その後の二人 その四
ブレない人。
ブレブレな人。
「お生まれになりました!」
意識が飛びそうになってた私の耳に、聞こえたのは、子供が生まれたと言う声と、産声。
なんか、産声が二重に聞こえるー。エコーって言うかコダマって言うか?
「男女の双子に御座います!」
えっ、双子……?
やっぱりそうだったんだ……皆ともしかしてとは言ってたんだよね。一人にしてはお腹が大き過ぎるって話してたんだ。
しかも男女?
育児大変そう。
三時間置きの授乳とか、死ぬって聞いた。一人でもそうらしいのに双子とか……私、死ぬんじゃ……?
そんな事を思っていたら意識が途切れた。限界だ……。
目覚めると、ルシアンが私の手を握っていた。
「ミチル」
頰を撫でられる。
なんかホッとした。
「ルシアン……もう……会っていただけましたか……?」
ルシアンは頷いて、私の髪を撫でた。
「ミチルには、大変な思いをさせてしまった。出産はただでさえ危険を伴うと言うのに、双子だなんて」
それ、仕方ない事だからね。
「子の所為でミチルが命を落としたら、後を追うつもりでした」
セーフ! 色々危ないな、本当に!
ヤンデレは気が抜けないな?!
「産後の肥立ちとも言いますから、安静にして下さい。
誰かが必ず側にいるようにしますし、夜は私が側にいます」
「ありがとう、ルシアン」
いいえ、と言って微笑んだルシアンは、なんだかとろけきってる。何でだろうか?
「出産の最中に、言った言葉を覚えていますか?」
出産の最中? え? 何か言ったっけ?
呻いた記憶はあるけど、それ以外言った記憶ないけどな?
ふふ、とルシアンは笑う。
「私、何か言っておりましたか?」
「ルシアン、愛してる」
…………は?
うっとりした顔でルシアンが続ける。
「愛してます、ルシアン」
…………はぁっ?!
それはそれは嬉しそうに、とろけた顔を見せるルシアン。
…………マジで?
「皆の前であのように熱烈に言われるとは思ってもみませんでした」
いやいやいやいや!
ちょっ、ちょっと待って! お待ちになって?!
え、それ本当に言っちゃったの、私?!
言葉にならなくて、口をパクパクさせるしか出来ない私に、ルシアンは追い討ちをかけてくる。
「多幸感で胸がいっぱいです」
そこじゃなくて! 自分の子供が生まれた事に喜んで欲しい!
「愛してますよ、ミチル」
気絶したい、と心から思った。
穴にも入りたい。
男の子の名前はロシュフォール。ロシュフォール・アルト・ディル・ラルナダルト。ルシアンと同じ黒髪で、私と同じホーリーグリーンの瞳をしてる。
女の子の名前はリュリューシュ。リュリューシュ・アルト・ディス・ラルナダルト。私と同じアッシュブロンドではあるものの、ストレートでは無さそうだ。多分その辺は父似なんだろうな。でもロシュフォールはストレートっぽい。瞳の色はホーリーグリーン。
ルシアンが名付けたんだけどね。父親の最初の仕事だから、って言って考えてもらったんだけど。
ロシュフォールはまだ良いとして、リュリューシュの名前は噛みそうで怖い……。
毎日お祝いの品があちこちから届いてるらしい。
国内外からもわんさかと。雷帝国の皇帝とレーフ殿下からは別々に届いた。
ギウスの族長からも来たし、燕国の源之丞様と多岐様からも来た。オーリーとイリダからも来た。何でかな。
公家からも来た。この辺はなんか下心が見えまくりだよね。疎まれるより良いけど。
祖父母からも、ゼファス様からも来る。って言うかこの人達に至っては、贈り物が一回では済まなくて、何個も何個も届く。
育つのが我慢出来なくて会いに来たしね。皇帝と皇太子で死ぬ程忙しい筈なのに。
その際にもまた贈り物を持ってくるから、もう持って来ないでくれとお願いした程だったりする。
カーライル王からもいただいてしまった。それとは別にモニカとジーク殿下からも贈られてきたし、ジェラルドとロザリー様からもお祝いが届いた。カーネリアン先生とエスポージト院長からも!
アルト一門からも届くから、贈り物だけを収納する部屋が用意されたぐらい。
すごいな、アルト家!!
孤児院の子供達から届いた手紙には、じんわりした。
魔王ことお義父様もお義母様と一緒にやってきた。
ロシュフォールとリュリューシュを見て、デレていた。
なんか、ルシアンにどう接していたのか、分かった気がした、うん。
「引退して私達もここで過ごそうかな」
カーライルで現在も宰相をしているお義父様が、ぽつりと問題発言をする。
いくらラトリア様も宰相補佐の任に就いたからってそんな。
「考えてみれば、ラトリアは皇国で宰相を務めていたのだし、今すぐ私が引退しても、何も問題がない気がしてきたよ」
問題大有りだよ!
ルシアンは全く相手にせず、さらりとお義父様達を帰すスケジュールを組んでいく。
強いな?!
それでも一緒にいたがる二人にルシアンが言った。
「初の育児で心身共に疲れるだろうに、双子でミチルの苦労は倍です。それなのに、義理の親が側にいたらミチルの気が休まらない。
自分達が孫を可愛がりたいと言う一時の欲求で、永遠にミチルに嫌われたいですか?」
日頃理解のあるステキなお義母様も、何でもお見通しなお義父様も、孫を前に正気を失っていた。
ラトリア様の元にも男の子がいるんだけどね。あれですかね、初の女の子にテンション上がっちゃったのかな……。
二人の子供であるラトリア様とルシアンは男の子だし。
ルシアンにバッサリ切られた二人は、哀しそうにしてたけど、有言実行なルシアンの前に屈していた。
しょんぼりしながら部屋を出て行く二人。
正直、ずっと側にいられるのは苦痛なので、分かってもらえて?助かるんだけどね。
ほんのちょっとでも眠りたい時に、義理の両親がいたら寝れない。それ以外にもねー、色々あるんですよー。
相手の事が好きだったら平気、って言う問題でもなく。
今の私は助けてくれる人が沢山いるのにこれなんだから、前世で双子産んで、一人で面倒見ていたお母さんとか凄すぎだよね……。双子じゃなくてもね、しんどそう。
「大丈夫なのですか?」
「気にしないで大丈夫ですよ。孫は私達の子だけではないんですから。兄上の方は大分成長して、手がかかりにくくなっていると聞いてますから、構うならあちらを構うべきです」
そう言って私の頰を撫でる。
「代わってあげたいのに、何一つ出来ない。鬱陶しい両親を追い返すぐらい何て事ありません」
発言がイケメンだ! 眩い! 本当に私の旦那がこんなにハイパーで許されるんだろうか?!
「何でも言って下さい。出来る事はどんな事でもします。妊娠中、出産後にどれだけ妻に寄り添えるかで妻の愛情が激変すると教わりました」
「……それは一体何処から……」
「兄です」
既にやらかした後なのか、ラトリア様ってば……。
ラトリア様から手紙でも来たのかな。
日頃あんなに冷たく接しているのに、兄からの手紙を読んで信じて行動するなんて、やっぱり仲い……
「兄にしては役に立つ手紙でした」
弟ーー!
……今度、ラトリア様にお礼の手紙と何か送ろう。
ルシアン自身は、ロシュフォールにもリュリューシュにも興味があるようには見えない。
奥さんを溺愛していた人が、子供が生まれた途端に子供にデレデレになった、とかよく聞いたけど、ルシアンはブレないな……。
でも、ルシアンがロシュフォールやリュリューシュを抱いてる姿を見ると、嬉しくなる。
ワガママ言って写真も撮らせてもらったんだよね。
「リュリュ、お父様ですよ?」
リュリュはルシアンの腕の中で目をパチパチさせた後、ふにゃ、と笑った。それを見てルシアンが微笑む。
おぉ! 遂に父性が!
「リュリューシュを見ていると、赤子の頃のミチルはこんな感じだったのかと思えて、可愛い」
…………あ、うん。
この人、何処までもブレないな……。
だからリュリューシュの方ばかり抱っこするのか!
でもそうか、と言う事は?
ロシュフォールはルシアンの赤ちゃんの頃に似てる?
腕の中のロシュフォールを見る。
ジーッと見つめてくる。……え、瞬きしないのかな、この子……?
「ロシュもお父様に似て、イケメンになって、淑女にモテモテになるのかしら?」
ねぇ?と尋ねるようにロシュの頰を撫でる。
へにゃ、とロシュフォールが笑う。
かっ、可愛い……! 我が子ながら可愛い!
「少し、妬けますね」
顔を上げると、ルシアンが不満気にこっちを見ていた。
「ミチルのそんな顔、今まで見た事ありません」
モシモシ、この子、ユーの子ですよ?
「ルシアンとの子だから、愛しいのですよ?」
「愛しいとミチルに言ってもらうまで、私はかなりの期間を要したのに」
……駄目だ、コレ。
エマとクロエにロシュフォールとリュリューシュを渡して、寝かしに行ってもらう。
ルシアンの頰を両手で掴む。
「もう、ルシアン。子供にまでやきもちを焼くなんて」
猫や自分を模した人形にすら嫉妬するからね、この人。
私の手の上から自分の手を重ねる。
「可愛くない訳ではありませんが、どうしても駄目なんです。私からミチルを奪われたくない」
「立場が違うではありませんか? ルシアンは夫で、あの子達は二人の子ですのに」
「それでも嫌です。ミチルは私だけのものであって欲しい」
不覚にもきゅんとしちゃったよ!
「私の父はあの通りですから、全く参考になりませんが……私なりに父として努力はするつもりです」
世の中にはその努力すらしない親もいるのだから、ルシアンのこの姿勢は、まともな部類に入りますね!
うちの愚父とかね、論外でしたし。
「ですから、二人の時は私の妻に戻って下さい」
きゅんきゅんしてしまううううぅ。
ルシアンも、と言おうとして、それを言ったら大変な事になりそうだから自重する。
とは言え、子供を産んだ途端に、妻を女性として見れなくなる、なんて話も聞いた事がある。
その点ルシアンはそれは無さそうで、ホッとする。
「愛してますよ、ミチル」
重なる唇に、心臓が高鳴る。
「私も、愛してますわ、ルシアン」
*****
「いつになったら物を食べられるようになるの?」
定期的に姿を見せるゼファス様は、ロシュフォールとリュリューシュを前に不機嫌そうだ。
早く何か食べさせたいらしい。完全に祖父の心境になってる気がする。
「リュリューシュ、そなたは私の養女になるんだぞ」
勝手に決めてる!
「ゼファス様、まだリュリューシュは生まれたばかりですよ?」
「血筋からして、生まれた時から婚約者がいる事はさして珍しい事じゃない」
それはそうだけど。
ゼファス様は、シミオン様の次男とリュリューシュを結婚させる気らしい。
それで自分の後継者にするんだって。
ラルナダルト家の血を皇室に入れたい公家の面々は当然反対せず。
問題はルシアンなのだけど、多分反対しないんだろうな。
リュリューシュを可愛がってるように見えるけど、リュリューシュを通して私を見てるだけだし。
「いずれはそうだとしても、当分先にして下さいませ」
「仕方ないなぁ。幼い頃から皇城で皇族として教育をしないといけないから、ミチル達は至星宮に帰らずにここで暮らしてよね」
副音声が聞こえたけど?
そう言う事にすれば私達が皇都にいるようになる、って言う副音声が?
「リュリューシュは私の言う事をよく聞くように教えるんだ」
「娘の教育は失敗したと言う事ですか?」
ゼファス様はリュリューシュを抱き上げると、リュリューシュの頰をツンツンした。
「リュリューシュは孫だよ。私にとって子供はミチルだけだから」
自分で言って恥ずかしくなったのか、リュリューシュを抱いた状態で窓際に向かって行く。
くすぐったい。
胸がくすぐったいです、ゼファス様。
本当に、天邪鬼な父親だなって思う。
ゼファス様の指をリュリューシュが掴んだ時、ゼファス様が目を見開いた後、柔らかい微笑みをリュリューシュに向けた。
「リュリューシュ、早く大きくなれ」




