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転生を希望します!【番外編】  作者: 黛ちまた
ミチル きょにゅー化プロジェクト

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貴女が欲しいのなら、理由をあげる

ルシアン視点です(書き忘れておりました)


思いの外長く、重い話になってしまったミチルきょにゅー化計画ですが、もう少しで終わります。

お待たせして申し訳ありません(全然ミチルは育っていないのに話数だけ進む…)

 予想通り、皇太子であるゼファス様への謁見の許可は直ぐに下りた。

 ダヴィドやミチルが言っていたように、この件について陛下と殿下の動きがないように見えるのは、意図的である、という事だ。

 どう考えても俺に対する警鐘だろう。

 この程度で済んでいるのはミチルのお陰であって俺への信用ではない。信頼の有無ではなく、二人がミチルの心情に配慮した結果の警鐘。

 気を引き締めなければならない。

 外からの力に対応するだけではミチルを奪われてしまう。内側にも、油断のならない存在がいるのを失念していた。


 殿下の元へ同行するのはダヴィド。

 ダヴィドがゼファス様への謁見を望んだ。俺もまた、ミチルの望まぬ未来を回避する為に殿下の裁可を必要としていた。


「情報収集に手間取りました事、改めてお詫び申し上げます」


 皇城に向かう馬車の中、ダヴィドは頭を下げた。


「フィオニアの代替を後回しにしていた私に責任がある」


「ですがそれは、レーゲンハイム前当主の、引いては私の責です」


 フィオニアの穴を埋めるように、レーゲンハイム翁から情報は提供されていた。

 サーシス家にも人を寄越すように投げてもいた。

 対応していない訳ではないが、今回に関しては遅きに失する。

 俺がレーゲンハイム翁を信用し過ぎた事が大きかった。

 翁は裏切った訳ではない。本来の主人の元に戻っただけの事だ。


「嫡子となったからと安心した我らへのお灸だろう」


 本来なら、陛下と殿下から次は無い、と言われる所だろうが、この件に関しては想定外とも言えた。


「正直に申し上げて、陛下と皇太子殿下の上を行ける自信はありません」


 ダヴィドは不思議な男だ。平気で弱音を吐くが、有言は実行する。


「祖父はオレがアウローラに劣ると思っているので、オレではなく、アウローラと接触をはかっていました」


 アウローラは確かに行動力のある女性だ。

 少し垂れ目で、落ち着いた声と話術で真逆の印象を抱かせる容貌ではあるが、大変計算も早い。瞬く間にロイエの妻に収まった。

 アルト一門を支える一つであるルフト家に入る為には、いくつかの条件がある。サーシス家、クリームヒルト家にもそれぞれ存在する。

 アウローラはその条件を調べ、己が要求を満たしている事を証明した。

 ロイエには婚約者候補がいた。あくまで候補であり、正式な立場の者はいなかったが。他の候補者達よりも自分の方がロイエに相応しいと証明して見せた。


「アウローラがニヒトに情報を流していると?」


 あり得ないが、念の為に確認する。


「いえいえ」とダヴィドは首を横に振る。


「アウローラの事ですから、嘘の情報を教えていると思います。いくら祖父の事を敬愛していても、主人の望みを見誤るような愚かな人間ではないです」


 黙って聞き、続きを促す。


「祖父はアウローラの嘘に既に気がついています。ある一定期間毎にこちらに来るのは認識補正の為じゃないでしょうか」


 認識の相違点の補正。


「……なるほど」


 ダヴィドの言わんとする事が分かった。


「その為に殿下への謁見を望んだと言う事か」


 ミチルには常にオットー家が配置した影が付く。クリームヒルト家の者を付けると言ったが許されなかった。

 その際に言われたのは、甘いんじゃない? との言葉。


「今回の事はもう、為すべき事はルシアン様が殆ど終わらせてしまっていると認識しています」


 手数は最小で済ませた筈だったが……。

 勘所は悪くない。


「自分としては、これからの事の方が気になっています。ミチル様は確かにラルナダルトを継がれましたが、その重さの全てを負うのはまだ時期尚早です」


 頷く。

 ミチルはいずれ、ラルナダルトの責務を自分も果たすと言い出すだろう。


「情報共有をしなかったばっかりに、突如核心を突いて来られた挙句、無理をなされてはレーゲンハイムとしても困ります。

セラとアウローラがさせないとは思いますが、時折思わぬ行動力を発現されるとも聞いてます」


 思わず笑ってしまう。

 言い方を窘めるより先に、彼女の時折見せる暴走を思い出す。謎の方向に考えがちな、控えめな暴走。


「そうだ」


「今回の件については対象があまりに多く、望みとしても漠然としていて、ミチル様は対応しきれないと思っています。とは言え、そのままになさるご気性ではないですから、夜会で謝罪をなさるのではないかと。

ただ、それを陛下と殿下が許さない場合、彼らへの処遇は最悪の結果も想定されます」


 そこまで言ってダヴィドはため息を吐いた。

 ミチルはそれを恐れている。ダヴィド自身は今回の騒動の元となった者達に思う所はないだろうが、ミチルがそれによりラルナダルト当主としての責任に対して及び腰になる事を避けたいのだろう。


 ミチルはこれまで多くの被害に合ってきている。俺も、セラを始めとするアルトも、レーゲンハイムも、出来るなら真綿にくるんでありとあらゆる外敵から守りたいと思っている。

 ただ、それではミチルを駄目にする。ミチルがミチルでなくなってしまう。

 これまでの、力でもって事を進めて来た我等は、従前の手法の変更を余儀なくされている。しなくても良い、本来なら。ミチルは意味の分からない綺麗事を口にするような人間でも無い。

 だから、これは俺達の我儘なのだ。それぞれが抱く、願望の実現、維持。その為に。


 俺自身はミチルを閉じ込めて、俺だけを見て欲しい。

 セラはミチルの心を今のまま守りたい。

 ダヴィドとアウローラはミチルに、陛下やアルトの傀儡になって欲しくないと考えているのだろう。ただ、陛下のような強かさをミチルが持つのは不可能だ。その点を自分達が補う代わりに、ミチルにはラルナダルトの当主に相応しくあって欲しいと望んでいるのだろう。

 彼等は主人不在と言う、レーゲンハイムにとっての最大の喪失、辛酸を舐めた経験から、ラルナダルトを守る事に過敏になっている。

 レーゲンハイム翁ニヒトはイルレアナ陛下と同じ思考、方向性でラルナダルトを守ろうとしている。それは掌中の珠を守れなかった事への後悔から構成される。似ているようで、レーゲンハイム翁とダヴィド、アウローラの根底は異なる。

 取り戻した者と、長い間渇望していたものを漸く手に入れた者とでは、飢えの深さは同じだとしても、ズレが生じるし、主人とする者の望みも異なれば、必然的に行動は変わる。


 ゼファス様は、誰よりもミチルの為に動いている。その為だけに皇太子になったのは明らかだ。

 教皇を兼務した理由は、皇国による政権復古では無い。それを成そうとすれば帝国もギウスも滅ぼすなり属国化させる必要性が出てくる。これは父 リオン・アルトの目指す方向と相反する。例えそうなったとしても、ゼファス様自身は父と衝突する事に躊躇はないだろう。

 帝国皇室の血筋の有用性に気付いたのは、イリダを滅ぼす祈りに錬成術が必要になった際、予備スペアとして使用可能かを調べた可能性が高い。

 帝国皇室を公家と同じ、血統維持の為に利用出来れば、この大陸の維持が容易になる。血統を維持する事の有用性を他国に強制する事は出来ない。

 先の戦争でマグダレナの民としての血が、この大陸においては意味を持つ事が知れ渡った。

 リュリューシュを養女に迎え、オットー家と婚姻を結び、その子供と現皇帝の孫と婚姻を結ぶ。縁戚となる事で、どちらの皇室が教皇職に就いても違和感を抱かれずに済む。交互に教皇に就く事で権力の偏重は防げる。


「オットー家の影とクリームヒルト、どちらが上ですか?」


「殺傷能力はクリームヒルトだろうが、隠密行動という意味ではオットーだろう」


 アルトはその点をサーシス家とで分ける事により特化させている。


「アルト一門は知れば知る程、異常です。一国水準のもの──下手すればそれ以上のものを保持している。それはカーライル王国の位置故ですか?」


「そうだ」


 皇国、帝国、ギウス。その全てと国境を接する唯一の国 カーライル。

 何れかの大国の属国となれば、消耗品の如く使い潰される。そうならない為に、情勢を正確に、遅滞なく入手する必要性があった。


「今回、ミチル様の事だけでなく、皇太子殿下の事も調べさせてたんです」


 困ったようにダヴィドが笑う。


「殿下と宗主様、どっちが上なんですかね? 陛下だって大概だって言うのに」


「さぁ」


「ルシアン様、さすがにその反応は……」


「総じて己の上を行く存在であると認識する以上に、何が必要だ?」


「対策ですとか」


「そもそもの対策と言う意味を履き違えている。

天才だのなんだのと言われているリオン・アルトにだって弱みはある」


「ルシアン様の事ですか?」


「……そう言う事ではない」


 首を傾げるダヴィド。


「どんな人間にも思考に一定の規則性があると言う事だ。何を好み、何を厭い、何に怒り、何に悲しむか」


 経験──記憶、感情、成功、失敗。


「無論私にもあるし、そなたにもある」


「あぁ、つい同じ事を選択する癖、覚えがあります」


「先程そなたの言った、ニヒトの思考を読んだのもその規則性によるものだ。奇抜な策で裏をかこうなどと思うな。そんなものは直ぐに見抜かれる」


 全てにおいて正面からぶつかるのが正解ではないが、中途半端な小手先で何とかなるようなら、彼等は今、あの地位にはいない。


「肝に銘じます」




 案内されたサロンに、ゼファス様は既にお越しだった。

 胸に手を当て、頭を下げる。


「遅かったね。待ちくたびれた」


「お待たせしました事、汗顔の至りに御座います」


 許可を与えられ、頭を上げる。

 殿下の目が俺の斜め後ろに立つダヴィドに向けられる。


「レーゲンハイムか」


 ダヴィドはもう一度頭を下げる。


「アレは?」


「今回の事に胸を痛めております」


 目を伏せ、軽く息を吐いた殿下は、カウチを示す。

 ダヴィドに目配せをし、持参したものを殿下の従者に差し出してからカウチに腰掛けた。

 俺の後ろにダヴィドが立つ。


「それは?」


 目敏く気付く。


「ミチルが、是非殿下にと」


「まさか機嫌伺いに作らせた訳じゃないよね?」


 笑顔を浮かべている。不快だ、という事だ。


「ミチルは殿下に次にお渡しする菓子を練習しておりました。漸くお渡し出来る味になったから持って行って欲しいと頼まれましたので。

私としても、本当は独り占めしたいのですが」


 侍従に渡した菓子に目をやると、聖下が手を差し出し、菓子を俺から遠ざける。


 彼女は聖下の為に菓子を作るのを好む。

 俺と違って甘い物を好む殿下に作る方が、俺の為に作るより楽しく感じられるのは致し方ない……。

 ミチルが作ってくれたものなら、いくらでも食べられるのだが。


 たかが菓子ひとつ。されど菓子ひとつ。

 ミチルが作ってくれた菓子で、殿下の機嫌がいくらか良くなったのを感じる。

 助けがなくとも守り切れる男になりたいと思うのに、俺はまだ未熟だ。


 菓子の包みを広げながら、殿下が声をかけてきた。


「それで?」


「準備が完了しましたので、裁可をいただきたく参じました」


 ダヴィドに目配せをする。渡された書類が侍従を通してゼファス様の手に渡る。

 沈黙の中、聖下の紙をめくる音だけが響いた。


「今回に関してはこちらとしても致し方ないと思っている。当初は陛下が玉座におつきになる事を想定しなかったからこその、あの対応だった。このような慮外を許すつもりもなかった」


 頷く。


 あの時はアレクシア様を支えていく事で公家もある程度纏まっていた。アレクシア様と叔父が判断を誤り、俺が失態を犯さなければ。

 ミチルの側にいる為に、ミチルを守り、誰にも奪われないようにする為に、俺には覚えなければならない事があまりにも多くある。

 時間も、知識も、強さも、足りない。


「これならあの連中を黙らせられそうだ。再三の要望にはうんざりしていた」


 許可しよう、とおっしゃると、殿下は書類を侍従に渡した。これで二つの件が片付く。


「そなたがアレを守りきれなければ、陛下はより強い力でもって守ろうとする。この世界の歪みを正してまで守りたいと考えた陛下が、そなたの元にアレを置いておく意味を履き違えるな」


 殿下が立ち上がる。俺も立ち上がり、頭を下げる。


「仰せの通りにございます」


「いくらアレがそなたと共にありたいと願っても、守り切れないなら強引な手を取る。それは陛下だけではない、私もだ。

アレはもはやただの美しい人形にはしておけない存在になった。そうしたのは私であり、そなたでもある」


 肝に銘じておくように、とおっしゃると、殿下は退室された。

 扉が閉まり、頭を上げる。


「はは……おっかないですね」


 背後からダヴィドの声がした。


「言葉にしていただいているだけ、お優しい」


 本来ならこのように言葉にもしていただけない。

 あの方は自他共に厳しい。


「それはそうですが、ルシアン様にだけ課されるのも、と思わなくもないと申しますか」


「ミチルは本来なら女皇にならねばならない存在だ。他の公家は今でもそれを望んでいるし、帝国に要求を飲ませようとするなら、それが一番早い」


 サロンを後にし、来た時と同じように長く続く廊下を進む。


「だが、それをミチルが拒み、その思いを私も叶えたいと思えば、道は平坦ではなくなる。

あのように仰せだが、陛下も殿下もミチルの気持ちを無碍にしたくないとお考えだし、その上で行動なさっているし、その手段はそれぞれ異なる。

だがそれも、ミチルが平穏に過ごせると言う条件が付く」


 嫌だと言いながら、ミチルはそうなったら女皇を務めるだろう。彼女自身分かっている。自分の為に周囲が手を打っている事を。それが分かるから何も言わずにいる。だから、これ以上は駄目だと思ったなら、ゼファス様に言う筈だ。

 自分が女皇になると。


「皆様が守りたいと思っているのは、ミチル様のお心ですか?」


「自己犠牲の精神を持つ者は、多くいるだろう。

損得なく接する者も」


 考えた事がある。

 何故こんなにも彼女が愛しいのか。彼女でなければならないのか。

 自分自身はどうでも良かった。彼女が愛しいと思う自分に疑問を抱いた事もない。

 だが、他ならぬ彼女が何度となく問う。

 自分の何処を好きになったのか、と。


「弱みを受け入れて、ありのままで良いと言ってくれる者もいる。だがそれは本当に、自分の為を思って言ってくれた言葉なのか?」


「……自分に好意を向けさせたいが為に、駄目なあなたでも受け入れると言うのは、違いますね」


──出来ないなら出来ないで仕方ありませんけれど、こうしてみたら今よりは出来るようになるかも知れませんよ?


「痛みと弱さを受け入れた上で寄り添おうとしてくれる人間に、好感を抱くのは自然な事だ」


 向けられるまっすぐな笑顔を守りたいのは、他の誰の為でもない。自分の為だ。無論、彼女の為でもあるが、比重は己に傾くだろう。

 どんな言葉を尽くした所で、全ての事は自己へと帰結する。

 彼女に笑っていて欲しいのは、彼女の笑顔を好ましく思うからであり、彼女に好かれたいと言う欲望に他ならない。

 誰もがそうだろう。ミチルだってそうだろうと思う。

 だが、彼女ならこう言うだろう。

 そうした結果が相手の為にもなったのならば、それはその方の為でもあったと言って良いと思います、と。


 これも、好意を抱いた理由の一つだろうと思う。

 一つでも決定打になり得ただろうし、そうではなく積み重ねもあるだろう。

 己の中の数えきれない程の彼女への好意を、全て言葉にするのは難しい。不完全な事を嫌だと思った事もない。


「ダヴィド、レーゲンハイムの名、期待している」


「ご期待に添えるよう、精進致します」


 彼女の心根を、笑顔を守る為ならば、どんな苦労も厭わない。

 ダヴィドは陛下や殿下、父を上げるが、その前に忘れている。

 超えるべきはまず、己だ。


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