お久しぶりの女子会
パジャマパーティ、デス!
えー、ちょっとちょっと、何年ぶりかな、コレ?!
出来るかなーと思って準備している時から楽しみで仕方なかったんだよね!
いつもとは別の部屋。準備万端あい整いましてございます。いそいそ。
部屋に入ると、長さ十分、厚さ十分、完全無欠スタイルのネグリジェを着たモニカがお茶を飲んでいた。さすが王太子妃。所作、完璧じゃない? 何処ぞのなんちゃって皇族とはエライ違いでないの?
「お待たせしましたか?」
「いいえ」と答えてモニカが微笑む。
隣に腰掛けて、私もお茶をいただく。寝る前にほうじ茶を飲むのが好きなんだよね。はー、セラの淹れてくれたお茶、本当うまーー。
「あんなに大きな浴場は初めてでしたわ。カーライルにも作っていただきたいくらい」
そうでしょうそうでしょう。良いよね、大きなお風呂!
「至星宮の浴場は私もお気に入りなのです。モニカに気に入っていただけてとても嬉しいわ」
至星宮はサウナもあったりして、ラルナダルト家のお風呂好きが窺い知れるってもんですよ。
何処かに温泉ないかなぁ。温泉行きたい。
「手紙ではやりとりしておりましたけれど、こうして会えて、嬉しくおも」
「そう、手紙ですわ!」
突然モニカが大きな声出すからびっくりした! びっくりしたよ……!! お茶、溢すかと思ったよ?!
とりあえずカップをテーブルに置く。次に何が来るかワカラナイし。なんかスイッチが入っちゃったっぽいし。
「あの感想ですわ!」
感想??
なんの事ですかね?
ピンと来ていない私に、ジレたようにモニカが言った。
「"愛して 愛して 愛し尽くす"の感想です!」
あぁ、アレ……。課題図書ね。
数年ぶりの女子会なのに、やっぱりコイバナ系から攻めてくる友人に、本当ブレないな、と実感……。
昔の人は言いました。
三つ子の魂百まで、って……。
私の反応の薄さなんぞかるーく丸っと無視して、モニカが距離を詰めて来よります。
「あれはどう意味ですの?!」
「どうと言われましても……表題の割には、と言うよりは、内容に対して表題だけ強めの内容でしょう?」
中身大した事なかったもんね?
「確かにそうですけれど、ミチル、貴女、ルシアン様からあの本よりも激しい愛情表現をされてらっしゃるからこその、あの感想なのではなくて?!」
両手を掴まれマシタ!?
えっ、なんで両手首掴まれ……。
「どんな愛情表現をいただいてるのか、教えていただくまで寝かせませんわよ!」
本当ブレないな、この人!!
王太子妃になって、自分もジーク殿下とラブラブで憧れとか落ち着いたりしないのかな!
「どんなと聞かれましても、ルシアンはあのままです」
あのまま、多方面に渡って拡大路線ですね。膨張する宇宙。ノンストップルシアンです。
ふふふふふ、とモニカが不敵に笑う。
「女子会では素直に暴露する。お約束の筈ですわ!」
そんな約束作った事ないよ?! モニカが勝手に作っただけだから!
しかも暴露て! 王太子妃、言い方!!
「さぁ! おっしゃって!」
ぐいぐい来た!!
困った、って思うのに、このやりとりになんだか嬉しくなってしまって笑ってしまった。
「何を笑ってらっしゃるの?」
「いえ、モニカは変わらないなと思ったのです」
お? 両手首の拘束が解けたぞ?
「ミチルはカーライルを出てから、色んな事がありましたね。遠くとも届く情報にいつも気をもんでおりました」
少し悲しそうな顔をするモニカ。
「帝国での事、ギウスでの事、ミチルが眠りにつく切っ掛けになったあの戦争……駆けつけたかったのですけれど、産後の肥立ちがあまり良くなかった為に、会いに来る事もままならなかった私を許して下さいますか?」
涙を堪えて、真っ赤になった目で私を見る親友に、勿論です、と笑顔で答える。
産後の肥立ちが悪いと最悪のパターンもあると聞くし、モニカがこうして無事でいてくれて本当に良かったと思う。
出産は命がけで、産んだ後も大変で、好きにはなれないけど、私を産んでくれた実母には感謝してマス。
何て言うのか、ずっと行われて来た事だからと言って、出産って当たり前じゃないんだな、ってもの凄い実感したんですよー。頭で分かってた事に実感が伴う、ってこう言う事なんだな、って。
「眠っていた為に出産のお祝いが出来ていなかった事を許して下さいませね?」
「よろしくてよ」と笑うモニカに、私もなんだかうるっときちゃったりして。
どんな事も当たり前じゃないんだって、分かっていたつもりでいたけど、分かっていなかった部分もあって。
私がこうしている事は、当たり前じゃない。側にいてくれる人達の事もそう。慣れてしまっているけど、そうじゃない。
銀さんは祖母の元に行ったんだって。私にはアウローラとダヴィドがついているから。寂しさもあるけど、五十年もの長い間探し続けていた祖母にようやく会えたのだ。
彼は私の側ではなく、祖母の側にいるべき人だと思う。
別れ別れになる前とは関係が大きく変わってしまっただろうけど、それでも変わらないもの、変えられないものってあるんだと思う。
伴侶とか、そう言うの関係なく、銀さんのいるべき場所は祖母の側なんだろうな。
「それで、ルシアン様にはどのように口説かれてらっしゃるの?」
この人諦めてなかった!
「それは、私とルシアンだけの秘密です」
多分、全然隠してないと思うけど。
「アルト家の男性は婚約者や妻への愛情表現を隠してはならない筈ですから、大丈夫ですわよ、ミチル!」
ぎゃーーーーっ!
何故にモニカがアルト家の家訓を知ってるの?! いや、目の前で言ってたような気もしなくもないな……。おのれ、ルシアン……。
思わぬところで妻が大変な思いをする事になったではありませんか……っ!
「例え家訓がそうであっても、駄目ですっ」
「おっしゃりたくない理由を教えていただかなければ納得出来ませんわ!」
自分だって、と言おうとしたら、先回りされた。
「私はジークから、この世のどんな花を集めてもモニカ程
私の心を動かす存在はいない、と言っていただきました」
そう言って頰を赤らめ、思い出したのかうっとりするモニカ。
えー? ユーも書けるんじゃないの?
愛されて 愛されて 愛され尽くされております、ってタイトルでどうよ?
「ジーク殿下も、なかなかにおっしゃるのですね」
しっかりばっちり口説かれてるではないの!
「えぇ、愛の言葉は毎日いただいております」
毎 日 !
うちより熱烈じゃんね?
……あ、コレ、もしかしてアレですか、モニカが私相手に惚気たかっただけって奴では?
王太子妃だもんね。周囲においそれと惚気られないよね。おっけー、おっけー、ミチル、万事承りました。
「モニカ、今夜は好きなだけ惚気て下さって構わなくてよ?」
サムズアップしちゃうぜ!
「!」
って、イタタ!
「もにひゃ、いたいれふ!」
モニカにまで頰をつままれた!!
「違います。まったく、ミチルときたらいつまでも鈍いんですから。そんな事では今でもルシアン様からお仕置きをされているのではなくって?」
ぎくり。
図星である事が隠しきれなかった私を見て、モニカが何故か満足気に微笑む。なんで笑ったし?
「良いですわね、溺愛」
そっちか!
「……で?」
コイバナに関しては絶対引かないんだな、モニカ……。
「……私を、愛しいと思う気持ちを止められない、と」
あああああああああ!
思い出して口にするだけで致命傷!
「まあああああぁぁぁっ!」
黄色い声をあげたモニカに両手を掴まれ、激しく上下された。
「他には? 他にはないのですかっ?!」
わぁ……。めっちゃ目がキラキラしてる。
いつもそうだけど。
「……飢えが満たされないですとか……」
「満たされない!」
こら、王太子妃! はしたないですぞ!
目で嗜めると、口を手で隠しながらも、隠し切れないらしく、頰を赤らめてます。顔が緩みきってます。
モニカ大興奮。
「もう、モニカは……」
言ってるこっちは恥ずかしいんだぞ?
あのイケメンには恥じらいなんてものは皆無ですからね。ぐいぐいとめり込み気味に来ますからね、常に。
大好きですけど。
「あぁ、私、ルシアン様の言葉の選び方が昔から好きなのです。常に全力でミチルを狩りに行くではありませんか?」
……え? 今なんて?
狩りって言わなかった?
「妖精姫は猛獣のような美しい紳士に身も心も奪われるのです!」
祈るように両手を胸の前で握り、うっとりするモニカ。
少女時代から恋愛好きだなぁ、とは思ってたけど、こっちはこっちで独自進化果たしてた。
って言うかまだ覚えてたのかそのあだ名! 私の黒歴史!
「そのあだ名、もう卒業させて下さいませ……」
「そうですね……女神の愛し子ではそのまま過ぎてあんまりですものね」
「いえ、そうではなく……」
あだ名から頭を離そうよ……。
たっぷりとモニカの惚気を聞き、私もなんやかやと暴露させられたりして過ごした女子会。
同じ立場で話せる相手は多くない。
始めの頃は恥ずかしくてたまらなかったけど、色々言ってるうちにこっちもノッテきてしまって、負けないぞとばかりに色々言ったなーー……言っちゃったなーー……。
ちょっと後悔。
飲み過ぎた翌日のような後悔が押し寄せております。
だけどスッキリしてる。めちゃスッキリ。
あんな風にはしゃいで声を上げたりって普段は出来ないから、モニカとの女子会は私にとって特別だ。
あぁ、本当に楽しかった。
楽しかった……のに!
「さぁ、ミチル。昨夜私に話してくださった想いをそのまま、ルシアン様にぶつけて朝から甘えるのです!」
やだよ!?
必死に抵抗する私の背中を押すモニカ。
もうあと数歩でルシアンがいるであろう部屋に着いてしまう。
「モニカっ!」
「ミチルがおっしゃったのではありませんか。朝一番にルシアン様に会いに行き、口付けと抱擁をたっぷりして、前夜の心の乾きを癒すと!」
「言っておりませんよ?!」
どんどん余計な情報って言うか、願望を付けるの止めてーっ!!
その間もぐいぐい押されて、来てしまいましたよ、ルシアンのいる部屋の前まで。
「会いには参ります。朝のご挨拶に。
ですがそれ以上はいたしませ」
突然目の前の扉が開いた。
あ、ルシアンだ。
「ルシアン、おは?!」
引っ張られて抱きしめられた!!
モニカが、モニカがいるのに!
これ、モニカが喜ぶだけなのに!
「ありがとうございます。ミチルを連れて来て下さって」
「これぐらい、当然です」
「では」
では?! 私は朝の挨拶に来ただけであってだな?!
抱き上げられ、部屋に入られてしまった。
あっ、ドアが閉まる……モニカが笑顔で手を振って……。
「ルシアン、モニカに失礼ですよ?!」
「そんな事ないでしょう、この状況こそ、モニカ妃のお望みだと思いますよ?」
ソウデショウケド。
ルシアンのキスがこめかみやら頰に落される。
うううううう、胸がうずうずするよーーっ!
「会いたかった、ミチル」
たった一晩離れていただけでこれですよ!
まったくもう! そんな事言っちゃ駄目なんだぞ!
ミチルが喜ぶだけなんだぞ!
……ちょっとだけ、ちょっとだけ素直になってみよう。
「……モニカはジーク殿下の事を。私はルシアンの事をずっと惚気ていたのです」
ルシアンへの想いをモニカに聞かせてる場合じゃないんだよね、本当は。本人に言いたいのに、言えなくて。
「そうなの?」
目を細めて、柔らかな笑みを浮かべるルシアン。
「そうです。私もモニカも、夫の事が大好きなのです」
これは本当に。
「もう一度言って?」
ルシアンの甘い声に、胸がきゅんきゅんする。
「……誰より好きです、ルシアン」
これまでも、これからも。
ずっとずっと、大好きだよ。




