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転生を希望します!【番外編】  作者: 黛ちまた
アルト家 家訓!

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壁にレニアル 障子にモニカ

 前回、皇都の屋敷にモニカ達が滞在した時と違って、今回はカーライルでのなんちゃってクーデターが失敗に終わるまでここに滞在する訳です。要するに短期間ではないという事ですネ。

 それもあってか、ルシアンが遠慮しません。

 そもそもルシアンの辞書に遠慮と言う単語が存在するのか、甚だ疑問だったりしますけれども、容赦なくいちゃついてくるのですよ! 抱きしめてきたり、キスしてきたり、口説いてきたり……!(つまり通常営業)

 しかもそんな所をレニアル姫に見られたりしちゃった時の私の心情を察して下さいYO!

 あげく、レニアル姫がその時の事をモニカに報告するんですよ! これなんて羞恥プレイ!!

 ジーク王子は嗜めてくれるものの、母であるモニカは嬉しそうに詳しく聞き出そうとする始末!

 大変けしからん母親だと思う。けしからんよ!


 至星宮は大きいし中庭もあったりするから、レニアル姫も飽きてはいない。……と言うか、目下の所、姫が夢中になっているのは私の歌。

 友人が自領地で消息を絶った事を嘆いている私は、毎日悲しみの歌を歌っている(と言う設定な)のデス。

 歌に合わせて花が育ち、蕾をつけ、花開くのを見た姫は狂喜乱舞した。すっかり見慣れてしまってるけど、普通にあり得ない事なのだった。

 あまりに喜んでくれるものだから、姫にまたお見せするわね、なんて良い格好しちゃって、歌って欲しいと催促されるようになった。

 その催促に来た姫にルシアンとのいちゃいちゃを見られると言う、大変由々しき事態に陥っている訳でアリマス。

 そんな訳で落ち着かない日々を送ってオリマス。悲しみが歌に表れていて、おいたわしいと言われる始末。


 だからミチルからルシアンにお願いです!


「そんな訳ですから、もう少し控えめにしていただきたいのです」


 いちゃいちゃをな、加減して欲しいのじゃ。


「何故?」


 レニアル姫にも我慢してもらうけれども、ちっちゃい子が我慢するんだから良い大人なルシアンも我慢したまえよ!


 なにその悲しそうな顔!

 いや、ルシアンなら本気で悲しむかも知れないな。私といちゃいちゃ出来なくなったら。


「アルト家の男は伴侶への愛情を出し惜しまないのだと、ミチルも知っているでしょう?」


 きたな、アルト家家訓!


「分かっておりますけれど、子供の教育上よろしくありませんもの。今回はレニアル姫ですが、いずれリュリュとロシュもあのように動き回るようになるのです。その為の練習ですわ、ルシアン」


 どうよどうよ、もっともらしい、って言うか真っ当な理由でしょ?

 ルシアンは表情を変えない。


「王族であろうと貴族であろうと、あのように部屋に立ち入る事がそもそもよろしくありません。厳重注意しましょう」


 正論!


 にっこり微笑んだルシアンが言った。


「ですから、ミチルは何も心配しなくて大丈夫ですよ」


 心配って言うかさ……。

 いちゃいちゃは、絶対止めないんだな、この人……。




「そろそろルシアン様から正式に抗議される頃だと思っておりました」


 モニカにレニアル姫の行動について話したら、抵抗なく受け止められた。

 ユー……分かってたならもっと早くに止めて下さいヨ……。


「モニカとレニアルがすまない」


 隣に座っているジーク王子が申し訳なさそうに謝ってきた。


 まったくモニカってば、私とルシアンの事ばかりかまけてますけど、本来ならそう言ったのはジーク王子に……。

 ……ソウヨ! モニカをジーク王子がかまいまくればいいんでないのかな! 逆も可! 名案!


「ここはカーライルではございませんし、宮はこの通り大きいのですから、お二人とも以前皇都にいらした時のようになさってはいかが?」


「な……っ!?」


 モニカの顔が真っ赤になる。王太子妃、顔に出ちゃってますよー? いや、私も隠せない事結構あるけども。

 ジーク王子も若干顔が赤くはなったものの、満更でもなさそうな顔です。よーしよしよし。

 赤い顔でジークと私の顔を交互に見ているモニカ。

 ユーもタジタジしたまえ。

 私と同じ気持ちを味わいたまえよ。


「祈りは一日に一度。その際に姫にご覧いただくのは構いません。それ以外は応えられないと諭してあげて下さい。花を刈り取る者から苦情が上がっているのです」


 そうなんですよー。

 姫の要求に応えて歌っていたらね、宮周辺の植物が育ち過ぎちゃってね、怒られたんですよ、ロイエに。

 懲りると言う言葉を知らない、諦めない、不屈の女 クロエは、またしてもあかん奴を植えたらしく。しかも以前より巧妙に隠してたらしくって。ロイエがカンカンでした。実は今、一週間の謹慎中です。

 その流れで私も、子供の要求に全て応えるのは正しい大人のすべき事ではありません、って怒られました……。

 ハイ、スミマセン……ゴモットモデス……。


 ちなみにロイエなんで、姫の要求に応える余裕がお有りならば、ルシアン様のご寵愛を全身全霊で受けるべきです、とか言われマシタ。

 全身全霊で受け止めたら死ぬんじゃないカナ……。

 セラがすかさず、ミチルちゃんだけに求める前に暴走する主人を止める努力をしなさいよ、とデコピン食らわしてたけど。(ソウダソウダー)


 ドアをノックする音がして、セラが開ける。

 ワゴンを押すエマと、小学校高学年ぐらいの女の子二人が後ろについて入ってきた。

 この二人がパティシエになりたいと言ってる女の子で、ミーガンとブリタニーという。

 アルト家のパティシエに、基礎から教え込まれているとは聞いていたけど。


「モニカ、ジーク様、紹介します」


 二人の視線が少女二人に注がれる。

 王族を前にするのは初めてなのか、緊張でカチンコチンですねー。え? 私? 皇族ですね、一応。

 私もこうして話す事はそう多くないから、それもあるかも知れない。


「皇都で作るカフェで、いずれパティシエをしてもらう予定の二人なのです」


 エマに促された二人は、ぎこちなく、お辞儀をした。


「まぁ……皇都でもカフェを作るのね?」


 モニカの目がキラリと光りました。さすがです。


「えぇ、皇都では他にお菓子を扱う店は多数ありますし、席を設けている所もあるのですが、いかんせん席が少なく、カフェ専門のお店はありません。

お菓子は他店舗からも仕入れる事にし、共存しながら、寛げる空間を作りたいと考えております。

カーライルと違い、貴族向けではなく、平民も貴族も楽しめる店にしたいのです」


 さすがにラルナダルト家が作ったお店と言う事で、忖度とか色々されちゃう可能性が大で。それはちょっと嫌なんだよね。

 平民の人達が一生懸命守ってきたお店の脅威にはなりたくないのですよ。

 だから、他のお店のお菓子をカフェで提供するスイーツに使わせてもらいたいなと思ってる。勿論、どこどこのお店のお菓子を使ってます、とはメニューに書きますよー。


「それは良い考えですわね。私もカーライルに戻ったら平民も入れるお店を作ろうかしら」


 良いと思いマス。

 カーライルのカフェは貴族のみの完全予約制だからね。


「モニカとジーク様に、カフェ作りに関する手法をご教授いただきたいのです」


 モニカは苦笑する。


「開設時にはミチルもいたではありませんか?」


「えぇ、開設までは分かっているのですが、その後は関与しておりませんでしたから、どう言った問題ですとか、課題があったのか存じ上げないのです」


 ルシアンの転勤に合わせてカフェ経営を任せてカーライルから出てしまったからね。


「そう言う事だったのですね。いただいた手紙に書かれたカフェについて、と言うのは」


 はい、と答えて頷く。


 テーブルに置かれたお菓子は、はっきり言って不格好だった。二人が作ったものなんだろう。

 っていうかこれ、あまりに不格好すぎて何のお菓子なのかも分からんのだけど。

 見ると二人の顔は真っ赤で、小刻みに震えてるし、泣きそうになってる。


「いただくわね」


 ひと口大にフォークでカットし、口に入れる。

 あ、これ、果物を混ぜ込んだクリームをスポンジで包んで、更にクリームでデコレーションしてるのか。デコレーションのクリームがデコボコ過ぎてなんだか分からなかったよ。

 期待と不安の入り混じった顔で私を見つめるミーガンとブリタニー。


「美味しいわ。形は悪いけれど」


 褒めるだけでも駄目。注意するだけでも駄目、なんですよねー。

 お菓子は作るけど、人様に教えられる程ではない、趣味の範囲の私が言うのも気がひけるんですけど、仕方ない。


「練習すれば上達します。精進するのですよ」


「はい!」


 元気良く二人が返事をする。

 エマに直答は許されていないのですよ、と注意されて、思い出した二人は慌てふためいた。


「許しますから、大丈夫ですよ」


 笑いかけると、ミーガン達はぺこぺこと頭を下げて、エマに連れられて部屋を出て行った。


 モニカが味見をしたいと言うので、食べさしで申し訳ないけれど、お皿を差し出す。


「味はなかなかですのね」


「えぇ。しっかり教えられてもいるのでしょうが、本人達のやる気が上達を押し上げているのでしょうね」


 適性がなくても、気持ちで努力し続けて上達出来る人もいるけれど、それはそれで大変な事で。

 適性があっても、自分より才能なり努力した人がいれば、その能力差に凹む。

 やりたい事をやると言うのは、思う以上に大変だ。

 幸福感だけを得られるものではない。


 彼女達がずっとパティシエとしてやっていけるかは分からない。けれど、たとえ断念してもお菓子の世界で生きたいと思った時の為に、お菓子作りだけでなく、接客やお菓子のデザイン、他のスイーツ専門店とのやりとりなど、多くの事を学んでもらおうと思ってる。

 よしんばお菓子の世界から離れても、接客や交渉などを身に付けていれば活かせる事もあるだろう。


 突如バン!と大きな音をさせてドアが開いた。

 レニアル姫だった。

 毎度のこと、凄い登場の仕方だと思う。


「ミチル様!」


「レニアル、礼儀がなっておりませんよ」


 母であるモニカに嗜められて、レニアル姫が、あっ、と言う顔をする。

 モニカはお淑やかだし、ジーク王子も落ち着いてるのに、誰に似たんだこのお転婆姫?

 冷静に諭しているように聞こえるけど、モニカの表情は若干強張っている。


「ごめんなさい、お母様」


 ぺこりと頭を下げると私に駆け寄り、私の肩を揺さぶる。


「ミチル様、今日はバラを咲かせて下さいませ!」


「レニアル!」


 真っ青な顔でモニカが叫んで立ち上がると、私から姫をひっぺがした。ジーク王子もやって来た。

 あ、さすがに姫がいつもこんな風におねだりするって言うのは知らなかったんだね?

 前世では子供によく見られる言動だよねーと思って許容していたんだけどね。


 姫は何がいけないのか分からないみたいで、きょとんとしている。


「ミチル様は皇族の方なのですよ! いくらお母様とお父様の友人として親しくさせていただいていると言っても、無礼までは許されておりません!」


 おぉ……! モニカ、お母さんしてる……!


「ミチル、申し訳ありません。このように不躾な態度をしているとは知らず。どうかお許し下さい」


 二人が頭を下げるのを見て、レニアル姫もさすがに自分の行動が良くなかったと分かったみたいだった。

 ひと様のお子さんなんで、注意しても良いのか分からないから、軽く嗜める程度だったんだよねー。


 自国では、姫より偉いのなんて、祖父母と両親ぐらいだし、母親の友人だし、で甘えてしまうんだろうなーって。

 うちの子達はまだ小さいけど、同じ事があり得そうだよね。気を付けなくちゃ。

 ……いや、でもアルト家だしね、それは考えづらいけど……別方向では心配かも。アサシンな子に育つとか……。


 失礼します、と言ってモニカとジーク王子はレニアル姫を連れて出て行った。

 入れ違いでルシアンがやって来た。相変わらずタイミング良いなぁ。


「姫の教育係はポリット侯推薦の者だそうです」


 それって……もしかして……。


「傀儡にする為、ですか?」


 ルシアンが頷く。


「えぇ、王太子としては宰相のアルト公と仲があまりよろしくなく、ポリット侯を立てて侯推薦の教育係を付けていた、と言う事にしていたのだそうです。

二人や王の前ではあのような振る舞いはしていなかったと言う事ですから、発覚を先延ばしにする為でしょうね」


 ポリット侯、結構策士じゃないですか。


自国カーライルではあまり姫に時間を割けていないとの事。

ポリット侯対策として敢えて、と言う事ではなく、ギルド関連で多忙を極めていたようですね。

それからモニカ妃の体調の問題、第一王子の出産などもあり、姫は教育係といる時間の方が多かったのでしょう。

その事自体は王侯貴族では特段珍しい事ではありませんが、教育係が意図的に別の事を王女に吹き込んでいれば話は別です。

ここで両親である王太子夫妻と直接触れ合う事により姫は変わると思います」


 なるほど、寂しかったんだね、姫は。

 私の所に突撃して、目撃した私とルシアンの事を話すと母親が喜んで、自分に目を向けてくれた、って思ったんだろうなぁ。

 それに、純粋に私が姫の言うワガママに応えたのが、自分が大切にされたように思えて嬉しかったんだと思う。


「そうだったのですね……」


 えー、なんかもう、知れば知るほどポリット侯嫌いになるなぁ。

 思った以上に狡く立ち回っていて、貴族らしいと言えばらしいのかも知れないけど……。

 お義父様やラトリア様にぎったんぎったんのメッタメタにされちゃえば良いのに!


 アルト家やレーゲンハイムにそんなおかしな人はいないと思うけど、子供達にはちゃんと愛情持って接してあげるんだ!


 決意していた所、頬を撫でられた。


「これで心置きなく、ミチルに愛を告げられます」


 そう言ってルシアンは微笑んだ。

 ……策士、ここにもいた。


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