ミチルの深淵なる悩み その2
俯けば障害もなく下がよく見える。
「………………」
解せぬ。
顔を上げた私を見て、セラが顔を背けた。
「皆まで言わないでちょうだい」
リンデン殿下との秘密?のお茶会後、せっせと大豆、キャベツ料理を食べ、リンゴをデザートとして食べてきたと言うのに、効果は感じられない。
ガセネタだった?(涙目)
でも、ここで挫折してはいかんのですよ!
「こうしてはおれません。日々の大豆とキャベツ料理作戦は中止です」
「了解よ。さすがにシェフが悲鳴を上げていたから助かるわ」
悲鳴? 何故に?
「レパートリーが尽きて、シェフとしての力量の限界を感じ始めてたわよ……」
ため息を吐くセラ。その顔には同情が浮かんでる。
「同じメニューを出してもらって構わないのよ?」
何も毎日新しい料理を出せ、なんて言ってないけどな?
「ルシアン様は割とガッツリ目が好きでしょ。それをキャベツを使って、となると難しいんですって」
そうですね。
ルシアンはガッツリ肉食男子です。
「キャベツがメインでなくとも良いのですよ? トンカツに添えるキャベツの千切りも美味しいと思うし」
「トンカツ?」
あー、そうか。
トンカツ、こっちでは見たことない。
よし、今日はトンカツだ!
「豚肉を程々の厚みに切ったものを、コロッケのように揚げるのです。ソースをかけて、キャベツの千切りを箸休めとして食べるのです」
間違いなく、ルシアンは好きだと思うな、トンカツ。
「美味しそうね?」
「美味しいですよ?」
どう見ても美女なセラだけど、中身は男子だからね。きっとセラもトンカツ好きだと思う。後でレシピあげよう。
こうなったら、今日は自棄トンカツだ!
無駄に気合を入れて、カラリと揚げたトンカツは、予想通りにルシアンのお気にめしたらしく、黙々と食べていた。それにしても美味しそうに食べるなぁ。サクサク音も聞こえてくるし。
同じものを食べているのに、ルシアンの食べているものの方が美味しそうに思える不思議。
「このトンカツと言う料理、とても好きです」
ソウミタイダネ。おかわりしたもんね。今その器に入ってるお米、三杯目だよね、何気に。
成長期か! とツッコミたいぐらいに食べてる。
喜んでもらえて嬉しいですよ(遠い目)。
「なによりですわ」
「それで、キャベツはどんな効果があるんですか?」
ぎくっ!
にっこり微笑んでいるルシアン。
「ビタミンCが豊富デスノヨ」
「なるほど?」
これは信じてませんね、えぇ。
キャベツがビタミンCを含んでいるのは事実だけど、その為に食べていた訳じゃないからね。
それにさすがに毎日のようにキャベツが食卓に並べば、疑うよね、うん。
「疲労回復に良いのですよ?」
「ふぅん?」
笑顔なのに目が笑ってない。笑ってないよ、ルシアン!
だがしかし! 教えられないし、教える気はないのだ。
「ご安心なさって。十分にビタミンCは摂取しましたから、明日からは通常の食事に戻ります」
ビタミンCは蓄積出来ないから、毎日食べるべき栄養だけどね。
「そうなんですね。あぁ、このトンカツはまた食べたいです」
「シェフにレシピを伝えておきます」
トンカツでもチキンカツでも、好きなだけ食べてくれたまえよ。
有効な食材情報がない訳だし、とりあえずは別の方法を探さねば!
とりあえずリンデン殿下に報告がてら、新情報がないか聞きに行こうかな?!
リンデン殿下とのお茶会二回目。開始早々に胸を一瞥されて言われた。
「結果は、芳しくなかったようだな」
ソッスネ!!(号泣)
「食事による影響が無いとは言わぬが、そればかりの筈もあるまい。もしキャベツやリンゴで巨乳になれるのであれば、農業に従事する者達が須く巨乳になっている筈だからな」
……今、さりげなく殿下の本音が垣間見えたヨネ。でも私はそこについては触れない。同士であると認定しましたけれども!
それにしても、確かに殿下が言う通りだよね。キャベツやリンゴでばいんばいんになれるんだったら、アレクサンドリア領の女性陣はみんな大変な事になってた筈だし。
なんだったらアレクサンドリアで暮らしてた私だってそうなっていてもおかしくなかった筈ですYO!
だからつまり、キャベツとリンゴでは駄目だと言う事なのだ……。
「その通りですわ」
用意してもらったお茶を飲む。
さりげなくほうじ茶ですね。美味しいです。先日もそうだったけど、私が燕国の料理とかお菓子が好きな事をご存知でこのようなもてなしを……?
殿下は侍女に目配せをした。頷いた侍女は部屋から出て行くと、すぐに本のような物を手に戻って来た。
何ですかな、それは?
テーブルに置かれたのは、一冊の本だった。
「286ページを開くが良い」
286ページ? 随分具体的だね? 二章とかじゃなくページ指定きましたよ。
言われるままに該当ページを開くと、ある一文が目に飛び込んできた。
"夜の過ごし方次第で美しい胸元は作られる"
「!」
本を手に取り、読む。
就寝時に着ける下着……?!
そんなコツ、これまで気にした事なかとですよ?!
何なに……?
寝る時に何も着けずにいると、胸を支えるものがなく、胸の肉があちらこちらに流れる……流れるとな?!
「なんと恐ろしい……!!」
あまりの内容に手が震えて……はいないものの、それなりに衝撃は走っておりますよ!
「そうであろう!」
本から顔を上げて殿下を見る。殿下の顔が真剣だ。私も真剣だけれども!
「殿下、私、これまでの己を殴りたいですわ!」
「私もそれを知った時にはあまりの衝撃に言葉が出なかったぞ!」
ナイトブラって、何処で買えば良いのかしら?!
作ってもらえば良いの?
必死に考えていると、殿下が笑顔で言った。
「これをそなたにやろう」
何かが入った袋を、殿下が差し出す。
そっと手にして中を見る。
「こ……これは……」
ナイトブラと思わしき下着が数枚入っているではないの……!
「私用のを作成させたのだが、どうせならと思ってな」
「リンデン殿下……!」
「お母様と呼んでも良いのだぞ?」
ドヤ顔をする殿下を、思わずお母様と呼びそうになったものの、それはあかんだろと冷静になり、止めておいた。
「ヤメテオキマス」
「何故呼ばぬ!」
「殿下をお母様と呼んだら、ゼファス様と夫婦のようになってしまうではありませんか。それはバフェット公に叱られてしまいます」
「それもそうだな……」
悔しそうなのは何故ですか……?
そこまでして娘が欲しいなら、アレクシア様にお母様呼びさせれば良かったのに。素直じゃないんだから。
「今から夜が楽しみです」
「うむ。使ってくれ」
帰りの馬車の中、複雑そうな顔でセラが言った。
「ミチルちゃん、喜んでるところ悪いけど、多分それ、使えないわ」
胸に抱いているナイトブラを見るセラ。
「何故?」
「何故って……決まってるじゃないの」
決まってる……?
随分歯切れが悪い。セラにしては大変珍しい。
ため息を吐いたかと思うと、「ワタシも色々調べてみるから、少し時間をちょうだいね」と言った。
「? えぇ、勿論?」
セラも調べるの? 胸が大きくなる方法を?
ナイトブラも良いけど、他にも効果がある方法があるかも知れないもんね?
さすがセラですね、執事の鑑ですよ!
ナイトブラを装着して、ご機嫌でベッドに飛び込んだものの、ルシアンに抱き締められてセラの言った意味が分かった。
「ルシアン……あの……」
「なぁに?」
おでこやまぶたにキスが降ってくる。
キスシャワーは合図でもあります。
何の合図かって、いちゃいちゃの!
外されちゃうじゃないですか、ナイトブラ!
セラはこれを言ってたんだ! 着けて寝れないって言ってたんだ!
「きょ、今日は止めませんか?」
せっかくだし、今日はナイトブラを着けて寝たい。
って言うか、ルシアンと同衾は毎日してる訳で、もしルシアンがそんな気持ちになっちゃったりなんかしちゃったら、ナイトブラ着けて寝られないんじゃ?!
ルシアンが私をじっと見つめる。
「私との閨が嫌だと言う事ですか?」
「チガイマス」
今日は(ナイトブラを着用してるから)嫌なのであって、ルシアン(との閨)が嫌なのではない。
ナイトブラの事を知られたら、ルシアンまで参加してきそうで、それはそれで大変な事になりそうだから、避けたいのだ!
「なら、どうして?」
聞きながら頰にキスをされる。うっ、甘い。きゅんとしちゃう。
……何て答えるのが正解?
素直に答えた方が良い事は分かってます、分かってますよ! いずれバレるにしても、自分で頑張ってみたい!
だって、ルシアンが調べたら、絶対破廉恥方向の方法ばかりを試してくるに違いないからね!
「…………」
「ミチル?」
駄目だ! ナイトブラはルシアンが出張に行った時しか使えない! ラルナダルトになってからは出張もない!
つまり、使えない!
「な……なんでもないですわ……」
翌朝、セラが私を見るなり、ほれ見たことか、と言う顔をした。
「みなまで言わないで下さいませ……」
「やっぱりそうなったのね」
乾いた笑いを浮かべるセラ。
あまりにルシアンからの溺愛が日常になり過ぎて、失念しちゃってましたけど! 昼に装着するなら可能でも、夜のは無理だ!
たとえルシアンがそんな気持ちにならないとしても、抱き締められたりはする訳で、そうするといつもなら感じないナイトブラの存在を感じる訳ですよ。そうしたらバレる訳ですよ!
え? 昨夜はどうしたのかって? そっ、それは、秘密ですよ……! ルシアンの事も誤魔化せた筈! その為にちょっと恥ずかしい思いだってしたんだし!
「はぁ……」
ミチル、キョニュー化プロジェクト、難航中デス。
バストアップに関する耳より情報、お待ちしております!!(切実)
宛先は、
転生希望 ミチル宛で、ミチル宛でお願いします!
間違ってもルシアン宛には送らないで下さいませっ!
ミチル




