出血大サービス!
……えーと……?
テーブルにはこれでもかと言わんばかりにスイーツがのってます。のせすぎて一切の余地がないです。
正面に座るゼファス様はいつものように無表情で、紅茶の入ったカップを口に運んじゃったりしてます。
ミルヒが甲斐甲斐しくゼファス様のお皿にアップルパイをのせたりしてる。っていうかアップルパイ何処にありました? 私も食べたいです。
ゼファス様に呼び出されたんですよ。突然。
お菓子は要らないから今すぐ来い、って。
喪中なんで、こっそりですけど。
で、来てみたらスイーツフェスしてて。このスイーツ男子一体何やってんのかなと思ったんですよ、最初は。
「フォンダンショコラは早めに食べたら? 冷めるよ」
そう言ってアップルパイを口に運ぶゼファス様。
そのフォンダンショコラ何処に?
テーブルの上がスイーツ神経衰弱出来そうなぐらい並んでて、なにがなにやら。
セラがアップルパイを見つけてくれて、私のお皿にのせてくれた。よく見つけられたね? ところでフォンダンショコラは何処ですか……?
「どうなさったのですか? 遂にストレスが?」
爆発しての自棄っぱち一人スイーツフェス?
「別に。あれこれ食べたくなったから作らせたけど、一人で食べきれないから呼んだだけ」
ミルヒがへらりと笑って、「殿下が近頃、食欲を失ってると知って心配になったようで」とネタバラシをしてしまう。
「あいたっ」
飛んできた何かが頭に当たったみたいで、ミルヒが頭を抱えて蹲ってる。
……前から思ってたんだけど、ミルヒって怖いもの知らずだよね?
私もつい失言するけど……ミルヒのは命知らずだなって思うの。ゼファス様相手なら許されると思うけど、他の相手とかは気を付けたほう良いと思うヨ。ルシアンとか……。
「いいから食べなよ」
「はい。いただきます」
アップルパイを口にする。
んー……絶妙な酸味とりんごのフィリングの程良い食感。さすが皇城のパティシエ。
ちなみに、私が口にするものはすべてセラが毒見をするんだけど、今日は畏れ多いことにゼファス様がしてくれているようだ。
……心配させちゃってるなぁ。並んでるお菓子、私が好きな奴ばっかりなんだよね。食べたくなったなんて言ってるけど、私の為に用意してくれたんだろうなぁ。
本当にこの人は。なんでこんなに良い人なんだろうか。天邪鬼だけども。
「カフェも順調に進んでる。ギルドも問題ない。無駄に溺愛してくる夫もいて、何が不安なの」
無駄に溺愛って……言い方。
「私も考えることはあるのですよ?」
「そりゃそうでしょ。でもだからって食事量は普通に考えて減らない」
最近やたらとルシアンに食べさせられるのもそれだって分かってるんですけどね。問題ないって言ってるんだけれどね。どうも過保護で。
「ゼファス様」
「なに?」
「フォンダンショコラは何処ですか」
「あっち」
指さした方向を見る。
テーブルの端だな?!
アップルパイを食べ終わったらいただこう。
「誤魔化そうとしても無駄だから」
いやいやいや、誤魔化すとか普通に人聞き悪いからね?
「量は減っておりますが、食欲がない訳ではありませんよ?」
「そうみたいだね」
そう言いながら亜空間と繋がるゼファス様の口にスイーツが吸い込まれていきます。
あっ、フォンダンショコラ食べてる。しかもちゃんとチョコがこぼれ落ちることもなく……。やりおる。
「あっちに魔素があることが気になるの?」
「気にならないと言えば嘘になります」
魔力の器がない人達には魔素は毒だって教えられたし。マグダレナ様は罰を与えてるのかなんなのか、気にするなって方が無理って言うか。
「あちらに、マグダレナの民が行けば解決するのでしょうか?」
ゼファス様が不機嫌になる。
あ、もしかして私が行くと言うと思ってるのかな?
「私が行くという意味ではありませんよ?」
「当たり前でしょ。そもそも、正確な状況は何一つ分かっていないのに、いきなり行ってどうするつもり? 魔素と祈りの講義して欲しいの?」
一度聞いてみたい気もする。
それはさておいても、ゼファス様は無駄だと思ってるってこと?
「魔素は二つの要を持つ」
「二つ?」
教えてくれるらしい。
なんだかんだ優しい。
「我らマグダレナの民の体内に取り込まれ、魔力を生成する為に必要。
もう一つは大地、もしくは女神への祈りを捧げる為に必要」
……あれ?
ゼファス様を見ると、ようやく分かったか、って顔をされた。
「あちらの大陸は魔力を吸収出来るのですか?」
魔素は空から降るもの。
そのままでは大地は魔素を取り込めず、マグダレナの民が生成した魔力を受けることで潤う。
魔力を空に返せば女神への祈りになる。
空から魔素が降ってイリダとオーリーの大陸を覆ったとして、大地は?
ゼファス様の言う通り、分からないことだらけだ。
「大地も浄化されたということですから、可能性はあるのですよね?」
「まぁね」
マカロンを頬張るゼファス様をじっと見る。
アップルパイを食べ終えると、セラがフォンダンショコラののったお皿と交換してくれた。
「女神の意図を知る為に、リオンはラトリアを行かせるんだよ」
確かにラトリア様ならお義父様達の知りたいことをすぐに理解しそうだよね。
もしマグダレナ様が慈悲でもってあっちの大陸も魔力を吸収出来るようにしていたとして?
それ、オーリーとイリダの人は喜ぶかもだけど、マグダレナ様的にいいのかな?
……さっぱり分からん。
「ゼファス様、もう少し手がかりを」
私より絶対分かってるだろう目の前の人に聞いてみる。
「知ってどうするの」
あ、やっぱり知ってるんだ!
「教えて下さいませ」
「駄目。知る必要ないでしょ」
「何か新しいことを思い付くかも知れませんし」
「そなたが思い付くならルシアンが先に気付く」
ぅぐ。正論。
断固として教えないつもりだな?!
「食欲が増えるかも知れません」
ダメ元で言ってみた。
「…………千年に渡り、マグダレナ大陸に生きるオーリーやイリダの民達は、ただ毒に晒されていたと思う?」
教えてくれた!!?
「それはどういう……」
「魔力を内在する動植物を口にし、生き続けた民達の身体に何も起きなかったと思ってるの?
そなたが見つけた魔力の器を持ち得た平民達。誕生する規則性を考えたことはある?」
「それは、マグダレナの民の血が混じっていたからでは?」
とは言っても確実じゃなくて、覚醒遺伝とか、そんな感じだったような?
「それだけじゃない」
そうじゃない?
「絶対的な理由がある」
息を吐くと、ゼファス様は私から顔を背ける。
「終わり。もっと食べるように」
えぇっ?!
どっちかって言うとここからがイイトコじゃない?!
「ゼファス様ーっ」
「駄目」
「お父様!」
「駄目」
「パパ!」
「……駄目」
今、ちょっと心揺れたな。
……多分出血大サービスなヒントをくれたんだろうな。だとしたらここから先は自分で考えるしかなさそう。
一つわかったのは、やっぱりみんな凄いってことで。凄い人達いっぱいいるんだし、大丈夫なんじゃないかな、とかちょっと思ってしまう単純な自分。
とりあえずフォンダンショコラを食べる。
「とろっと感がなくなってしまいました」
「食べるのが遅いからでしょ!」
「ゼファス様が勿体ぶるから……」
「無理矢理食べさせられたいの?」
「メッソウモアリマセン」




