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転生を希望します!【番外編】  作者: 黛ちまた
ミチル きょにゅー化プロジェクト

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ミチルの深淵なる悩み その8

ミチル、きょにゅー化計画の行方は……?

 シャマリー嬢とオーリーの上位貴族のヒメネス氏の婚約が正式に決まった事を教えてもらって、嬉しくてたまらなかった私は赤飯を炊いた。シャマリー嬢にはあげないんだけどね。

 いやー、めで鯛! 鯛のおかしら付きとか食べたい。重ね重ねシャマリー嬢にはあげないんだけど。

 ……え? だってイキナリこんなの届いたらびっくりするでしょ? だから婚約のお祝いは別途する予定ですよ!


 ロシュフォールとリュリューシュにも、赤飯を食べさせちゃう。さすがに小豆は潰しておくけど。

 気に入ったのか、ロシュフォールは次のひと口を催促してくる。そうかそうか、君は赤飯の良さが分かるのかー。

 気が合うねー、母も赤飯好きだよー。


「ロシュは赤飯がお気に入りみたいね?」


 スプーンに赤飯をのせ、口に運ぼうとしたら手を掴まれて、ルシアンの口の中に入った。

 ……え? 何やってんの、ユー?


「……ルシアン?」


「美味しいです」


 美味しいです、じゃなくて、何してんだね。


「食べたいのであれば用意致しますから、子供達のを取らないで下さいませ」


「ミチルが作った物ですから、食べたいのは勿論ですが、出来たら食べさせていただきたいです」


「そう言った事は、ちゃんと言葉に出して下さい。このように奪うのではなく」


 いつもちゃんと食べさせてる筈なんだけどな? 一番にあげに行かなかったから拗ねてんの?

 まったくもー、なんで子供と張り合うのかな、この人。


「ミチルが冷たい」


 冷たくないよ?!

 って言うか、ごはんを子供に食べさせてただけだし、むしろ母子の触れ合いを妨害してるユーの方が冷たいんじゃないかと抗議したいですけど?


 エマとクロエがロシュフォールとリュリューシュを連れて部屋を出て行った。赤飯も持って。

 え、ちょ、私の赤飯……。私、まだ食べてない……。


 軽々と私を抱き上げ、カウチに腰掛ける。

 なんね、随分強引じゃなかね?


 膝の上に座る私の頰を、ルシアンの大きな手が撫でる。そっと。優しく。

 見つめる瞳には、安堵が見える。

 その表情に、全てが片付いたんだと分かった。


「ありがとうございます、ルシアン」


 ルシアンが目を細める。


 私が知らない所で、ルシアンもセラもロイエもダヴィドも、最近姿を見てないけどアビスも、色々としてくれたのだろうと思う。

 いつもそうだ。せめて邪魔にならないようにと大人しくしている事しか出来ない、無力な私を守ってくれる。


「私が余計な事をしたばかりに、面倒な事になってしまって、申し訳ありません」


 まさか胸を大きくしたいとリンデン殿下に相談に行っただけでこんな事になるなんて思わなかったよ……。

 ルシアンは首を横に振る。


「ミチルの所為じゃありません。ミチルは悪くない」


 優しい言葉に感謝するけど、全く悪くないとはさすがに思えないかな。器に関しては本当に。


「助けて下さったのは、シャマリー嬢だけではないのでしょう?」


 ルシアンは頷く。


「かねてより、新たに国を興したオーリーから要請は来ていたんです」


 オメテオトル──ケツァルコアトル、って言った方が良いのかな、あの人はちょっとややこしい。

 ケツァルコアトルと革命派の人達とアスラン王達が起こした政変クーデターと、私達皇国とイリダ艦隊との戦争の結果、長い間オーリーを支配していたイリダ王朝は倒された。

 アスラン王を初代国王として作られた新生オーリー王国は国名をゼナオリアという。ゼナが再生とかそういう意味だったかな。オリアは、オーリーの、という意味。

 イリダはアル・ショテルと国名を改めて、ケツァルコアトルが国王をしている。アルが後悔、ショテルが改める、繋げると悔い改めよ、って意味らしいんだけどね。国名それで良いのかい……?

 いや、後悔しないなら良いんだけどさ……。


 オーリーの国 ゼナオリアは、国の基盤が整ってきたかなぐらいの状態で、とにかくまだまだやる事いっぱい、山積みです、な状況らしく。

 国が崩壊したにも関わらず、イリダは元々が技術力があったのもあって、メキメキ復興しちゃってるとかなんとか。ケツァルコアトル氏、凄い優秀らしいよ。

 近距離にある二つの国の国力にあまりに差があるものだから、焦ったゼナオリアは再三に渡って皇国に交易をもっと広げたいと言ってきていたらしいんだよね。

 皇国としてもオーリーと、と言うか片方の国とだけ親しくする訳にもいかなくて。かと言って放置も出来ないし、どうしたものかな、と思っていたとの事。


 そこでルシアンとゼファス様が考えたのが、ギルドの新設。魔道研究院がこのたび魔道ギルドを新設する事になって、皇国、帝国、ギウス、ト国と燕国……要するに全ての国に設置されるんだけど、それをオーリーとイリダにも設置する事を決定したらしい。

 それ以外のギルドも作って、国と言う形ではなく、別の力でもって全体的なバランスを取るらしい。

 ゼナオリアは鉱物資源が豊富らしいので、それをこっちに供給するとかなんとか。


 ……で、そのギルドで働く人達が必要になる訳です。現地で働く人達も必要は必要だけど、マグダレナとの交渉をする人達は必要になる。

 今回の、魔力の器がないと判明して色々なものを失ってしまった人達に、そのポストに入ってもらえないかと協力を要請したんだって。

 勿論全ての人が了承した訳ではないみたいだけど、思っていた以上の人達が受け入れてくれたらしい。

 それから、女性も結構な人数が、マナー講師だとか、王宮の侍女として入る事も決まったみたい。

 支配層がごっそり抜けてしまって、国としての体面みたいなものを用意するのに、とにかく人材が不足しているらしくって、来てもらえるだけ嬉しいとの事。

 シャマリー嬢も、ヒメネス氏と結婚してゼナオリアに行って、マナーの教師をする事が決まってるらしい。


 必要としてもらえるって、嬉しいよね。

 なんて言うのか、尊厳って言ったら言い過ぎかも知れないけど、自分の存在を認めて、受け入れてもらってるって感じで、凄く大事な事だと思う。


「ルシアンも、ゼファス様も、本当に凄いです」


 何て言うの、一粒で二度美味しい。いや、違うな、ピンチをチャンスに、かな。ちょっと語彙力なさすぎて申し訳ないんだけど、本当に凄い事だと思うんだよね。


「貴女を奪われない為なら、努力は厭いません」


 これからも、マグダレナとオーリーやイリダの血を分けた人は生まれるだろうと思う。

 なにしろ国交が始まっているのだもの。これから増える可能性だってある。それをマグダレナじゃないからと拒絶する事は出来ないだろうと思う。

 生まれる先は選べない。そうして生まれた人達も、普通に生きていける居場所は必要だ。

 そう言う意味で、変わっていかなくてはいけなくて。その為の土台をルシアンとゼファス様は作ってくれた。


 今回だけの事で言うなら、弾圧も手段としてあり得たのだろうと思う。

 ただそれは、私がこれまで通りではいられなくなる可能性が高かった。弾圧をするだけの正当性が必要になってくるから。

 つまり、私が女皇になる、と言う事。

 それは帝国に対してゼファス様と祖母が行おうとしている事とリンクする。

 どうしても守らなくてはならないものはあって、女神マグダレナが作ったこの大陸は魔力を必要とする。魔力を大地と女神に捧げなくては成り立たないのだから。

 強引ではあるけど、女神の愛し子の私を貶める事は女神を冒涜する事であるとして、流言飛語を率先して吹聴していた人達を処罰し、女神への祈りを強化するうんぬんだのなんだの言って、私を女皇にする。

 それを持って帝国に圧力をかけていって、全体的な統合を図っていく──みたいな事も想定としてはあったみたいで……恐ろしい事です、本当に……。

 多分この案が採用されたら、もっと緻密に、それらしい筋書きが用意されていったんだと思うんだよね……。


「貴女が女皇になるなら、全力で支えます。その気持ちに変わりはない。

でも、ミチルをラルナダルト公として、私の腕の中に閉じ込めておきたい」


 ルシアンの唇がおでこに触れた。


「それだけの事です」


 どれほど大変でも、それを私に見せないルシアン。

 苦労を知って、私が女皇になると言わせない為に。


 伸ばした手に、ルシアンの手が重ねられる。


「ルシアン、お願いがあります」


「何ですか?」


 甘く、柔らかな声音に、耳がとけそうです。


「次からは、困った事があったら相談しますから」


「うん」


 こめかみと頰にキスが落ちてくる。


「破廉恥な事に結び付けないで下さいませ」


 分かりました、と言う答えが来ると思っていたのに、反応がない。ルシアンの顔を見ると、困った顔をしてる。

 ……そんなに真剣に困る事なの……?


「それについては都度、相談しませんか?」


 なんでよ?!


「何故そんなに破廉恥なのですかっ!」


 強く抱き締められる。


「愛しているからです」


「愛と破廉恥は同じじゃありませんよ?!」




 …………交渉は難航。







*****







 シャマリー嬢から私にプレゼントが届いた。婚約祝いを送ったから、そのお返しみたいなものだろうか?

 何だろう? オーリーの特産品かな?

 ワクワクしながら箱を開ける。

 ……ん? 液体? なんだコレ?

 同封されていた手紙を読む。


"オーリーの女性が使う、増胸に大変効果的と言われているものを送らせていただきます。

他にも見つけましたら送ります"


「!!」


 増 胸 ア イ テ ム と な ? !

 

 そうだよ、私、きょにゅーになろうとしてたんだった……!!

 色々ありすぎてすっかり忘れてたけど……!


 うわああああ、シャマリー嬢、いや、もうヒメネス侯爵夫人だっけ!

 ありがたやありがたや!

 さっそく、さっそく使っちゃうぞ……!


 嬉しくて液体の入っていた瓶を手に取って持ち上げる。

 日に透かすとキラキラ光っているように見えるのは私の目の錯覚かなー。

 うふふふふふー、使うのが楽しみ!


「"是非、アルト伯に協力していただいて下さいませ"」


 ルシアンが言った。

 いつの間に来たの? って言うか読み上げてるその紙は何カナ……?


「"使用方法は"……」


 嫌な予感がした私は、慌ててルシアンから紙を奪って続きを読む。


……ふむふむ。

…………ふむふ……む……?


「?!」


 顔を上げてルシアンを見る。無表情である。


「ルシアン、もしかして、読んでしまわれました……?」


「勿論」と答えると、ルシアンはにっこり微笑んだ。


「さっそくこの件について、協議しなくてはね?」


 誰かこの破廉恥イケメンを止めてーーっ!!


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