親友との再会
ルシアンからモニカ達王太子家族をラルナダルト領に招待しました、までは聞いたんだけど、待てど暮らせどモニカが来ません。来る気配すらありません。
なんでなん?
もしかしてあれ、幻聴だったん? あまりにモニカに会いたくなった私の願望が見せたマボロシ?!
「父がいる所為で通過の許可がなかなか下りないようですね」
え? お義父様一緒だと時間かかるの?
あ、分かった! 分かっちゃいましたよ、アレですね。
「違います」
「!?」
言うどころか思う前から否定された?!
ひどない?! あんど早すぎだよね?!
「まだ、思ってすらいないと言うのに、酷いです」
抗議します!
昨今のうちの執事と言い、うちの旦那さんと言い、ちょっと前傾姿勢が過ぎるんじゃないかな。せめてさ、考えるぐらいは許そうよ?! そこはミチルの不可侵領域だと思うんだよね!
笑ったルシアンに腕を引っ張られて座らされ、バックハグされる。
ぬぅ……ぐっどぽじしょんではないですか。
控え目に言って大好きだ!
「世界征服には関心が無いと思いますよ。あぁ、でも、四天王は伝えたら喜んで決めそうな気がします」
…………ソレ、何処まで広がってんの?
世界征服も四天王もちょっとした遊び心だったのに!
「ダヴィドがやる気を出していました」
ダヴィドのやる気スイッチはどうなってるのかなー。
イマイチ掴み所が無いって言うか……掴む所あるのかな?(暴言)
「本来、通過するにしても簡易な報告しかしないものです。しない事の方が殆どですね。その代わり何かあってもその国に対して補償等を求める事は出来ません。
ですが今回は王太子の家族が移動する訳ですから、何かあった際には国家間の問題になります。当然許可を得ます」
ふむふむ。そうだよね。連携取っておいたほうが良いよね、うんうん。国際問題勃発の恐れ有りですよー。
でも、それとお義父様とどうつながりが? その流れだと王太子家族に何かあってはいけないから、準備する時間下さいね、とかなら分かるんだけど。
「悪名高きリオン・アルトがカーライル王国宰相の職を辞し、自国への入国許可を正式に申請してくる。何事かと思ったでしょうね」
もしもし息子? 事実だけどさ、父親捕まえて悪名高きって凄まじいディスりですよ……?
「……わざと、なのですよね?」
そうでしょうね、と答えるルシアンは、その事にあまり関心がないのか何なのか、私のこめかみにキスをする。
「時間をかけさせた理由は、あちら側を誘導する為ですか?」
「距離もあるので私の知る限りの情報から、推測で答えますが」
そうだった。ルシアンも何でも知ってる訳じゃないのに、つい知ってる前提で聞いちゃったよ。
「思った以上に侯爵が駄目だったのではないかと」
あ、はっきり言った。
「それと、行方不明の尤もらしい状況と言うのも必要です。何もなく行方不明などになれば、侯爵はラルナダルトに対して損害賠償を求めてくるでしょうね。
カーライルの実質支配と過去に自国であった領地を手に入れる為に」
強欲の極みですな。
でも、そうですね。正当な理由もなく自国の王族に対して反旗を翻そうなんて思い付くだけでなく、行動に移しちゃうような不届き者なんだから、ありえそう。
ポリット侯爵は旧アドルガッサー王家の傍流で、その元王家も至星宮欲しさにラルナダルト家にあんな事したんだもんねぇ……血は争えないって言うか、血が濃厚だなぁ。薄めた方が良いヨ。
「必要な事なのでしょうが、あまり時間がかかると、ラルナダルト領は雨が多く、道が……」
……こんな、私でも気付く事をチート集団が気付かない訳ない。
せっかくのバックハグだけど、話しづらいから身体の向きを変える。よし、これなら顔が見えるぞ。
見るとルシアンが目を細めて微笑んだ。
アルト家はラルナダルトの領主になってから、道路の整備を徹底してやらせたらしいんだよね。運搬する為の道が悪路だと通行に時間もかかるし、運搬する物も揺れの所為で傷んだりもするだろうし。
何故かと言うと、ラルナダルト領ってそのあたり全然手をつけてなくて、雨が降っては道が泥濘むとか普通だったらしい。
街道沿いの安全性もあまりよろしくなかったとの事。
元ラルナダルト貴族のポリット侯爵は、ラルナダルト領を悪路ばかりの土地だと思い込んでいるだろう、って事ですね。
でも、そんなに上手くいくのかな? アルト家のお陰でラルナダルト領が凄い発展してるって有名らしいし。
「至星宮に来る前に、ラルナダルトの名所と呼ばれる岬に雨の中寄り、滑落して行方がようとして知れなくなります。ポリット侯爵がかつて治めていた領内にある岬にて」
……なるほど。
街道が整備されていないかもとか、岬の安全性とか、ポリットさんが元々治めていた所にしておけば、ツッコミしづらいよね。なんで整備してないんだとか、おまえが言うな展開ですね。
「王太子達がラルナダルト領に入るのは三日後だそうです。そこから迂回して来ますから、至星宮に到着するのは更に一週間後ぐらいでしょうか。
私達も明々後日には皇都を発ちましょう」
おぉ!
モニカ達知らぬ間に近付いてた!
計画は不穏だけど、モニカに会えるし、モニカとジーク様のお子様二人にも会えるし、楽しみになってきた!
突然頬をつままれる。
しかも結構強め。イタタ。
「いひゃいれふ……」
つまんでいるルシアンは無表情だけど、ちょっと拗ねてますな、コレ。
私が喜んだからですか、そうですか。今日も絶好調に病んでますね? オクスリ処方しましょうか? ありませんけどね?
「数年振りの親友との再会が楽しみなのは分かるんですが……」
分かってても拗ねてるのか。
はぁ、とため息を吐くイケメンが色気たっぷりでミチルびっくりだよ?!
色気の化身認定したい!
「笑顔も全て私だけのものにしたい……」
ルシアンはそう言うなり、頬をつまんでいた手を離し、抱き締めてきた。
本当病んでるなー。でも、私の気持ちを無視しないようにしてくれてるってのが分かるんだよね。
社会性とかは持ち続けたいよね。ルシアンしかいない世界って、逆に不安になりそう。だってさ、飽きられたら終わりじゃない?!
閉じ込められてるだけって何の役にも立ってないって事だし。完璧穀潰しとか嫌ですよ。駄目駄目。それにボケそう!
子供もいるんですからねっ。
諸般の事情を鑑みても、監禁お断りですヨ!
「全部ひっくるめての私ですよ?」
「えぇ、だから悩ましいのです」
悩ましい? なして?
「ミチルに愛される喜びを知ってしまったから、貴女から笑顔を失わせるような事は出来ません」
そう言ってまた、悩ましげに色気たっぷりなため息を吐くルシアンであった。まる
*****
モニカ降臨です!
目の前に生モニカですよー!!
あれやこれやと準備をして皇都を出発した私達は、至星宮にてモニカ達の到着を今か今かと待ってました。
いえ、ソワソワしまくっていたのは私だけだと思います。
「招待に応じてくれた事、嬉しく思います」
私が声をかけると、ジーク殿下とモニカが礼をした。
一応ね、こんな私でも皇族扱いなんですよー。世界の七不思議に加わっていいレベルです。
え? さっきの言葉? マスターセラによる台本を暗記ですね。短めの台詞でお願いしました。
「ミチル殿下直々のご招待、望外の喜びにございます。カーライル王に代わりまして、お礼を述べさせていただきます」
ジーク殿下は礼を直り、笑顔で言った。うむ。うちのルシアン様に引けを取らない美形っぷりは相変わらずですね。何だっけ、春の王子とかあだ名付けられていたような? 隣の妻に。
「ミチル殿下、ならびにアルト伯爵におかれましては、ご機嫌麗しく。こうしてお目にかかれた事、無上の喜びにございます」
モニカからの挨拶を笑顔で受け取ると、侍女に手を引かれて、金髪のお人形さんのように可愛らしい女の子が前に出て来た。モニカが侍女から女の子の手を受け取り、自分の前に立たせる。
ジーク殿下とモニカの最初の子かな?
不慣れな様子でカーテシーをすると、はきはきとした口調で挨拶をしてきた。
「レニアル・ドナ・カーライルと申します。お招きありがとうございます」
んんんんっ! 可愛い!
ちょっと舌っ足らずな感じが絶妙で大変可愛いデス!!
「まぁ、上手にご挨拶が出来るのですね」
褒めると、頬を赤らめて嬉しそうに微笑むレニアル姫。
あまりの可愛さにミチル、ノックアウト寸前ですよ!
話を続けようとした私の肩をルシアンが抱き寄せる。
「長旅で疲れたでしょうから、場所を移動しましょうか」
あ、そうだった! つい興奮してしまって。反省です。
ルシアンの言葉に皆頷いて、サロンに移動する。
サロンに移動してからは無礼講ですよ。
一応行方不明なんで、歓迎会なんかは大々的にはやれないのです。
あんなのほほんとした挨拶してましたけど、実はラルナダルト領内は蜂の巣を突いたような大騒ぎなんですヨ。
ラルナダルト公爵に招待されたカーライル王国王太子家族とアルト公が崖から馬車ごと転落して行方不明。
……という知らせは破竹の勢いで広められております。それからカーライルにも早馬が飛ばされておるのであります。
事件性を鑑みて、ラルナダルト領内への出入りは禁止。完全封鎖。厳戒態勢です。
……で、モニカ達は至星宮に来て、お義父様はこっちには寄らずに皇都に直接向かったのですな。
ちなみに、親友の生死が不明という事で激しい衝撃を受けたラルナダルト公爵、つまり私、は寝込んでいるそうです。食べるものも食べられないらしいよ! その設定必要なのかな!?
「面倒な事に巻き込んで本当に申し訳ない」と、ジーク殿下が疲れた表情で言った。
「大変なのは皆様でしょう。こちらの事は気になさらないで」
こっちは全然困らないと思うけど、カーライルは大変だよね。ラトリア様とか大丈夫かなぁ。なんかルシアンが毒を盛られるだろうとか言ってたし。
ルシアンに視線を向けると、微笑まれた挙句頬にキスされた。
ぬっ! ジーク殿下達がいるのに! ルシアンがそんな事するからホラ! モニカの目がめっちゃキラキラしちゃってるよ?!
「相変わらずのご様子に安心しましたわ」
"相変わらず"と"ご様子"の間に隠された言葉があるような気がしてならないです。
そして定番ですけれども……。
「今夜はミチルと過ごしたいですわ、ルシアン様」
ルシアンにこうもはっきりと要求を突きつけられるモニカって、もしかしなくても猛者だよね?
私の手を握るルシアンの手に力が入る。それから憂いを帯びまくった目で見つめられた。
「ミチル……」
毎晩同衾してるのに一日も離れたくないとか、本当にユー、私に関して心狭いね。好きだけど。
「女子会を希望致しますわ。目覚めたら会いに伺いますから、そんな顔をなさらないで?」
ね? と可愛く見えるように小首を傾げてみちゃったりなんかしちゃって。見ましたか、ミチルも成長してるんですよ。成長してるのは子供だけじゃないんですよー?
「……分かりました。会いに来て、口付けと抱擁をして下さるのですね」
そこまで言ってないよ?!
「モニカ達がおりますのにっ!」
慌てて否定する私に、モニカがとどめとばかりに追い風をルシアンに送る。
「間違いなく、ルシアン様の元に向かわせますわねっ!」
ユー、どっちの味方なんだい……。




