そこから頭を離そうよ?!
あの時の選択肢は二つ。
一つ目、死に行くルシアンと、時をおかずに死ぬ。
二つ目、自分の命を投げ打ってルシアンを助ける。
何度考えても、やっぱりルシアンを助けたいと思ってしまう。
その事でルシアンの心に消えない傷を付けてしまったけど、それでも。
ルシアンだけじゃなく、他のみんなにも。
たとえまた同じ状況になって、自分の命と引き換えに助けられるなら、迷ったとしても同じ結論に達すると思う。
十年後は分からない。自分がどんな風に変わってるか分からない。でもきっと、同じ道を選ぶんじゃないだろうか。
人はそんなに簡単に変わらない。だから何度やり直しても、私という人間は同じ結論に達するだろうと思う訳です。
「セラ」
「なぁに?」
「いつもありがとう」
セラは三度瞬きをした。
「変な物、食べてもらった記憶がないんだけど?」
ねぇねぇ、私が殊勝な事を言うとみんなどうして私がおかしな事になってるって思うのカナ?
ルシアンも熱があるんじゃないかって疑うし、失敬だぞ!
そもそもそんなに私、感謝とか口にしてないつもりないんだけど?
「食べておりません」
「そうよねぇ?」
怪訝な顔で見るの止めてもらって良いかな。さすがに傷付くからね?
「セラ」
「なぁに?」
のんびりした口調で返しながら、紅茶をカップに注いでくれる。
「私、逃げない事にしたのです」
セラは紅茶を自分のカップにも注ぐと、正面に腰掛けた。
「話、聞かせてもらうわよ?」
頷く。
「モニカに言われたのです。絶対に逃げられないものはあって、その時は逃げおおせたとしても、形を変えてまたやってくるのだと」
ラトリア様も、私も。
逃げてはいけない。逃げきれないのだ。
ラトリア様がアルトから逃げられないように、私も愛し子という立場から逃げられない。
マグダレナ様に目をかけていただいている事には感謝しかないから、愛し子なんか嫌だ! なんて言うつもりはない。
「……なるほどね」
「ですから、私も逃げない事にしました」
「具体的にどうしたいのかを教えて頂戴。支える側としては誤解はしたくないから」
落ち着いているように見えるけど、セラ、カップに入れてる砂糖、いつもより多いですヨ。
ゼファス様もアレだけど、セラもかなり甘いもの好きだけど、大丈夫なのかな、色々と……。
「女皇にならない為に、私に出来る努力を全力でします」
他の人にばかりお任せしないで、ちゃんと自分の意志を貫くぞ!
「……ん?」
セラが首を傾げる。
「……え?」
あれ? 変な事言ってないよね?
「ワタシはてっきり、ミチルちゃんが女皇になります、って言うのかと思って身構えたわよ?」
「そのような事を私が言う筈がありません」
「そうね?」
「そうですよ?」
……さっきの動揺は、私が覚悟キメちゃって、女皇になります、って言うのかと思ったって事?
ぃやぁ……それは世界をひっくり返したとしても、自発的にはナイですわー。
「ワタシの緊張を返して頂戴」
「理不尽」
はぁ、と大きく息を吐いたセラは、笑顔だった。
「あぁ、良かったわぁ」
「セラも私が女皇にならない方が良いと思うでしょう?」
「思うわよぉ」
とんでもないよね、私みたいな人間が女皇とか……! これまでの女皇とか皇帝に申し訳が立たないよ!
「それで、女皇即位を完全に無きものする為に、何をしようと思ってるのかしら? 公家は何だかんだ言って諦めてないし、陛下もどうしようもなくなればミチルちゃんを即位させる心算だと思うわよ?」
無きものって……言い方。
でも激しく同意しますよ!
「それなのです」
祖母からゼファス様、ゼファス様からリュリューシュに皇位が継承される為に、私に出来る事。
カフェ創設でみんなの気持ちがどうこうなるとは思っていないんですよねー。アレは情報収集の隠れ蓑……。
「ねぇ、セラ?」
「なぁに?」
「カフェは諜報活動の拠点として利用するのが主目的で、それ以外の用途は皇太子の糖分摂取拠点ということで認識はあってるかしら?」
「……後半の表現はちょっとどうかと思うけど、合ってるわ」
「愛される女皇、親しみのある皇太子、どうかしら?」
セラの眉間に皺がよる。
「……親しみのある皇太子って、誰の事よ?」
素直だな、セラ。同意しかないけど。
「本性はそうですが、表向きは善良で教皇職にも真剣に取り組む立派な人物と言う事になっているでしょう?」
いやぁ、本当、騙されてますよ、みなさん!
「で? その愛され皇太子がなんなの?」
そうは言ってないけど、まぁヨシとして、話を続けよう。
「皇国圏内の貴族の掌握は何とかなると思うのです。暗殺集団もおりますし、ゼファス様のオットー家もおりますし」
「暗殺集団って何処の事言ってるのよ?」
「帝国やギウスとも上手く渡り合う事でしょう。
ですがセラ、前世では王権を倒すのは市民──平民である事が多かったのです。いくらこの大陸が魔力を必要とするからと言って、数で言えば平民の方が多い訳ですし、扇動したとは言え、オーリーも民による蜂起で倒されたのでしょう? 無視出来ない存在です」
そうね、とセラも頷く。
「ですから、人心を掌握するのです! カフェで!」
「それはイケメンを配置すると言う事?」
扉の方からルシアンのツッコミが入る。
いつの間に!
……って言うか!
「良い加減イケメンから頭を離して下さい!」
アルト家がカーライル王国から離れるのは、カーライル王国にとって痛手だったろう、と言う感想をいただきまして、せっかくなので話にさせていただきました。
ym様、ありがとうございます。
長くなってしまったので、章を一度分けて、カフェ編を次の章題にしたいと思います。
引き続き、ミチルやルシアンたちをよろしくお願いします。




