また会いましょう
前のが短いので、2つ目です。
動かない時は動かないし、動く時は動く。
そんな言葉を思い出した。
突然、ルシアンにジーク殿下とモニカ達家族がカーライルに帰る事を聞かされた。事態が大きく動いたって事なんだろうな。
王太子家族が無事に発見されました、と言う穏やかなものではなく、ラルナダルトのギルドから荷を運ぶ馬車の中に紛れるらしい。王太子家族なのにね。ポリットとか言うワルモノを欺く為なんでしょう、きっと。
侯爵令嬢だったモニカがそんな、町娘がしそうな旅支度とか、進んで……
「ミチル、いかがですか?」
進んでやる人だったな、うん。
私の目の前で町娘の旅装スタイルを披露するモニカは楽しそうだ。姫も同じで、モニカとお揃いだと喜んでいる。可愛いけども。
ジーク殿下の町の青年風の格好を褒め称えたりしてて、ラブラブやんな?
「これなら誰も私達だと分かりませんね」
「カーライルの王太子家族とは分からないでしょうが、一目で平民ではないと分かると思います」
二人共驚いている。なんだと、ここに来て天然なのか……。
ユー達、自分達がキラキラした属性持ちだって事忘れてないかね?
なんかもう、色んなものが滲みまくってて、全然一般人になってないからね?
そうかしら、なんて言いながら自分の格好を見るモニカ達。いや、服装じゃなくってね?
レニアル姫がくるくると回って見せるのを二人が笑顔で見ている。いつものドレスと違ってヒラヒラ度は物足りないだろうけど、嬉しいんだろう、両親に関心を持ってもらえている事が。
モニカ達は公務で忙しいけれど、それでも姫と過ごす時間を作ると決めたようだった。この前のモニカの言葉はその決意だと思う。
モニカは真面目だし愛情深い。きっと王女も王子も幸せになるに違いないよ。一緒に殿下も子供を大切にしてくれるだろう。良いお父さん像がイメージしやすいし、殿下。……うちの誰かさんと違って。
モニカとジーク殿下は、ポリット侯の手先に洗脳されそうになっていた王女と過ごし、色々と思う所があったんだろう。
来た時にぎこちなかった訳ではなかったけど、姫が二人に向ける笑顔が違うのだ。
安心しているのが分かるって言うのか。
実はこっそり写真を撮った。私は下手なので、アサシンファミリーに頼んで。
って言うか撮ろうとしたら皆こっち向いちゃって、七五三の記念撮影みたいになっちゃったからね。これはこれで良いんだけど。さすがに前世のように瞬間的に写真が撮れる訳じゃないから、ずっと側に私がいる訳で、気付くなって言う方が無理と申しましょうか。
それなのにだ。アサシンファミリーに頼んだ奴は正面から撮ってるのに気付かれてるように見えない……どう言う事なんだろうか? 黒子のように見えてるけど見えてない振りしなくちゃいけないとか?
家族写真はカーライルが落ち着いた頃に手紙と一緒に送る予定でいる。
「恙無く進んでいるようで何よりです」
副音声が聞こえてきそうな程の笑顔をルシアンが王太子家族に向けるもんだから、ジーク殿下が苦笑いを浮かべた。モニカはルシアンの病ンデレっぷりを好きみたいだから笑顔だけど。
本当にブレないなこの二人……。凄いよ、尊敬します。
ギルド職員に扮した侍従がモニカ達に声をかける。
もう出発の時間らしい。
ここからはギルド職員と同じように普通の宿に泊まるなどしてカーライルに帰国すると聞いた。
「旅の無事と、事が恙無く終わる事を祈念しております」
「ありがとうございます。
ミチル、ルシアン様もご面倒をおかけしてしまいましたが、お陰様で大変有意義な時間を過ごす事が叶いました」
モニカの手がレニアル姫の髪を撫でる。姫は嬉しそうにモニカを見上げた。ジーク殿下の手も姫を撫でて、殿下にも姫は笑顔を向ける。
仲の良い家族の姿がそこにあった。
あぁ、本当に良かったなぁ。これだけでも本当に良かったって思ってしまうよ。いや、カーライルとラトリア様が大変なのは良くないんですけどね。
「落ち着いたらまた手紙を送らせていただくわね」
そう言って微笑むモニカは、やっぱり何処から見ても町娘じゃないけど。
彼女達はこれからも事後処理なんかがあって大変だろうと思う。この後はスムーズに物事が進んで欲しいと心から願ってしまう。
でもきっと大丈夫だろうな。
「お待ちしております。どうぞ無理をなさらないで」
えぇ、と微笑んで頷くモニカ。
「礼は改めてさせてもらうよ」とジーク殿下が言うと、ルシアンがいいえ、と断りを入れる。
「私の代で忠節を違える事になりました。これがアルト家最後の奉公となります。礼などは不要です」
「しかし……」
納得いかないのか、殿下が困った顔をする。それに対してルシアンは首を横に振った。
「目に見えるものだけが全てではありません」
ルシアンの言葉にジーク殿下は頷いた。
なんか、珍しくルシアンが良い事言ったぞ?!
「そうだな」
そう言って頷くジーク殿下に、ルシアンも頷く。
王太子家族は、来た時とは比べ物にならない簡素な、荷運びに特化した馬車に乗り込んだ。
開いた窓からレニアル姫が顔を出す。
つぶらな瞳に、子供らしくピンク色をした頬がとても可愛らしい。
馬車が走り出し、姫が手を振って来る。こちらも手を振り返す。
見えなくなるまでその場にいた。
久しぶりに会った親友は昔と変わらず押しが強くて、キレイで、言いたい放題で、お互いに夫の事を惚気てみたりして……あぁ、楽しかったなぁ。
次はいつ会えるかな。カフェだとか、新設されるギルドの事でカーライルに寄ったり出来るかな?
そんな事を考えていたら、ルシアンの手が私の肩に触れた。
「身体が冷えてしまいましたね、温めなくては」
……えっ。
甘い笑顔を向けられて怯む。
今日、とってもあったかいよね…?
「大丈夫です。冷えておりません」
逃げようとする私を、人目も気にせず抱き締めるルシアンに、心の中で悲鳴をあげる私。
いくら皆が分かってるからって、恥ずかしいものは恥ずかしいって言うか、お義父様とゼファス様もそこで並んで見てないで止めて下さいよ!
「アルト家の男って、本当に異常だよね」
ちょっ! ゼファス様! 冷静に観察してないで!
「否定しないよ。
ところで三人目は見られるのかな、ゼファスはどう思う?」
「聞く相手がおかしい。あそこで人目も憚らずに妻に迫る息子に聞いてみなよ」
二人共?!
「家訓だからね、仕方ない」
いや、本当に! 止めて!!
隣に座るルシアンが笑顔です、えぇ。
よく熱い眼差しとか熱のこもった目で、とかありますけど、あれはね、あんまりやられた事ないです。ないですが、やられたら死にます。
この人ホラ、視線に色気とか威圧とか、色々オプションで付けられる人なんで、へなちょこな私なんて瞬殺デスヨ。間違いなく。
「ミチル?」
小首を傾げるルシアンに、きゅんとした!
ミチルに180のダメージ!
イケメンのこういう仕草は致命傷を与えてきやがりますよ!
「何を考えていたの?」
「ルシアンの事です」
嘘じゃないよ、本当です。
一緒にいる時に別の事を考えるだけヤキモチやかれますからね、あぶないあぶない。セーフセーフ。
「私?」
ルシアンの手が伸びて来て、頰をするりと撫でると、大きな手にすっぽりと頰は包まれてしまう。
「えぇ」
「どんな事?」
尋ねながら私の頰にキスをする。ちょ、やめ。耳元で囁くべからず。反則だ。そんなルールないけど。
己の利点を最大限に活かすの、正しいけど狡いと思うの! ミチルが弱いって分かってる癖に全力で来るの、エゲツないと思うの!
「……ルシアンの目が……キレイだなと」
言えないでしょう、熱の籠った目であんまり見られた事ないとか、見られたら死ぬとか。言ったが最後、やってきますよ、ルシアンはそう言う人ですからね……。
ふっ、と目を細めて笑う。
色々バレている気はするけど、見逃してくれるようだ。
「邪魔者が減って嬉しい」
はっきり言いましたね、邪魔者って……。
ルシアンにかかったら全てが邪魔者になりそうだ。いや、なりそうじゃなくて邪魔者なんだよね、病ンデレだから。
「父に、ミチルに対する狭量さを何とかしろと言われました」
おや、お義父様にしてはまともな……。
「恐らく、私は変われない」
両手で頰を包まれて、額と額がくっついた。
ぅあ、きゅんとする。
「変わりたいとも思えない」
デスヨネ。
知ってマス。
「今でさえ貴女を独占出来ていない事に耐えているのに、これ以上は無理です」
アルト家の男子は妻溺愛がデフォルトスタンダードだと言うのは重々承知してます。ルシアンはそこに病みがオプション追加されちゃってる訳です。
溺愛はオープンなのに、病ンデレはいかんと言うのがよく分からん。いや、違うものだけどさ。今更じゃ?
「お義父様の本意はどちらにあるのでしょうね」
「宗主となる人間の弱点が誰から見ても分かると言う事を危惧しているのでしょう」
なるほど。それは確かに、と心の中で納得していたら抱き締められた。
「ミチルが普通の淑女であればそうすべきでしょうし、私の中に閉じ込めておく事も容易です。
ですが貴女は女神の愛し子です。だからこそ私達はこうしていられるのだと言う事も理解しています。
それでも私だけの物にしたい」
私を抱き締める腕に力が入る。ちょっと苦しいけど、嫌じゃないのです。ルシアンの背中に手を回して、胸に頬擦りする。
「私はルシアンの物ですのに」
病ンデレじゃないルシアンは想像出来ないし、私自身は別に嫌じゃない。病ンデレお得意の監禁とか、される必要ないぐらいに引きこもりだし。そのおかげで社交とかしないで済んでるし。
会いたい人と連絡するのも、会うのも許されているから不満は全然ないんだけど……。
「もっと独占したい」
思わず笑ってしまう。
「もう、これ以上となると、一つにならないと無理そうですね?」
顔を上げてルシアンを見て、しまった! と思ったがもう遅かった……。
それはそれは良い笑顔で私を見てるんですよ、病みに定評のある旦那様が。
「そうですね」
頰にキスされる。
ああああああああああ。
私のバカ馬鹿ばか!
ルシアンが! このルシアンが、お義父様に言われた事を気にする筈がなかった!!
言われても右から左、馬耳東風なのに!
「溶けたら一つになれるかもね?」
ひぃ……。
最近ホラ、大人しめだったんです。口説きが。
だけど何でか知らんけど、またぐいぐい来るようになった?!
「普通で良いのですよ?!」
むしろ普通が良いですよ?!
必死に抵抗するものの、既に腕の中に入っちゃってるもんだから脱出不能。脱出ポット下さい!
「モニカ妃に言われました。
愛を捧げるのに遠慮は不要だと」
も……っ、モニカーーーーッッ!!




