愚か者は都合良く考える
ラトリア視点です
ダナンから聞かされた報告に思わず笑ってしまった。
王太子の飾りを王城に届けた後、私がフレアージュ侯に会いに行った事をポリット侯は知っている。
こちらの動向を探る為に人を配しているのを知っていた上で会いに行ったし、分かりやすく動いてもいる。そうしていただかなければ困る。
ポリット侯ならこう考えるだろう。
王太子妃となった娘が死に、その血を引く孫も死んで、外祖父になる夢が絶たれたフレアージュ侯は権力に執着して動くだろう、と。
フレアージュ侯とて欲が無いわけではないが、侯は己の力量を把握している方であるし、これまではアルト家がいた。
無理をしてまで権力を欲しがり、家を潰すような愚行を犯すような方では無い。そのような家はもう、カーライルでは潰えたと言うのが正しい。……父によって。
蛮勇と勇気は異なる。
だが、曇った目にはそうは映らない。
判断基準が己であるが為に、皆同じように考えると信じて疑わない。
それを見越した上で、フレアージュ侯にはそのように動いていただく。さも、権力に執着しているかのように。
フレアージュ家と親しくする家々には侯から知らせが行くだろう。
必死に動くフレアージュ家を見てポリット侯は笑い、頃合いを見てあの母子を引っ張り出すだろう。
私の元にもあの後直ぐに書簡が届いた。
「ラトリア様は欲がお有りではないのですね」
窓の外を横目に見ていると、ダナンが声をかけてくる。
「そんな事はない。私は強欲だよ。
この機会をものにしようと必死に足掻いている愚か者であり、欲深き男だ」
アルトの男は妻子に酷く執着する。だからこそ継がぬ者には子を持たせられない。
あの父ですらそうなのか、ルシアンの血筋がラルナダルトや皇国公家に飲み込まれるのを忌避してなのかは分からないが、私もまた、アルトの男として妻子を愛しく思う。
何としても守りたい。
「それで、その手にある手紙は誰から?」
ダナンの手にある封筒に目をやる。
持って来たと言う事は私宛だろうに、渡して来ようとしない。
私の思う相手からの手紙だと大変ありがたい。
「北の離宮より返答が届きました」
やっと届いたと安堵する。
返答如何によらず、これが無ければ次にいけない。
「内容は?」
「承諾するとの事です」
彼女を説得出来た感触が無かった為自信がなかったが、こうして承諾してもらえて嬉しい。
「それは僥倖。彼女が同意してくれるならば、私の思い描いていた通りに進む」
ダナンが頷く。
一つ物事が進むと言う事は、それに付随する別の事も進むと言う事。
「些か気が引けるが……アレクシア様には罰を与えなくてはならない。彼女は王妃にはさせられない」
少女のようにあどけなく微笑んでいたアレクシア様を思い出す。
悪気は無いのだろう。だからと言って、何でも許される訳では無い。
彼女はあの家に生まれるべきでなかったのか、あのような生まれでなければまた違ったのか。
もはや言っても仕方のない事だが、どうしても考えてしまう。
「フィオニアにも罰を与えねばならないけれど、私はそう言ったものが好きではないから、考えるのすらひと苦労だよ」
「欲をお持ちになると仰せになられたからには、避けられませんね」
「痛い所を突くね」
ダナンの言う通り。
弱音を零したとしても、為すべき事から目を背ける事はしない。
「本当に、父もルシアンも、よくこんな事が出来るものだ」
そう言いながら私もまた、同じ事をするのだ。
「ラルナダルトに知らせておくれ」
二人の許可を得ねばならない。
「宗主様からこちらが届いております」
ダナンから別の封筒を渡されて苦笑してしまう。
本当に、何から何まで見通されている。
宗主である父から届いた封筒を受け取る。
封蝋を折り、中から紙を取り出す。
"愛する息子へ
おめでとう。
そなたが新たなアルトの礎となる事を宗主として認める。
ただその前に、足元の片付けは済ませておきなさい。
リオン・アルト"
一歩ずつ、望んでいた未来に近付いて行くのを実感するが、最後まで気は抜けない。
ラルナダルトにいる父からこの手紙が届いたと言う事は、この茶番もそろそろ終焉に向かっていると言う事。
「こちらが整うまで、ポリット侯が召集をかけようと参集しないようフレアージュ侯に伝えておいておくれ」
「かしこまりました」
ダナンが部屋を出たのを見送り、窓の外を眺める。
ロシェル好みの美しい庭を。




