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転生を希望します!【番外編】  作者: 黛ちまた
ミチル きょにゅー化プロジェクト

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ダヴィドの素朴な疑問と、やりたい事

新参者なダヴィドは疑問がいっぱいです。

 ずっと訊いてみたかった事があって、その機会を探っていたものの、なかなか出来ないから気にせず尋ねる事にした。


「今更なんですが、ルシアン様にとってのミチル様は、どんな存在ですか?」


 オレの唐突な質問に、ルシアン様の手の動きが止まった……と思ったらそのまま執務を続けられてしまった。

 おかしいなぁ。ミチル様の話を振ったらルシアン様は飛び付いてくるかと思ったんだけど。


「質問の意図は?」


 ミチル様お手製の万年筆を走らせながら、ルシアン様がおっしゃる。

 このまま無反応かと思ったら、反応がありました。


「素朴な疑問と言いますか。溺愛なさってますし、訊くまでもない事なのかも知れないんですが」


 ロイエは徐にコーヒーを淹れ始めた。珍しく同室にいたセラが、何処からか甘くない菓子を取り出して来た。

 ……え? 皆興味ある?


「全て」


「え?」


「俺の全てだ」


 言い切った。しかもこう言う事って割と恥ずかしいのに、言い切った。さすがアルトの男。

 アルトの男は妻を愛し、それを恥ずかしがってはいけない、とは聞いていたけど、本当に言い切られた。


「そんな、命そのものみたいな言い方なさらなくても」


「ミチルが死んだら死ぬ」


 ……えーと……。


「ですが、ロシュフォール様とリュリューシュ様がいらっしゃる訳ですから、そう言う訳には……」


 苦笑しながら言葉を返してみる。


「そう言う時の為にそなた達がいるんだろう」


 いや、違うと思います。


「ミチルは死ぬ予定は無い。些か痩せてはいるが、健康だ。そのような事を想定する必要はない」


 まぁ、確かに今は平和ですが。


「例えばですけど、ミチル様が、自分がいなくなった後、ロシュフォール様とリュリューシュ様を頼むとおっしゃられた場合は……」


「想定されるような内容なら対処する。突発的な事態になった場合には、そなた達の内生存した者が対応する事になる。それ以上でもなければ、それ以下でも無い」


 ……ごもっともです。


 ルシアン様は立ち上がると、戻る、とだけおっしゃって部屋を出て行った。

 戻る、とは、ミチル様の元に戻る、と言う意味だ。

 行く、とはおっしゃらない。


「愚問よぉ、ダヴィド」


 セラは取り出した菓子を食べ始めた。

 ロイエもコーヒーを飲み始める。

 それ、自分達用なんだ、やっぱり。


「愚問って……当主としての責務があるでしょうに」


「そうね、一般的には」

「一般的な当主であれば」


 二人が同時に答える。

 つまり? ルシアン様は普通ではないと。

 分かってたけど、ここまで貴族らしくないと言うのは想定外。


 セラの横に座ると、菓子を渡された。ロイエもコーヒーをくれた。


「どうも」


「ルシアン様の生きる意味は、ミチルちゃんがそこにいるからよ」


 ミチル様が女神に願いを叶えてもらい、魔力の枯渇と肉体の損傷により昏睡状態になったのを、誰もが死んだと思った。ルシアン様も。

 ルシアン様はミチル様の後を追って死のうとした、って言うのは聞いていたけど。


「領地運営にこれだけ熱心なのも、ミチル様のご希望であると共に、安定した方がご一緒に過ごせる時間が増えると言う明確な理由に基づいている」


 二人の言葉に、頭痛くなってきた。

 いや、うすうすって言うか、分かってたって言うか。でも改めて言葉にされると威力が半端じゃない。


「容赦ないですねぇ」


「ルシアン様だけだと思うわぁ」


 頷くロイエ。


「ミチル様はこれだけ重い愛情を受けて、大丈夫なんですかねぇ」


「大丈夫よ」

「愚問だ」


 二人の視点は違う。セラはミチル様が視点の起点。ロイエはルシアン様がそう。オレは基本ミチル様。場合によってはルシアン様になる事もある。


「ミチルちゃんが奇跡を起こしたのは、ルシアン様を助ける為なんだから」


「ミチル様から聞いたんですか?」


 オレの問いにセラは首を横に振る。


「聞かないわよ、野暮ねぇ」


 じゃあ何で分かったんだと尋ねると、体内の魔力を奪われ、要塞もイリダの試作艦に繰り返し攻撃され、もう駄目だと思った時、セラとイルレアナ様、祖父、皇太子殿下、オリヴィエ、アウローラ、皆が一斉にミチル様を守ろうと駆け寄ったと言う。

 その時にミチル様は手にアレキサンドライトのネックレスを手にはしていなかった筈だと。婚約時代にルシアン様から贈られたアレキサンドライトのネックレスは、ミチル様にとって特別なのだそうだ。

 目覚めた時、ミチル様だけが倒れていて、首にかけていた筈のネックレスを手に握っていたのだと言った。

 ロイエから何があったのかを教えてもらい、ミチル様が自身と引き換えにルシアン様の事を願ったのだろうと確信した、と、セラは言った。

 その時の事を思い出しているのだろう、ロイエは眉間に深い皺をよせ、唇を噛んでいた。


「ミチルちゃんは、自分の命よりも、ルシアン様が大切だったのよ」


 自分の命を投げ打ってでも、助けたいと願い、行動したミチル様。

 相手の命が尽きたなら、自分の生きる理由などないと思っているルシアン様。


「たまに、運命の相手だのなんだのを題材にした話を見たりしますが、お二人はそれを地でいくんですねぇ」


「そうよ」

「そうです」


「凄いなぁ。そう思っていたって、実行出来るかどうかは別の話でしょうに」


 セラもロイエも頷く。


「あの二人は、普通じゃないのよ」


「ルシアン様はアルト家の男としても異常な程にミチル様を溺愛なさっている」


「溺愛じゃ弱いんじゃないの? 病んでるわよぉ」


「それを受容なさるミチル様も普通ではない」


 主人を捕まえて異常だ、って言ってる二人もどうかとオレは思うけど。


「そう言えばダヴィド、良い機会だから訊きたい事があるのよ」


「個人的な事はお答えしかねます」


「そんなの興味ないわよ」


「それも悲しい」


 何を聞かれるのかと思えば、最近出回っている噂についてだった。


「言わんとする事は分かりますよ。ちょっと異常ですからねぇ」


「最初はミチル様そのものへの関心であったのが、今では貶める方向に集約されようとしている」


 そうなのだ。

 女神の愛し子とされるミチル様の事を悪く言うなど、正気の沙汰ではない。何処で女神が聞いているのか分からない、なんて言われているにも関わらず。

 内容としては些末なものだけど、これまで言えなかった事が吹き出したのでは、と見る事も出来なくもない。


「思ったより馬鹿じゃなさそうですよねぇ」


「ミチルちゃんは、事実なら言われても仕方がないと許容するだろうけど、さすがに事実と相違する事をばら撒かれれば、怒るわ」


「事実でも怒って良いと思いますけどね、オレとしては」


 レーゲンハイムの主人を貶めるなんて、許せる事じゃないんですよねぇ。


「サーシス家からワタシも人をもらったわ」


「次期当主ですもんね」


 諜報を得意とするサーシス家は、皇国全土に人を配している。その情報の全てがアルト家当主のリオン様の元に集約される。

 サーシス家嫡男でありながらセラが諜報から離れているのは、一度嫡子から外されていた事にあるらしい。

 ミチル様の執事となり、サーシス家とも一線を引いていた。弟のフィオニアが嫡子として何年も諜報を行っていたらしい。それが覆されたのは、前女皇であるアレクシア様にフィオニアが必要以上の想いを抱いたから。

 今ではその二人はイリダとオーリーの監視役としてあっちの大陸にいるし、監視の為に部下も連れて行ってしまっている。だからセラは自身の部下を改めて育てなくてはならない。


「そうだ、セラに訊きたかった事あるんです」


「なによ?」


 セラが出してくれた菓子は、甘さのない物で、小粒なのもあって食べやすい。ミチル様お気に入りの、あられという奴だ。

 ロイエの淹れてくれたのはコーヒーだったが、程良い煎りだった為か、不思議と合う。


「何でその口調なんですか? 生まれ付き?」


「生まれ付き女口調の侯爵家長男なんている訳ないでしょ」


「そうですよね」


 やっぱりかー。


「サーシス家を継ぎたくなかったのよ。だから相応しくない人間になってやろうと思ったの。

跡継ぎとかも考えたくなかった。見た目がコレだからね、淑女に拒絶される事も多かったし、鬱憤が色々溜まってたんでしょうね。若かったわぁ」


「その節は大変失礼しました」


 最初会った時、あまりの美貌に淑女だと疑わずに口説いちゃったからね、オレ。


「それがどうしてミチル様の執事になろうなんて思ったんです?」


「アルト一門にいるのだもの。ルシアン様の事は当然知っていたわ。ワタシはラトリア様付きだった訳だしね。

何にも無関心で拒絶するルシアン様を、フィン──フィオニアはずっと、アルト一門の宗主に相応しいと言い続けていたのよ。色んな面で規格を外れ気味のルシアン様が、唯一求められたミチルちゃんに興味を持ったの。

あれだけミチルちゃんを溺愛して止まないルシアン様が、ミチルちゃんの為に執事を必要として、ワタシが適当だと思ったんでしょ。フィオニアに勧められたのもあるけどね」


「男を捨ててるように見えたからですか?」


「殺されたいの?」


 あはは、と笑ってごまかしたら軽く額にひと突き食らった。痛い、セラのこの攻撃は本当に痛い。しかも早くて避けられない。


「女騎士はあまり一般的ではなかったのよ、カーライルでは。護身を身に付けた侍女も、アルトにはいるにはいるけど、ミチルちゃんの転生者としての知識を現実のものにしようとした時に、侍女から他の執事へ、って連携するとまどろっこしいでしょ。それにワタシはカーライル国内では目立つ存在だったのよ。

性別を間違えて生まれた侯爵嫡男、ってね」


 自嘲気味に笑う。


「多少常識外な事をミチルちゃんがしたとしても、ワタシが目眩しになる、と言うのもあったのよ」


 なるほど。

 諸々納得がいく。

 カーライルにいる間にアルト一門の当主やそれに付随する者達とも会った。ラトリア様にも勿論。

 ルシアン様とは真逆のラトリア様は、確かにアルト一門の宗主は向かない。

 優秀なのは分かる。優しいだけでも無い事も分かる。でも、そうじゃない。あの方はアルトの宗主としては不適格だ。


「ご存知の通り、我らレーゲンハイムは、ミチル様がラルナダルトの血を引いてるというだけで、絶対的な存在です」


 不適格と判断されたら、アスペルラ姫の血を引いていても、ラルナダルトではないけど。


 いつの間にか書類を手にしていたロイエが、こちらに目を向ける。


「お心もお身体も、健やかであっていただかねばならないんですよ、お守りすると言う意味で」


 本当に、困るんですよね。


「ようやくこちらに我らも慣れましたし」


 オレの飼ってる者達から、ようやく地盤を確立したとの報告を受けたし。


「本来ならミチル様のお耳にも届かせる事なく片付けるつもりだったのに、ルシアン様がお知らせするんだから、何を考えているのやら?」


 肩を竦ませると、ロイエは目を閉じ、セラは苦笑した。


「ご自身そっちのけでミチルちゃんが動いている事に釘を刺したんでしょうね」


 何でしたっけ、病んでるでしたっけ?

 その点についても納得。


「なんだかんだ言って、二人も情報収集してるんですよね? 出し合いません? それで、叩き潰しましょうよ。

アルトは売られた喧嘩は買う。良いですよね、明確で、こう言うの好きです」


 二人が頷く。


「いいわよぉ、ワタシもちょっと思う所あるしね」


「ルシアン様にかかる恥辱は許されない」


 これまでのようなスタンスだと、守れるものも守れないんじゃないか、と言うのは、アウローラと同意見。

 必要以上に喧嘩するつもりは無いけど、やる時はやらないと舐められるんだって、レーゲンハイムは学習しましたよ。

 レーゲンハイムの主人を貶めてくれたんだから、許しません。これからはこれでいきます。

 だって、やっと出来たんだから、オレ達の主人が。

 少しぐらい過保護でも許されるでしょ。


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