表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生を希望します!【番外編】  作者: 黛ちまた
アルト家 家訓!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/127

伝える、伝わる、想い

 眉間を突かれた、セラに。


「痕が残るわよー」


 慌てて表情をほぐす。

 無意識に眉間に皺を寄せていたらしい。


「課題図書を置いていくなんて、モニカ妃もなかなかやるわねぇ……」


 課題図書言うな……。

 推薦図書ですからね、一応。


 私の前には、モニカがお土産です、と言って置いていった本が積み上がっている。それがねー、一冊二冊じゃないんですよねー(遠い目)


「あんな、物足りないなんて感想を返すからいけないのよぉ?」


 そんな事、返事で書いてないよ?! タイトルと内容に乖離が見られるって言っただけで!


 仕方なしに一冊目を手に取る。







 ……くぁ…っ、疲れてきた!

 読書は好きだけど、長時間読むのはしんどい!


 身体の凝りをほぐすように腕を上に向けて伸ばしていたら、セラに淑女として駄目でしょ、と軽く注意されてしまった。まぁ、セラも一応言う、って感じだけど。


 休憩しようと立ち上がった所で、ルシアンがやって来た。セラが手を振って部屋を出て行く。


「これが今回の課題図書ですか?」


 テーブルの上の本を見て開口一番のセリフがこれ。

 ルシアンまで課題図書って!


 私がさっきまで読んでいた本を手に取ると、ルシアンはペラペラとページをめくっていく。まさかだけど、そのスピードで読めるとかないよね?


 お茶を淹れて、ルシアンの正面に座る。


「ありがとう、ミチル」


 ルシアンの手にある本の内容を思い出す。

 ヒーローはずっとヒロインひと筋なんだけど、ヒロインの気持ちを確かめたくて、別の女性の影をチラつかせてしまう。悩み、苦しんだ末にヒロインは二人を祝福しようと、身を引こうとする。ヒロインの心が離れていってしまいそうになって慌て、ヒロインを監禁するっていう、ヤンデレものです……。

 モニカめ……ルシアンがヤンデレだからって……。


「ルシアンは、私の気持ちを試したりはなさいませんでしたね」


「えぇ、私にとっては意味がありませんから」


 無意味! はっきり言いましたね!

 確かに、ルシアンってば、私に愛されるなんて思っていない、みたいな事言ってたもんなぁ……。


「愛されていると思いたいが故の行動なのは理解出来ますが」


 そこまで言って本を閉じる。


「愛されたいから、ミチルを愛した訳ではないので」


「!!」


 ぅあ……っ!!

 ちょっ、今の!!


 顔が瞬間的に熱くなる。


 「ルシアン……ッ」


 抗議すると、目を細めてルシアンは微笑む。


「アルトの男は愛情を隠さないのだとミチルも知っているでしょう?」


 立ち上がると、私の横に立つ。

 大きな手が頰に触れた。

 恥ずかしいので顔は上げないのだ。……上げられないのだ。


「分かっておりますけれど……恥ずかしいのですよ?」


 心臓にダイレクトにくるから、困る。

 何度も言われてますよ?

 でも、なんていうの、映画みたいに、分かってるわ、みたいな余裕を私は持てない。

 だって心臓がね、二倍ぐらいには膨らんでる気がする。

 鼓動も早くなってるし、そんなに、ここにいるって自己主張しなくても分かってます……っ。


「ミチルは変わらない」


 ルシアンの両手が、私の頰を包み込んで、顔を上げさせられる。


「私を見て、ミチル」


 見上げた先にルシアンの笑顔があった。

 胸が、ぎゅっとする。

 好きだと分かってる。何度も思ってる。

 でも、何度でも思うのだ。

 この人が、好きだと。


「貴女に愛された事を、当たり前だと思った事はない」


 キスが降ってきた。

 触れた場所から溶けてしまうのではないかと、いつも思う。


「愛したいんです、貴女を」







 庭に行きたいと我が儘を言って、ルシアンと歩く。

 まだラルナダルト領内は手を尽くさなくてはならない箇所が多いみたいだけど、ルシアンじゃなければ駄目、と言うような事案は減って来たらしい。……ので、ちょっと我が儘を言ってしまった。

 恋人繋ぎした手は温かくて、大きくて、安心する。


 季節を無視して、宮の周りの花は咲く。

 私の捧歌による影響で。


「この花」


 幼い頃によく見た花に似ている。アレクサンドリア家の庭に咲いていた花。


「レンテンローズですね」


「そうなのですか? カーライルで目にしていたものとは、色が異なる種類なのですね」


 私が知っているのは、濃いめのピンク色をしたものだ。

 目の前のレンテンローズの花弁は白く、内側に濃いピンク色の斑点がのぞく。山百合に少し似てる。


「レンテンローズのこの色は、ラルナダルトにしかないそうです」


 なんでそんな事まで知ってんのかな、この人。

 あぁ、前に各国の植生を調べさせていたもんね。沢山の植物の情報を目にしただろうに、よく覚えてるね……?


「お祖母様が、お好きな花なのです」


 祖母は本当にこの花が好きで、母親が庭に関心がないのを良い事に、庭師に好みの花を植えさせていたっけ。


「ルシアン、このレンテンローズを持ち帰っても構いませんか? 皇城の庭と、皇都の屋敷に植えたいのです」


「勿論。陛下もきっとお喜びになります」


 そう言ってルシアンは笑顔で頷いてくれた。


「ありがとうございます」


 レンテンローズを見つめる祖母の目はいつも何処か寂しそうで、何かを懐かしんでいるようだった。

 あれはもう二度と戻れない至星宮ここでの生活を思い出していたのだと思う。

 今は女皇と言う立場で、気軽に皇都を離れる事も出来ない。好きな花が庭に咲いたなら、少しは癒されるのではなかろうか。


「ミチルは、陛下を慕っているのですね」


「あの家で私を愛してくれたのは祖父母だけでしたから」


 祖母と同じ色を持つ私を、家族は好ましく思わなかったから。


「私にとって、大切な方達です」


 大切にしてもらった分、感謝を伝えたいよね。

 ただでさえ、女皇になりたくないって我が儘をきいてもらっているんだし。……どうしようもなくなったら、そうもいかない事は分かってるけど。

 祖母も、ゼファス様も、ルシアンも……私の気持ちを尊重してくれる。


「ルシアン」


 先を歩いていたルシアンが振り向く。


「ありがとうございます」


 ふっと笑って、「それは何に?」と言う。


「全てです」


「全て?」


「えぇ」


 立ち止まったルシアンの目の前に立つ。


「私を守って下さるでしょう? 私の気持ちを慮って下さる事に、何度感謝しても足りない程です」


 そっとね、ルシアンの胸にね、おでことかくっつけちゃったりしてね。淑女っぽくない? この甘え方とか、超淑女っぽくない? 成長したでしょ?! 実際は見られたくないですよ? イチャイチャしてるとこなんて人に見られたくはないですけども。思わず見て! と言いたくなるぐらいの成長だと我ながら思うのです。

 良いの、順番が滅茶苦茶でも、私は私のペースで前に進んでいくのだ。


 ルシアンの腕にまるごと包まれる。

 温かくて、優しくて、嬉しくて、身体の内側が訴えてくる。

 幸せだって。


 迷惑をかけてしまう事が怖くて、嫌で、ずっと同じ場所で足踏みしてた。

 だけど、私は私なりに、ルシアンやゼファス様や祖母やセラ達と幸せになりたい。

 守られてばかりはいけないって思いながら、思うだけで行動に移せてないへタレだったけど。

 前に進まないとって思った。

 急にどうした、って言われそうだけど、今回のカーライルでの事で色々考えた。


 ラトリア様は大切な家族の為に逃げていた事に向き合う事にした。

 モニカは逃げていなかったとは思うけど、自分が大変になるって分かっても、大切なものの為に更に努力する事を決めた。

 アレクシア様は今回の事で何か、気付いてくれたら良いと思う。幸せは一人では作れないって事に。失わない為にどうすれば良かったのか、沢山考えてくれていると良いな。


 ……私もそう。

 女皇になりたくないのなら、ならずに済む為の努力をしなくちゃいけない。

 本当に今更だけど。

 私も、逃げちゃいけないんだ。

 モニカの言葉は、私にも向けられていたのだと思う。


 ただ、私のような凡人が勝手をすれば周囲に迷惑しかかけないからね。チートな人達に囲まれてるんだから、ちゃんと相談して、迷惑を最小限にしつつ、私に出来る事をしていくんだ。


「きっとこれから、私はルシアンに迷惑をかけます」


「どうぞ」


 即答でオッケーされた!


 顔を上げてルシアンを見ると、柔らかく細められた瞳と目が合う。背伸びして頰にキスする。


「ありがとうございます」


「場所が違うのでは?」


「……ここはお庭ですよ?」


 庭でキスとか破廉恥な事出来ませんよ?! ほっぺちゅーは親愛でもするんだから、セーフだよ、多分!


「室内なら良いの?」


 ……はっ!


「そ、それは夜に!」


「夜に、室内なら良い?」


 お、追い詰められてる気がスル。

 スルけど、前に進むのだ。


「……もう……」


 ふふ、と笑うルシアンが小憎たらしい。ほっぺたを軽く摘まむと手を上から包まれた。

 肉食女子にはなれないけど、中間の雑食女子ならなんとか、なれるだろうか……。

 いや、なりたいな。暴走じゃなくって。


 もう一度背伸びして頰にキスをして、ルシアンから身体を離し、手を伸ばして恋人繋ぎする。

 いざ進めーと歩き出そうとすると、繋いだ手を引っ張っられる。その強い力に体勢を崩しそうになった私を、ルシアンは強く抱き締めた。


「ミチル」


 耳元で名を呼ばれる。


「はい」


「ミチル」


 もう一度呼ばれる。その声には迫るものがあって、胸が少し切なくなる。


「ルシアン?」


 頰やおでこ、耳にキスされる。

 くすぐったい。


 …………あれ、お庭でコレは駄目なんじゃ?

 口にキスはしてないけどさ、この熱々なハグとか、あちこちへのキスはあかんのじゃないかな?


 ルシアンから離れようとしても、更に抱き締める力が強まる。なにこれ、もがくとより拘束が厳しくなる罠みたい! なんたること!


「離れたくない」


 う……っ、そんな嬉しくなる事言わないで。


「ミチル、何処にも行かないと約束して下さい」


「行きませんよ?」


 引きこもりだし。

 っていやいや、カフェ頑張ろうって決めたんだった。


「何処かに行く際は、ルシアンも一緒です」


 抱き締める腕が少し緩められる。

 まさかさっきので、私が何処かに行ってしまうと思ったとか? なして?

 それとも、ゼナオリアの所為?


「ミチルから進んで口付けをされるなんて、何かの前触れかと」


 私の求愛行動は天変地異と同じレベルなのか……。


「そのような事はありません。私からもしております」


 数えきれない程、とは言えないけど、それなりにね、した……したい……いやいや、すみません、数えられる程ぐらいしか出来ておりません……(猛省)


「じゃあ、もう一度」


 ……よし、頑張るぞ。


 背伸びをして、頰にではなく、唇にキスをした。破廉恥上等ッス。

 何度もキスをしているのにね。

 自分からするって言うだけで、緊張する。


 驚いた顔をしているルシアンに、もう一度キスをして、言う。


「……愛して、おります」


 ぅお! たったこれだけ言うだけで寿命縮んだ気がスル!


 早く指で数えられないぐらい、言えるようになりたい。

 時折雑食女子になって、ルシアンにたっぷり愛情表現したい。


 嬉しそうなのに、どうして泣きそうな顔をするの、ルシアン。


「……ルシアンは?」


 いつもの逆で、聞く側になってみる。


 ルシアンは私の手を取ると、心臓のある左胸に手を当てさせる。

 ……うん、別に鼓動が早くなってたりはしませんね。平常です。規則正しいです、はい。

 むしろ私の方が慣れない事をしているから、ドキドキしておりますヨ。


「この胸の内を、貴女に見せられたなら良いのに。どれほど、貴女を想っているのか」


 言葉を尽くして気持ちを伝えてくれる。

 ルシアンからすると、愛してるだけでは不十分な模様。


「見えずとも、伝わっております」


 言葉にしないと伝わらない事は多いけど、視線、態度、体温、色んなもので私に気持ちを伝えてくれる。

 気持ちを伝える方法は一つじゃないって。


 嬉しいのだと、私も同じ気持ちなのだと分かって欲しいから、抱きついて、背中に手を回す。

 伝われ、気持ち。


「私も、ルシアンに愛されている事を当然だとは思っておりません」


 好きになった人が自分を好きになってくれる。それがそもそもすごい事な訳です。全然当たり前じゃない。

 むしろこんなチートイケメンが……って言うのは多分誰しもが思うに違いないよ。でもルシアンは誰にも渡しませんよ。この前のきょにゅー化はアレでしたけど、自分磨きは継続すると決めたのです。


「身に過ぎたる幸せだと自覚しております」


 …………アレ? なんか、反応がないよ?

 顔を上げると、ルシアンが複雑な表情をしていた。

 珍しい。あんまり見た事ない顔。


 おでこに手をあてられる。

 あっ、コレ! 熱があると思われてる!


「熱はありません!」


 抗議するとルシアンが笑った。


 笑顔を目にするたびに感じる。

 好きだと。

 こんなに好きでどうしようと思う。ルシアンがヤンデレで良かった。私の気持ちが重くても、嫌がるどころか喜んでくれそうだ。


「私の我が儘を、きいてもらえませんか?」


 ルシアンの我が儘?

 破廉恥過ぎなければオッケーですよ。


「何でしょう?」


 ルシアンの指が私の唇をなぞる。


「ミチルは言葉として発する事が苦手でしょう?」


「はい、とても」


 申し訳ないけどすこぶる苦手である。


「声に出さなくても良いです。唇の動きだけで良いから、私への想いを、少しでも伝えて欲しい」


「……それならば、出来るかも……」


 試しに、好き、と声に出さずに言ってみる。

 ルシアンがにこりと微笑んだ。

 今度は、大好き、と言ってみる。少しくすぐったそうに微笑むから、胸の奥がふわふわしてきた。


 ぎゅっとルシアンの袖を掴んで、言う。


"愛して、ます"


 眩しいものを見るように、ルシアンの目が細められる。


「ミチル、私の最愛」


 抱き締められて、唇にキスをされる。

 お庭では駄目だって分かってるのに、胸がいっぱいで。


 もう一度言う。


"愛してます"


 愛してるよ、ルシアン。

 恋とか愛とか、私にはまだ難しいけど、愛してる、って思う。


 伝わって欲しい。少しでも多く。

 私の気持ちが、ルシアンに届きますように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ