街の中を歩いていく。

 商店街の終わりになった頃、また夢から覚めていた。

 オレは、昔馴染みと久しぶりに話したような感覚が嬉しい気がしたのだ。


 仕事に追われる日々、オレは次第と金曜の夜が待ち遠しく思うようになった。

 また、『ボク』と他愛のない話がしたい。



 また地獄のような一週間の始まりだ。

 土曜に買い出しに行き、日曜も返上して仕事。週に三回の出勤日。


 オレは入社当時から会社の奴らと必要最小限のコミュニケーションを取っていなかった。

 初めての飲み会で急性アルコール中毒を引き起こし、一晩病院でお世話になって以来、職場の飲み会にも一切誘われなくなった。

 上司からも『営業向き』ではないと言われ、入社してから一度も営業に行った事がない。

 その代わりに同僚の資料作りから雑用までさせられ、オーバーワーク。

 オレはインドア派で陰気、人見知り。そんなレッテルが会社の中で勝手に構築されていた。

 学生時代はそこまでインドアでも陰気じゃなかった。

 が、就活の時、十何社も不採用を貰ってすっかり、自信を無くしたのだ。

 就活の時、周りの友人たちが内定を貰っている中、最後まで取り残された。


 あの時以来、常に胃腸の調子が悪い。「病院に行っている暇があるなら会社を回って内定を取って来い。」と父親に言われた。


 今週もやっと金曜日になったのだ。

 オレは定時で退社出来た。が、その代わりに上司に多くの仕事を渡された。

 いつもより早いが、コンビニで弁当を買って、家で食べながら仕事を片付けていく。

 気付いた時には、すでに午前一時が回っていた。

 オレはシャワーを諦め、そのままベッドに入った。


 念願の夢の時間だ。『ボク』とやっと話せる。



「久しぶり。今日という日を待ってたんだよ。」


「どうしたのさ? そんなに待ち遠しかったのかい?」


「あぁ、お前と話したくて一週間、仕事を頑張ったんだ。

 ここって高校だな?

 あれ? お前ってこんなにはっきりしていたっけ?」


 オレは『ボク』を見て驚いた。まだはっきりと誰とは分からないが、どこにでもいる奴である事だけは解ったのだ。


「『ボク』は『ボク』だよ。何も変わっていないよ。

 変わったとしてたら、それはキミの心が変わったからだよ?


 それよりもキミはバスケット部だったよね?

 じゃぁ、体育館でバスケしよう。」


 そう『ボク』が言うと、真っ暗になって気付いたら体育館の中。

 『ボク』はバスケットボールを持って、パスを出してきたので咄嗟に受け取った。

 オレと『ボク』は、ゴール前で一対一の試合をする事になった。


 もう何回目の攻防戦。勝負は同点で決着が付かない。

 これで何度目だ。オレがボールを取ったら、『ボク』も取り返す。

 また、オレは『ボク』にボールを取られた。すると、『ボク』がスタート地点に戻るかと思ったら、『ボク』はそのまま座り込んだ。

 オレたちは息を切らし汗だくで、結果が出ない内に終わらせた。


「ねぇ。キミもこっちに来て座らないか?」


 『ボク』がオレを誘うので、オレは『ボク』の隣に座り込んだ。

 オレは違和感を感じた。『ボク』のプレースタイルだけじゃない。

 小さなクセまで『オレ』にそっくりである事。


「なぁ。お前は誰なんだ?」


「それはもう『キミの中』で答えは出ているんじゃないのかな?」


 『ボク』がそう言うと『ボク』の内から強い光が発せられた。


 そして、オレは目を覚ました。

 夢で見た『ボク』。途中から何となくそうじゃないかと思っていた。

 強い光の中で、薄っすらと見えた『ボク』。


 そう『ボク』は学生の時の『オレ』だったのだ。


 今のオレと違う明るくて、自分から率先して仲間を作り、周りの奴を巻き込んで色々無茶をした。大人に見つかって、よく叱られていた。


 忘れていた。昔の自分を…。

 なんでもポジティブに考えて、周りを巻き込んでまで好きな事をやっていた。

 高校バスケ部の時はキャプテンでチームのみんなを引っ張った。成績は残せなかったが、一生忘れられない思い出を作ったとあの時のオレは胸を張っていっていた事を……。



 いつの間にか泣いていたオレは涙を拭いた。


「こんな歳になってみっともねぇ…。」


 オレは顔を洗ってからテーブルで朝食を取ることにした。


 ふっと一ヵ月前ぐらいに届いたハガキ。『リモート同窓会』のお知らせを思い出した。


「確か、まだこの辺にあったはず。」


 郵便物が散らばった場所から一枚のハガキを掘り起こす。オレは内容を良く確認した。


――同窓会のお知らせ――


 会場:〇〇でのリモート同窓会

 日時:1月2日(土) 午後七時から~午後八時半まで(予定)


「久しぶりに参加してみるか…。」


 オレは三年前を最後に今まで連絡しなかった友人。小学校から大学まで腐れ縁だった男に電話をしたのだった。

 三年ぶりの友人との電話はあの頃と変わらないやり取りだった。変わったとすれば、友人が大学から付き合っていた彼女と結婚をしていて、もうお腹に第一子がいると言う。

 『こんな大変な時に出産をするとは…。』とは思ったが、アイツの嬉しそうな声、そして夫婦と同居しているアイツの両親と一緒に頑張る。と言っていた。


「いつの間にあんな立派な事を言うようになってたんだ…。

 学生の頃は、一緒にバカやって親に怒られていたのに…。

 …………。

 親かぁ…。最後にまともに電話したのは就職が決まった頃だったかぁ…。」


 久しぶりに実家に電話をした。電話に出たのは母さんだった。

 電話越しの母さんは、「いきなり電話して驚いたわ。」と言いながら軽く鼻をすすっているようだった。感染はしてないかとか、仕事はどうしたとか色々聞いて来た。

 オレは母さんに不安させないように答えていく。とりあえず、父さんも母さんも元気にやっているようだ。


 母さんと話した後、オレはまだ終わりの見えない仕事の山に取り掛かる事にした。



 12月30日が仕事納めだ。それまでに今年中に終わらせていけない案件を中心に片付けていった。リモートや会社で同僚たちがオレの雰囲気が変わっただの、恋人でも出来たのか聞いて来た。今までなら適当に答えてその場を去っていたが、笑いながら談笑をした。


 年が明け、正月になった。毎年、初詣には行ったり行かなかったりしていたので今年も行かなかった。おせちなんかも面倒なので用意していない。

 正月の特番や撮り溜めていた番組、買ってそのままだった本やゲームをした。


 1月2日は、昨日と同じように好きなように自分の時間を費やした。気付けば、空は暗くなっていた。

 オレはカーテンを閉め、近くのコンビニで適当に食料品を買ってくる。

 もちろん、アルコール類は一つもない。


 同窓会では高校三年の時のクラスメイト。四十人中、八人だけだった。中には自宅ではなくカラオケボックスやビジネスホテルから繋いでいた奴もいた。

 幹事であるクラス委員長だった奴が担任だった恩師は遅れて、三十分後に参加すると言っていた。

 オレ以外はビールやカクテル。ウィスキーなんかを飲んでいる奴がいた。周りの奴らからオレがコーラを飲んでいることをからかう奴もいたが、先日連絡した友人が会社の歓迎会の時、急性アルコール中毒になり救急車で運ばれた話をバラされたが、おかげでみんなからの追求は免れたのだ。

 久しぶりの恩師は思っていたよりそう老けていなかった。もうとっくに定年で教師を辞め、代わりに趣味に忙しいらしい。


 同窓会の前半は皆、思い出や楽しい話題ばかりだったが、後半で酒が回り出したら溜まっていた家庭や、職場などでの愚痴をこぼす奴らが増えていき、次第に今回の騒動や感染者に対しての愚痴…いや、暴言を吐き出した。

 それに対し、恩師である元・倫理担当だった先生が日本酒片手に説教を始めたのだ。


「人とは弱いモノで、目に見えない不安や恐怖から目を背け、誰かに八つ当たりをしたり、傷付けたりして、それらのストレスとかを解消するもんだ。

 わしはな、お前たちには目を逸らさず立ち向かって貰いたい。

 今、苦しんでいる人がたくさんいる。お前たちの周りやお前ら自身がそうかもしれん。

 だが、わしはお前たちに人を気遣える人になって欲しいと思う。


 『情けは人の為ならず』だ。

 人に情け、親切にすると自分が困っている時に回り回って自分の元へ手助けしてくれると言う事だ。」


 オレは恩師が『悟り』でも開いたかと思ったが、恩師は知り合いの住職が言っていた言葉だそうだ。



 1月3日。遅くなったが、改めて実家に電話をした。母さんと父さんに新年の挨拶を済ました後、母さんがオレを心配して地元に帰ってくる気ないかと聞いていた。


 オレは、今の心の内を母さんに素直に話した。一人暮らしを大学から初めて、就職も決まり、一人前になったような気がしていた。

 仕事に追われて独りよがりになっていた。色々、仕事を任させて頼れていると錯覚していた。無理なら無理と言えば良かった。

 今回の騒動が収まったら、地元に戻って転職を考えている事も話した。

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