ミチルの深淵なる悩み その1
ため息が出る。
「ちょっとミチルちゃん、ため息吐き過ぎじゃない? どうしたの? 何でも相談にのるわよ?」
皆の視線が私に注がれる。
セラを見る。今日も絶好調に美人ですね? でもですね、男子なセラには分からない事なんですよ。
…………いや、なんかセラなら分かりそうな気もしなくもないけど。
銀さんと目が合う。銀さんは絶対に分かる筈が無い! 分かったら逆に怖い!
だって……だって……!
胸の話デスYO!(吠)
ダイエット後にだいぶサイズダウンしてしまった胸は、度重なる心労の所為で着実になくなっていった。
妊娠と出産で大きくなり、我が世の春キタ! ……と、思ったのも束の間、アレよアレよと言う間に減っていき、ちょっとちょっと! 前より小さくなってませんか?!
……と、言う訳で泣きそうです。いえ、もう心は号泣してます。うっうっ、酷いっ! 何も減る事ないじゃない! 現状維持で良いじゃない!
アウローラを見る。にっこり微笑まれた。……駄目だ、アウローラには絶対分かるまいっ、だって、立派なものをお持ちですからねっ! ……くっ!
エマもそうだ。肩凝るって言ってたあああああ! くそぅ! 羨ましい! 一度言ってみたい!
クロエに話したら変な薬を開発されそうで怖い! 私も命は惜しい。せっかく助かった命ですからねっ!
「……言えませんわ。私の悩みを打ち明けられる相手はここには……」と言いながら再びセラを見る。
そういえば昔、普通に閨の事とか相談にのってもらってたような……? 言わされてたとも言うケド。
「……いえ、セラにだけ、相談します。皆、下がって下さい」
ハテナ?という顔をしながら、セラ以外は部屋を出て行った。
「ホントに、どうしちゃったのよ? ルシアン様に関する悩みならロイエを呼んでくるわよ?」
イイエ、チガイマス!
ルシアンに関係ない訳じゃないけど、ソレは危険な香りがシマス!
それにロイエの妻のアウローラは、立派なものを持ってるんだってば!
「胸です」
次の瞬間、デコピンを食らった。
「〜〜〜〜っっ!!」
激痛に、おでこに手を当てたままカウチの上で身悶えた。あまりの痛さに声も出ませんよ!!
心臓が飛び出すか止まるかするとこだったよ?! 息は止まったけどね、一瞬!
涙目でセラを見ると、半眼になってた。怒ってる。
「いた……っ! 痛いです、セラ! 今の本気でやりましたね?!」
何でも相談にのるって言ったのに! うそつきっ!
「当たり前でしょ! 何でワタシに胸の相談をしてくるのよ!」
「セラならイケるかなと思って」
「何で胸の話なのにワタシなのよ?! 男なんだってば。息子もいるって知ってるでしょ?」
頷く。
でもさ、何ていうか、セラならイケる気がシタ。
ユー、本気出せば子供産めるんじゃね?
「アウローラは立派なものをお持ちですし……エマもそうですし……」
「反応しづらい事言うわねー」
「唯一の仲間のクロエに話したら最後、私の命が危険に晒されそうです」
最近はそこにセオラ姫も加わってるらしいし。恐ろしいよ……!
「…………確かに。最も相談しちゃいけない存在ね」
はぁ、と今度はセラがため息を吐く。
「ルシアン様は気になさらないでしょ、そんな事。それにミチルちゃんが男であっても壁を乗り越えそうだものね?」
えっ! 新たな扉オープンって事ですか?!
いやっ、いえっ、まだ色々未熟なのでそこは早すぎる気が?! 待て待て自分、そういう問題だったか?
もしかしてさっきの怒ってる?
……脱線してるから、胸に話を戻そう、うん。
「それはそうなのですけれど、やはり、もう少し欲しいのです。そうであれば、あのようなワガママボディの淑女にルシアンが言い寄られる事を防げる気がしますっ!」
「ワガママボディって何よ、ワガママボディって」
眉間に皺を寄せてセラがこめかみに手をあてる。これはアレですね、頭痛が痛い、って奴ですね。
ワガママボディはワガママボディですよ。
たわわんで、ばいんばいんなんですよ!
「もうミチルちゃんが目覚めているんだし、ルシアン様にあからさまに言い寄る愚か者はいないでしょ」
「あからさまじゃなきゃいるって事ですか?!」
「可能性の話よ。ほぼほぼあり得ないわよ」
「ゼロではないという事よね?」
「ないからっ!」
なんだっけ、あの時のシャルリー(違う)だかアマリー(違う)だかいう令嬢のようにですね、ルシアンの激辛対応でもめげない人が今後出て来ても打ち勝つ為には何が必要かと言うと?
美貌の要素の一つに含まれる胸! 足りないのですよ! 胸が! 圧倒的に!
あぅーー、胸大きくなりたいよーー。
ばいんばいんじゃなくて良いから、ねっ?! もう少し! もう一声! もう1cm!(いや、足りないな?!)
「一緒に筋トレする?」
「……それ、ビルドアップですわね?」
「そうとも言うわね」
チガウッ! ノービルドアップ! イエスバストアップ! 求む! バストアップイエー!
うっうっ、テンション高くしないとやってけない!
バストアップは淑女にとって大事なんですよ?! 美の基準に含まれますからね?!
世の中の淑女達もバストアップ情報を求めている筈!
ソウヨ!
「お茶会に参加したいですわ……!」
「……動機が不純だわぁ……」
結論から言うと、お茶会参加は駄目、って言われてしまった。なんで?! 動機?! 動機がいけないの?!
バフェット公爵夫人であるリンデン殿下とマンツーマンお茶会である。
そう言えばこの人、私と同じ控えめ系だよな、と思い出したんですよ。
「ミチルから私に会いたいなど、珍しい事だとセオドアとも話していたのだ」
それはね。政敵だった過去とか、大人な事情があるから、気安く会えたりはしないんですよねー。
今はもう大丈夫、って事になってるけど。
「リンデン殿下……」
「どうした?」
口元にわずかに笑みを浮かべながら紅茶を口に運ぶ殿下。
リンデン様は話し方こそ男っぽいサバサバ系だけど、服装とか仕草は淑女らしく嫋やかなんだよねー。
私、その辺足りてるかな? 必要な時にだけ化けてるだけだからあかんのだろうか?
視界の隅にいるセラが困った顔になってるけど、無視ですよ、無視!
「バストアップ情報をお持ちではありませんか?」
「ぐ……っ!」
リンデン様は慌てるようにカップを口から離すと、赤い顔でハンカチを口にあててゴホゴホ言い出した。
侍女が慌てて駆け寄ろうとしたのを、殿下は手で制した。
……ぬ。いかんかったか? 帰ったらセラにまたデコピンされそう……。デコピンイタイ。泣いちゃう。
……いやっ! でもデコピンを恐れてはバストアップは果たされぬのだ!
「何を言い出すかと思えば!」
閉じた扇子で軽く叩かれるフリをされる。
うぬ。やっぱり駄目なのか。
「アルト伯は巨乳好きなのか?」
「教えて下さいません」
前にそんな話をした時、結局ルシアンがどっち好きなのかも教えてくれなかった。
私の胸がどれだけ大きくても関係ない、とかそう言う話がしたいんじゃないんですよ! 私の事を取っ払った上で、ルシアンは巨乳派なのか、貧乳派なのか?!
今回に関して言うなら、例えルシアンが貧乳派だったとしても、巨乳族に舐められてはあかんと言うことなのですよ!
「………………」
「………………」
リンデン様はセラを見た。
「何があった?」
「陛下の即位三周年を祝う夜会にて、ルシアン様に言い寄った令嬢がいらした事を覚えておいでですか?」
「あぁ、あの小玉スイカか」
ソレデス!
ふむ、とリンデン様は頷かれる。
「胸が大きくなれば、あのような者達に侮られる事はない、と言う発想なのであろうが、今後は起こるまい」
「? そうなのですか?」
なんで? いや、現れないのはそれはそれで嬉しいけど、言い切るなんて?
「あの者が分を弁えるだけの頭がなかっただけであろう。そなたの怒りを買ってでもアルト伯の妾になりたい者などおるまい。命が惜しかろう」
そうかも知れないけどね?
って言うかルシアンの愛妾になるのって命がけなの?!
「ですがあの時の令嬢がまだ諦めていなかったら」
「それはない」
パチン、と音をたてて扇子が閉じられる。
「そなたが目覚めぬからこそ、愛妾にもなり得る可能性が……」
そこでリンデン殿下は私をマジマジと見た。
なんだろ?
「ないな」と言ってため息を吐く。
「アルト伯がそなた以外に目を向ける事は、そなたが死んだとしてもあるまい。イリダ戦においてそなたが命を賭した後、後追いをしようとした程だ。絶対にない」
ルシアンが私を第一に思ってくれている事は分かっているんですよ、うん。
「例えそうであったとしても、あのように侮られたくないのです!」
「……そなた、意外に負けず嫌いなのだな」
頷く。
「それなりに」
大概の事は負けておけ、って思ってるんだよね、面倒くさいから。でもね、ことルシアンに関してはね、駄目です。
妻として! 負けてはならぬ戦いがあるのです!
負ける筈がないにしても、イケるかも、と思われる事が許せんですわ。
大体、あの令嬢たちが今後手出しして来ないのは、私の立場に勝てないから引き下がるんでしょ?
それじゃああかんのよ、駄目なのよ。
「最近私が知った情報だが……」
おっ?!
殿下! 耳より情報をお持ちですか?!
「真偽の程は定かではないが、キャベツとリンゴが良い、と言う噂を聞いたぞ」
とりあえず女性ホルモンのエストロゲンと似た働きをするとか言う噂の大豆系を食べようとは思っていたけど、キャベツとリンゴとな?!
「ありがとうございますっ! 成功した暁には殿下も是非!」
「……いや、私は…………うむ、情報提供者として、真偽は正しく知っておかねばな」
素直じゃない回答ですが、ごほーこくしますよ、殿下!
キャベツと大豆を使った料理……?
リンゴはデザートとして食べるとして?
ザワークラウトか? ロールキャベツ? ロールキャベツいいな!
当家専属のシェフに、ロールキャベツの作り方をレクチャーする。
それから大豆をじゃがいも代わりにしたコロッケ!
「ロールキャベツと言うのですね、この料理は」
ナイフとフォークでキレイに食べながら、ルシアンが言った。
本当はね、自分で作ろうと思ったんだけど、ルシアンの妨害にあったからね! ちょっと外出するとコレですよ!
「いかがですか?」
「コンソメの味が良く染み込んでいて、優しい味です」
ルシアンは食事に関して、ちゃんと年相応の男子だから、がっつり目の味の方が好きなんだよね。
「コロッケは、いつもと少し違うように感じますね」
大豆で作ってるからね! ひき肉は入ってるけど、やっぱりさっぱり目になってるのは否定出来ません。って言うか、たまたま水煮が手に入ったから作れたものの、大豆を水でふやかすの時間かかる。現代日本は本当に何でも手に入ったんだな、と実感。
「じゃがいもの代わりに大豆で作っているのです」
「大豆? ハウミーニアや燕国で作られる大豆ですか?」
ハウミーニアでも作られてるのか! 良い事聞いた!
「大豆ですわ」
ウフフフフフ。
待ってるが良いですよ、ばいんばいんになっちゃう、ネオミチールの誕生を!!
バストアップに関する耳より情報、お待ちしております!
宛先は、
転生希望 ミチル宛でお願いします!
間違ってもルシアン宛には送らないで下さいませっ!
ミチル




