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転生を希望します!【番外編】  作者: 黛ちまた
イケメンカフェ リターンズ?

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慈悲という名の怒り

時は少し遡り、イリダが新政権を立ち上げてしばらく経った頃。

ミチルが目覚めた後になります。



目覚めたケツァ視点です。

(ちょっと短めです)

 新しいだけでは足りない。

 それでは許されない。


 良い国と言うのが一体何を示すのか、オレには全く分からなかった。

 これまで通りではいけないと言う事だけは間違いないが。


 悩んでいたオレは、妻となったアニーに尋ねた。


「アニー、君の幸せはなんだ?」


 子供をあやす為に身体を上下させながら、オレを見る。


「私の幸せ? そんなの、愛する人と過ごす事よ」


「うん、それはオレもそうだ。その幸せを維持する為に必要なものって、なんだろう?」


 イリダ王家の人間として、何不自由なく生きてきたショロトル。でもアイツは幸せじゃなかった。

 物理的には満たされてはいたんだろう。物ならば何でも手に入った。それでも足りなかった。

 欲しいものはそれではなかったから。


「笑顔じゃないかしら」


「笑顔」


 そうよ、と言ってアニーはヨナタンをオレに押し付ける。

 頰を撫でると、ふわふわと表現したくなる程の柔肌の感触がした。


「ヨナタン」


 アニーが付けた名。

 目覚めたオレに、アニーは言った。

 貴方もこの子に名前を付けてあげて。


 頭に浮かんだ名を、付けた。


 オセロトル

 ヨナタン・オセロトル・ミクトランテクートリ


 六歳になった我が子はもうすっかり大きくなった。まだまだ甘えたい盛りのヨナタンを、アニーは重いと言ってオレに抱かせる。

 父として何をするのが正しいのかを知らないオレに、そうやって教えてくれる。


 オレの腕の中で声を上げて喜ぶヨナタンの笑顔。

 顔を上げればアニーが目を細めて微笑んでいた。


 ……あぁ、そうか。

 幸せとは笑顔なんだ。







 オメテオトルの代わりにホルヘが民を率いようとしたが、上手くいかなかった。妻であるアニーもホルヘと同じように指導する立場にいた。

 革命を率いていたんだから、革命が済めば終わりではない。

 アニーの苦労を分かち合おうとすれば、必然的に皆をまとめる側となった。その事を良く思わない人間もいて、面と向かって文句を言われたし、陰で言われている事も知っている。

 それは仕方のない事だと受け止めている。襲われないだけマシだ。ホルヘやアニー達が根気よく説明してくれたからだと分かってる。

 もっとも、襲われたなら返り討ちにする。


 ホルヘがアニーの入れた酒を飲みながら、ため息を吐く。たまにこうして来ては、飲んで愚痴を吐く。

 指導者になったホルヘが弱音を吐ける場所は多くない。

 うちで言いたいだけ言っていけば良い、アニーとはそう話している。


「オレじゃあ駄目なんだ。同じ立場になって一緒に考えたりする事は出来るんだ。でも、引っ張っていく力がない。言葉に力が無いんだよ」


 そう言うものか。

 でも、ホルヘの言わんとする事は分かる。

 声に力をのせた話し方と言うのは確かにある。

 ショロトルは王となる為の教育を受けていた。

 同じようにとは言えないが、オレも少しは出来るが、オレに威厳なんて言うものはない。


「だからケツァ、おまえが指導者になってくれぇ」


 言いたい事を言うだけ言って、テーブルに突っ伏して眠ってしまった妻の従兄弟を、見つめる。

 多忙を極めて、満足に眠れていないのだろう。

 目の下の隈が酷い事になっている。一晩深く寝たぐらいでは治りそうもない。


 ホルヘに請われても、オレは指導者になんてなる気はなかった。

 手伝いはする。罪を償うと言う意味でも、必要だと思うから。でも、上には立てない。


 王として新しいイリダを率いる筈だったオメテオトルは、オレの中で眠っていて目覚めない。

 イツラコリウキは気が付いたら消えていた。

 ショロトルを守るようにして眠るオメテオトル。







 指導者兼、研究所の所長を務めるホルヘ。

 アニーは研究員として今も働いているが、オレは特にする事もないから、ヨナタンの世話をして、家の事をやっている。

 まだ不慣れでアニーの手を煩わせる事もあるけど、アニーはそれを怒りはしない。

 優しく教えてくれる。


 珍しく研究施設に呼び出された。

 ヨナタンはアニーの伯母に預かってもらった。


 所長室に入ると、アニーがいた。

 青い顔をしている。……何があったんだ。

 見ればホルヘも青褪めていた。


「ケツァ……」


 隣に立ったオレの胸に顔を埋め、アニーは細い肩を震わせた。


「……何があったんだ?」


 ホルヘは両手で顔を覆うと、絞り出すように言った。


「……魔素だ」


「魔素……?」


「この大陸を、魔素が覆っているんだ……」


 魔素。

 それはマグダレナ大陸にのみ存在する。

 女神マグダレナが己が民を守る為に大陸を覆ったものと聞いている。つまり、オーリーの民、我らイリダの民には毒になる。


「きっとあの時だ」


 女神の慈悲と呼ばれた光がオーリーとイリダ双方の大陸を覆い、浄化不可能と言われていたイリダ大陸の毒を消し去った。

 イリダとオーリーはようやく二つに分たれて、新しい国を作り、歩み出した……筈だった。


「そりゃあそうだよな……自分の民を殺し、征服しようとしたオレ達に、慈悲なんか与える筈なかったんだよ……皆殺しにしたいと思っていてもなんら可笑しくないよな……」


 そう言って、困ったように笑うホルヘに、オレは言葉を失った。

 ホルヘが差した先には厚い資料がある。


 アニーの背中を撫で、資料を手に取る。


 上がってきた報告書には、魔素が大陸全土を覆っている事。その濃度が数値として測定されていた。

 当時のマグダレナ大陸にあった魔素とは比べ物にならない程低い数値ではある。


「上がってるんだよ、数値が……」


 紙を捲る。

 ホルヘの言う通り、魔素の濃度が僅かずつではあるが、ゆっくりと上昇していた。

 濃度毎の人体への影響についても、随時確認されているようだった。


「なんだこれは……」


 ある時を境に、魔素の濃度が大きく上昇している。


「魔素は、分解出来ないのか?」


「魔素の分解に成功した直後なんだ、その数字は」


 思わず唾を飲み込んでしまう。

 これでは、意思を持って濃度を上げたとしか思えない。


「それでもまだ、人体への影響は抑えられている。だが、元から身体の弱い者達が不調を訴え始めているんだ」


 ホルヘを見る。


「女神はオレ達を許さない」


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