ファッジトゥユー
皇国圏内の各国に作られるカフェ。当然皇都にも作られております。
カフェ作りは順調みたいだけど、ギルドはどうなんだろうな?
休憩になるとこっちの部屋に来るダヴィドは、毎回セラにそっけなくされても何処吹く風である。今日も来てはお茶を飲んでる。自由だなぁ。
……私の部屋、カフェ化してない? 人が誰も寄り付かないよりは良いのか……?
「カフェに関して進んでいるのは認識しているけれど、ギルドの方はどうなのかしら?」
「カフェの道筋が立ちましたからねえ、ギルドも始まります」
緑茶を美味しそうに飲みながらダヴィドが言う。
情報を収集する為の基点となるカフェ。
マグダレナ大陸を包括的に支配する為にと皇家と公家が設立しようとするギルド。
「ミチル様がこちらの世界にあったら良いと思うギルドって、何ですか?」
「そうね」
商人ギルド、服飾ギルド、手工業ギルド、冒険者ギルド、建築ギルド、飲食ギルド……この辺がカーライルからスタートして各国に作られたギルド。
私的に欲しいのは医療とか教育なんだよね。
「民が安定した生活を送る為には、身体が健やかである事と教育の場が必要だと考えているの」
知識があるだけじゃ駄目だろうけど、知識がなければ騙されてしまうし。
「識字率という事ですか?」
まずはそこだよね。
都市部なら平民の識字率も高いみたいだけど。
「医療はギルドを作ったとしても、民がある程度資産を持たないと上手くいかないと思うの」
聞けば平民たちは自分たちで薬草をすり潰したり、村の老人たちから薬を分けてもらったりというのが普通だと言う。もはや呪いの世界。
貴族は医者にかかれるからそうじゃないみたいだけど。
なんかこう、文化のレベルが不思議なんだよね、この世界。
転生者がもたらした知識で突出したものがあると思えば、ここはこんなもんなの? っていうものだったり。
イリダやオーリーうんぬんは置いておいても、もっと水準を上げないといけないなって思う。
平民に知恵を付けて己の立場を危うくしたくないっていうのがあったんだろうけど、この大陸ではマグダレナの民しか魔力を生み出せないのがはっきりしたし、貴族と言うよりマグダレナの民の優位性みたいなものは担保されるんじゃなかろうか?
平民だけじゃなく、貴族ももっと賢くならないと駄目だよねー。権利に胡座をかいちゃ駄目ダメ。
「それはそうでしょうね」
そう言ってダヴィドは眉間に皺を寄せる。
「教会にその土台になって欲しいの」
「そうねぇ。それなら教会への求心力は増えそうだし、陛下や皇太子殿下、ひいてはリュリューシュ様の治世の為にも有効だと思うわ」
セラの言葉に私は頷いた。
教会を大切にするのがマグダレナの民だけじゃ駄目なのだ。ウィルニア教の事があってから平民にとって前よりは身近なものになったかも知れないけど、なくてはならないものにはなっていない。
「教育もそうなのでしょうけれど、まずはもう少し平民が育たなくては駄目でしょう」
前世では義務教育なんてものがあったけど、発展途上国にはないものだった。そしてそういった国の富裕層と貧困層の格差は簡単に埋められないものだった。
「大怪我や大病を患ってまともに働く事が出来ない人たちにも出来る仕事を割り当てるようにしたいとも考えているわ」
そう言った人たちにお金だけ渡すのは良くないと思ってる。人は簡単に易きに流れる。
働かないでもお金がもらえたら働かないだろう。そしてそんな人たちを見ていたら、他の人たちは労働意欲を失う筈だ。私ならやってられないって思ってしまう。
「必要なものだけを支給するって事ね。確かにそれなら働けないフリをして不正に金銭を受け取ることは不可能ね」
本当か嘘かは分からないけど、不正受給なんて言葉がありましたからね、あっちでは。
別に無理をしろって話じゃなくて、出来る事を少しでもやろうよって話。社会との繋がりも大事だと思う訳ですよ。
「救いが必要な者は助けなくてはならないけれど、安易な助けはその者の為にならないでしょう? あくまで一助であって自立を妨げるものになってはならないの。支えきってはいけないのよ」
正直者が馬鹿を見るって状況だけは嫌なんだよね。心が折れちゃうよ。
頑張った分だけ報われるのが一番だけど、そんなのは土台無理だと分かってる。だけど頑張っても無駄だと思うような世界は嫌だよね。
綺麗事かも知れないけど。
「生活水準が安定して初めて、医療ギルドと教育ギルドは機能するでしょう」
ぽんとダヴィドが手を打つ。
「それ、面白いですね」
面白い? とセラが聞き返す。
「各国は他国からそう言う目で見られるって事ですよ。誤魔化していた国力が目に見えるってことです」
その目線はなかった。
でも確かにそうだ。
今までは平民に必要以上に知恵を付けさせたくなかったで済むけど、これからはそうはいかないって事なんだ。
「貴族なんて見栄っ張りが多いですからね、他国からあの国はと笑われる状況をよく思わないでしょう。ギルドを設置するかどうかの判定は皇国公家が行うとなれば賄賂でどうにもならない」
公家は確かに資産を持ってるから、多少の賄賂じゃ靡きそうにない。そう言う意味で公家が今回の話に参画してる事は良かったのかも。
楽しくなってきましたと、それはそれは良い笑顔で言うダヴィドにセラが苦笑する。
競争は悪い事ではない。相手より上に行く為の手法を間違えなければ。
「副産物があるかも知れないわね」
セラを見るとこっちも楽しそうに笑ってる。
キレイな笑顔だけどこれ、悪いこと考えてる奴だ。
「やり甲斐がありそうだわぁ」
……やっぱりアルト一門って……(怯)
皇都と言えばファッジが有名。カフェでもファッジ専門店から仕入れる事が決まってるらしい。
そのまま食べるのも良いけど、せっかくだし別の食べ方をしてみたいなぁ。
楽しみたいよね。味も大事だけど見た目も大事。
ピラミッド状に重ねられたファッジを眺めながら、良い案がないかを考える。
このまま食べても美味しいけど、うーん……焼く?
どろっどろに溶けて惨劇の幕開けになるだけか……。いや、待てよ……? 溶ける……溶かしちゃう?
そういえばホットミルクの中にスティックの刺さったチョコレートの塊を入れてかき混ぜて溶かして飲む、なんてものもあったなぁ。
パンケーキにシロップ代わりにファッジをのせて溶かすとか? 小さいバーナーみたいなのはこっちの世界にはないだろうから、アルコールランプみたいなものの上にガラスの容器を置いて、そこにファッジを入れて溶ける様子を楽しみつつ、パンケーキにかけるとか。目の前でそういったのを見るのは楽しいかも知れない。
これならナッツが入ったファッジなんかもかけられるよね。飲み物にナッツ入りファッジを入れたら口の中が忙しくなりそうだけど、パンケーキの上に溶かすなら良さそう。
早速当家自慢のパティシエに頼んで用意してもらうことにしよう!
上手くいったら糖分大好きゼファス様と食べるぞ!
「ミチル、口を開けて?」
パンケーキを私の口元に運ぶルシアンの笑顔が怖くて見れませぬ。
とろりと溶けたファッジがかかったパンケーキは美味しいんですけどね……ナッツとかドライフルーツなんかものってて。
でもね、怒ってるんデス、ルシアン様が……。
「美味しい?」
「オイシイデス……」
何故私は責め苦にあってるんだろうか……。
今回はちゃんとルシアンに最初に味見をしてもらってからゼファス様の所に行こうとしたのに……。
私の知らないお作法がまだあったのか?
「あの……ルシアン?」
「なぁに?」
「……怒ってらっしゃるのですか?」
「えぇ」
認めた! いつもはそんな事無いって否定するのに認めた! めっちゃ怒ってるって事?!
「己にですが」
ルシアンがルシアンに? なして?
何故だか分からないので、ルシアンの表情を伺う。
笑顔のままルシアンはパンケーキを自分の口に運ぶ。ファッジがかかってすっごい甘いのに!
「甘いものが不得意な事が弱点になる。そんな些細な事はどうでも良いんです」
え、良いの?
良くない気がするよ?
ホットミルクにスティックの刺さったチョコファッジを入れてぐるぐるかき回すルシアンが怖い。
溶け切らずに残ったファッジがついたスティックを口に入れてかじる。
ぅわぁ……こう言う仕草も色っぽいとか、さすが色気の化身。怒ってるのすらスパイスなのか?!
「私が甘いものが好きであれば、ミチルは何度となく私と共に過ごしてくれたのだろうと思うと、己に苛立ちが募って仕方ない」
えぇ……そんな無茶苦茶な……。
「ルシアン、無理は良くありません。苦手な事は悪い事ではありませんよ?」
甘いものが苦手な男性の方が多いんだし、別におかしなことじゃないのに。
……って、そう言う話じゃないんだろうな。
ルシアンの手が伸びてきて頰に触れる。
ひぇーっ、謎の緊張感!
「もっとミチルと甘い時間を過ごしたい」
私の心臓がヤバそうですけど……。
「す、過ごしてますよ?」
声がうわずってしまった……!
いや、でもさ、毎回毎回新鮮な気持ちで思いますけどこの色気の暴力!
殺傷力が高すぎる……!!
「もっと」
一瞬心肺停止になるかと思ったのを気力でカバー。深呼吸深呼吸。
め……目指せ雑食女子!
「もっとミチルを甘やかしたい」
お……っ、お許しをーー!!




