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転生を希望します!【番外編】  作者: 黛ちまた
アルト家 家訓!

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陰謀ですのね?

モニカ視点です。

久しぶりなモニカ。

 ルシアン様の父であるリオン・アルト公爵は、齢十二歳から我がカーライル王国の宰相を務めておられました。

 とにかく、全てに於いて異例尽くめの方です。今更アルト公の成された事を羅列するのもどうかと思いますから割愛させていただきますけれど。

 お話だけは父や、別の方からも伺っておりました。

 御子息のルシアン様とは同級生として交流させていただき、率直に、大概な方だと思っておりました。王太子妃となり、アルト公と接点を持つようになってから、ルシアン様が大概なのはミチルに対してだけで、後は比較的まとも──いえ、それはちょっと好意的に評価し過ぎてしまったかも知れませんが、そんな風に思えてしまう程に、アルト公は、言葉を選ばないで言わせていただくなら、全てに於いておかしいのです。


 ご長男のレンブラント公はアルト公に似てらっしゃいますが、陛下がおっしゃるには、アルト家の男子によく見られる気質だとの事。

 人好きのする笑顔に、小気味良い会話を流れるようになさる。見目も良く、聡明なのが視線、所作の一つ取っても分かるような、非の打ち所のない好男子。それがアルト家の男性なのだそうです。お父様もおっしゃっておりました。嫌味なぐらいに完璧に見えるのがアルト家の男の特徴だと。

 その言葉に思わず、同級生であったルシアン様を思い浮かべます。

 雰囲気に幾らかの違いはあったとしても、ルシアン様は間違いなくアルト家男子らしく、見目が良く、聡明ですが、周囲を楽しませるような会話をなさる方ではありません。寡黙で、彼が饒舌になるのは妻であるミチルにだけ。

 いえ、そこに不満はございません。むしろ私的には大変好ましい。大変に好ましいのです(重要な事は二度言うべきだとミチルに教えていただきました)。

 誰にでも公平にお優しいのも素晴らしい事ですが、私の好みとしましては、愛する方だけを一途に想い、他者には目もくれない──最高ですわ。

 大分話が脱線してしまいました。私が申し上げたかったのは、目の前で優雅に紅茶の香りを楽しんでいるアルト公が、おかしい、と言う事なのです。

 王妃様が身内だけでとご用意下さったお茶会にご招待いただき、サロンに足を踏み入れたら、アルト公がいらしたのです。

 ミチルがいたならこう言うでしょう。嫌な予感しかしません、と。


「よく来てくれたわね、さ、お座りなさい」


 戸惑う私に、王妃様は着席するようおっしゃいます。

 ただのお茶会ではないのだと理解し、夫であるジークと共にカウチに腰掛けました。

 私達の前に、温かく柔らかな香りをさせた紅茶が置かれ、陛下がお越しになり、招待された全員が揃いました。

 落ち着かない気持ちの私を見て、王妃であるお義母様が困ったように微笑まれ、アルト公に声をおかけになりました。


「アルト公、始めてちょうだい」


 鷹揚に頷くと、アルト公は口を開き、私達は言葉を失う事になったのです。


「結論から申し上げよう。王太子ご家族には、行方不明になっていただく。生死不明、と言う奴だね。

なかなかそんな経験は出来ぬものだ。是非楽しんでいただきたい」


 行方不明を楽しめと言われても、どう反応して良いのか分からない。アルト公との会話はいつもそう。淑女として、王太子妃として相応しい振る舞いをと教育をされてはきたけれど、この方を前にするとどう対応して良いのか分からなくなり、戸惑うばかり。

 アルト公を義父とするミチルは、どのように接しているのかしら。是非ミチルに尋ねたい。


「アルト公、何かが始まるにあたり、私達家族が行方を晦まさねばならないのは分かった。そうせねばならない理由を説明してもらえないだろうか?」


 ジークの問いに、アルト公は一度、頷いた。


「ポリット侯爵にひと時の夢を見せてあげようと言うのが、陛下と私の考えなのですよ、殿下」


 ポリット侯爵。

 アドルガッサー王家が皇国により処罰を受け、王国は瓦解し、一時カーライル王国の属国に。その際にカーライル王国に転籍となった家であり、アドルガッサー王家の傍流。

 ミチルがディンブーラ皇国公家 ラルナダルト家の正統な後継者である事が発覚し、アドルガッサーで最大の力を持つレーゲンハイムがアルト家門に下った。

 聞けばレーゲンハイム家とは公家であるラルナダルト家を守る為に存在する一門との事。ミチルはアルト家の後継者であるルシアン様の妻。レーゲンハイム家がアルト傘下に入るのは至極当然の流れ、ではあるのですけれど。

 元が絶大な力を持つアルト家に、レーゲンハイムが加わった事で、カーライル王国内での力の均衡が崩れたのです。端的に言えば、王家を凌ぐ力、血筋をアルト家は手中に納めました。

 皇国公家が王家の下になった事で、いずれアドルガッサーと同じ轍をカーライル王家が踏まないとも限らない。

 今はそうではなくとも、未来の事は分からないと、陛下もアルト公もお考えになったのです。この件についてはジークも頭を悩ませていました。

 カーライル王国を建国当時から支えてきたアルト家が抜けるのは、王国にとって損害でしかありません。王家としては俄かには受け入れがたい事なのは、さほどまつりごとに詳しくない私でも分かります。

 ですが、王国の未来を見据え、対応出来る時にすべきとの判断を陛下はお下しになりました。


 ミチルの祖母であるイルレアナ様はディンブーラ皇国の女皇として即位なさってらっしゃいます。

 アルト家はラルナダルト領の領主として皇国に復属し、正式に皇国公家となったのです。ラルナダルト公爵位はミチルが継承しました。

 女神の愛し子でもあるミチルを理由もなくカーライル王室の下に置く事はあり得ないのです。

 カーライル王国は、旧アドルガッサー領をアルト領および金銭と引き換えに渡しました。それによる莫大な富がカーライル王国にもたらされました。にも関わらず、アルト家の財力は揺らがなかったと言います。

 ……恐ろしい事です、本当に。そのような家が王国から失われると言う事実が。


 アルト家の所領は一部の領域を除き、財を生む土地として他領から羨望を集めておりました。それらを旧アドルガッサー籍の貴族達に与えたのです。

 価値が釣り合わないのではと思っておりましたが、陛下とアルト公が決めたと聞いております。

 旧アドルガッサーでの領地を失うのですから、上部だけ見ればなんらおかしな事ではありませんが、カーライル籍であった貴族達の中には不満の声を上げる者がいました。

 心理的には理解出来ます。新参者が、古参の上をいくようなものです。面白い筈がありませんもの。


 かつて私達が学生時代に、ミチルの発案により立ち上げたギルドは全ての国に支部を持つ組織となりました。

 大陸の中心地となったカーライル王国は、かつてとは違う立場になってしまいました。これだけの力を御す事は生半な事ではありません。未来の国王となる夫を支えられる王妃にならねばなりません。

 ですが私達は、心の何処かでそれ程深刻に受け止めてはおりませんでした。

 アルト家はカーライルから去りましたが、アルト公は宰相として残っていたからです。この方がいれば何も案ずる事はない。きっと、誰もがそう思っていたに違いありません。少なくとも、私はそう思っておりました。

 それなのに、少し前にアルト公が宰相を辞任なさったのです。長男であり、レンブラント公爵家を継いだラトリア様に宰相職を引き継いで。ポリット侯爵がその補佐としてつきました。

 これだけでも心穏やかではいられないと言うのに、そのアルト公が、私達に行方不明になれとおっしゃるのです。

 私もジークも、国の為に身を粉にする覚悟です。ただ、その前に、親友であるミチルからの招待を受けて、少しの休息と充填をしたいと考えておりましたのに。


「私もそれなりに生きてはいるけれど、行方不明になるのは初めてだから、今から楽しみでならないよ」


 そうおっしゃってにっこり微笑むアルト公を見て、両陛下が深いため息を吐かれました。いつもの事とは言え、本当に……。


「公、まさか同行するのか?!」


 ジークの言葉に私も遅ればせながら気が付きました。


 一緒に行方不明になる?!


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