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転生を希望します!【番外編】  作者: 黛ちまた
アルト家 家訓!

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妻の望みを叶えるのは夫の務め

ルシアン視点です。

 顔にかかるアッシュブロンドの髪を、起こさぬように耳の後ろに流す。

 眠りも深く、長時間の休養を要するミチルは、余程の事がなければ目覚めない。

 柔らかな頰をそっと撫でる。目覚めている時に触れると、彼女の反応に胸が疼いてしまうが、眠っている際に触れると、穏やかな気持ちになる。


 愛しい人。

 どれだけ目に映しても、どれだけ声を聞いても。

 数えきれぬ程抱きしめても、満たされる事は無い。離れた途端にまた、恋しく思う。

 常に飢えを感じる。

 愛しくて、恋しくて。狂おしい。

 御し難い感情、衝動ではあるが、嫌では無い。


 ……隣室に人の気配がする。


 そっと寝台から下りてガウンを羽織る。振り向き、彼女が眠ったままなのを確認してから寝室を出た。

 ロイエが扉の前に立っていた。俺の姿を確認して頭を下げる。


「お休みの所を申し訳御座いません」


「報告を」


「カーライルにて、不穏な動きがあるとの知らせが届きました」


「アドルガッサーの者達か」


「左様に御座います」


「宗主とレンブラント公は?」


 父と兄が何もしない筈も無い。

 それにも関わらず、俺に知らせる理由。


「様子見をなさっておいでです」


 旧アドルガッサーの貴族がカーライルにて不穏な動きをする理由として考えられるのは、現状に対して不満があるか、別の理由があるのか。

 それにしても、あの二人が様子見をしている、と言う事に違和感を覚える。

 兄は争いを好まぬ気質だから最後まで動かないかも知れないが、父はそうでは無い。それに、兄は謀を嫌ってるだけで出来ない訳では無い。


「首謀者は?」


「旧アドルガッサー王家の血を引く者に御座います」


 カーライルは奴等から見れば熟れた果実のように見える事だろう。

 辺境に位置するとして下に見られる事も少なくない国だ。入手可能と誤認した可能性は高い。


「如何なされますか?」


「要請も来ていないのならばどうもしない」


 ロイエが頷く。


 リオン・アルトの庭でそのような事が可能だと考えるなど、随分と豪胆な事を考える。

 ……父がアルト一門のラルナダルト入りを勧めたのは、この為ではないかと言う考えに至る。俺はまだ宗主の座についてはいない。それなのに、アルト一門を俺の下につけた。

 いずれ膿は出すのだろうとは思っていた。

 アドルガッサー王国が滅びる際、想定以上に王族派が残った。奴等は簡単に王族を見限ったが、貴族同士のつながりなどそんなものだ。使える駒は多い方が良いし、表立って歯向かわないのであれば、無理に潰す必要はない。潰すにしても、今では無いと言う事だし、何事にも方便と言うものは必要になる。

 アルトがラルナダルトに移って力を失ったと思わせて、旧アドルガッサー領からカーライルに転籍した貴族達を粛清する。

 父の考えそうな事ではある。


 カーライルでどれ程の立ち回りをする気なのかは分からないが……人生の大半をかけてきた目的が果たされた今、暇を持て余している事は想像に難くない。


「……情報の共有をする。執務室に向かう」


「準備をして参ります」


 頭を下げ、ロイエは扉の向こうに消えた。


「アビス」


 背後に気配がする。


「こちらに」


「ダヴィドとセラを」


「畏まりました」


 旧アドルガッサーの事はレーゲンハイムに聞くのが早い。アウローラはロイエから状況を知るだろう。

 面倒な事ではあるが、早めに煩わしい事は刈り取っておくに限る。

 子供達も大きくなってきて、ミチルは自分なりに何かを為さねばと動き出そうとするだろう。その前に掃除は済ませておくに越した事は無い。







「お召しにより参上しました」


 執務室にロイエ、セラ、ダヴィド、アビスが揃う。


「大筋は聞いているか?」


 全員が頷く。


「宗主はアドルガッサーの残党の内、カーライルに敵対する勢力を根絶やしにするだろう」


 そうしてカーライルにとって有益な貴族のみを残し、潰した家門から没収した資産を配分する。

 アドルガッサーの貴族とカーライルの貴族が小競り合いを起こしていたと言う報告書は読んだ。

 役に立たない者達の為に不和が起きるのは無駄な浪費でしかない。


「今回反旗を翻そうとする者達の多くは、宗主様のご判断により、取り分け多くの所領を得た貴族です」


 ロイエが説明する。ダヴィドが眉間に皺を寄せる。


「高待遇なのに、更に欲しがったと言う訳ですね、あのゴミ達」


「人の欲にキリはないものねぇ。それに、その配分もどうせ大旦那様が焚き付ける為に敢えてそうなさった可能性が高いわよね」


 セラの言う通りだろう。

 最初は神妙に振る舞うものだ。それだと時間がかかる。だからこそ、わざと欲を掻き立てる。もっと手に入るのではないかと思わせる。


「最初から潰すつもりだったって事ですか?」


 ダヴィドが呆れたように言うと、ロイエが頷く。


「あの方はそう言うお方だ」


「うぇ……」


 苦虫を噛み潰したようなダヴィドの顔に、セラが苦笑する。


「大旦那様から要請はないものの、知らせだけ届いたと言う事は、ラルナダルト領にも影響があると読んでらっしゃる、と言う事? いくらなんでもラルナダルトに手を出せば皇国が黙ってないと思うんだけど。

ねぇ、ダヴィド、その反旗を翻した奴らはどの程度なのかしら?」


 アドルガッサーの併呑だけであれば、どうでも良い事ではあった。レーゲンハイムに一定の権限を与えて統括させれば、それまでと表面上何も変わりがなかった。

 あの愚かな王室の元でアドルガッサーが国として体面を保ち続けたのは、偏にラルナダルト家が事実上の統治者として維持していたからに他ならない。

 ラルナダルトが消えた後、レーゲンハイム翁はイルレアナ様の帰還を信じ、捜索を続け、アドルガッサーを程々に維持した。ラルナダルトが存続していないにも関わらず、アドルガッサーが繁栄すれば、あの王室も浅慮な貴族も、ラルナダルトは不要であったと認識するだけであったろう。

 絶妙な匙加減で維持し続けたレーゲンハイム翁は、流石の手腕と言った所か。


 ミチルがラルナダルトの正当な後継者である事が判明し、レーゲンハイムはアルト一門に加わる事を望んだ。

 そうなれば話は変わる。

 レーゲンハイムは絶対にミチルから離れる事はない。内に取り込む以外の選択肢は、あの時離散させるしかなかった。だが、それでは皇都の公家と肩を並べるには俺の力が足りない。ミチルが取り込む事を図らずも決断した。

 力を持つ一門だ。ミチルを奪われない、守ると言う意味合いでも、取り込む事に異論は無い。


「こんな事を仕出かす程度の頭、です」


 ロイエとセラが納得したようで頷いた。


「こっちにツテなんかないわよね? 大旦那様のご命令で、貴族はごっそり入れ替えたものね?」


 ラルナダルトは王家では無い。不要な配下を持たない為に公家と言う立場に留め置いたのはその為だ。

 国の頂点に立つと言う事は、内側に意に沿わぬモノをも内包せねばならなくなる。それは回避したかった。

 ミチルが望んでいない事も大きかったが、実際、役にも立たぬ、毒にしかならぬモノを忌避したのが理由だ。


「無い筈ですね。あんな奴らが領民に慕われている筈もないですし」


 ロイエが頷く。


「愚か者は根拠の無い自信を持つのが得意です」


 セラが俺を見る。


「単純に国内の膿を出そうとなさっているとは思えません。大旦那様であれば、それに乗じて別の事もなさろうとする筈です」


 俺は頷いた。セラは父の思考をよく読んでいる。


「カーライル王国は何処にある?」


「? 皇国としては三国の交わる……大陸としては中央……です」


 言いながらダヴィドは気付いたようだ。


「もしかして……オーリーを焚き付けていたのって、宗主だったりしますか……?」


 厳密に言えば、父の意向を受け、サーシス家当主がイリダ・オーリーの監視役をしているフィオニアに命じ、そうなるように仕向けたのだろう。


 カーライルは大陸の中央に存在する小さな王国だ。それぞれの大国から見れば辺境にしか見えないだろう。だからこそ長きに渡り、軽んじられていた。

 辛酸を舐めさせられていた。


「カーライルは今、ハウミーニアを併呑し、それなりの国土を大陸の中央に持つ国になり、各ギルドの本部に当たる組織は全て、カーライルにある。

ギルドはオーリー、イリダの大陸にも手を伸ばした……偶然では片付けられそうにないな」


 セラが額に手を当てて深いため息を吐いた。


「ようやく合点がいったわ……。シャマリー・ビルボワンが噂の制御に長けていたとしても、異常な浸透具合だったもの。大旦那様が裏で操作していたと言う事ね?」


「待って下さい。その場合、何処まで皇太子殿下はその件に噛んでるんです?」


 悲鳴のような声を上げるダヴィドの肩を、ロイエが叩く。


「つまり、全てはリオン・アルトによる計画通りだったと言う事だ」


 女神の愛し子に関する悪評を利用し、その事を対処させる為にオーリー、イリダ双方との国交強化を図りつつ、ギルド新設および増強を名実共に認めさせる。

 三国以外の別の力としてギルドを創設したは良いが、如何にして力を付けさせるのかと思っていた。


 そのギルド全てをカーライルに配置する。大陸の中央に各ギルドの本部があるのは一見合理的だ。

 三国、オーリー、イリダ、全ての国をギルドというどの国にも属さない組織が監視していく。

 この件に陛下と聖下がどれだけ関与していたかは不明だが、ギルドがリオン・アルトの制御下にある事は、二人にとって然程問題にはならない。

 むしろ、全ての国に睨みを利かせられるリオン・アルトがいる間に盤石な組織に育て上げる事が望まれるし、それは陛下と聖下によるマグダレナの民の包括的支配という目的にぴたりとはまる。


 カーライルからアルト家が去れば国力が衰退する事は分かりきった事だ。それを黙らせるだけのものを用意したと見るべきか、カーライルの舐めた辛酸を返す為のものなのか。


「用意が全て整ったと見て宜しいのでしょうか?」


 ロイエが言う。


「いや、まだだろう。それであれば動いてもおかしくない」


 事が起きたとして、ラルナダルトに影響があるとは考えられないにも関わらず、敢えて知らせて来た理由。


「ミチルがカフェを開きたいと考えている。カーライル王国王太子妃のモニカ妃は立ち上げ時のメンバーだ。皇都でのカフェ新設に、是非とも知恵を拝借したい、と。ラルナダルト公爵の名で招待状を出すように」


 愚か者共からすれば、敵は少ないに越した事は無い。その状況を敢えて作り出すとする。勝手に天は自分に味方したとでも考える事だろう。

 わざわざ夫妻を招待すれば不審に思われるかも知れないが、モニカ妃だけを招待するようにすれば、王太子もと奴等は勧めるだろう。


「そう時間もかからずに収束するだろう。ラルナダルト領内に出入りする者の管理は徹底するように。間違っても逃げ果せたネズミが入り込む事のないように」


 礼をして三人は部屋を出た。


「……お目覚めになられたようです」


 アビスが言う。


 書類を引き出しにしまい、執務室を後にする。

 寝室に戻ると、ミチルが上体だけ起こして、ぼんやりとしていた。


「目が、覚めてしまったの?」


 戻る際に用意した、水を注いだグラスを手渡すと、美味しそうに水を口にする。


「ルシアンはまた、お仕事をしていたのですか?」


 髪を撫でる。


「少しだけ、気になる事があったので」


「私を閉じ込めている場合ではないのでは?」


 笑顔を返して抱きしめる。


「ミチルの願いを叶えようかと」


「私の願い、ですか?」


 そう、と答えて、髪に口付ける。


「カフェを立ち上げるのも、良いかと思い至りました」


 腕の中のミチルが瞬きをする。驚いた顔。


「どうなさったのです?」


「バレンタインの際にもカフェが欲しいと言っていたでしょう。色んな菓子を買える店が欲しいと。

それに、孤児院の事もあります。夫として、妻の願いを叶えないのは不甲斐ないなと」


 嘘は吐かない。

 今回のカーライルの事があって、そうしても良い、と思えたのだから。


 嬉しそうに微笑むミチルの頰に口付ける。


「さぁ、まだ起きるには早い。もう少し眠りましょう」


 頷く彼女を胸に、寝台に横たわる。


「ありがとうございます、ルシアン」


「いいえ。ミチルに欲しいものを教えて欲しいと言いながら、嫉妬が先に出てしまいました」


 何をするにも、理由と言うのは必要になる。

 王太子家族をこちらに呼び寄せるのなら、尚更。

 ミチルの願いは表に出しやすい。我等にとって動きやすい理由となる。


「それに、当然の事です」


 アルトにかかる災いは全て取り除かねばならないのだから。


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