予想外の選択
ゼファスの従者 ミルヒ視点です。
ゼナオリアからの返事を読み終えると、ゼファス様は鼻白んだご様子で、書簡を机へと放り投げられた。公式文書となるものに対する雑な扱いと表情から、ゼファス様が望まれていたような結果ではなかったのは嫌でも分かる。
「ご希望に沿わないお返事だったようですね」
放り投げたままだとこの後の政務の邪魔になる。
回収して関係する方達にご覧いただいた方が良いだろうと、ゼファス様に声をかける。
「希望する結果なんかないよ。誰をゼナオリア王が選ぼうとどうでも良いんだから」
「国益ですとか……?」
教会の事しか知らない私にはよく分からないので、適当な単語を口にする。
今もこうしてゼファス様の側に仕えているものの、雑務をこなすのが精一杯である。
カテドラルでの日々が懐かしい。
……あの頃は良かったなぁ。
ミチル殿下も手伝って下さっていたし、外に出かける余裕もあったし。
「そなたなら誰を選ぶ?」
また、ご無体な質問を……。
「シンシア様でしょうか」
無難な選択肢として。
皇女シンシアはかろうじて皇族と呼ばれているものの、皇位継承権は剥奪されてしまった。
何故ハイネスの称号を奪わないのかと思っていたけれど、皇女シンシアからその称号を奪うにはミチル様のお身の上に起きた事を明らかにする必要が出てきてしまうとの事だった。
魔力の器を持たない皇女は皇室の一員として認められない。公家に嫁がせる訳にもいかない。かと言って新しい家を興す事も許されない。
今回ゼナオリアの王に嫁ぐのに最適、と私は思ってしまう。
「ゼナオリア王はアレクシアを選んだ」
「……絶対に選ばれないと思っておりました」
本当に。
アレクシア様はアルト家に仕えるサーシス家の次男に嫁いだと聞いていた。子供もいたらしいのに、突然離縁したと言われ、それだけでも驚いたのに。
まさかゼナオリア王が選ぶなんて。
……人の妻だった方がお好みとか……そう言った特殊な……。
「あいた」
ゼファス様から何かが飛んできて頭に当たった。
「くだらぬ事を考えていたろう」
よくお分かりに。
「アレクシアがヒメネスの妻に宛てた手紙が切っ掛けで離縁になった事を、王が不憫に思い娶りはするものの、子をもうける事は友を裏切る事になる為、考えていないそうだ」
アレクシア様、そのような事をなされたのですか。然しもの私もそれはよろしくないと分かる。
「私如きにはよく分かりませんが、上手く言い逃れているような気がします」
ゼファス様から紙を丸めたものが飛んできたので、甘んじて頭で受ける。
「ですがアルト公がおられるのですから、何も心配ないのでは?」
「……リオンがいるから余計に面倒なのだろう」
「以前はアルト公のなさりようを楽しんでご覧になっておられたではありませんか?」
「それとこれは話が違う」
今のゼファス様は守りたいものがお有りだ。
「アレクシア様がゼナオリア王妃になられる事に何か不都合がお有りなので?」
「誰がなっても同じだよ」
ゼファス様の苛立ちの理由が分からないでいる。
「あっちの狙いはアレなんだから」
あぁ、なるほど。
アレとはミチル様のこと。
捻くれているゼファス様はお名前すらそんな風に誤魔化して呼ばない。
年々捻くれ度が増していくような気がする。
ミチル様、何とかして下さい。
「お守りになられるんですか?」
私の問いに、ゼファス様がむっとなさる。
「当然でしょ」
「ミチル様を守る存在がおられるのに、ゼファス様もですか?」
いくらリュリューシュ様がゼファス様のご養子に入られるからとか、以前親子関係であったと言ったところで、今は他人なのに。
「アレは──ミチルは私の娘だ。夫がいようと、祖母がいようと関係ないよ。
何度も手出しはさせない」
「ミチル様にもそうおっしゃって差し上げればよろしいのに」
「うるさいよ」
また紙の丸まったのが飛んでくるかと思ったら、硬いものが飛んできた。
……痛い。




